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2005-01-19

[economy][pension]マクロ経済から公的年金を考える その5

今回は前回の最後に書いたように、年金数理の前提が結果において誤りとなるリスクへの対応をまとめてみます。

前回では例示としては逆ざや、つまり運用利回りが予定利率に届かないリスク(いわゆる利差)を掲げましたが、他にも、次のようなリスクがあり、これらが現実化すれば実質価値ベースでの確定給付は困難になります。

  • 見込みよりも皆長生きする(いわゆる死差)。
  • 運営コストが予想以上に多くなる(いわゆる費差)。
  • 所得水準が全体として下がり、世代内での所得再分配が機能しなくなる。

こうしたリスクへの対応は、基本的には長期運用による損益の平準化によることになります。リスクというのは予想が当たらないことで、悪い方に外れるのみならずいい方に外れることもあるわけです。したがって、悪い方へ結果が出るリスクの前に、いい方に外れた場合の利益が積み上がっていれば、まずはこれを取り崩して充当すればいいわけです。

しかし、順番が逆の場合、充当財源がないわけですから、どこかから原資を引っ張ってくる必要があります。ここで用いられるのが賦課方式。つまり、足りない分を現役世代から分けてもらうわけです。といっても、一方通行でもらうのではなく、あくまで借り入れによる流動性の供与にとどめておき、後で利益が積み上がったときには返済するということにしておけば、世代間負担の不公平は生じません。なかなか返せなかったらどうするのだ、という指摘があるかもしれませんが、現役世代から年金受給世代に入った人の分だけ一般会計から社会保障基金への貸付を償却していけば、債務超過が累積的にふくれあがるような事態にならない限り、最後はすべて償却され返済義務はなくなりますし、積立方式で行く以上、合理的な年金数理を前提とすれ債務超過が累積的に積み上がることは想定し得ません。

リスクとしては、逆に保険料をもらいすぎたことによる利益の野放図な積み上がりということもあり得ます。民間保険のように配当として払い戻すこととすると、流動性管理のためのコストが必要になるので、基本は毎年の保険料の洗い替えで対応する形がいいかと思いますが、死んだ際に一時金を遺族に払うといった還元策を設けておけばなおよいでしょう。

ここで少し話を変えて、だいたい数字としてどのようなものになるかのイメージを示して、制度がきちんと成立し得るかのテストをしておきたいと思います。といっても、webmasterにはアクチュアリの素養はまったくありませんので(笑)、非常に単純化した前提に基づくラフなイメージです(専門家の方々に批判を受け訂正することができれば本望です)。とりあえず、以下を前提条件とします。

  1. 支払期間は20歳から65歳までの45年間、受取期間は65歳から80歳までの15年間。
  2. 上記期間中は全員が生存し、上記期間の終了とともに全員が死亡する。
  3. 予定利率は1%。

ある世代全体の収支計算を式にすると次のとおりです。

総支払額+総運用益=総受取額

先の前提条件で上の式を解くと、1年当たり支払額×4≒1年当たり受取額となります。

次に、世代内再配分を計算します。どうせ概算なので、国税庁の「民間給与の実態調査」(平成15年分)の分布で自営業者の所得も分布していると仮定します。計算の簡便から、p14の給与階級別の分布表におけるそれぞれの階級につき、そのメジアンとなる額(ただし、2,000万円超の階級については5,000万円)がそこに属する全ての者の所得とみなします。とりあえず保険料率は所得の12%、受給額は48%とおくと、再分配がない場合は次の表のような計数となります(年間ベース、断りない限り単位万円)。

所得501502503504505506507508509501,2501,7505,000
構成比(%)7.412.815.817.514.510.36.64.93.22.03.80.70.4
支払額618304254667890102114150210600
受取額24721201682162643123604084566008402,400

ここで、最低年金額を120万円(年間)とし、所得が350万円の者だけが全体の予定利率を同じ予定利率(つまり、上記の受取額が再分配の後においてもそのまま受取額となる)すると、所得が50万円、150万円、250万円の者(合計36%)がより高い予定利率を享受し、450万円以上の所得者がより低い予定利率に甘んじることになります。例えば、分配を受ける側については「所得50万円・年金額120万円」と「所得350万円・年金額168万円」から所得額と年金受取額の比例関係を導出することとし、それだけの分配を行うため必要な額を捻出できるだけの予定利率の引き下げを、「所得350万円・予定利率1%」からスタートして所得額と予定利率に反比例の関係が成立するよう予定利率を設定すると仮定した際には(ちなみに、厳密な年金数理に基づくものではまったくない計算方法ですが、おおまかな傾向は外していないはずです)、次のような再分配後受取額がはじき出されます(年間ベース、断りない限り単位万円)。

所得501502503504505506507508509501,2501,7505,000
支払額618304254667890102114150210600
再分配前受取額(a)24721201682162643123604084566008402,400
再分配後予定利率(%)5.93.01.71.00.940.880.830.780.730.690.570.420.10
再分配後受取額(b)1201361521682142572993403804195337131,853
(b)-(a)9664320-2-7-13-20-28-37-67-127-547

この予定利率調整や最低年金受取額の設定はまったくの置きですが、とまれ、不況により相当程度分布が下に寄っている現状を前提に、しかも1%という極めて低い予定利率でもなんとか回るようです。ちなみに、これには所得のない人間が含まれていないではないか、という指摘があるかと思いますが、専業主婦の全主婦に対する比率がだいたい20%台半ばで、これに学生や失業者等々を含めても全人口に対する無所得者の割合は30%を超えないと思われます。とすると、それらの者が全所得階級にわたり均等に養われていると仮定すれば、所得が全体に下方へ30%シフトしたのと実質的には同じ結果で、このベースで考えてもマクロ的に見た保険料率は17%強、受給率は69%弱になり、これでもまだ重すぎる負担ということはないと思います。

ちなみに、今回紹介した賦課方式の出番は、上記の設例でいえば最高所得者層に係る最低保証予定利率が0.1%超に設定されているときであるとか、所得水準の低下により高予定利率を享受する人数が増えるとか、そういった場面になります。

なお、最後の「(b)-(a)」が、前回触れた選択権の対価になります(厳密には、当該支払を行うときから年金の受給開始までの間の分だけ割り引いて現在価値化したもの。例えば年収5,000万円の人々でも、20歳に支払いはじめるときであれば、ファンド全体の予定利率1%で割り引いた353万円で十分ということになります)。

次回はいよいよ連載の最終回ということで、以上のシステムを我が国において現実に導入しようとするのであれば、いったいどのような問題を解決する必要があるのか、これだけはタイトルから離れてマクロ経済以外の観点からまとめてみたいと思います。


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