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2006-06-04

[dystomics]経済学がこの世から消えたら… 第一.五部:その6‐2月13日 22時10分

パタン、と隣でドアが閉まるのを確認してから、ボクは部屋を出た。

「お兄ちゃん、ちょっといいかな」

「・・・どうぞ」

部屋に入ると、椅子をくるっと回してお兄ちゃんがこちらを向いた。机の上にあるのは・・・携帯? 珍しい。

「どうかした?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」

「いいけど、その代わりに・・・、ひ、・・・」

「代わりに?」

「・・・いや、何でもない。聞きたいことって、何?」

何となく察しがついたけど、たまにはからかってみたい気がむくむくとわいてきたけど、気分を悪くさせたら元も子もないやって思い直して、とりあえず今日のホームルームでの出来事をかいつまんで説明した。

「・・・っていうことなんだけどさ、どう思う、お兄ちゃん?」

「今日の衆議院での演説だね。うちのクラスでたまたま今日公民の授業があって、そこでもやってたよ。まあ寝言は寝てから言ってくれってことだな」

いったんここで言葉を止めて、ボクの方を見てくる。意見を言えって? わかんないから聞いてんだっつーの。

「ん・・・どういうこと?」

「・・・この前も言ったように、今はいろんなモノの値段が下がっていて、みんな稼げなくなってきてる。こんなときに利子が多くなったらどうなると思う?」

しょうがないなぁ、なんて書き文字が背景にありそうな感じでしゃべり出した。

「・・・稼げなくなるかわりに、銀行からいっぱい利子をもらえるようになるからいいんじゃない? いろんなモノが安くなって、お給料は減っちゃうかもしれないけど、その分利子で稼げるなら問題なしってことで」

「銀行にお金を預けている人ならそうさ。でも、世の中には借りている人だっていっぱいいる。そういう人は、ただでさえ稼ぎが減っているのに、その減った稼ぎから払わないといけない利子は逆に増えるんだから大変さ」

「でも、いっぱいいるっていっても、どっちかっていえば借りている人の方が少ないんでしょ? だって、うちのクラスの中でだって借金している家なんて聞いたことがないし」

「うちみたいに家を借りているならともかく、自分の家を持っている人のほとんどは買う金を借りているはず。聞いたことがないとすれば、それはわざわざ子供に借金してるなんて言わないだけさ。しかも、家には借金がなかったとしても、働いている会社はほとんどが借金してる。他人事じゃない。ハゲタカを懲らしめるなんていったって、懲らしめられるのはハゲタカだけじゃないってこと」

「じゃ、やっぱり洋祐の言ったことは・・・」

「そう、涼が思ったように、利子にだって当てはまるのさ。そこに気付いたのはいいんだけどさ、もうちょっと自分で考えられなかった?」

あーっ、やっぱりなんか今日はやけにバカにされてる気がする。

「悪かったね。考えられなくって」

「まだ終わりってわけじゃないぞ」

にやっとお兄ちゃんが口元を緩める。

「手元にお金があります。銀行の利子は上がってます。モノの値段はこの先も下がります。さて、手元のお金を涼ならどうする?」

「銀行に預ける」

「そうだよな、誰だってそうする。でも、みんながそうすれば、ますます会社は儲からなくなる」

「じゃあ・・・」

「ますます貧乏になってくね、日本は」

そう言うと、お兄ちゃんはボクのことをじっと見つめた。

「だからなんとかしなきゃいけないと思う。もちろん中学生が一人じゃどうしようもないけど、最近は自分に何が出来るのかってよく考えてるんだ」

「・・・なんかよくわかんないけど、すごいね」

「そのさぁ、『よくわかんない』っていうクセ、やめろよ。確かにわかってないんだろうけどさ」

またかよ。

「どうせボクはお兄ちゃんと違って頭悪いですよーだ」

「ゴメン。そういう意味じゃないんだ。先公の話を聞いておかしいなってひっかかるってのは、頭がいいってことだよ」

「ホント?」

「たださぁ、そこから先をもうちょっと考えなってこと。そんなんじゃ成績だって上がらないぜ」

ムカつく。持ち上げといて、結局最後はそれかよ。じゃあこっちにも考えがあるってもんだ。

「ところでさぁ、さっき何言おうとしたの? ボクが来たとき」

できるだけ何も知らないフリをして、できるだけそっけなく言ってみる。

「な、なんだよ。何でもないって言っただろ」

やっぱりそうきましたか。

「あれ、着信じゃない?」

あわてて机に向き直る。やっぱりマナーモードにしてたのね。

「・・・お前、嘘ついたな!」

「嘘だなんて人聞きの悪い、見間違えたんだよ。で、メール待ってるの?」

「べ、別に・・・」

「そういえば明日はヴァレンタインディだけど、その関係?」

「だから、メールなんて待ってないって言ってるだろ」

「ヴァレンタインディと言えばさぁ、この前、うちのクラスの委員長やってる平井がね・・・って、お兄ちゃん知ってるよね、平井?」

あーあ、ついに横向いちゃった。

「・・・知ってるけど」

だよねぇ、男女の違いがあるとはいえ同じサッカー部なんだから。

「その平井がね、すっごくキレイなひとと一緒に買い物してるのにばったり会ったんだ」

「・・・それで?」

「話しかけてみたらさぁ、そのひとは平井のお姉さんだったんだけど、チョコレートを一緒に買いに来たんだってさ。誰にあげるんですかって聞いてみたら、何て答えだったと思う? 委員長は、お父さんに、なんてつまらない答えだったんだけど」

こっちを見ずに関心なさそうにしてるけど、明らかに緊張してます。携帯なんていじっちゃって、メール待ってるわけではないんじゃなかったっけ? どうしてそんなに落ち着かないのかな、お兄ちゃん。不自然ですねぇ。

「・・・知らねぇよ。こっちも忙しいんだからさ、早く言えよ」

「ゴメン。そうだよね、関心ないよね。もう戻るよ」

「待てよ、途中まで聞いたら気になるだろ。早く言えってば」

せっかくだから、もうちょっと引っ張ろっかな・・・ダメだ、目が真剣だ。

「・・・えーっとね、その答えはなんと・・・お兄ちゃんなんだって!」

必死に引き締めようとしてんだろうけど、タレ目になってるよ。

「な、何のことだかよくわからないけど、本当?」

「もっちろん・・・嘘だよー!」

「ふ、ふざけやがってっ!」

ヤバ! 飛んできた右フックをよけて、とにかく自分の部屋に走って戻る。

「じゃぁねーっ」

ドアを閉めて耳を澄ますと、廊下までは追いかけてきたみたいだけど、それ以上は何もしないで戻ったようだ。まあ恥ずかしいってことはわかってるんでしょう。

さて、嘘は2つ。ばったり会ったなんてことはないし、ボクから聞いたなんてこともない。聞きたいことがあるって真美さん‐委員長のお姉さん‐から委員長を通じて話があったから会ったんだし、真美さんの方から、お兄ちゃんって付き合っている人っているのとか、お兄ちゃんってどんなプレゼントが気に入ってくれるかなぁって質問してきたわけだ(ついでに昨年の卒業式の後、お兄ちゃんがどんな風に告ったのかとか、いろいろ教えてもらったけど)。そのときの彼とは別れたから今はフリーなんだってさ・・・あの感じだと、同じ高校に進んだ先輩からその噂ぐらいは聞いてるんだろうなぁ、お兄ちゃん。

ま、明日は真美さんから告ってくれるんだから、それまでうじうじ悩むぐらいどうってことないよね、お兄ちゃん!


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