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2005-04-01
■ [law]人権擁護法反対論批判 法案分析編(その3)
まずはじめに、当サイトが「人権擁護法」でぐぐった際に、最初の10ヒットで出てくるようになったことを報告させていただきます。当サイトのテキストに賛成であれ反対であれ、trackbackしていただいたり、リンクを張っていただいたりした結果だと受け止めています。どうもありがとうございました。
#最近アクセス障害が起こっており、以上にもかかわらず読者の皆様にご迷惑をおかけして恐縮です。rubyのスキルがなく抜本的対策がとれず、大変申し訳なく思っております。なお、pluginが原因であるので、pluginを呼び出さないアクセス、具体的には携帯からのアクセスは、通常のアクセスに障害が起きているときでも問題なく可能のようです。
本日は、共同通信社が昨日配信した法務省の修正案について触れてみたいと思います。配信の内容は次のようなものです(共同通信社からの配信と明記している東奥日報の報道から拾いました)。
不当申し立ての具体例明記 人権法修正の法務省案
自民党内で調整が難航している人権擁護法案について、法務省が同党に示した修正方針案が31日、判明した。
それによると、人権侵害申し立ての乱発を防ぐため「本来の目的を逸脱して乱用することがあってはならない」との条文を追加。救済手続きを開始しない不当な申し立てについて、その具体例を別の規則に定めるとした。ただ、自民党内であいまいと批判された人権侵害の定義については「具体化は不可能」として条文は変更しないとしている。
人権侵害の調査などを行う人権擁護委員の選任基準に国籍条項を設けることは公明党の反発に配慮し「現時点で保留」とし、今後の調整に委ねるとした。
まず、乱発を防ぐための規定それ自体には大した意味はないでしょう(法務省職員には手品の種を明かすようで申し訳ありませんが)。なぜなら、この規定がなくても、「本来の目的を逸脱して乱用する」ことが是認されるわけではないからです。
報道の続く部分、すなわちある種の申立てについては救済手続を開始しないとの記述を見ると、そこには具体的な効果として、申立てがあっても人権委員会の職権で門前払いするという対応が規定されており、この条文までセットでようやく法的な効果が生じると考えられます。でも、申立てを見ただけでそれが目的を逸脱しているかどうかがわかるのでしょうか?
とすると、おそらく報道中の「救済手続」とは、人権擁護法案第4章第3節に規定する特別救済手続を指すものと考えられます。つまり、まずは単なる人権侵害等として受け付け、一般調査権の行使等により事案の内容を精査した上で、それが目的を逸脱していると認められる場合には、特別救済手続に移行せずにそこで事務は終了という取扱いです。
改めて特別救済手続のメニューを列挙しますと、特別調査、調停、仲裁、訴訟援助、勧告、その公表、差止請求提訴となります。うち、調停と仲裁は当事者間の合意が前提となっていますから、事実上この不当申立てとは無縁と考えて差し支えないでしょう。世にその危険性が喧伝されている立入調査や勧告の公表が行い得なくなるわけですから、この修正にはそれなりに意味があると評価できると思います(ただし、後述の点を考慮する必要があるかと)。
関連して人権侵害の定義ですが、曖昧だとこれもまたえらく評判が悪いわけですが、勝手に法務省の意図を推察するに、報道のとおりの具体化の不可能性に加え、単に人権侵害だということであれば一般救済手続しか適用されない、といういわば副作用の小ささがあるのではないかと思われます。例えばNHK報道によると自民党の安倍幹事長代理は次のように述べたとのことですが(ファイルがすでに存在しないのでGoogleのキャッシュから全文転載)、そんなことはありえないので取り合う必要がないとの判断でしょう。
安倍幹事長代理は、人権擁護法案について、「人権侵害という定義があいまいで、果てしなく解釈が広がっていく危険性がある。また、人権擁護委員の選任についても、いわゆる国籍条項を外している。例えば、朝鮮総連の関係者が人権擁護委員になった場合、私が、まっさきに人権侵害をしていることにされる危険性がある。言論の自由は、一度失ったら、取り戻すことは至難の業だ」と述べ、法案には根本的な部分で問題点が多いと指摘しました。そのうえで、安倍氏は「本当の意味での人権侵害を、決して許してはいけないことは当然だが、問題点がふっしょくされない限り、いい加減な形で法案を提出して成立させてはならない」と述べ、人権侵害の定義など根本的な部分での問題点が是正されない限り、提出は見送るべきだという考えを示しました。
人権侵害の定義がいくら曖昧であっても(それが曖昧であることは否定しません)、それにより適用されるのが一般救済手続だけであれば、一番権力的な行為としても「説示、人権尊重の理念に関する啓発その他の指導」にとどまるわけですから、これで言論の自由が失われるというのはいくらなんでも大げさでしょう。
#何度か当サイトで触れていますが、いわゆる確認・糾弾としてこの「指導」を行うことは認められません。なお、この曖昧さについては、「『人権擁護法案』は曖昧か?」(@Apes! Not Monkeys!3/24付)においてApemanさんが極めて詳細に検討されており、皆様にご覧いただくようお勧めいたしますが、1つだけ、第3条において、この法案が対象とする人権侵害の範囲が限定されている
の部分については、第3条第1項で「次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない」とされていて、これまた何度か触れたとおり「その他の」は例示ですから、結局第3条第1項が対象とする人権侵害とは、同項各号に掲げる行為に代表されるところの第2条第1項で定義される人権侵害だという点に留意いただきたいと思います(これが、「次に掲げる人権侵害をしてはならない」という規定であればご指摘のとおりになります)。
なお、一昨日の自民党内調整についての配信を見てみますと、この法務省案(とされるもの)とは1つ大きな違いがあります(同じくソースは東奥日報)。
申し立て乱発防止策検討へ 人権擁護法案で自民
自民党の古賀誠元幹事長(与党人権問題懇話会座長)らは30日夕、同党内の反発で調整が難航している人権擁護法案の修正問題をめぐり党本部で協議した。
関係者によると、同法制定で人権侵害の申し立てが乱発されることを防ぐ措置や、人権委員会から侵害があったと認定された場合の不服申し立て制度を新たに盛り込むかどうかについて検討していくことになった。
自民党内からは人権侵害の調査などを行う「人権擁護委員」の選任基準に国籍条項を設けるよう求める声が出ているが、同条項に反対している公明党への配慮もあり、この日の会合では結論は出なかった。
会合には自民党の二階俊博総務局長、自見庄三郎衆院議員、滝実法務副大臣らが出席。古賀氏はこれに先立ち法案提出に反対している拉致救出議員連盟会長の平沼赳夫前経産相と会談した。
具体的には、「人権委員会から侵害があったと認定された場合の不服申し立て制度」の有無です。「認定」とはいかなるものか、これまた明らかではありませんが、狭く定義されているとすれば「認定」=「勧告」でしょうし、広めの定義であるとすれば、これに加え特別調査の着手も「認定」に含まれるかもしれません。法務省案報道が全貌を明らかにしている保証はないので、法務省案にこの制度が含まれている可能性がないわけではないのですが、いずれにしてもこうした制度があるとすれば、例えばan_accusedさんやまさくにさんのような方々の懸念にある程度応え得るのではないでしょうか。
最後に先に書いた「後述の点」として、もしこのような制度があるのであれば、その不服申立審査の対象は、その審査に第三者が参加するとして、人権侵害申立に対する門前払いもその対象に含めるべきではないか、とwebmasterは思います。検察審査会(が実効性ある組織であるかどうかはさておき)のような存在として。
#このエントリは、以下の一連のエントリの続編です。
- 人権擁護法反対論批判 前編
- 人権擁護法反対論批判 後編上
- 人権擁護法反対論批判 後編下
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その1)
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その2)
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その3)
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その4)
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その5)
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その6)
- 人権擁護法反対論批判 法案分析編(その1)
- 人権擁護法反対論批判 正誤訂正編(その1)
- 人権擁護法反対論批判 法案分析編(その2)
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その7)
- 人権擁護法反対論批判 趣旨説明編
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その8)
- 人権擁護法反対論批判 リジョインダー編(その9)
■ [misc]メガネな人々へ
眞鍋かをりagainです。
ちょいとバタバタしていたのと、考えが煮詰まっていたのとで、しばらくエントリーを更新することが出来ませんでした。 考えが煮詰まっていたというのは、「“行政が信用できない”と言っているのに、なんで“司法は信用できる”と言えてしまうのか?」という問題に引っか..
アイドル好きなリフレ派諸氏のことを書いたら、思い出したが、今日、店頭で手にした『念力姫』の表紙の女性は、どうみても、みんなの趣味
>webmasterさま
私の懸念を解消しうるような修正が検討されるようで、ありがたいことだと思っております(笑)
もっとも私から見れば当然の修正でして、過料よりも公表のほうが制裁規定として弱いなどという見解を固守している法律業界(主に行政法学者)の方がよほどオカシイと考えております。
ちなみに、「濫用禁止規定」なんぞはお題目に過ぎないわけですから(手続に乗っかってある程度調査が進んだのちに「目的逸脱」か否かが判明するので、手続の入り口ではふるいにかけられません)法務省はそんなもので批判をかわせると本気で考えているのでしょうか。
拙ブログでも述べましたが、貸金業者に対して調停/破産手続の通知後の取立行為を禁止しているように(貸金業法第21条)、人権侵害調停の進行中は相対交渉(“糾弾”など)を制限する旨規定するほうが、制度濫用に対する抑止効果はよほど高いでしょう。ここまでするならば、法案反対派をそれなりに納得させることができるでしょうもっとも法案推進派の意欲もまた一気に削いでしまう(というより猛反発する)でしょうけど。
bewaad様
第3条の「その他」という文言に関するご指摘、ありがとうございました。