archives of BI@K

CSS: default alternative
(要cookie)

toppage memoranda

(ここはbewaad institute@kasumigasekiの過去ログ倉庫です。コメント等は仕様上受付けを停止しておりませんが、こちらではご遠慮いただければ幸いです。何かございましたら、現行サイトにお願いいたします。)

2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|

2006-07-04

[law]夕張市の一時借入金と地方自治法

joho_triangleさんの整理への補足です。

時事ネタに反応することにもままならぬ日々ですが,一応,確認的メモとして。

北海道夕張市の後藤健二市長は20日開会した市議会で、財政再建団体の指定を国に申請する方針を表明した。

(中略)

市によると、負債の多くは、会計上の回転資金である「一時借入金」が占める。市は15年ほど前から、単年度決算を「黒字」とするため、前年度決算を整理する「出納整理期間」(4月1日〜5月31日)に一時借入を毎年行い、決算上の収支不足を補っていた。

しかし、長期の地方債より金利が高く、長年にわたって借り換えを繰り返すうちに、借金が膨らんだ。財政再建団体の指定を受けるため策定する財政再建計画では、歳入、歳出が厳しく見直され、公共料金などの引き上げで住民負担は増加する。

(2006年6月20日18時49分 読売新聞*1

先般からの夕張市の問題につき,「では,いままで決算上の収支の帳尻合わせ(?)をどのようにしていたのか」と気にはなっていたのですが,「出納整理期間」において,「一時借入金」を借り入れることなどで対応(?)していたようですね。

ということで,以下,地方自治法の解釈等に関するメモ。ただし,詳細な事実関係は把握していないこともあって,単なる想像にすぎませんので,その旨はご留意を。

【地方自治法】

(一時借入金)

第二百三十五条の三 普通地方公共団体の長は、歳出予算内の支出をするため、一時借入金を借り入れることができる。

2 前項の規定による一時借入金の借入れの最高額は、予算でこれを定めなければならない。

3 第一項の規定による一時借入金は、その会計年度の歳入をもつて償還しなければならない。

(略)

とすると,夕張市では,「一時借入金」を,「長年にわたって借換えを繰り返すうちに、借金が膨らんだ」とあるので,地方自治法235条の3第3項違反の行為を繰り返していたのか?

この疑問に関しては,そうではないと回答できなくもない。その根拠は何かといえば,次の規定。

【地方自治法】

(出納の閉鎖)

第二百三十五条の五 普通地方公共団体の出納は、翌年度の五月三十一日をもつて閉鎖する。

この規定により,地方自治法235条の3第3項で定めていたはずの「一時借入金」を「新たな一時借入金」に借り換えることへの規制が,何ら役に立たないものになるよう解釈することも可能となる。次のように対応することで。

  • (1)平成10年10月に「一時借入金」を借り入れる
    • (235条の5の規定により)平成11年5月末日までに要償還
  • (2)平成11年4月に,(1)の「(平成10年度)一時借入金」償還のため,新たな「(平成11年度)一時借入金」を借り入れる
    • 平成12年5月末日までに要償還
  • (3)平成12年4月に,(1)の「(平成11年度)一時借入金」償還のため,新たな「(平成12年度)一時借入金」を借り入れる
    • 平成13年5月末日までに要償還
  • 以下,15年間繰り返し

しかし,当然のことながら,「一時借入金」とは,「その会計年度の歳入をもつて償還しなければならない借入金」である。これを,「会計年度」と「出納の閉鎖」のズレを利用することによって,「『一時ではない』借入金」とするような対応は,地方自治法235条の3第3項の趣旨からすると,単なる脱法的解釈であり,同項違反といえるのではないか。

「夕張市の一時借入金」(@【情トラ】附゛録゛6/30付)(webmaster注:括弧付き数字は原文では丸数字です)

joho_triangleさんは違反ではないかとの指摘に止めていますが、実際に「黒字化」のスキームがここで推測されているようなものであるかどうかにかかわらず、地方自治法第235条の3の規定に基づき行う一時借入金に依存するものであったならば、それは明白な違法であったということになります。それは何故かといえば、一時借入金をしたことによる入金は、歳入ではないからです。joho_triangleさんの例でいうなら、(3)のところで借り入れた「(平成12年度)一時借入金」で償還したところが第235条の3第3項違反になります。

ちなみに出納整理期間とは、企業会計でいう発生主義的な処理を可能とするための制度です。基本的に歳入歳出はキャッシュフローで管理しますので、X年度の歳入とはX年4月1日からX+1年3月31日までのキャッシュインフロー、同年度の歳出とは同期間のキャッシュアウトフローとなります。ただ例外なくそう処理してはまずい事柄があり、例えば3月末に公有財産を売却して支払いが4月なんて場合には、キャッシュインフローが4月だからといって翌年度の歳入にするのは具合が悪いわけです。

このような歳入歳出について、形式的な年度区分にとらわれず発生原因に即して帰属年度を変更できる期間が出納整理期間です。逆に言えば、原因行為が4月以降に属しているなら、出納整理期間中のキャッシュフローであっても、当然ながらその年度の歳入歳出として経理されるべきものとなります。

ですから、仮に(3)の時期に一時借入金がなされたとして、それが平成12年度の一時借入金であるためには、その償還原資が平成12年度の歳入でなければなりませんし、この場合は平成11年度の一時借入金の借り換えには使えません。償還原資が出納整理期間中に納付される平成11年度の歳入であれば平成11年度の一時借入金になりますが、当該期間に納付される平成12年度の歳入をその償還にまわすことはできません。

#法律上の一時借入金とは、時期の長短にかかわらず、年度内の歳入で償還されるものをいいます(上記の地方自治法の規定を参照)。時期がいくら短くても、上記(3)のように処理するためには、調達した資金が歳入に計上可能な借入金(地方債)で借り換えねばなりません。

蛇足ながら、出納整理期間や一時借入金を問題ある制度だというような指摘も散見されますが、そうとは言い切れません。出納整理期間については既述の通りですし、一時借入金についても、歳計外であるとはいえ、地方自治法第235条の3第2項で定められているように、予算統制を受ける仕組みになっています。歳計外≠予算外、ということなのです。

本日のツッコミ(全7件) [ツッコミを入れる]
トニオ (2006-07-04 17:55)

全然、関係なくて恐縮なんですが滋賀県の知事選の話はどうお考えでしょうか?
もはやハコモノ行政でも票が取れなくなったという結構象徴的な事例のように思うんですが。結局、土建周りに金をばらまいても景気は良くならない仕組みになってしまったことを住民が気付いたと言うか。このへんは何か経済学的な観点から切れないかな、と思うのですが。
余談ですが、麻生太郎がこの件で思いっきり「抵抗勢力」みたいなことを言っていたのにはちょっと笑いました。

ko-ji (2006-07-04 21:09)

 引用ばかりで申しわけありませんが、北海道新聞の記事によると、単純に一時借入金で借り替えていたのではなく、事業・公営企業会計を利用して、会計処理をしていたようです。
 (http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060630&j=0023&k=200606301254
 とはいえ、不適切な会計処理ではあるのでしょうし、また、道庁や総務省が気がつかなかったとも思えないのですが。

 総務省のウェブにある「決算カード」でも夕張市の場合、諸収入が予算の半分を超えていて、見る人が見れば怪しいもののようです。
 (http://d.hatena.ne.jp/nationfree/20060619#c1151331611 のコメントによると)

ko-ji (2006-07-04 21:47)

 すいません。他の記事をみると道庁は04年には認識していたとのことです。
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060629&j=0023&k=200606291077

joho_triangle (2006-07-04 23:05)

補足いただき,ありがとうございました。
詳細な事実関係は把握していないことから,すべてを指摘に止めたエントリとしたのですが,遠からず,さまざまなことが明らかになることを期待しているトコロです。
他にも,類似の処理をしている自治体が存在しないかどうかも,気にしながら,ですけど。

bewaad (2006-07-05 23:19)

>トニオさん
ハコモノの種類によりけりなんではないでしょうか。今回の新幹線駅はいかにも作ることにしか意味はなさそうで、駅ができたからといって波及もあまり期待できないでしょうけれど、その程度は事業がいかなるものかによって変わってくるでしょう。

もちろん公共事業による建設業等の雇用確保という話はあるわけですが、それならケインズが極端な例として出した「穴を掘ってまた埋める」でもいいわけで、しかしながらそうした事業が実際には行われないのは、雇用確保はあくまで副次的な効果であり、まずは事業で何を作り、その成果物がどのように便益をもたらすかというのが評価の対象なのでは、と思います。

bewaad (2006-07-05 23:21)

>ko-jiさん
企業の粉飾になぞらえるなら、帳簿の数字を書き換えるといったものではなく、子会社等をつかってとばしたというようなものなのでしょう。

bewaad (2006-07-05 23:22)

>joho_triangleさん
こちらこそ、考えるきっかけを与えてもらってありがとうございます。こちらも同様の認識から、法解釈論にある意味矮小化したエントリにしました。


トップ «前の日記(2006-07-03) 最新 次の日記(2006-07-05)» 編集