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2005-05-15
■ [economy][pension]市場も政府も失敗正せ
日本経済新聞の経済教室「公共性を問う」(最終回、5/13朝刊掲載)に、標記タイトルで八田達夫先生が寄稿されています。ネット掲載されていないので全文転載したいところですが、著作権の問題があるでしょうから概要をまとめてみました。ご関心をお持ちいただけましたら、是非原文にあたってみてください(以下の小見出しは原文によります。また、箇条書き1項目が原文の1段落に対応しています)。
長生きしそうな人だけ入る失敗
- 高齢化時代の社会保障財源確保のため、様々な少子化対策が講じられているが、一頃は人口増加により土地や資源の不足が感じられ、それが子供を産まなくなった一因でもある。そうした動きに逆行して対策を講ずべきものだろうか。
- 公共性の観点から政府の市場介入が正当化できるのは、所得再分配の必要性、市場の失敗などが存在する場合に限られる。
- 公的年金を考えると、年金は多くの国で社会保険として提供されているが、民間が提供可能な他の保険との違いは何だろうか。
- 終身年金は、長生きしすぎるというリスクへの対応。
- 年金を市場に任せておくと、長生きしすぎるリスクがあると考える人の多くが加入する一方、自分にはそうしたリスクが少ないと考える人は加入しない。となると、長生きした場合に備えて徴収される保険料は、全員が加入した場合のそれよりも高くなり、相対的にリスクが少ないと考える加入者はその高くなった保険料が割に合わないと考えて加入しなくなり、それがまた保険料の引き上げを招き、という悪循環の結果、通常の予想寿命の人が利用できる年金商品は提供されなくなってしまう。これを「逆選択」(リスクの高い人ほど残る)と呼ぶ。
- 一般に加入者当人は病歴等から自分がどの程度長生きしそうかについての情報を有しているが、年金を提供する会社はそうした情報を持たない(情報の非対称性がある)ため、予想される長生きリスクの大きさに対応した保険料を提示できず、逆選択という市場の失敗が生じている。
- 政府による厚生年金は、強制加入という手段によるこの市場の失敗への対策。
- 厚生年金の赤字の原因は3つある。以下順に検討する。
賦課方式から積み立て方式に
- 第1の原因は賦課方式(現役世代が退職世代の年金給付を負担)を採用したこと。
- 強制加入なのだから、人口の多い世代はその数に比例して大きな積立を持つこととなり、他の世代に依存する必要はない。
- したがって厚生年金は積立方式(老後の自分への給付金を現役時に積み立てる)であるべきだった。そうでなく賦課方式としたのが年金財政問題の根本原因。
- この対策としては、継続部分は積立方式に移行させ、他方過去の赤字分は別立てとして各世代が公平に負担すべき。アメリカの改革案もこれ。
- 第2の原因は配偶者控除や専業主婦の年金での優遇、配偶者手当といった専業主婦への優遇策。これらにより、生産年齢人口の女性には働かないインセンティブがあるので、社会保障財源を負担する就業者数が減っている。
- これらのインセンティブを廃止・縮小すれば就業者数が増え、全体としての財源負担能力が向上する。
- 第3の原因は、女性の労働市場における市場の失敗、及びそれへの政府の対策の不足。
- 女性は、結婚や出産で中途退職の可能性があるので、企業は同一の能力であれば男性を選んできた。
- これは、企業が個々の女性について中途退職するかどうかを判断できないことの結果。女性といっても、出産後にも働きたい人もいれば、専業主婦で子育てに専念したい人もいる。
- この2タイプを区別できるなら、企業は前者は男性と同様の待遇で採用し、後者はそれなりの待遇で採用することができる。
- しかし区別できないので、全体の平均待遇が女性に適用され、前者はそれでは割に合わず辞めてしまい、それが全体の平均待遇を押し下げ、とここでも逆選択が生じる。
- 情報の非対称性により、女性一般に対する差別が行われ、本来中途退職するつもりのない人を労働市場から追い出すという無駄を生じさせている。
保育所への費用補助には正当性
- 女性が仕事を辞める大きな原因は子育てにあるので、保育所の拡充、低コスト化などにより子育てコストを下げることができれば、逆選択が緩和され賃金が上昇し、多くの女性が働き続ける、つまり女性の労働資源の遊休化が解消される。
- この政策は、市場の失敗の補正という正しい政府の政策。
- 加えて幸運にも、この政策により女性就業者数が増え社会保障財源の負担能力が向上し、出生率の向上により将来の高齢化社会における就業者数増加ももたらされる。
- にもかかわらず、政府の対策は保育所への参入規制、不十分な補助(特に都市部において)など、逆を行っていた。抜本的に改めるべき。
- 以上のように、少子高齢化時代の財政問題は、根本的には市場の失敗と政府の失敗の両方から生じている。今後取るべき政策は、それらのよる歪みを補正するものでなければならない。
- しかし、現に出てきている少子化対策は、育児手当の拡充や出産一時金の創設など、働く女性に対象を限るものでなく、歪みが補正されない。
- 「資源は有限なのだから、場当たり的な対策は望ましくない。過度の少子化をもたらすなど政策の欠陥を正す対策だけをとるべきである。」
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さすがにこの
<一般に加入者当人は病歴等から自分がどの程度長生きしそうかについての情報を有しているが>
というのはいいすぎででしょうね。むしろ自分の寿命は本人も誰も確実にはわからないというのが「一般」でしょう。少なくとも私はわからないなあ、この瞬間に死ぬのか、運よく?120歳まで生きちゃうのか。だいたいなんのために年金財政の推計をみんな10年とかではなくて80年とか100年とかで取っているのだと小一時間。
それと八田さんの「信念」だけの問題でことがおおげさになっているけれども(八田さんだけではないけれども)、年金の赤字の問題は昨年の「改革」で相当改善されたはず。ここらへんは高橋洋一試算でも明らかなはずですよ。『環』参照。
1 賦課方式だから赤字が発生するという理屈がまったくわからない。人口が減少するから賦課方式では赤字発生という意味でも全然わからない。
2 <生産年齢人口の女性には働かないインセンティブがあるので、社会保障財源を負担する就業者数が減っている>
って何だろ? 女性の労働力率が傾向的に減少してるの? いつの間に日本は農村社会になっ以下略
3は年金の赤字の原因なんですか、はあ、そうですか。理解不能。
その後の子育て支援周りについては疲れたのでそのうち本体を見てから感想を書きます。
>現に出てきている少子化対策は、育児手当の拡充や出産一時金の創設など、働く女性に対象を限るものでなく、歪みが補正されない。
これを書いた人は待機児童ゼロ作戦で保育所への補助が増え、規制緩和されたことや育児休業給付が引き上げや配偶者特別控除縮小で、働かない女性のインセンティブが縮小されていることを知らないんでしょうかね。
それに出生率低下は必ずしも財政にマイナスではないはず。
出生率が下がれば、出産育児で休業する人が減って、就業率が上がるし、
子供が減れば、育児教育の財政負担が減るし、
独身が増えれば、控除が少ないので、税収が増えるし、遺族年金を支給する可能性も減る。
高齢化が進むからこそ、少子化未婚化も同時に進めるべきだと思うんですが。
>韓流好きなリフレ派さん
逆選択については読んでいて同じように思いました。
賦課方式の1については、赤字が必然ということではないでしょうけれど(予想が逆に振れれば超過積み立てが一時的に生じるでしょうし)、予想と実績の差により調整が必須で、その際にブキャナン的な政治圧力がかかりやすい、といったことなのかなぁと思います。
2はたぶんまとめ方がまずかったということで、そうでない場合に比べ少ないということで、傾向的に減っているということではなかったように思います(今ちょっと手元にないので記憶ベースです)。
3は確かにおっしゃるとおりだと思います。年金とは違う問題でしょう。
>●さん
そういう対策が講じられていることはご存知だと思います(勝手な推測ですが)。それが足りないとはお考えでしょうけれども。
少子化については、八田先生も無理をしてでも食い止めようというものではありませんでした。自然状態(なるものがあるとして)における傾向は政策的に操作すべきではないとしても、わざわざ下げるべきものではないだろう、といった趣旨だったと記憶しています。