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2005-01-30
■ [law][government]ある違法行為
日経ビジネス誌に、「敗軍の将、兵を語る」という不定期連載記事があります。2005年1月31日号においては、関西を地盤とするホームセンター経営のコーナン商事に対する公取委による排除勧告について、同社の社長である疋田耕造氏がその経緯や今後の経営方針などを語っています(pp138-141)。
一読すれば、よくできたエピソードです。仕入れ業者による協賛金納入や従業員派遣を問題視して公取委が指摘し、業界慣行に染まって仕入れ業者を圧迫していたコーナン商事側も、公取委と協議する中で自らの考えを改め、最後は勧告を応諾して今後の経営改革を誓う。問題を解決できた公取委も、勧告を契機に新たな経営をスタートできるコーナン商事も、そして取引条件の改善が図られる仕入れ業者も、誰もがハッピーであるように見えます。
しかし、次のようなテキストを見ると、果たして当事者のすべてにとってよかったことが、本当にそれでよかったのかという疑念が兆します。
7月27日に公取委の立ち入り検査があった時点では、違法なことをしているという認識は全くなかったんですよ。協賛金というのは業界の慣習でしたし、我々が強要したこともなかった。(中略)顧問弁護士にも入ってもらって、取引契約書をチェックしてもらっていましたしね。そういう意味で言えば、業界の商慣習と比して我々が社会的に指弾を受けるような状態にはないと思っていました。
納入業者からの従業員派遣についても指摘されました。(中略)あと10日でオープンという時に、業者さんが商品を持ってきますよね。でもその品物を入り口のところにポンと置かれても、こっちは困ってしまう。だから、自分たちの商品は自分たちで陳列してもらっていたんです。(中略)それが回を重ねるうちに、隣の商品とか関係ないところも手伝ってもらうようになっていった。
2年前になりますかね。同じホームセンター業界のカインズさんが、公取委から警告を受けているんですよ。仕入れ業者さんに値引きを強要したということでね。恐らくその当時から、公取委さんは業界の商慣習を問題視されていたんでしょう。
以上は疋田氏の弁です。他方、公取委の竹島委員長は次のように語っています。
ここ数年、大規模小売業者による納入業者いじめが目に余ります。
協賛金や従業員の派遣は、確かに昔からあった慣習かもしれません。しかし、不当性がだんだん増しているんじゃないでしょうか。それに耐えきれなくなった納入業者からの告発が、非常に多くなっている。
これまで摘発したのは、本当に氷山の一角だと思います。泣き寝入りしている納入業者は非常に多い。そういう業者を守るためにも、大規模小売業者の「特殊指定」を3月までに取りたいと考えています。大規模小売業者がどのような行為をすれば、独禁法に抵触するのかというルールが明らかになりますから。
#「特殊指定」というのは、独占禁止法第2条第9項に規定する指定のことです。
さて、以上から、
- かねてより大規模小売業者の商慣行としてなされていた協賛金納入や従業員派遣について、公取委は数年前から問題意識を持ち、警告等により個別業者には対応していた。
- 他方、それらが独禁法に照らして問題ある行為だ、という認識は広まっていなかった。
- 近々「特殊指定」が行われ、それにより何が独禁法に抵触するのかというルールが明らかになる。
ということがわかります。これらの公取委の対応に問題はなかったのでしょうか。
お断りしておきますと、法的には問題ないはずです。「法の不知はこれを許さず」という法諺があるとおり、それが違法だとは知らなかった、という抗弁は基本的に受け入れられません。本件に関して言えば、加えて、問題があったことに当事者は同意しています。しかし、コーナン商事のように、意図的に独禁法違反を犯そうという意思はなく、単に問題意識を持っていなかった(コーナン商事の言い値ベースですが)当事者については、仮にそうした問題点についての周知が図られていれば、より早期に、自主的に対応がなされ、その結果より多くの納入業者がもっと前から救済されていた可能性があります。
もちろん、ここ数日に何回かwebmaster自身が書いているとおり、政府のリソースは有限ですから、もっと優先順位の高い案件に取り組んでいて、ようやく大規模小売業者の商慣習にまで手が回るようになったということかもしれません。特別指定の発動には行政コストがかかるのでそう簡単にはできないだろうということは察せられます。
しかし、まったく広報活動にすらリソースが割けないほどの忙しさだったのでしょうか。確かに広報活動には強制力はなく、意図的に法令違反を犯している業者には、特別指定とは違ってなしのつぶてなので効力には劣りますけれど、それで一人でも多くの仕入れ業者が救われるのであれば、なにがしかの意味はあるでしょう。まして、慣習として疑問無く受け入れられていたものなのですから、意図的でない違反者はそれなりにいた蓋然性が高いと考えても不自然ではありません。
コスト・ベネフィットを勘案した上で後回しにされたというのであればその判断を尊重したいと思いますが、問題意識をもっていたにもかかわらず、個別の摘発をすれば足りるとし、こうした代替手段を考えなかったとすれば、公取委の対応には疑問を投げかけざるを得ません。明らかに問題があることは相当程度前から気がついており、かつ、個別の摘発が氷山の一角であると自覚しているのですからなおさら。
#もしきちんと広報をしていた、ないし広報をやるかどうかは検討した上で後回しにしたものであり、webmasterの指摘はいわれがないということであれば謝って訂正いたします。
そうは言ってもささいなことではないか、もっと世の中には指摘すべき事項があるのではないか、とはwebmaster自身思わないでもありませんが、この日経ビジネスの記事を読んで以上のようなことを考える人は他にあまりいないのではないか(勧善懲悪・改心のハッピーエンドの物語としてのみ受け止められてしまう)と思い、あえて1つのエントリを立てた次第です。