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2005-08-14

[politics][economy]郵政民営化と解散を考える・その2:民営化すべき理由の批判的検討

なぜ郵政公社を民営化すべきだと考えられるのか、まずは今回の解散直後に発行されたメルマガで小泉総理がどのような主張をしているかを見てみますと、結局は民間にできることは民間にという彼の一般論の当てはめにつきます。以前考察したように地方の切り捨て懸念が反対派の原動力だとwebmasterは考えていますが、それに対して総理は過疎地の郵便局もなくなりません。今の郵政三事業のサービスは、民間人に任せても、地方においても、過疎地においても維持される、十分にできます、ということを言っているんです。と答えていますが、それが信頼できるかどうかということになるでしょう。

前例として国鉄民営化を見てみましょう。先の以前の考察のリンク先にて国鉄民営化後に多くの路線が廃線となっていることをご紹介しましたが、その一例である2003年末に廃線となった可部線(JR西日本)をめぐる報道の1つにおいて、赤字ローカル線についての制度等の変遷が次のように描かれています。

  1. 一九八七年の国鉄民営化に際し、国会の付帯決議は、一方的なローカル線切り捨てにならない配慮を求めた。
  2. 一昨年の鉄道事業法改正では、路線の廃止に、住民同意は必要がなくなった。(webmaster注:記事は2002年のものなので、「一昨年」とは2000年を指します。)
  3. JRがローカル線の合理化を進める理由の一つとして、昨年十二月のJR会社法改正が挙げられる。国の持ち株がすべて民間に移り、純粋な民間会社になった。株主から利益の追求を迫られ、「膨大な赤字を生む路線を放置しておけば、経営責任にもつながる」とJR西日本広島支社の幹部は説明する(webmaster注:記事は2002年のものなので、「昨年」とは2001年を指します。)

民営化パンフレットにおいて小泉総理はかつて国鉄や電々公社が民営化されて、鉄道や電話がなくなったでしょうか。そんなことはありませんと語っているわけで、以上のような現状(NTTについては、例えば公衆電話は携帯の普及による赤字化により近年激減しています)をそのように評価する人がいかなるイメージで「地方においても、過疎地においても維持される、十分にできます」と言っているかは興味深くはあります。

他方、郵政民営化関連法案は廃案になったので今となっては無意味ですが、参議院での委員会可決時の付帯決議には、次のような項目が盛り込まれていました。

一、国民の貴重な財産であり、国民共有の生活インフラ、セーフティネットである郵便局ネットワークが維持されるとともに、郵便局において郵便の他、貯金、保険のサービスが確実に提供されるよう、関係法令の適切かつ確実な運用を図り、現行水準が維持され、万が一にも国民の利便に支障が生じないよう、万全を期すること。
簡易郵便局についても郵便局ネットワークの重要な一翼を構成するものであり、同様の考え方の下で万全の対応をすること。

二、長期の代理店契約、基金の活用等により、郵便局が長年提供してきた貯金、保険のサービスが民営化後も引き続き提供されるよう配慮すること。そのため、承継計画において、郵便局株式会社と郵便貯金銀行、郵便保険会社の間で移行期間を超える長期・全国一括の代理店契約の締結を明確にすること。なお、基金についても、二兆円規模まで積み立てること。

結局、万国郵便条約等でユニバーサルサービスの提供が義務付けられる郵便のみが法律上明確に維持が図られているに過ぎず、郵貯と簡保についてはそのような義務付けはないからこのような付帯決議がなされたわけで、「万全を期」し「配慮」すれば、結果において郵貯や簡保が提供されない地域が出てきたところで付帯決議違反にはなりません(し、そもそも付帯決議には法的拘束力はありません)。

それもある意味当然で、いみじくも竹中大臣がプレジデント誌で語ったように、民営化するとはどういうことかを、一言でまとめれば「自由にできる」ということである。それは、同時に、民間と同じ競争条件(イコール・フッティング)を持つということだ。自由度とイコール・フッティングは、コインの両面と言われるように切り離すことができないものであるというものが郵政民営化の本質であるなら、競争相手となる民間の銀行や保険会社には課せられないユニバーサルサービス提供義務を民営化された郵貯や簡保に課した段階で、郵政民営化は似非民営化ということになってしまうわけです。

実際にユニバーサルサービス提供義務を維持する郵便については、竹中大臣は次のように国会で答弁しています

リザーブドエリアについて説明しろということでございますが、これは要するに郵便事業の場合、これ全国一律に、山間へき地、離島まで含めて一律の、やはり大変重要な通信手段であるから、そのサービスを確保しろということを法律で義務付けているわけでございます。

しかし、そうすると、そういう場合にはどこかでちゃんと利益を上げていかないと、正に離島だけ、離島届けるにはそれなりのコストが掛かります。東京の中心のように大量一括で届ける場合に比べてこれはコストが掛かるわけでございますから、やはりどこかでしっかりとしたしかるべき利益を稼いで、その利益をもってそういう義務を果たしていくという仕組みをつくらなければいけません。これは私は世界的に認められた一つのルールであろうというふうに思います。

通常、そういう場合はどこかのところで、この信書であったり、重量で制限したり、独占エリアというものを設けて、それでそこに入っていく。したがって、そういうものをある程度設けながらユニバーサルサービスの義務をどこの国の郵便も果たしているというふうに理解をしております。

しかし同時に、そのリザーブエリアはやっぱりできるだけ将来的に小さくしていってもらって、できるだけ競争もしていっていただきたいというような動きも同時に世界であるというふうに承知をしております。

他の業界において同様にユニバーサルサービス提供義務が課されているもの、例えば電気やガス、電話(ラストワンマイル部分)などを見ても、この答弁のように(地域)独占部分があります。簡単に言えば民間企業に赤字業務を継続させようと思えば何らかの補填をしてやる必要があり、直接補助金をつぎ込むのには抵抗があるので、独占利潤を制度的に確保してそこから内部補填させているということになります。

つまり、小泉総理や竹中大臣が「民間でできること」というときにどのような内容を思い描いているかは存じませんが、ユニバーサルサービスの提供は少なくとも市場での競争を通じてでは「できない」ことであるとwebmasterは考えます。民営化とは自由化とイコールフッティングであると竹中大臣は定義しましたが、市場の失敗こそが政府の出番であり、民営化とは市場競争を通じて厚生水準の最適化を図ることとするなら、少なくとも当然に民営化が正しいとする論理必然性は存在しません。

既出のパンフレットでの小泉総理の主張やプレジデント誌の記事において他に掲げられている点を見ても、当然に民営化が是であるといい得るだけの論拠はありません。両者ともに挙げている項目は次のようなものです。

  1. 350兆円の資金が民間で活用される。
  2. 公務員が減って小さな政府となる。
  3. 現在免除されている公租公課を負担することや、民営化会社の株式売却益で財政状況改善に寄与する。

1番は以前詳しく論じたように、将来にわたって予見可能な資金需要構造を前提とする限り、郵貯・簡保の存在が原因となって資金需要にそぐわない資金供給が行われる要素はありません。2番は一般歳出(税金)で人件費を負担しているわけでもないのにどういう趣旨で小さな政府というのか知りませんが、いわゆる国家公務員でなくなればいいなら公社(特殊法人)のままでも可能ですし、給与や身分の柔軟化というなら非特定(非公務員型)独立行政法人という手法もあります。3番はデフレ放置で財政悪化させた人間の言うことかと思いますが(笑)、公租公課負担が必要なら民営化しなくても民間並びで課せばいいだけの話です(国庫納付金等の存在を考えれば、あたかも全く公租公課負担がないかのような説明はそもそも不適切だと思いますが)。

プレジデント誌記事では他に24,000のコンビニチェーンなどとアピールされていますが、現に近隣にコンビニがあるところでわずかに便利になる(歩いて3分が1分になる、等)程度で、そうでないところではそのほとんどで採算が取れないでしょうからフランチャイジーになることは困難で(これだけコンビニが成熟化している現在、各フランチャイザーがそろいもそろって見逃しているような好立地はほとんどないと考えるのが合理的でしょう)、民営化会社にとって利益になっても国民にとってのサービス向上はわずかでしょうから、そのために民営化するような話ではありません。

では現状維持がよいのか、というご疑問に、次回お答えしたいと思います。

本日のツッコミ(全12件) [ツッコミを入れる]
soo (2005-08-16 03:54)

いままで郵便局だったところがコンビニぽくなるのですから、フランチャイザーが「見逃す」以前に取れないような所も利用できるわけで、思いもよらない好立地もあると思いますよ。

bewaad (2005-08-17 06:15)

ご指摘のようなケースも考えられると思いますが、イコールそれはエリアに需要がある場合においてピンポイントに郵便局の立地場所のみが好適地ということになりますから、それほど多くは見込めないような気もします。

ryon (2005-09-01 22:44)

勝手にリンクしました。

http://taste.sakura.ne.jp/index.cgi/society?page=%A4%B5%A4%E8%A4%CA%A4%E9%BE%AE%C0%F4%C6%E2%B3%D5

bewaad (2005-09-02 07:18)

リンクは大歓迎ですので、今後もその意味があるとお認めいただけるのであればよろしくお願いいたします(ご報告の労をおかけいただかなくても結構ですので)。

牡丹鍋 (2006-03-04 18:20)

はじめまして。
2003年末に廃線となった可部線(JR西日本)の現状がこちらです。
約3ヶ月前の取材レポートです。
http://photo.www.infoseek.co.jp/AlbumTop.asp?key=1472073&un=136054&m=2
このレポート後も跡地はどんどん変化していて、加計駅跡地には地域体験交流施設が出来たり、戸河内駅のプラットホームが解体されたりしています。

bewaad (2006-03-05 13:58)

>牡丹鍋さん
解体されるだけましということもあるのかもしれません。廃線関連設備でそういうものがあるかどうかは知りませんが、事業が中止になり解体費用すら捻出できずそのまま放置、というのも決してめずらしいものではないのですから。

牡丹鍋 (2006-04-08 14:54)

九州の油須原線(レールまで敷設されたものの開通しなかった国鉄線)の施設を継承した地元自治体が橋梁等の撤去費用に頭を痛めているという話をどこかで聞いた事がありますが、似たようなケースがあちこちにあるんでしょうね。公共施設以外の一般の工場や民家、宿泊・娯楽施設等でも解体費用を捻出できずに放置され、廃墟マニアの格好の獲物になっているケースもあります。

こちらはレスを戴いた2006年3月5日に撮影した可部線跡地の取材レポートです。
http://photo.www.infoseek.co.jp/AlbumTop.asp?key=1523574&un=136054&m=2
広島市はJRから地域振興金という名目の施設撤去費用を受け取っておきながら、いまだにレールや施設を放置したままにしております。レールは昨今のスクラップ価格高騰により広島市内部分だけで約5000万円前後の価値があると見られ、行政のやる気のなさにはウンザリします。

bewaad (2006-04-09 13:53)

>牡丹鍋さん
地域振興金の制度をわかってはいないのですが、事実上の手切れ金であり撤去の有無にかかわらず定額であるなら、それにより実際に施設を撤去するインセンティヴにはならないでしょう。JRからすれば、後々施設を撤去しないことについて批判された際、それはお金を渡して広島市にお願いしてあるので広島市に言ってください、と回答できればそれでよく、実際に撤去してもらう必要はないわけで。

他方で広島市にしても、撤去の有無にかかわらずであればしなくてももらえるものについてあえてする方向に意思をいざなうものにはならないわけです。多分5,000万円では撤去費用のすべてをカバーできないのでしょう。

もちろん、撤去すると約束したのに放置していることに心は痛まないのか、という根本の問題はあるのですけれども。

牡丹鍋 (2006-04-11 11:41)

bewaadさま、返信有り難うございます。

広島市は先月に可部線跡地の利用構想を公表していますので、いちおう跡地整備については念頭にあるようです。ただ、北部の安芸太田町の駅舎撤去が2004年末から始まっていたこと、既に同町内のレール・枕木撤去が完了したことを考えると、広島市の仕事の遅さに疑問を感じざるを得ません。そもそも、この跡地利用構想も1年前に公表される予定だったそうですし・・・。

「可部線廃線敷再生ビジョン−可部線メモリアル街道−」の策定(平成18年3月)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1139960517841/index.html
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/1139960517841/files/rikatsuyou01.pdf

>5,000万円では撤去費用のすべてをカバーできないのでしょう
JR可部線廃線区間のうち北部の約24kmが安芸太田町、南部の約18kmが広島市なのですが、安芸太田町内のレール・枕木等の撤去予算は同町広報紙によると6000〜7000万円程度でした。人口1万人にも満たない安芸太田町が早々にレール等を撤去したのに、人口115万人を抱える広島市がなかなか撤去出来ないというのもおかしな話です。

bewaad (2006-04-12 05:55)

>牡丹鍋さん
もちろん撤去するのが当然でありしないことは責められるべきですが、市当局に対してそんな不要不急の支出はやめろと、財政再建にまい進せよいう「改革派」がいるんじゃないかと、国と地方の差はあれ行政府の人間としてはあれこれ想像してしまいます・・・。

牡丹鍋 (2006-04-12 12:40)

どうなんですかねえ???
市は現在の市民球場がまだ使えるにも関わらず、老朽化したという理由で新しい球場を約100億円かけて造ろうとしていますし、平和公園周辺には何の役にも立たない変なモニュメントを設置したりしています。
可部線廃線跡のレール価格と撤去費用がほぼ同等ということはタダで撤去できる訳で、なぜタダで出来る事さえやらないのか疑問です。
昨年、広島市内の太田川沿いの今井田という場所で台風14号による家屋浸水や流失等の水害があったのですが、市の担当者が今井田の場所を知らなかったというトンデモナイ話があります。広島市民ならよく知っている場所を市の担当者が知らないという馬鹿げた話があるのでしょうか?この件は市議会でも取り上げられたそうですが・・・。まあ現市長も遠く離れた地方の出身で広島の事をよく知らないようですが(笑)
こういう話を聞くと、広島市当局は地元のこともよく知らないし、市民のための行政を行う気もないのではないか?と感じてしまいます。だから、廃線跡も長い間放置しているのではないかと・・・。

bewaad (2006-04-13 06:05)

>牡丹鍋さん
具体論になると実情をきちんと把握しないままでは中身のある話をできるはずもないのですが、廃線撤去はやはり放置しておいて積極的に困る人がいないと、当局に当事者意識がない場合には後回しにされがちなのだろうなと思います。

災害担当者については、地元に必ずしも詳しくなくても他に見るべきところがあれば採用するのは望ましいことでしょうから、そういう人間が市役所職員になることはよいとしてもよりによって災害の担当者にする(担当部局全体の中にそういう人がいてもいいでしょうけれど)ことが問題なのではないかという気がします。

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8/15 追記あり 衆院総選挙とか郵政民営化絡みの話は、あんまり色々と書くと政治的知識やセンスの不足がばればれになってしまうので、深入りは避けておいた方が賢明とは思いつつ、とはいえ、自分なりに考えていることもあるので、批判を歓迎しつつ、ちょっと思いついたこ..

http://www.dhl.co.jp/dhl/global_germany.html 1990年の郵政改革から技術革新期、そして買収戦略を成功させた最近のブランド政策に至るまでのドイツポスト・ワールドネットの歩みをご紹介します。また、2002年末、エアエクスプレス(国際宅配便)サービスのグローバルリ..

http://d.hatena.ne.jp/ironsand/20050806#p2でも書いたが,私は郵政民営化反対である。郵政民営化反対というだけで,亀井さんすら応援したくなる。それにしても,ちょっと前まで,すべての政党が郵政民営化反対だったように思うんだが。積極的賛成論者がいることは知って..


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