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2005-06-16
■ [law][economy]一般に公正妥当と認められる逸失利益とは
損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率によらなければならない
と判示した最高裁判決が14日に出ました。さて、この判決は妥当なのでしょうか。
まず前提となる逸失利益算定式は、現在は全年齢平均賃金に基づくいわゆるライプニッツ方式が標準とされています。これは結局はファイナンスでいうannuityと同じものですが、annuityの算式を掲げれば次のとおりです。
A = C x [{1 - 1 / (1+r)^n} / r]・・・(1)
(A:受け取るannuityの割引現在価値、C:当該annuityの毎期受取額、r:割引率、n:annuityの受取期間)
ここでCは定額であることが前提となっています。Cが増加する場合、growing annuityの算式は次のようになります。
GA = C0 x (1+g) x [{1 - (1+g)^n / (1+r)^n} / (r-g)]・・・(2)
(GA:受け取るgrowing annuityの割引現在価値、C0:当該growing annuityの初期受取額、g:Cの増加率、r:割引率、n:annuityの受取期間)
高裁が判示した(と最高裁がまとめた)ところでは、法定金利5%に対して、賃金上昇率を考慮した実質金利は3%だということで(1)式のrに3%を代入して計算すべきということになりますが、理屈を言えば、これは(2)式においてgに2%、rに5%を代入して得た結果ということになります(両者を計算すると同じものにはなりませんが、大差ないのでそれはとりあえず脇に置いておきます)。
他方でrとは別に、上記式からわかるとおり、AなりGAなりを計算するのであれば、もう一つの要素であるCやC0が必要になります。上記のとおりCとしては全年齢平均賃金、具体的には賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計・男子又は女子の労働者の全年齢平均賃金
が用いられていますが、具体的にどのようなものかを賃金センサスから抜き出すと次のとおりです。
#以下の数字は間違っています。正しくは訂正エントリをご覧ください。(6/19追記)
| 男性労働者 | 平均年齢 | 賞与等を含む年間総給与額(万円) |
| 全年齢平均 | 41.3 | 1382.3 |
| 〜17歳 | 16.8 | 182.2 |
| 18〜19 | 19.1 | 299.1 |
| 20〜24 | 23.0 | 577.2 |
| 25〜29 | 27.6 | 903.7 |
| 30〜34 | 32.5 | 1171.0 |
| 35〜39 | 37.4 | 1494.1 |
| 40〜44 | 42.5 | 1699.1 |
| 45〜49 | 47.5 | 1809.2 |
| 50〜54 | 52.6 | 1777.2 |
| 55〜59 | 57.2 | 1630.7 |
| 60〜64 | 62.1 | 977.5 |
| 65〜 | 68.7 | 801.7 |
要すれば年功序列的な要素がまだ残っていているのですが、そうした構造であるにもかかわらずCとして全年齢平均賃金を用いると、Aは過大なものとなります。というのも、高給を受け取ることができるのは高年齢になってからで、その分より多く割り引かれるべきですが、全年齢にわたって平均額を用いることにより、結果として、その一部がより少なくしか割り引かれない低年齢時に移転して計算されることになってしまうからです。
ではこの年齢による賃金給与分を考慮するとどうなるでしょうか。本来はきちんと各年齢から割り引いて計算すべきですが、上記(2)式で統一的に処理をする(というwebmasterの手抜き(笑)の)ためgで処理できるよう、近似をとることにします。原計数は47.5歳をピークとするもので2次方程式できれいに近似できますが、これまた計算の簡便上continuous compound rate(連続複利率。1年といった一定の期限でなく、限りなく短い期間で複利計算を行う際の利率)がとれるよう指数近似で、しかも20歳から60歳までと区切ると次のとおりです。
y = 406.01e^0.0291x
以上をそれぞれ計算すると以下のとおりです。
- 最高裁方式(全年齢平均賃金ベース、5% annuity)
- A = 1382.3 x {(1 - 1 / 1.05^40) / 0.05} = 23,719.01万円
- 高裁方式(全年齢平均賃金ベース、3% annuity)
- A = 1382.3 x {(1 - 1 / 1.03^40) / 0.03} = 31,951.55万円
- (参考)修正高裁方式(全年齢平均賃金ベース、2%で増加する5% growing annuity)
- GA = 1382.3 x 1.02 x {(1 - 1.02^40 / 1.05^40) / (0.05-0.02)} = 32,257.57万円
- webmaster方式(各年齢層平均賃金から得られた近似式ベース、4.9%(全体の賃金上昇率2%(高裁の数字を採用)と年齢比例分2.9%の和)で増加する5% growing annuity)
- GA = 726.6 x 1.049 x {(1 - 1.049^40 / 1.05^40) / (0.05 - 0.049)} = 28,503.52万円
というわけで、何らかの算式からはじき出すという簡便法で行う場合、最高裁方式では低すぎ、高裁方式では高すぎるという結果が出ました。にしても差額は高裁方式の方が少ないのでまだましだと考えられます。
ちなみに、同じく各年齢層平均賃金から、20歳から60歳までの賃金の近似式として多項式をとると次の式が得られます。
y = -1.711x^2 + 170.66x - 2488.4
このR-squaredは0.9899と非常に高いので、各年齢を放り込んで得られる賃金はかなり信頼性の高い数字といえます。その賃金額に、毎年の全体賃金上昇率2%を加味した各年齢の想定賃金額を算出し、それぞれの年につき5%で割り引いた割引現在価値を計算すると、29,593.03万円となります。
webmaster方式が一番近い数字をはじき出していて正直ホッとしているのですが(笑)、とまれ、損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても、法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから、民法は、民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって、事案ごとに、また、裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ、被害者相互間の公平の確保、損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らすと、損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率によらなければならないというべきである
という最高裁の判断を是とするにしても、そのベースとなる想定賃金について、賃金センサスを使うところまでは割り切っているのですから、さらに一歩進めて細かく数字を追いかけてもいいのではないか、と思います。
#蛇足ながら、おそらく高裁がwebmasterのような考え方に基づき、ライプニッツ方式の想定賃金を年ごとに変えつつ法廷割引率5%を用いて同様の数字をはじき出した場合であっても、今度はライプニッツ方式の当てはめ方が適当でないという理由で、やはり最高裁は破棄していたと思われます。
さらに、金利を法定することそのものの是非に検討を進めてみれば、もちろんファイナンス的にはまったく正当化されるものではありません。本来はイールドカーブを算定して、対応する期間ごとの利率で割り引くべきでしょう。しかしながら、例えば上記の例では40年後の金利が必要とされ、そんなものは何らかの仮定計算によらざるを得ないのですから、いずれにしても最後は清水の舞台から飛び降りて決める世界だと割り切るなら、それが社会通念上公正妥当と認められるのであれば、完全に否定されるべきものでもないのかもしれません。
・・・やっぱり公正妥当とは認めがたいですなぁ。期間を問わず5%という法定利率は、現在の経済環境に照らして高すぎるように思いますです。賃金センサスは毎年変わるわけで、金利も年一回ぐらい変わっても、それほど社会通念に反するものではないでしょう。本件のように長期にわたるものであればともかく、1年物金利でも5%(もっとも極端な例をとれば、O/N物でも5%)というのは、その方がよほど社会通念に反しているとしか思えません。
bewaadさんが「一般に公正妥当と認められる逸失利益とは」http://bewaad.com/20050616.htmlで、最高裁の判決の妥当性を論じてられます。面白い議論なので少し統計のサイドから議論してみます。
この種の逸失利益の算定はいくつかの恣意的なアンバランス(一番の問題は賃金ベースであること)をもたらすので経済学的にはしばしば批判されるものだそうです。私のブログでも昨日、奇しくも(Irresponsible あ、リフレ政策?)予告しましたが、いまこの関係の文献を無防備に学習中ですが、確率的生命価値を算定する試みが近年盛んらしいです。ネットでもいろいろとれますよ。
面白い論考です。
平均賃金を考えるときに一般労働者だけ考えていていいのか疑問です。特に女性の場合パートタイムになる確率が高いのでどうも妙な気がします。失業の確率も考えるべきでしょう。
ところで、男性の年間賃金総額の計算少しおかしくないですか。全年齢の男性平均だと550万円くらいになるはずですが。
うーん。45〜49の平均年収が1809万ですか。
一部の高級取りが平均を一般庶民の水準からはるか上に押し上げているんでしょうか?
>一部の高級取りが平均を一般庶民の水準からはるか上に押し上げているんでしょうか?
こういう数字は平均値よりも中央値か最頻値を取った方が実感に近いかもしれませんね。
データの読み方はちょっと自信がなかったりします。表の作りを見れば通常給与と賞与等は外数にしか見えなかったので足しましたが、それでよかったのかどうか・・・。
韓リフさんご指摘の賃金給与でいいのか、というときにぱっと思いつきますのが、自営業者等の賃金労働者以外の取扱いと、平家さんご指摘の失業でしょう。就業率を給与額に乗じて想定所得をはじき出して計算すると、とくに若年層において失業率が高いだけに、割引現在価値としては押し下げ効果がでてくるように思います。