toppage memoranda
(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)
2006-05-08
■ [economy][sports]プロ野球の経済学II:日米契約金事情
#"I"はありませんでしたが、昨年7月の「フリーエージェントの市場構造」を念頭においています。
ちなみに、日本では社会人、大学生、高校生の順で契約金が高いが、アメリカは逆で、高校生、大学生の順で高いという。アメリカのアマチュア野球には日本のように社会人という受け皿がないので、大学生のときに契約しないとプロの道は難しくなる。しかし、高校生なら契約金などの条件で折り合わなくても大学に進学するという逃げ道があるので、強気に自分の条件を押しとおしていける。つまり、高校生のほうが契約金を吊りあげられるということらしいのだ。なるほどな、と思った。
小関順二「野球力」 p89
この記述にはいぶかしい点があります。というのも、アメリカにおいてプロになる最後のチャンスが大学生であるがゆえに契約金が下がるなら、日本において同じポジションとなる社会人の契約金も下がって当然ということになるからです。にもかかわらず日本では社会人がもっとも契約金が高いのは、別の要素があり、逃げ道の有無だけでは決まらないということになります。
逃げ道の有無というのを経済学的に考えるなら、オプションの有無ということになります。アメリカにおいて高校生の契約金が高くなるというのは、高校生が持っている「大学生になることができる」オプションまであわせて買い取らなければならないため。では日本の社会人には同様のオプションがあるのでしょうか。
もちろん答えはイエスで、それは何かといえば社会人をとしての人生を続けるということです。社会人チームを抱える企業というのはおおむね大企業で、さらに昨今の状況を言えばデフレの中でも直接の収益に貢献しない部門を維持できるだけの余裕があるわけですから、その社員であり続けることには大いに価値があるわけです。特に野球選手としての盛りを過ぎた後、プロ野球選手では一部の解説者や指導者として生計を立てられる者を除き不安がつきまといますが、企業社員であれば厚生年金までを含めそうした不安は相当程度軽減されます。
逆を考えてみましょう。オプションの有無で契約金に差が出るなら、なぜ日本の高校生の契約金は低いのでしょうか。アメリカの高校生とは違い日本の高校生には大学進学のオプションがないというのならともかく、もちろんそのようなことはなく、高校時代にドラフトにかからなかった選手が大学に進学して野球を続け、その後プロ入りするという話は珍しくありません。
そこで考えられる仮説は2つあります。1つはいわゆる逆指名(現行制度では希望入団枠)対象適格の有無で、日本のドラフトにおいては1993年来高校生には逆指名が認められていません。逆指名ができないということは、すなわちオプションの対象はプロ野球選手になるか大学生ないし社会人になるかというものに限られてしまいます。他方で逆指名ができる大学生や社会人は、逆指名獲得競争に当たってどのチームのプロ野球選手になるかという多くの対象を持つオプションを有しているので、その分だけオプションヴァリューが上がると考えることが可能です。
しかしこの仮説には1つ難があり、それは特定の球団でなければプロには進まず大学生ないし社会人になるというコミットメントを行わせることにより、事実上の逆指名が可能であることです。そうはいっても強行指名が行われることはままあり、それが効を奏すことも少なからずあるのも事実。その分だけオプションとしての価値は逆指名に劣ることになるので、それで高校生の契約金の安さは説明可能かもしれませんが、弱点であることには変わりありません。
そこで出てくるのがもう1つの仮説、裏金です。既述の事実上の逆指名はあくまで公式なものではないので、逆指名を取り付けた段階で契約金等をおおっぴらにはできません。建前としてはあくまで選手本人がそう志望しているに過ぎず、球団側として公式にコミットメントできないため、その代わりに裏金を使うインセンティヴは大きくなります。大学生や社会人でも裏金の噂があるわけですが、それ以上に高校生に常に裏金の話が公然の秘密として語られるのは、決して故なきことではありません。
あくまでそのようなものがあるとされているだけですので、それが事実であればという条件付ではありますが、実は日本でも高校生が裏金を足した実質的な契約金では大学生や社会人を上回っている可能性があります。この場合、日本の高校生の契約金が安いのは、実は見かけ上そのように表れているだけ、ということに過ぎないのです。
オプション違いですが、ファイナンスのオプションで考えてみました。
時間的価値は高>大>社、本源的価値は(平均値は)社>大>高とします。
アットザマネー(ATM)を1軍レベルとすれば、社会人のようにATM(1軍)にあと少し(デルタが1に近い)なのか、または高校生のように大半はATM(1軍)に遠く及ばない(デルタが0に近い)のかで、取引価格の違いが生じ、結果的に高校生には低い金額が提示されていると考えます。
強行指名の扱いは悩ましいですが、単純に買い手(球団側)がどうしても欲しいということで、通常の板にプレミアを上乗せ提示して、売り手(選手側)が選択するものと考えます(これをノックアウト式のオプションとするのは自分には難しかった)。
また、社会人の将来所得ですが、いずれにしてもリーマンの選択肢を捨てる点は同じなので、これは差がないと扱います。
結果ですが、高>社が確実なのは、実力がATMつまり1軍レベル=即戦力の高校生です。その他は時間的価値の評価次第ですが、これは高、大、社の1軍出場率と1軍平均給与次第かなと。
と色々書きましたが、相対取引とはいえ周辺各所へのお支払いがオープンにならないと、適正価格は無理ですねえ。
>sweetfishさん
私の手抜きを補っていただいて恐縮です。
一点申し上げるなら、社会人の将来所得について、高校生は大学進学がメインの進路という前提を置くと、大学時代に怪我をしてスポーツ入社ができないリスクの分だけ割り引かないといけないのでは、と思います。ま、一般入社ではスポーツ入社で入れるレヴェルの会社には入れない、ということを仮定していますが。
2005年ドラフトのデータを見てみました。大学生と社会人は別れていませんが、なんとなくイメージだけなら。契約金、年俸ともに平均が等しいという仮説は棄却されました。
社会人・大学生
平均契約金:6162万円
最高契約金:一億円
平均年俸 :1087万円
最高年俸 :1500万円
高校生
平均契約金:5283万円
最高契約金:一億円
平均年俸 :623万円
最高年棒 :1000万円
高校生年俸の低さが目を引きます。もちろんデルタが低いから、ってのは最大の理由でしょうが、契約金の差と比べても、年俸の低さは際だちます。高校生で最高の年俸は1000万円で、社会人・大学生の平均にも及びません。最高級の高校生は最高級の社会人並に優秀だとすると(あまり自信ありませんが・・・)、何か他の理由があるのでしょうねえ。bewaadさんのおっしゃるように、契約時の裏金で低い契約金を補償しているとか。
個人的には、談合だったら面白いな、と思います。優秀な選手の年俸は上がることはあっても下がることはないでしょうから、高校生の時点で高くしてしまうと、生涯賃金が大きく上昇してしまう。それは球界全体に不利益なため、高校生の年棒は低く抑えるとの暗黙の了解事項があるとか。
高校生だけ談合が成立する理由が弱いですが、「高校卒業してすぐににあまり高い金額を払うのは教育上よろしくない。」とかいって正当化されていたりしないかなあw
>ディンブラさん
最高が平均を下回るあたりはちょっと弱いのですが、そもそもデルタが低い社会人・大学生はドラフト対象外だ、というのはあると思います。高校生はまだ体が出来上がっていないがゆえに「大化け」の可能性に賭けることもあるでしょうが、社会人・大学生ならデルタが高くないとそもそも問題外だと。
つまりは高校生の方がヴォラティリティが大きいということですが、それは契約金を上げ年俸を下げる効果があるのかもしれません。契約金は払ったきりですが、年俸は翌年のそれのベースになりますから。