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2006-02-11
■ [economy]中国発デフレ擁護論へのリジョインダー(下)
上編を書いた後下編の仕込みをしている間にまさくにさんからご回答をいただき、前回の積み残しは時期を失してしまった感がありますが、簡単に積み残しを処理した後、ご回答について触れたいと思います。
テイラールール(次エントリ参照)の算式によりあるべきオペ金利を求め、それと実際のオペ金利との差を見てみます。テイラールールでは目標インフレ率を置きますが、とりあえず2%としておきます。また、潜在実質GDP成長率を求める必要がありますが、第一生命経済研究所の推計を用いて4%とし、これを均衡実質金利と仮定します。インフレ率は各月のCPIの対前年同期増減を単純平均、(実質)GDPギャップは2001年から4%成長を続けたと仮定した場合の実質GDP(潜在実質GDPとここでは呼んでおきます)と実際の実質GDPの差の潜在実質GDPに対する比率、実際のオペ金利は各月のインターバンクコールレイトの加重平均値を単純平均して得ました。
| インフレ率(CPI, a) | GDPギャップ (b) | あるべきオペ金利 (c=4+0.5x(a-2)+0.5xb) | 実際のオペ金利 (d) | 金利格差 (c-d) | |
| 2001-Q1 | 0.58 | ▲3.26 | 1.66 | 4.51 | ▲2.85 |
| 2001-Q2 | 0.02 | ▲6.84 | ▲0.41 | 4.05 | ▲4.47 |
| 2001-Q3 | 0.01 | ▲8.30 | ▲1.14 | 3.46 | ▲4.60 |
| 2001-Q4 | ▲0.63 | ▲5.27 | 0.05 | 2.53 | ▲2.48 |
| 2002-Q1 | ▲0.10 | ▲5.74 | 0.08 | 2.28 | ▲2.20 |
| 2002-Q2 | 0.02 | ▲6.62 | ▲0.30 | 2.18 | ▲2.49 |
| 2002-Q3 | ▲0.21 | ▲6.47 | ▲0.34 | 1.95 | ▲2.29 |
| 2002-Q4 | ▲0.52 | ▲4.05 | 0.72 | 1.78 | ▲1.07 |
| 2003-Q1 | ▲0.21 | ▲6.30 | ▲0.26 | 1.25 | ▲1.51 |
| 2003-Q2 | ▲0.11 | ▲10.11 | ▲2.11 | 1.18 | ▲3.29 |
| 2003-Q3 | ▲0.59 | ▲6.33 | ▲0.46 | 1.02 | ▲1.49 |
| 2003-Q4 | ▲0.19 | ▲2.28 | 1.76 | 1.02 | 0.74 |
| 2004-Q1 | 0.51 | ▲3.04 | 1.74 | 0.99 | 0.74 |
| 2004-Q2 | 1.19 | ▲5.76 | 0.72 | 0.99 | ▲0.27 |
| 2004-Q3 | 2.87 | ▲4.97 | 1.95 | 1.05 | 0.90 |
| 2004-Q4 | 1.85 | ▲3.67 | 2.09 | 1.14 | 0.94 |
#ソース:中華民國統計資訊網(CPI、実質GDP)、中央銀行(インターバンクコールレイト)。なお、裏が取れるようwebmasterが計算した部分であるGDPギャップに関する原計数等をこのエントリの最後に掲げておきます。
さて、金利格差が正であれば緩和気味、負であれば引締め気味ということになりますが、2001年の緩和の遅れがデフレの原因であると言って差し支えないでしょう。その後も不十分な緩和でなかなかデフレを脱せずにいましたが、2003年第4四半期に至って経済成長によるGDPギャップの縮小で緩和基調に転じデフレを脱却した様子がよくわかります。つまり21世紀に入ってからの台湾のデフレもまた金融政策の失敗によるものと考えられます。
続いてまさくにさんのご回答についてです。前回webmasterはまさくにさんの理屈では輸入物価の上下動について上昇は反映されないけれども下降は反映されるという非対称性を証明しないと中国発デフレ論と昨今の円安下での物価変動を整合的に説明できないとしました。これについては、おそらく次の部分でご回答いただいたものと理解しています。
為替変動の影響によって、これが物価に即反映されてるかどうかも不明ですけれども、一応92〜97年初め頃までは為替の動きとやや似ています。物価の下落インパクトがどれくらいあったのか不明ですけれども。輸入品に関して一般企業の意見としてよく聞きがちなのは、「円高になれば消費者の価格値下げ圧力(期待)は強まる」(特に出典は示しませんが、一般によく聞くと思います)ということですね。これは価格設定側である企業の考え・立場を表していると思います。逆に円安局面では値上げするのが普通と(少なくとも上昇分を転嫁するのが経済学的な考え方?であれば一般的かと)思いますが、何故か「消費者に値上げを受け入れてもらうのが中々難しい」という風に考えるのだろう、と思います。これがいつ頃からそういう傾向になってきたのか、ということは不明ですが。これは為替変動ばかりではなく、商品相場の影響での価格変動などもちょっと似ていて、その上昇分は消費者物価に反映されているかと言うと、必ずしもそうではないと考えています。
「リジョインダーへの回答」(@いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」2/9付)
これに対する反論としては、前回も書きましたがプラザ合意後の円高を反映した輸入物価下落(90年代のそれよりも急激かつ大幅なもの)があってもデフレにはならなかったことが挙げられます。輸入物価の上下動の一般物価に対する影響について非対称性を仮定するより、対称性、ないしは仮に非対称であってもその差は非常に小さいと考える方がこうした事実と整合的です。
今回の21世紀初頭の台湾、そして前回の香港、シンガポール、1990年代後半の台湾を見ても、いずれも金融政策の失敗を共有しています。90年代の日本もまたそうです。中国からの輸入が増加している国は多く見られてもデフレは多く見られず、金融政策の失敗が観察される国においてのみ生じていることからも、デフレの原因は中国からの輸入増ではなく金融政策の失敗であるとwebmasterは考えているのです。
#GDPギャップ推計の詳細は次のとおりです。なお、GDPギャップ推計には様々な手法があり、ここでwebmasterが行ったものは最も原始的と言えるものですので、より精緻に行った場合には異なる結果が出てくる可能性は大いにあります。といいますか、金融政策が実体経済に行き渡るタイムラグ(通常1年半から2年程度)を考えると、既述の金利格差変動がCPIに影響する期間が短すぎるように思いまして、GDPギャップを過大評価しているのではないかと不安だったりします(間違いの原因として考えられるのは、不況の影響で供給力が潜在実質GDP成長率ほどには伸びていない可能性を無視していることでしょう)。ただ、2001年の不十分極まりない緩和は間違いなく指摘できるはずですし、GDPギャップがもっと小さく2002年中にはテイラールールに照らして緩和に転じたと考えると、逆にうまくタイムラグにはまると思います。
| 実質GDP(2001年基準) (a) | 実質GDP成長率(対前年同期) | 潜在実質GDP (b) | GDPギャップ ((a-b)/b) | |
| 2000-Q1 | 2,469,566 | 3.12 | - | - |
| 2000-Q2 | 2,484,164 | 5.29 | - | - |
| 2000-Q3 | 2,560,418 | 5.56 | - | - |
| 2000-Q4 | 2,566,911 | 4.29 | - | - |
| 2001-Q1 | 2,484,530 | 0.61 | 2,568,349 | ▲3.26 |
| 2001-Q2 | 2,406,697 | ▲3.12 | 2,583,531 | ▲6.84 |
| 2001-Q3 | 2,441,929 | ▲4.63 | 2,662,835 | ▲8.30 |
| 2001-Q4 | 2,529,027 | ▲1.48 | 2,669,587 | ▲5.27 |
| 2002-Q1 | 2,517,869 | 1.34 | 2,671,083 | ▲5.74 |
| 2002-Q2 | 2,508,976 | 4.25 | 2,686,872 | ▲6.62 |
| 2002-Q3 | 2,590,283 | 6.08 | 2,769,348 | ▲6.47 |
| 2002-Q4 | 2,663,843 | 5.33 | 2,776,371 | ▲4.05 |
| 2003-Q1 | 2,602,800 | 3.37 | 2,777,926 | ▲6.30 |
| 2003-Q2 | 2,511,725 | 0.11 | 2,794,347 | ▲10.11 |
| 2003-Q3 | 2,697,812 | 4.15 | 2,880,122 | ▲6.33 |
| 2003-Q4 | 2,821,523 | 5.92 | 2,887,426 | ▲2.28 |
| 2004-Q1 | 2,801,325 | 7.63 | 2,889,043 | ▲3.04 |
| 2004-Q2 | 2,738,728 | 9.04 | 2,906,121 | ▲5.76 |
| 2004-Q3 | 2,846,520 | 5.51 | 2,995,327 | ▲4.97 |
| 2004-Q4 | 2,892,618 | 2.52 | 3,002,923 | ▲3.67 |
■ [economy][glossary]テイラールール
既に素晴らしい説明があるので、それを引用します。
22: ドラエモン 2002/11/16(Sat) 15:19
- テイラールール
現在財務省次官で、本来はスタンフォード大学教授のジョン・テイラーが「発見」した連銀の政策ルール。連銀の政策手段はFF金利な訳だが、その変動は、失業率ギャップ(現実失業率と目標失業率の差)と、インフレ率ギャップ(現実インフレ率と目標インフレ率の差)の、加重平均(実際にはウェイトは0.5だから単なる平均)で驚くほど旨く説明できることが分かっている。
これが単なる見かけ上の経験則なのか、何らかの最適化行動の結果として導かれるルールなのかを巡って多くの文献が存在する。
以上は定性的な説明ですので、今回の推計に当たっては安達誠司「デフレは終わるのか」p81から次の式を採用しました。
- オペ金利=均衡実質金利+0.5×インフレギャップ+0.5×GDPギャップ
上記説明では「失業率ギャップ」、式では「GDPギャップ」で違うではないかとお考えの向きもあるでしょうけれど、両者にはオークンの法則(ないしオーカンの法則)によりそれぞれの変化率に線形の相関関係が観察されていますので、ほぼ近似可能です。なお、歴史的には当初GDPギャップを変数として見出され、しかしGDP統計は算出に時間を要するため、失業率で代替されるに至ったものです。
先日bewaadさんから回答を頂き、またヘタレ経済学徒さん、lukeさんからのコメントを頂いて、自分の頭の悪さを痛感しました。本当にごめんなさい。無用なお手を取らせてしまいました。「円安でたちまち物価が上昇する」ということは違うのではないか、という記事を書いてい..
ここまで来ると新興宗教だな
台湾の動きは頑健ですね。大変勉強になります。
金利感応度は、華僑ですし、1−2Q早い分には全く問題ないと思います。
>sweetfishさん
GDPギャップをオークン法則から求めようと思ったり、貨幣の流通速度を計算してマッカラムルールでもやってみようと思っていたのですが、きちんと最後まで完成させる自信がなくなりこのような形になったというのが実態だったりするのですが(笑)。
台湾の金融政策の話は大変参考になりました。金融緩和の遅れは陳水扁政権が国民党政権時代に膨らんだ不良債権処理を緊急の課題として掲げていたことと恐らく関係しているでしょう。
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Topics/pdf/51_05.pdf
この点からも、台湾のデフレは日本と非常に状況が似ていたと言えそうです。
>梶ピエールさん
台湾の政治状況等はまったく考慮に入れなかったわけですが(情報収集をサボったからですが(笑))、ご指摘を受けてなるほどと思いました。そうした思想が日本からの「輸出」でなければよいなぁと思いますが、多分相当程度の影響を与えたのでしょうねぇ・・・。