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2006-04-08

[economy]無税国家の不可能性

バーナンキの背理法は無税国家は不可能であることを前提としているわけですが、それに対して徳保さんから次のようなご意見が。

物価の上昇がなく、年率5%の経済規模拡大があるとする。このとき単純には、通貨の供給量も5%増やすことになるのだろう。このとき仮に国家予算が経済規模の5%なら、無税国家は実現できるんじゃないの? これが第一の疑問。山崎元さんのブログのコメント欄で飯田泰之さんが「貨幣発行益を国債の償還に使って増税を回避すべし」と主張されていますが、それが可能なら無税国家も不可能でないはず。全額を発券銀行引受の国債で賄うわけ。

「無税国家は本当にありえないのかな?」(@趣味のWebデザイン4/7付)

結論から言えば程度によっては可能です。例えば日銀納付金(業務概況書によればFY98:14,360億円、FY99:10,858億円、FY00:12,581億円、FY01:13,904億円、FY02:5,053億円、FY03:472億円、FY04:1,690億円)の範囲内ですべての歳出を賄えるなら、すなわちそれは無税国家です。つまりは程度問題ということになります。

ではどの程度までなら可能なのでしょうか。徳保さんは毎年のマネーサプライ増分を念頭に置かれていますが、単純形として全ての歳出を紙幣印刷で賄う無税国家を想定すれば、毎年の増分はマネーサプライではなくマネタリーベースのそれでなければなりません(つまり、信用乗数の逆数分だけ規模が小さくなります)。

ではインフレを招かないという条件の下でマネタリーベースは毎年どの程度増加させられるのでしょうか。幸いにしてマネタリーベースの増加についてはマッカラムルールという基準が存在します。

(略)マッカラム(Benett T. McCallum)は、名目GDP成長率の目標を設定し、それに応じてマネタリー・ベースの供給量を決めるルールを提唱しています。(略)

「マッカラム・ルール」は、現実の名目成長率が目標成長率を下回ったときにはマネタリーベースの増加率を上昇させ、目標成長率以上の成長を達成したときにはマネタリー・ベースの増加率を引き下げるという構造をもっています。具体的には、

マネタリー・ベース伸び率
=目標名目成長率+α(目標名目成長率−前期の名目成長率)+調整項

です。「マッカラム・ルール」は、名目成長率だけではなく、同時にマネタリー・ベースの流通速度に関する調整項を含めた政策ルールですが、ここでは割愛します。マッカラムは安定化効果が高いαの値として0.25を推奨しています。

岩田規久男、飯田泰之「ゼミナール経済政策入門」、p356(webmaster注:原文のピリオドとコンマを句読点に変えてあります)

中長期的平均を考えるとして、

  1. αは目標に対する上下のブレが相殺されるとの前提を置き、
  2. 信用乗数は一定で調整項はゼロとみなせば、

結局は「マネタリーベースの伸び率=目標名目成長率」という関係が残ります。徳保さんの前提である5%経済成長(名目値として以下処理します)を共有するなら、マネタリーベースの伸び率もまた5%ということになります。それっていくら?

マネタリーベースのストックが直近の計数で言えば110兆円程度ですから5.5兆円、他方で(CY2005の名目GDPが503兆円〜同Q4の同年率換算季節調整値が507兆円(2次速報)ということですから、だいたい対GDP1%強の範囲内に政府支出を抑制できるなら無税国家は可能ということになります(それを超えるとインフレが発散することになるでしょう)。

これだとデフレの影響で異常値になっているかもしれませんので、デフレがなかった場合の試算もしておきましょう。安達誠司「デフレは終わるのか」では、目標名目GDP成長率が4.5%だった場合のマッカラムルールに基づくマネタリーベースを試算しています(p84、93年以降)。その際の2004年に到達したストック量は(グラフなので目分量で)200兆円程度、その5%は10兆円。93年の名目GDP475兆円から毎年4.5%成長で2004年の名目GDPは約770兆円になりますので10兆円ですと対GDPで1.3%程度、やはり1%強というのが無税国家として許容される政府支出限界の相場のようです。

ところで飯田さんは「貨幣発行益を国債の償還に使うことと、日銀が国債の買い切り額を増やすのは同じこと」とも主張されている。これも何となく納得してたんだけど、じつはいろいろよくわからないところがあります。先の無税国家の仕組みでは、どんどん国債の残高が積み上がる。返す気もないのに借金ばかり増えるのは気持ち悪い。じゃあ国債を引き受けた発券銀行が「債権放棄」したらどうなるのか。これが第二の疑問点。

日銀が国債を買う場合、その時点で既に日銀券は発行されているわけだから、「債権放棄」しても経済に影響を与えないような気がする。その一方で財政不安は解消される。何も悪いことがない? でもリフレ派の本でも「買い切り」までは書くけど、「債権放棄」はいわない。何故なのかな。金融引締めの際に売り物がなきゃ困る? でも半分くらいは「債権放棄」していいような……。

「無税国家は本当にありえないのかな?」(@趣味のWebデザイン4/7付)

発行時点では同じですが、償還の有無が異なります。債権放棄した場合は政府は償還財源を手当てする必要がなくなりますが、そうでないかぎりは日銀に返済するため、究極的には徴税しなければなりません。日銀が無期限で借り換えに応じるなら実質的に債権放棄に等しくなり、先に述べた単純形である印刷紙幣の財源直接充当と実質的に変わるところがなくなります。

本日のツッコミ(全7件) [ツッコミを入れる]
徳保隆夫 (2006-04-08 19:37)

解説ありがとうございました。無税国家については、「信用乗数の逆数分だけ規模が小さくなります」の部分を失念しておりまして、「あれ? 意外と実現可能性があるのかな」と思って書いたものです。GDP の 1% では、どうにも難しそうですね。ブルネイのように政府が営利活動を行って資金調達するケースはまた別の話になりますし。債権放棄の件は、今春、借換債が過去最大規模となったり、シンジケートが解散したりして、借り換え問題が地味ながら繰り返し報道されており、また成長率・長期金利論争が日銀保有分の国債についても問題視していたので、気になったものです。現時点では借り換えは緊急避難措置と認識している国民が多いような気がしますし、どんどん金額が膨らんでいくのも素朴に気持ち悪いです。せめて日銀保有分は金利を免除したらいいのに、と思います。

ところで「ゼミナール経済政策入門」ですが、入門といってもなかなか大変だなあ、と思いながら読んでます。どうも素人の学問は少し進むと前のことを忘れていくという点に難があって、「試験前の復習」は一夜漬けでもそれなりに意味があったのだな、と思ったりしています。それにしても乗数効果を度忘れしていたのは我ながら情けないですね。

bewaad (2006-04-09 15:10)

>徳保隆夫さん
借換は一応60年償還ルールが前提にあって、適正な償還期限が60年なのかそれ以外なのかという問題を脇に置けば(その意味では借換をすること事態は緊急避難ではありません。事実上の期限延長がそうであるだけで)、存在自体を問題視すべきものではないと考えています。

ちなみに日銀保有国債については、利払いは日銀納付金として返ってきますので、免除することに実質的な意味はないと考えてよいでしょう。

「ゼミナール経済政策入門」、あれは経済学部生を念頭に置いた本だな、と思いました。もちろん独学のテキストにも使えますが、いわゆる啓蒙本として書いたものではないでしょう。

徳保隆夫 (2006-04-09 15:51)

「実質」金利という考え方が理解されず、ゼロ金利で金利生活が破壊された云々として(少なからぬ)国民が問題視し、量的緩和解除を「正常化」への第一歩として歓迎したりしているわけですよね。利払いはみな返ってくるので「実質」的な意味はないのはわかりますが、借換債の規模が見た目だけであれ膨らんでいくことは国民の不安と批判を呼び込むのではないかと。借換債そのものが「実質」的には問題視するべきでないとしても、その啓蒙は可能なのでしょうか。不安は冷静さを欠いた議論を呼び込みやすく、増税論議が進む状況にある今、それこそ緊急避難的に、国債残高の抑制策をとる必要もあるのではないかと思ったりするのです。

bewaad (2006-04-10 08:10)

>徳保隆夫さん
国債残高が今のペースで積み上がっていくことが問題であることは事実だと思います。処方箋がいかがなものかということなのですが、竹中大臣の成長率話があそこまで劣勢なのは小泉総理のサポートがそれほどではないからで、増税は基本的には受けが悪いでしょうから可能性がないとは限らないと思うのですが・・・(分が悪いのは否めません)。

E田 (2006-04-10 14:15)

bewaadさんによる量的な指摘と同時に,「インフレも税金のひとつ」ということも忘れては行けません.その意味で僕の

>貨幣発行益を国債の償還に使って増税を回避すべし

は極めて誤解を招きやすい表現です.反省.つまりは,貨幣発行益を使って国債を償還すると所得税・消費税増税ではなく資産(へのインフレ)課税で財政再建ということになるというお話になります.で,インフレ課税は消極的な不労所得への課税なのでぼくの価値基準からは消費税・所得税増税より許容出来るというわけです.

銅鑼衣紋 (2006-04-10 19:36)

>E田さん

>く資産(へのインフレ)課税

でしょうか?現金への課税でしょう?もしかしてインタゲで株価
暴落とかの一派ですか?

bewaad (2006-04-11 05:20)

>飯田先生、銅鑼さま
インフレ課税は不稼動資産(自らの労働力を含む)に厳しい、ということでいいんですよね・・・?


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