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2005-10-21

[economy][government]経済財政諮問会議による財政状態の分析

10/20付のドラめもんさんの記事にて、10/13に開催された第21回経済財政諮問会議「財政健全化の4つの経験則について」と題された資料についての福井総裁の発言を中心に取り上げられていまして、興味をそそられて読んでみたのですが、福井総裁だけでなく(これについてはドラめもんさんの言及で尽きているでしょう)「4つの経験則」そのものが怪しすぎます(笑)。まず経験則を紹介すれば次のとおりです。

  1. 歳出削減して増税なし
  2. 制度改革を伴う歳出削減
  3. 国民からの信頼
  4. デフレの克服

わけのわからない第3経験則は放置しておくとして(議事録の吉川先生の説明を見ても信条の表明でしかありませんし)、第4経験則が重要なのはwebmasterにも全く異論はありません。といいますか、気づいているなら早くやれと。

で、もっともらしい第1・2経験則ですが、何がもっともらしいと言えば、過去のOECD諸国の財政再建成功・失敗例を挙げ、成功した財政再建はトレンドとしての歳出削減を成し遂げたもので、失敗したものはそれを欠き増税しかしていないというプレゼンです。これだけしか見なければ(資料pp3,4(フッタに記載のもの(=表紙はカウントしていません)。以下同じ))、なるほどと思えなくもありません。

しかし、資料の他のページを見ると話は変わってきます。まずは資料の7ページ目には1980年代、1990年代、2000年代のプライマリーバランスが構成要素別に並べられているのですが、1980年代にはプライマリーバランスが回復していて、半分が税の増収、半分が歳出の削減というバランスです。つまり、第1・第2経験則での成功例と同じということになります。

さらに税の増収の内容を見るなら、物価要因の自然増収(=インフレで名目税収が上がった、ということ)の寄与分が18.2兆円、税制改正の寄与分がマイナス2.7兆円、つまり減税しているわけです。まことに増税なき財政再建だったわけで。

一方、歳出の削減の内容を見てみましょう。同じく7ページ目を見てみると、80年代は公共事業費、社会保障費、人件費という三要素がすべて削減され、他方で90年代はすべて拡大、2000年代は公共事業費が大幅に削減、人件費は微減、社会保障費は拡大ということで、これが社会保障費をトレンドとして削減しなければ、という主張につながっていくわけです。

ここで資料の2ページ目を見るに、各指標のSNAベースでの推移が折れ線グラフで掲載されているのですが、80年代を通じてこれら三要素はすべてトレンドとしては増加しています。7ページ目の削減とはあくまで名目GDP比であって、つまりは名目GDPが財政支出の伸び以上に成長していたので、相対的なウェイトとして減少していたに過ぎません。同じく2ページ目には90年代以降のそれも並べられているわけですが、公共事業費はいったん増加した後減少に転じ、人件費は微増からほぼ横ばいと80年代とは全く異なるトレンドになっていて、唯一社会保障費のみが80年代とほぼ同じ伸び率で増えています。それにしても、80年代を大きく超えるものではありません。

つまり、財政支出のトレンドを見れば、本来プライマリーバランスは改善しているはずなのです。ところが名目GDPが横ばいでしか推移していないため、80年代と同様の動きを見せる社会保障費が突出して見えてしまっています。7ページ目で社会保障費が悪役になっていたのは、ものさしである名目GDPが縮んだが故なのです。言い換えるなら、80年代は安定的な経済成長が維持できていたが故に、財政支出を増加させたにもかかわらず、プライマリーバランスは改善したのですが、90年代以降は経済成長できていないので、財政支出を減らしてもプライマリーバランスは悪化し続けているということになります。

若干留意点について詳述するなら、80年代半ばから名目GDP成長率並みに公共事業費が伸びているので、安定成長下では公共投資抑制が不可能ではないか、という懸念もあると思います。しかし、80年代の公共事業増加は貯蓄投資バランスを変えて輸入を減らそうという目論見があってのことで(傍証として、日米構造協議はそうしたロジックを明確に意識して公共事業増加を盛り込んでいます)、少子高齢化により貯蓄投資バランスのファンダメンタルズにおいて貯蓄超過圧力が弱まっている現在においては(ただしデフレが解消されれば、ですが)、同様の事態が生じるわけではないと予想するのは自然でしょう。

#名目GDPの伸び悩みは、こうした財政支出の相対的ウェイトの増加に加え、言うまでもありませんが税収減からもプライマリーバランスを悪化させます。

したがって、資料の2ページ目と7ページ目をあわせ読むなら、3・4ページ目のデータから導き出される経験則は、全く異なるものとなります。といっても、相関関係における因果を逆に読むだけの話で、第1経験則は「経済成長なくして財政支出削減・税増収(あえて増税とは書きません)なし」とすべきで、第2経験則は「経済成長に勝るプライマリーバランス構造の改善なし」ということになります。

ところで不思議なのは、なぜこのような資料が作成されたかということです。仮に2ページ目と7ページ目がなければこのような隙のない資料になったわけで、あのような経験則を説得力あるものとしてプレゼンしたければ落とすべきものであるはずです(それが知的誠実さとしてどう評価できるかは別にして)。考えられるのは次のようなケースですが、後のものほど、当たっていたらやだなぁ・・・。

  1. 実は資料(少なくとも草案)は民間委員でなく諮問会議事務局作成で、そこの良心的な官僚(高橋洋一さんとか(笑))が、見る人が見ればわかるようにはめ込んだ。
  2. 民間委員は健忘症で、3・4ページ目を作るときには2ページ目に何を書いたか忘れ、7ページ目を作るときには3・4ページ目に何を書いたか忘れていた。
  3. 第3経験則が「構造改革なくして経済成長なし」、つまり名目GDP成長率を上げるためにも財政支出削減・増税が必要だという趣旨で、民間委員の頭の中では整合的なものとして認識されている。
本日のツッコミ(全21件) [ツッコミを入れる]
徳保隆夫 (2005-10-21 08:30)

 ……日本のGDPが80年代のように成長することはもうない、という認識があり、したがって今後の施策を考える場合には低成長を前提とすることになっているのではないでしょうか。いわゆる「身の丈にあった社会作り」論です。デフレ克服により経済が成長して全部解決した、ということになれば、それはたいへん結構なことでしょう。以前、bewaad さんがご指摘の通り「何でもやる」のが小泉内閣の経済政策の特徴ですが、何が効いたかは理解されなくても、結果オーライなら満足していいと思います。
 現状では「デフレ克服により経済成長して3・4ページ目の問題は自然と解消される」という意見が委員の多数派となるだけの説得力を(何らかの理由で)持っていない。4項目のひとつがデフレ克服、という資料が意味するのは、「リフレ派の主張の浸透度、今この辺」ということではないでしょうか。

Baatarism (2005-10-21 10:15)

結局、政策しだいで経済成長は可能だ派と、どうやっても経済成長は不可能だ派の対立が根底にあるんでしょうね。
財政論議も、結局その両者の対立に帰着するような気がしますね。

svnseeds (2005-10-21 12:49)

これはなかなか興味深い資料ですね。
Happy News論文(笑)では社会保障費に焦点が当てられていましたけど、あれは名目GDP成長率が名目金利を継続的に下回る場合についての試算でしたもんね。その場合ですら財政について過度に悲観的になる必要はない、ましてや名目GDP成長率がプラスになれば・・・ってことがはっきりわかりますねえ。
もう1点、これも同論文で示されてましたけど、公共投資や公務員の人件費が財政悪化の本当の原因ではないこと(少なくとも90年代後半以降)も良くわかりますね。財政悲観派がどうして今でもここを問題にするのかよくわからんです。

徳保さん、はじめまして。
「日本のGDPが80年代のように成長することはもうない、という認識」とのことですが、ここで問題にされているのは名目の成長率です。確かに80年代のような実質で4%弱の成長は今後継続的にはないかもしれませんけど(でもデフレ脱却後のキャッチアップ期間においては十分可能のはずですし、そもそも80年代前半の実質成長率は3%ちょいです)、それでも2-3%のゆるやかなインフレ下であれば、名目GDP成長率5%前後はけして無理のない数字であり、これによって財政問題のかなりの部分(全部とは言いませんよ)が喫緊のものでなくなることはこの資料からもご理解いただけるんじゃないでしょうか。
また、デフレ脱却が財政問題解決のカギ、という点がどうして説得力を持たないかですが、ほんとどうしてでしょうねえ。恐らくは経営者特有の発想、つまり経済環境(特に金融政策)はgivenなものとして扱い、問題改善は自助努力で行うべきである、というものが根っこにあるんじゃないかと思いますけど、こればっかりはなんともわからんです。「何らかの理由」ってなんなんでしょう。

svnseeds (2005-10-21 13:25)

連続すみません。
今回の資料では名目金利うんぬんは関係なかったですね。前半意味不明なんで取り消しますorz。

高橋 亨 (2005-10-21 15:49)

アメリカの横暴
赤坂の1等地4千坪を月20万円で借地しており、しかも10年も地代の支払いを拒否し、値上げにも一切応じない。日本はまだ占領国としかみていない。断固新聞紙上にでも取り上げて欲しい。 

徳保隆夫 (2005-10-21 17:37)

1.svnseeds さん、リフレ派の主張には一定の説得力があるので、デフレ克服が4本柱のひとつとして取り上げられているのでしょう。構造改革で経済成長とは書いていないことを評価するべきなのでは? デフレ克服で経済成長を目指すことと、経済が成長しなくても持続可能な社会保障制度の実現を目指すこととは両立するので、両方とも書かれているのでしょう。リフレ政策の効果が十分に信頼できるなら後者を強調する必要はないのでしょうが、当面は両睨みでよいと思います。
2.高橋さん、他は知りませんが、産経新聞では紙面に出ていましたよ。

鍋象 (2005-10-21 22:56)

>結局、政策しだいで経済成長は可能だ派と、どうやっても経済成長は不可能だ派の対立が根底にあるんでしょうね。

同感です。ただ、これどちらも根拠薄弱なんですよね。僕は経済成長可能派ですが、不可能な理由が無い以上断定できないとしか言いようがありません。ちょっと突っ込んで言うなら、不可能だと考えている人が多いから実現できないんだ(アニマルスピリット)としか言いようが無いわけで。不可能派の人は、主に人口減少をあげられますが、人口減少していてプラス4%成長している国もありますし、そんなに大問題だったら人口増やす方法の提案しろよと思ってしまう。

>>徳保様
経済成長しなくても持続可能な制度というのが僕には想像がつきません。社会保障制度自体が、ビルトインスタビライザー効果を自ずと持つものですから。経済成長がマイナスでも耐えうる社会保障制度というのは、経済に対して逆スタビライザー効果を発揮して、景気変動を大きくします。要するに動学的に不安定だと言う事です。

僕が理解しがたいのは、経済政策の目的は何なのか?という事です。経済の安定的な成長そのものが目的であり、それが必須要件ではないかと思うのです。「経済の安定的な成長が無かったら」と仮定して対策を採ると、石橋を叩いて壊す事になりかねないかなと。

bewaad (2005-10-22 05:00)

>徳保隆夫さん
失われた10年+αというのは、安定したまともな好景気というのを知らない期間でもあります。今の若い世代(というと自分が年寄りくさくていやなものですが(笑))がインセンティブディバイドだという議論も無理はない話で、このままでは本当に潜在成長率が低下してしまう危険があると思います。

小泉政権ではかなり多様な政策が講じられていますが、なぜかまともな需要喚起策がないというのはどうしたものかと思います。

bewaad (2005-10-22 05:03)

>Baatarismさん
その点、「官から民へ」の構造改革派の方が、実は我が国の民間活力を信頼していないのではと思います。リフレ派の方がよほど愛国者ということで(笑)。

bewaad (2005-10-22 05:07)

>svnseedsさん
いや、十分社会保障も問題視されているかと(笑)。それにつけても吉川先生だけはこういう問題に気づいていると信じたいのですが。浜田先生が政府から離れた今となっては。

bewaad (2005-10-22 05:09)

>高橋 亨さん
エントリと無関係な書き込みは、できれば他の適切な場所をお探しいただければと思います。

bewaad (2005-10-22 05:13)

>鍋象さん
人口減少の前に現役世代のリタイアがあり、それはインフレ要因なのですから、人口減少を成長の制約要因とするなら、現状とはかみ合わないだろう、と思っています。

すなふきん (2005-10-22 10:14)

>失われた10年+αというのは、安定したまともな好景気というのを知らない期間でもあります。

個人的感想からすれば失われた10年+αの前期の方がはるかにマシで、数年前から目に見えてダメになってきた感じです。

>このままでは本当に潜在成長率が低下してしまう危険

すでに兆候は出てると思います。現代医学を信用しないで怪しげな新(?)療法に頼ろうとした結果、患者を長期間放置してしまったようなもの。いまごろ回復とか言われても、それまでに失われた経済価値を取り戻すのに一体どれだけかかるのか?早く手を打って回復しておけばリハビリも短くて済んだのに、今まで何やってきたんだ、って言いたい気分ですね。壮大なムダの十数年・・・。

韓流好きなリフレ派 (2005-10-22 11:07)

壮大なムダの十数年・・・。>

しかもこの間は、全国民でどうでもいい法案めぐってお祭りしてるし 。いくらレジャー大国だからって余暇とりすぎると成長率さがるって。

vodka (2005-10-23 00:17)

えー、岩手県民です。

>失われた10年+αの前期の方がはるかにマシで、数年前から目に見えてダメになってきた感じです。

我が県における高校新卒の求人倍率の推移から、全く同じように感じています。

vodka (2005-10-23 10:41)

我が県は、率は低いですが平成12年まで名目でも実質でもプラス成長でした。特に平成12年は名目で1.6%、実質で4%の成長を記録しました。それが」平成13年には実質でマイナス5%となり突然失速したのでした。

bewaad (2005-10-23 15:56)

>すなふきんさん
これで中国特需がなければ・・・とすると、売国奴政権(笑)と批判する右翼が出てきてもおかしくないのに、なぜかアメリカ追随を批判する声はあっても、こうした経済政策批判はないんですよねぇ。ま、これからさらに改革派がのさばるリスクも十分にあるので、後から振り返ってみればまだ終わりの始まりだったりするかも。

bewaad (2005-10-23 15:58)

>韓流好きなリフレ派さん
パンを与えない分だけ、派手なサーカスをぶち上げているんだよ!
な、なんだってー!(AA略)

bewaad (2005-10-23 16:01)

>vodkaさん
陰謀論になってしまいますが、そのタイミングは自由党(小沢議員)の連立離脱が原因だったりして、という気も。

Baatarism (2005-10-23 17:53)

>タイミング
これは、小渕首相が急死したのが原因でしょう。
森政権は小渕政権を継承すると言いつつ、こっそり緊縮財政に転換したわけですから。
で、その死の引き金を引いたのが…(爆)

bewaad (2005-10-24 03:07)

いや、岩手県というのが気になりまして(笑)。


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