archives of BI@K

CSS: default alternative
(要cookie)

toppage memoranda

(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)

2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|

2005-04-15

[law]「法と正義」についてのとりあえずのまとめ 1.法の解釈は如何にあるべきか:「行列のできる法律相談所」の弁護士比較

このテーマで書くといったのは2/1なのですから、1ヶ月以上間が空き、さらに当初はmojimojiさんとの議論を踏まえて各予定だったのが、どちらかというとan_accusedさんへのリジョインダーの準備として考えるべきテーマであるように流れが変わってきていますが、それらをひっくるめて今なりのテキストとしてまとめてみます。

#今読んでいる佐藤優「国家の罠」でも似たような話になりそうなので、読後ですと引っ張られかねず、「生煮え上等」で取り急ぎ書いたものであることにご留意いただければと思います。

表題に掲げた「行列のできる法律相談所」ですが、簡単に紹介いたしますとNTVで放映している日曜21時からの1時間番組で、ショートドラマ仕立ての法律相談に対して、北村晴男弁護士住田裕子弁護士橋下徹弁護士丸山和也弁護士の4人があれこれ回答する(のに加えてタレントのトークもありますが、このエントリには無関係なので割愛します)というものです。

#それぞれの弁護士がどういった方々かについては、「超愚トピ:「行列のできる」相談するならどの先生?」「この弁護士に依頼したい」などで視聴者の意見を見ることができます。

テレビに映し出されるキャラクタが当人の弁護活動におけるそれとは重ならない可能性をお断りした上で申し上げれば、丸山弁護士こそあるべき弁護士(に限らず、裁判官・検事を含めた法曹)の姿であるとwebmasterは考えています。法律の枠組みに現実を流し込むためではなく、現実の形に合う法律の型紙を探し出すためにこそ、法曹のエクスパティーズは用いられるべきだと思うからです。

他の3名の弁護士についても、ケースによっては現実の評価が先立つような物言いが見られはするのですが、基本は法律を先に置き、故にこうしたケースではかく結果があるべきという主張の構成となっています。が、それは違うでしょうと。まずはそのケースにおいていかなる結果があるべきかに、全人格をかけて取り組まなければなりません。人の生き方を断ずるに、法律という文字の羅列をもって対抗するなど、オールドリベラルなwebmasterには非常に違和感があります。

では法律の存在価値は奈辺にあるというのでしょう。あるべき結論を正当化するに当たって、その結論の客観的妥当性を図るための物差しである、というのがwebmasterの考えです。正当化のロジックには先日話題(笑)の陰謀論を含め多種多様なものがあり得ますが、その結論が他にどのような影響を及ぼすかなどについて、あれこれ法律を当てはめてその中になじむものがあれば、それは自ら導いた結論が主観的のみならず客観的にも妥当であると位置づけることができる、ということになります。

#この意味で、手続法(刑事訴訟法など)にとどまらず実体法(刑法など)も、主張の論理構成を制約することから、メタ的には手続についての定めであると言えるでしょう。

具体例を挙げてみましょう。webmasterが日本法の歴史に残る名判決と考えるもののひとつに、尊属殺重罰規定違憲判決があります。非常に有名な判例ですから法学をかじったことのある人であればご存じの場合も多いと思いますが、簡単に紹介すると次のような判決です。

被告人は幼い頃から実父に性的関係を強要され、それがもとで家庭が崩壊した後も実父のもとに留め置かれ、夫婦同然の生活をし子供もできました。その後、被告人が働きに出て、世間の人の暮らしぶりを見る中で、それまで自分がいかに異常な環境にあったかを自覚し、ついには恋人ができ実父を離れ結婚を考えました。

しかし、実父はそれを認めようとせず、逃せまいと実力を持って事実上軟禁状態に置き、子供の殺害をちらつかせる等により関係の継続を迫り、夜は夜で性的関係を強要し十分な睡眠も取らせず、被告人は誰にも相談できぬまま心神耗弱状態に陥りました。そんな中で、実父のふとした動きに暴力を連想した被告人は、この環境から逃れるには実父を殺害するより他に手だてはないと思いつめ、ついに殺害に至ったのです。

この事件に対する最高裁の判断は、この被告人を刑務所に入れてはならないというところからスタートしたものだとwebmasterは思います。尊属殺と減刑の規定の定めるところによれば、次の5つの要素が相俟って法律を字句通り適用すれば刑務所は不可避だったのです(実際、控訴審(高裁)判決では以下による最大の刑の軽減をした上で、懲役3.5年の判決を下しましたし、最高裁においても、下田裁判官は同様の反対意見を残しました)。

  • 尊属殺は、死刑か無期懲役しか刑罰がありません(刑法第200条)。
  • 法定事由ないし情状酌量による刑の軽減は、最大で2回しか認められません(第7章・第12章)。
  • 無期懲役は、1回目の軽減で7年まで短縮できます(第68条第2号)。
  • 有期懲役は、1回の軽減ごとに半分まで短縮できます(第68条第3号)。
  • 執行猶予は、3年以下の懲役等にしか認められません(第25条第1項)。

つまり、1回目の軽減(心神耗弱によるもの)で無期懲役を7年の懲役とし、2回目の軽減(情状酌量によるもの)でそれを3.5年の懲役まで短縮しても、執行猶予の対象にすることはできず、刑務所に必ず入ることになります。

最高裁は、こうした状況を踏まえ次のようなロジックで執行猶予を導き出しました。

  • 「普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲であるとはいえないのであるが、しかしながら、刑罰加重の程度いかんによつては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない。すなわち、加重の程度が極端であつて、(略)これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、(略)かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければなら」ず、
  • 「この観点から刑法200条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役刑のみであり、(略)現行刑法にはいくつかの減軽規定が存し、これによつて法定刑を修正しうるのであるが、現行法上許される2回の減軽を加えても、尊属殺につき有罪とされた卑属に対して刑を言い渡すべきときには、処断刑の下限は懲役3年6月を下ることがなく、その結果として、いかに酌量すべき情状があろうとも法律上刑の執行を猶予することはできないのであり、普通殺の場合とは著しい対照をなすものといわなければなら」ないので、
  • 「刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならず、したがつて、尊属殺にも刑法199条を適用するのほかはない。」

被告人を刑務所に入れないために使えるロジックは他にもあり得ます。弁護人が持ち出したものは次のようなものです(ちなみにすべて、最高裁判決においては「単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない」とされました)。

  • 尊属殺の刑の軽重が以前に尊属殺の存在自体が憲法違反で無効なので普通殺の対象とすべき(第一審(地裁)判決で採用されました)。
  • 仮に尊属殺規定自体は合憲であっても、本件被害者のような尊属殺規定で保護すべき対象としての適格性に欠ける者に対する適用は憲法違反で無効なので、普通殺を適用すべき。
  • (誤想)過剰防衛による刑の減免規定に従って刑を免除すべき(これも第一審判決で採用されました)。

その他でも、無期懲役からの第1回目の刑の軽減で7年以上の懲役までしか軽減できないのが違憲だとか、有期懲役の1回の刑の軽減で半減までしかできないのが違憲だとか、執行猶予が3年を超える懲役について認められないのが違憲だとか、言い出せばいろいろとあります。被告人を刑務所に入れてはならないという「正義」を実現することのみを至高の目的とするなら、どのロジックだってよいのです。

しかし、それらのロジックを用いたらどのような副作用が生じるのかを考える材料が、法律の当てはめにおいて与えられます。例えば(誤想)過剰防衛を用いるなら、今後は、具体的な危害行為の排除を超えて将来の一般的な不安への対応も正当防衛になりかねないということになりますが、それをどう評価すべきかということを検討せざるを得ません。

以上のようにwebmasterは、法律(成文法)とは、「正義」そのものを表象するものではなく、「正義」の適格性についてのネガティブチェックのためのハードルである、そのように法と正義の関係を捉えるべきではないかと考えているのです。「正義」は、個別の事象にしか宿らないでしょうし、また、抽象的な文言に宿らせようとすべきではないと。

本日のツッコミ(全11件) [ツッコミを入れる]
大理少卿 (2005-04-15 07:16)

私の場合、山形で老朽化した橋の架け替えに予算がつかず、思い余って雪で落ちたことにしようとダイナマイトで爆破した村人の事件が印象に残っています。下限が懲役(か禁錮)7年なので、2回減軽すれば

大理少卿 (2005-04-15 07:36)

執行猶予が可能ということで、酌量減軽にもう一つ法律上の減軽を加えようとした裁判所(仙台高裁)の意思がよく伝わってきます。第一審は酌量減軽のみで懲役3年6月、控訴審は量刑を知らなかったことから違法性の意識を欠くとして、第38条第3項但書を適用して懲役2年執行猶予3年、上告審で破棄されると今度は過剰避難にあたるとして、第37条第1項但書を適用して前回と同様に懲役2年執行猶予3年、再び上告審で破棄されて最後は控訴棄却(憲法36条違反との上告も棄却で懲役3年6月の実刑確定)と、こちらはネガティブチェックに引っかかってしまいましたが。刑法総論の講義で取り上げる判例は上告審の破棄判決二つなので、仙台高裁の法律構成は笑い飛ばす対象になってしまっていて、法学教育という観点からは残念なことだと思っています。

http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/C53F97833C628FB949256A850030AF68?OPENDOCUMENT
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/711F13AFE66EA4BC49256A850030AE1D?OPENDOCUMENT

t.ikawa (2005-04-16 08:20)

「法とは何か」「法はどうあるべきか」「法をどう解釈するか」等が未整理のように思います。学部レベルの知識で恐縮ですが、「法とは何か」は法概念論、「法はどうあるべきか」は正義論で扱います(いずれも法哲学の一分野です)。また、「法をどう解釈すべきか」は法解釈学(狭義の法律学とも言えます)の分野です。法哲学は法解釈学を基礎づけるものでもありますが、直接には法解釈の根拠とはならないのが普通だと思います。

無論、最終的には不可分ですが、各分野には相当の学問的・実践的蓄積があるのも事実ですので、いきなり横断的な議論を試みても、あまり益があるとは思われません。また、ご自分がオールドリベラルかどうかが、「法とは何か」「法はどうあるべきか」「法をどう解釈すべきか」に影響するとは思われません。(「オールドリベラル」の厳密な内容は、よく理解していないのですが。)

失礼ながら (2005-04-16 10:12)

「良く理解していない」ある概念が他のある分野に「影響するとは思われません」とは噴飯物の議論だと思われませんか?

法学部レベルの知識を十分理解されているとお考えのようですが、その前に、人にもの申す時にとるべき誠実な態度とか、もっというならご自分の人間性について、深い洞察が必要とされるのではないかと思いますよ。

t.ikawa (2005-04-16 10:18)

いえ、別に。自分の政治信条と法律上の議論は別だってことです。

bewaad (2005-04-16 13:58)

>大理少卿さん
判例の紹介ありがとうございます。確かに刑法総論では、外縁を画した最高裁の判断だけが紹介されて、なぜ高裁がそのような判断をしたかについては触れられなさそうですね。というか、法学部ではなく法曹の口伝の世界になっているような気もします。

bewaad (2005-04-16 14:06)

>t.ikawaさん
ご指摘ありがとうございます。「その0」で書いたように、法哲学をきちんと勉強する前(学部時代にやってなかったものですから)の今の素直な思いを書こう、というのがこのテキストの目的なので、これから法哲学関係の本を読んでいくに当たっての指針をお示しいただいたものと思っています。

前回いただいたコメントもそうですけれども、やはり自分は人文系思索の基礎がなってないなぁと思い知らされます・・・。

小僧 (2005-04-16 14:53)

法と正義ではないですが、憲法論議にもみられるように
イェネリックの「法は道徳の最小限」が
よくわからない形で人口に膾炙しているのがいやなこともあり
自分の中で法哲学についてある程度整理する必要を感じているので
こちらのエントリは参考になります。

とりあえずおおや先生の講義情報を
http://www.nomolog.nagoya-u.ac.jp/~t-ohya/lecture/
参考にしていこうと思いつつなんとかしたいとは思っているのですが
リソースが.....

bewaad (2005-04-17 08:11)

>小僧さん
おおや先生の講義情報、非常に役立ちます(先生にはいつもお世話になりっぱなしです)。レジュメをいただいて、参考文献も(時間の許す限り。これが問題ですが(笑))順次目を通していきたいと思います。

通りすがり (2005-05-20 15:08)

  管理人様へ。4月24日に、TBS系列で放送されたドキュメンタリー「情熱大陸」(出演 丸山弁護士)を録画なさっていたら、ご連絡頂きますよう、よろしく、お願い申し上げます。

bewaad (2005-05-21 05:17)

>通りすがりさん
ごめんなさい、その番組の録画はしておりません。

本日のTrackBacks(全3件) [TrackBack URL: http://bewaad.sakura.ne.jp/tb.rb/20050415]

bewaad氏のページから、メモ代わり。「法と正義」について、「法の解釈は如何にあるべきか」。ブログで「メモ」ってよく見るけど、果たしてメモとして上手く機能するのだろうか。後々引っ張り出して読むことそんなにあるだろうか。メモ程度でトラックバックしていいのかど..

今日は、珍しく仕事がテンパっていて、落ち着いて考えをまとめるほどの時間がないのですが、bewaad instituteさんのとこで「法と正義」についてのとりあえずのまとめ 1.法の解釈は如何にあるべきか:「行列のできる法律相談所」の弁護士比較については、やっぱり色々と考え...

*<はじめに> ええと、自分のほうから問題提起をしておきながら、いただいたお答えを受け止めきれずアップアップしてしまいました。いや、問題提起の時点で既に一杯一杯だったんですが。 「“行政委員会が信用できない”と言っているのに、なんで“司法は信用できる”と..


トップ «前の日記(2005-04-14) 最新 次の日記(2005-04-16)» 編集