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(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)
2005-07-20
■ [sports][economy]フリーエージェントの市場構造
最近法学ネタに偏っている気がしてならない(笑)ので、経済学ネタを。「フリーエージェントとレモンの市場」(@のびたの経済学お勉強ノート7/17付)において、フリーエージェントで移籍した選手がそうでない選手に比べ欠場試合数が多いことから、フリーエージェント市場はレモン市場、つまり見ただけではわからない欠陥品が紛れ込んでいる市場ではないか、との仮説を立てつつ、なぜ選手を獲得する球団がレモン(=値段に見合わない選手)をつかんでしまうのかわからないとの問題提示をされています。それに対するwebmasterの考えは次のとおりです。
アカロフのレモン理論が予言するところによれば、レモン市場は成立しない、つまりレモンの存在故に合理的な価格よりもリスク分だけ価格が下がると、その下がった値段では見合わない優良財は売りに出されなくなるのでレモンを買ってしまう確率が上がる=リスクに対応する値引きがより大きくなり、となるとさらに優良財が売りに出されなくなり、の悪循環が生じて結局売買が成立しなくなるわけです。ところがフリーエージェント市場では逆の価格高騰が起きているわけですから、レモン市場ではそもそもないのではないか、という気がしてきます。
逆転の発想で違う仮説を立ててみましょう。フリーエージェントにより不当に多くの試合を欠場するようになるのではなく、フリーエージェントでない選手が不当に多くの試合に出場せざるを得ないとしたらどうでしょうか。つまり、相対的に不完全市場なのはフリーエージェント市場ではなく非フリーエージェント市場であると考えてみるわけです。ただし、どのようなロジックで不完全市場であるかは異なります。フリーエージェント市場=不完全市場仮説(以後「レモン仮説」と呼びます)では情報の非対称性故に不完全市場としていましたが、非フリーエージェント市場=不完全市場仮説では不完全競争故に市場となります。わかりやすく言えば「独占仮説」です。
非フリーエージェント市場では、事実上球団が買い手独占状態にあります。選手にとって球団から示された給料に納得できない場合には、移籍の自由がなく取り得る選択肢は野球をやめることしかないので(とりあえず調停は捨象します)、球団はプライステイカーとして振る舞うことが可能です。リクルートへの影響や選手がやる気を喪失して球団全体として成績が下がるといった要素を考慮する必要がありますから、最低賃金のみをオファーするということは実際にはあり得ずそれなりの給料を提示はしますが、それにしても相当程度の超過利潤を得ているはずです。
#欠場試合の話を給料に置き換えていますが、選手が提供するサービスとそれへの球団が支払う対価(給料)の相対バランスの話なので、単純化のためにそうしました。
これがフリーエージェント市場になりますと、他球団が現所属球団よりもほんの少し高い給料を提示した場合、ほんの少し超過利潤を諦めることで残りの超過利潤を得ることができますから、その高い給料がオファーされ、それよりもほんの少し高い給料を現所属球団やまた別の球団がオファーすることは同様の理由で合理的行動ですから、という繰り返しの結果、超過利潤が消滅する均衡まで給料は上昇することになります。
他方で、仮に現所属球団が超過利潤を得ていない場合はどうでしょうか。この場合、他球団はより高い給料をオファーするインセンティブがありませんから、移籍もなければ給料の引上げもありません。移籍した場合は必ず超過利潤が存在していたことになりますが、現所属球団にとどまった場合は超過利潤が存在していて、かつオークションで現所属球団が勝った場合と、超過利潤が存在していなかった場合の双方があり得るので、平均すれば移籍した選手の方が給料が高くなってしかるべきです。
球団がプライステイカーであるなら超過利潤が存在していない場合を仮定するのはおかしいとの指摘があるかもしれませんが、それは事前と事後の違いだとwebmasterは理解します。選手の提供するサービスには、怪我やスランプのリスクがありますから、事前にはそれに見合うプレミアム分が設定されているでしょうけれども、そのプレミアム分を超えて超過利潤を食いつぶすだけのサービス水準の低下もあり得るわけです。
他に考慮すべき事項としては、次のようなものもあるのかもしれません。
- 将来のフリーエージェントがコンテスタブルマーケットのように機能していることもあるでしょう。フリーエージェント権を取得する前に複数年契約を締結するような場合が典型で、あらかじめ超過利潤を放棄することで流出防止が図られるわけです。
- 非常に優れた選手は、逆に売り手独占を形成することもあるでしょう。他の選手では代替が困難なほど差別化された選手の場合、フリーエージェント市場で決定される給料は、その選手が現所属球団に残るにせよ移籍するにせよ、逆に選手側に超過利潤を生じさせる水準まで上がるはずです。
- 複数年契約によるモラルハザード問題もあるでしょう。しかし、フリーエージェントとは独立して複数年契約が締結されることもありますし、他方でインセンティブ契約により問題の解消が図られる部分もありますので、本件を検討するに当たっては、あまり考慮する必要もないように思います。
前回のフリーエージェントとレモンの市場について、Bewaadさんにトラックバックをして頂いたので、このトラックバックについてコメントします。 アカロフのレモン理論が予言するところによれば、レモン市場は成立しない、つまりレモンの存在故に合理的な価格よりもリスク..
サッカーとはまた事情が違うかもしれませんが、ナイジェリアのカヌはインテルに移籍後メディカルチェックで心臓に奇形が見つかった時に、実はアヤックスは心臓の問題を知っていたけれどそのまま売ったという噂を聞きました。
事前のメディカルチェックを行えば、欠陥品問題はかなりましにはなると思うんですけどね。
もうひとつ、bewaad氏のモデルでは逆指名で裏金をもらっていた選手は非フリーエージェント市場に含めていいのですか?
>bewaadさん
ランズバーグ、D・フリードマン並みの強烈なトラックバックありがとうございます。
あまりに強烈で考えがまとまらなくなってしまったので、返事をお返しするのに少し時間を頂きたいと思います。
>isuzukiさん
アメリカの大リーグでは、メディカルチェックだけでなく、離婚訴訟、アルコール・ドラックの前歴、親族にマフィアがいないかどうか、株で損していないか、など私生活の問題なども含めた詳細な事前調査が行なわれた上で契約が為されるとの事です。
しかし、日本のプロ野球では、高額の複数年契約においてもきちんとメディカルチェックなどの事前調査をしないそうです。選手の機嫌を損ねるなどの懸念があるらしく、口約束・信用の世界だそうです(笑)
ですから、日本のプロ野球では、もう少しきちんと事前調査をすれば、高校野球で投げすぎで肩肘がぼろぼろの選手や私生活に問題がある外人選手などに大金を費やす事を避けることができるようです。
それと、日本のプロ野球では、裏金の問題は一部に限らず一般的なもののようです。生涯賃金という観点からすると、年俸だけでなく、契約金や裏金も含めて考える必要があると思います。
参考文献
「日本プロ野球改造計画」 二宮清純、樋口美雄著 日本評論社
>isuzukiさん
(ヨーロッパ)サッカーでは移籍がMLB・NPBよりはるかに自由ですから、売り手独占市場(スター選手)においてより給料が上がりやすいのかなという気はします。
逆指名については、逆指名を得る段階において競争相手が存在しますから、フリーエージェント市場に近い性質ではないかと思います。
>のびたさん
過分な評価をいただき恐縮です。
メディカルチェックは、ことNPBについては、それ以前にどこまでトレーニングや健康管理がきちんとできているかが問題のようにも思います。高校野球など、特に夏の甲子園は、もっと他球場も使うとか、早朝・ナイターの活用、余裕をもった日程(予備日)設定など、やるべきことが多いように思います。
それでも相対的には恵まれた環境にはあり、他のスポーツでもっと悲惨な事例は数多くあるわけですが。
これまでのやりとりについて、大竹文雄先生に、私のブログのエントリーの方にコメントして頂きましたので、お知らせします。