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(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)
2006-01-12
■ [economy]保険制度と逆選択
毎日新聞の例の特集を一段落したら取り上げようと考えていたのですが(・・・昨日で終わったようですね)、その中の「患者になれない」をmacskaさんが取り上げ、皆(医療/健康)保険制度について論じられています。そこで皆保険制度の存在理由として挙げられているのがクルーグマンによる説明、要すれば逆選択です。
保険を論じる際に逆選択というのは経済学的には切っても切れない関係で、webmasterも直近では偽装建築問題に関して言及しました。逆選択とは何かということを説明いたしますと、保険の対象となるある集団の平均リスクに見合う保険料を設定した際、それよりもリスクが低い者にとってはその保険料は割高なので契約を締結せず、となるとリスクが少ない者が保険に加わらないのですから集団の平均リスクが上昇し、となると保険料が上昇し、となると契約を締結しない相対的低リスク者の範囲が広がり、となると集団の平均リスクがさらに上昇し、・・・という形で保険が成立しなくなることです。市場において各々が経済活動を通じてより好ましい財が普及していくのが選択であるなら、市場において逆に好ましくない形に落ち着いてしまうので逆選択。
なぜこのようなことが起こってしまうのかといえば、この例でいえば保険者(保険会社)と被保険者との間に情報の非対称性があるからです。保険者は被保険者個人のリスクを正確に判定できずその属する集団(日本人とか)の平均値を当てはめる一方で、被保険者は自分の健康状態が良いか悪いかをわかっているのでその平均値が割高か割安かがわかると。
この逆選択を回避する方法の一つが法による強制で、健康保険に関して言えば、相対的に健康状態のよい人から見れば保険料は割高なのですが、脱退を許さないことにより保険母集団の平均リスクを一定に維持しているわけです。とはいっても民間保険があり強制されてはいないのですが、それが逆選択回避の別の方法で、集団内にリスクの違う者が混在しているから逆選択が起こるなら、混在しないようにすればよいわけです。言い換えれば、ベストを尽くして情報の非対称性を埋めるわけです。
アメリカの医療保険は民間ベースですから、後者による逆選択回避が行われ保険未加入者が相当数存在しています(リスクが高いため、さらにはリスク判定コストによりそもそも保険料が高騰したため)。そうは言っても最低限の医療を保障するなら保険がカバーせず患者も支払えないコストをどこかが負担する必要があり、それは他の患者や政府にしわ寄せされているとクルーグマンは説きます。明言はされていませんが、だからこそ皆保険制度を整備すべきだということになります。
以上の議論はご覧のとおり逆選択の存在を前提にし、webmasterも経済学を齧った身としてその概念を受け入れて今に至っているわけですが、本当にそうなのか、という議論があります。Marginal RevolutionにおけるAlex Tabarrokのエントリ(昨年12/13付)、"Adverse selection is NOT the problem"(逆選択なんてどうってことないさ)がそれです。
Tabarrokが逆選択を問題でないとする要因は次のとおりです。
- 客観的な検査・確認等を行う者がいれば情報の非対称性は埋められます。情報の非対称性が埋まれば逆選択を防ぐことができます。
- そもそも情報の非対称性は存在するのかという点に疑問があります。保険の例で言えば、本当に自分の余命を知っていますか、ということです。
- 逆選択よりもpropitious selection(整合的選択?)の効果が大きいと考えられます。例えば保険に加入しやすい人はシートベルトも装着するだろうし、食べ物にも気を遣うだろうと。
このTabarrokのエントリにおいては延々とコメントのやり取りが続けられていますが、少なくとも逆選択がどの程度の影響を与えているのかは検討の余地があるようにwebmasterは思いました。
保険の逆選択ネタはもう100年以上前から続いてる議論で、その度「理屈では逆選択が働くはずなんだけど全然現われないなあ、おかしいなあ」って言う報告が上がってます。
かつては「不健康な人は解約しないはずだから、いずれ契約者の死亡率は悪化するのではないか?」という文脈で、今では遺伝子レベルの疾患や生活習慣(喫煙者なんかは既に分離されてます)によるリスクの階層化が議論されています。
現在のところ問題になるレベルでの逆選択は無いようですが、これから契約者がより「合理的」になれば発生する可能性は無いとは言い切れないと思います。
個人的には、寝た子は起こさない方がそもそもの「保険」制度の目的に適うんじゃないか、などと不謹慎な事を思ってしまいますが(笑)
こんにちはです。まず、現実に健康保険市場で逆選択が起きているという人はどこにもいません。問題は逆選択そのものじゃなくて、逆選択を回避した結果起きた副作用でしょう。
そうした副作用が起きる理由は、健康保険というモノの性質も関係あるでしょう。医療はどんなに貧しい人でも受けられるべきだという社会的要請があるから、中古車市場と同じ議論はできない。クルーグマンの議論は、保険会社がクリームスキミングすることで政府の財政を簒奪しているということではないかと思います。
また、Tabarrok 氏は2の点で生命保険を例に挙げていると思いますが、健康保険と生命保険では事情が違うと思います。早い話、生命保険はその人の支払い能力や考え方によってはゼロでも政府は介入しないし,逆にいくらでも高額の保険をかけることもできる。医療は誰もが必要としていて、保険料が払えない人の分の医療費もどこかに転嫁されていますし、一定以上に高額の健康保険に加入する理由はどこにもないという点でも違います。
さらに、Tabarrok氏の「健康保険はそんなに高くないじゃないか」という点について、ブログでは省きましたがクルーグマンはわたしが引用したコラムであらかじめ反論しています。すなわち、辛うじて中流以上の人の多くが健康保険に加入できているのは、雇用に伴う健康保険には給料と違い税金がかからないなどの税制上の優遇措置のためだと言います。クルーグマンによると、その総額はなんと190億ドル(22兆円)。(ついでに、Tabarrok氏が引用している数値は、保険会社の業界団体から引いてますねー。)
おひさしぶりです…といっても覚えていらっしゃらないかもしれませんが;w
今、「あすを読む」で「良いデフレ」をぶってるので久方ぶりに思わず書き込んでしまいました。
「私も以前はデフレは絶対悪だと思ってた。しかしそれは勘違いだった。というのも昭和恐慌のデフレで4年間で40%近く物価値下がりし、4人に1人が失業者という状況を経験したからだ。それに比べて今のデフレは非常に緩やかでたいしたことはない。」(要旨)
今も日銀理論を公共のデムパで垂れ流しております。
人ができてない私は頭に血がのぼって沸騰しそうですw。
気づいたらmasterのentryの趣旨とは関係のないことばかり書いてるし…本当に申し訳ありません。頭冷やしてきますm(__)m
>sakuraさん
なるほど、という感じです。ロジックとしてはそうとうロバストだと思うのですが、だからこそ面白いのでしょうねぇ・・・。
>macskaさん
逆選択が実際には起こっていないという点についての議論が面白いと思いエントリにしまして、混乱を招いたとしたら申し訳ないです。
貴エントリの、アメリカよりも日本において健康保険制度が機能しない場合の影響は深刻ではないかとの議論はとても考えさせられました。引き続き勉強させていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
>j++さん
お久しぶりです。
Y氏はその著書で、大恐慌だって失業率は25%、4人に3人にとっては深刻ではなかったと言い放つ豪傑ですから(笑)、さすがにあれを日銀理論といっては日銀にとって不公平かと(笑)。