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2006-12-17

[law]逆に考えたオルタナティヴ‐著作権保護期間延長問題(後編)

これまでの論旨を簡単に振り返れば次のとおりです。

  1. 著作権保護期間延長を巡る賛否は、延長による著作のインセンティヴ強化を重く見るか、他者の著作の阻害を重く見るかの違いに由来する。
  2. 両者は一見両立できそうであるにもかかわらず、対立が解消される気配がないのは、
    1. 賛成派がこだわっているのが、他の財や他国の法制との違いからくる、自らの労働が正当に評価されていないとの被差別感ゆえだからであり、
    2. 反対派がこだわっているのが、知的財産のアーキテクチャからすれば著作権は例外的な存在との理解があるゆえだからである。
  3. この対立は「逆に考える」ことで止揚可能なのではないか。

というわけで、さっそく逆に考えてみます。まずは元ネタの再掲から。

なにジョジョ? ダニーがおもちゃの鉄砲をくわえてはなさない?

ジョジョ、それは無理矢理引き離そうとするからだよ

逆に考えるんだ、「あげちゃってもいいさ」と考えるんだ

荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険 4」、p21

これを次のように書き換えてみます。

なに反対派? 賛成派が著作権を抱え込んではなさない?

反対派、それは無理矢理引き離そうとするからだよ

逆に考えるんだ、「そもそも彼/女らのものなんだ」と考えるんだ

つまりは賛成派の主張の根っこにある考え方を全面的に取り入れ、死後70年なんてちんけなことを言わず、永久著作権を認めてしまうわけです。あなたが頑張って作り出した成果に対する支配権は、未来永劫あなた、そしてその相続人のものです、と。

そんなことをしたら大変なことになってしまう、という反論はもちろんあるでしょう。二次利用を阻害してもいいのか、と。しかしながら、この逆の考えは、所有権などの他の財産権と同様に、著作権は勝手に消え去ったりはしません、といっているだけに過ぎません。一般に財産権が受ける制約には、当然ながら同等に服してもらうことまでは否定するものではありません。

一般の財産権が受ける制約とは多々ありますが、この文脈で重要なのは次のものでしょう。

第29条 財産権は、これを侵してはならない。

2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

何が出典かは明らかでしょう‐日本国憲法です。二次利用の興隆は公共の福祉に適合するわけですから、第29条第3項にのっとって、正当な補償をして国が買い取って、パブリックドメインにしてしまえばよいのです(この場合の正当な補償とは、著作権が永久に継続する前提で算出します)。

具体的には、例えば次のような手続はどうでしょうか。

  1. 著作者の生存期間中は、著作権は存続することとする。
  2. 著作者が死亡した段階で、国は万人一律の著作権買取額(例えば1万円とか、10万円とか、その程度でしょう)により著作権の買取りを請求することとする。著作者が生前に著作権を譲渡していた場合においても、同様とする。
  3. 相続人(あるいは著作権の譲受人)は、万人一律の著作権買取額に異議がある場合には、代表者一人を定めて、一定の期間内にその再鑑定を申し出ることができることとする。当該期間内に再鑑定の申し出がなかった場合においては、異議がないものとみなして、この著作権買取額で国が死亡者のすべての著作権を買い取った上で、パブリックドメインとすることとする。
  4. 再鑑定に当たっては、専門家からなる第三者機関が、個別に適当と考えられる買取額を査定することとする。
  5. 相続人等は、第三者機関の査定額に不服がある場合においては、国による著作権の買取りを拒否することができることとする。買取りの拒否がなかった場合においては、当該査定額で国が死亡者のすべての著作権を買い取った上で、パブリックドメインとすることとする。
  6. 著作権の譲渡をしなかった場合において、3で定めた代表者が死亡した、あるいは国に対して著作権の買取りを求めた際には、2以下の手続を再度行うこととする。

相続の際の手続は以上のようなものとして、関連して次のような整備も併せて行うべきでしょう。

  • 国による著作権の買取りに必要な額は、特定財源として、著作物関連課税(著作権保有に係る資産税とするか、取引に係る付加価値税とするかは議論があると思います)を創設して充てることとする。
  • 著作者死亡後において、パブリックドメイン化していない著作権の利用に当たっては、3で定めた代表者の同意により、すべての著作権相続者の同意があったものとみなすこととする。
  • 3で定めた代表者は、著作者や著作の名称とともに、登記により公衆の縦覧に供することとする。
  • 一律、ないし個別の著作権買取額は、譲渡の有無にかかわらず、相続税算定に当たっての財産評価額とする。

趣旨を説明しますと、まず、著作者本人が生存中に著作権が続くことには誰も異論がないでしょう。万人一律の著作権買取額を設定するのは、多くの場合、いちいち鑑定していたら、そのコストが買取額以上にかかってしまうと考えられるからです。ほとんどの人は一律の著作権買取額以下の価値しかない著作権しか有していないでしょうけれど、鑑定コストを考えれば、一律処理してしまった方が安上がりになるはずです。買取りですが、一律にであれ個別にであれ、提示された買取額での買取りに相続人等が応じた場合、自らがそれでいいと考えたわけで、自動的に補償の正当性は確保されます‐補償額が正当でないと考えるなら、買取りに応じなければいいのですから。

#逆に言えば、その程度の水準に設定する、ということです。

このスキームの長所は、webmasterがそうであろうと推測する賛成派・反対派双方のこだわりどころを押さえているところでしょう。賛成派にとっては、死後70年どころか、遺族が望めば永久に著作権を保持できるわけですから、これ以上優遇しろといわれても困ってしまいます(笑)。もし何世代か後で著作権を国に買い取ってもらうことがあるにせよ、その際には同意に基づき、さらには正当な補償を受けられるわけで、強制的に召し上げられてしまうとか、勝手に消え去ってしまうというものではありませんし。

反対派にとっては、二次利用の大幅な拡大が達成されるわけですから、一部の著作権が永久に残ったとしても問題は小さいはずです。パブリックドメイン化したものの二次利用の拡大は言うまでもありませんが、世代を超えて手元にとどめおかれる著作権についても、自動的に残るのではなく相続人等の能動的行動を必要とすることにひっかけて、「交渉窓口」の一本化をしてしまうことにより、次のような問題は解消されます。

著作権保護期間中に著作物の2次利用を行いたい場合は、権利者の許諾を取る必要がある。だが著作者の死後何十年も経つと、権利を相続した遺族を見つけ出すことすら難しい。これが著作物の2次利用を制限し、文化の発展を阻害するという意見もある。

「著作者の死後、著作物は相続人の共有財産になってしまう。50〜70年も経つと相続人は十数人になっている可能性もあり、うち1人でも反対したら作品を使えなくなる。私が関わってきた営利利用でも、許諾取得は大きな問題。教育や『青空文庫』など非営利目的では2次利用はより難しくなり、作品の死蔵につながる」(福井さん)

平田さんは劇作家の立場から、脚本のパブリックドメイン化の重要性を語る。「遺族が脚本の上演を拒否するケースは、出版物の2次利用拒否よりも多い。若くして亡くなった作家の作品が後になって日の目を見た時、作家の見ず知らずの親戚1人の反対で上演できなくなる可能性もある」(平田さん)

ITmedia News「著作権保護期間は延長すべきか 賛否めぐり議論白熱」(2/3)

問題があるとすれば、思いのほか買い取られてパブリックドメイン化される著作権が少なくなってしまう可能性でしょうけれど、おそらくそれは低いものだとwebmasterは考えます。というのも、買取りに応じるかどうかの相続人等の判断は、ひとつ上の世代において買取りに応じたなかったことへの評価‐ひらたくいえば、親が応じなくてよかったと思うか、あのとき応じておいてくれればと思うか‐に大いに依存すると考えられるからです。

第三者委員会の判断が将来の価値評価として平均的にほぼ的中させている場合において、適正価格をはじき出したときには妥当かどうかの判断が1/2で分布すると仮定すると、第X世代が第X−1世代の判断を是とするか否とするかの確率は1/2ということになります。ここで、いったん買取りに応じてしまえば後から覆すことができないという仕掛けの存在を考えれば、買取りに応じず存置される著作権の数は、世代を経るごとに半分ずつ減少していくとの予測が成り立ちます。

加えて、ヒトは一般的傾向として流動性選好を持ち合わせているので、価値評価として妥当であると判断した場合、その資産をそのままの形で保有するよりも、換金して保有する方を好みがちです。これらを併せ考えるなら、心配するほどあれもこれも長きに渡って存続してしまう、ということはないでしょう‐第三者委員会が傾向として低めの買取価格を提示してしまうならば話は別ですが(笑)。

本日のツッコミ(全13件) [ツッコミを入れる]
徳保隆夫 (2006-12-17 13:42)

思考実験に野暮な感想をつけることをお詫びしますが、死後にも著作物が価値を持つ人は例外的存在なので、全国民を巻き込む新体制の構築はちょっと大袈裟かな、と思いました。でも一般市民がお金がもらえる、という話なので、案外ふつうに歓迎されるかもしれませんね。買取という仕組みだから条約にも反しませんし。

徳保隆夫 (2006-12-17 14:21)

とはいえ、査定機関に対する権利者・コンテンツ業界からの圧力や買収工作、さらには詐欺的手法による税金掠め取りが問題となり、文化庁からの天下りが批判され……みたいな展開が容易に想像され、現実的でないような気はします。

各所で提案されている「(死後・公開後に一定年数が経つと)著作権保持に税金がかかる」といった仕組みの方が、うまくいきそう。固定資産税のような感覚ですかね。作品毎なのか人単位なのか、みたいな問題がここでも出てくるのですが、法人は作品単位、個人は選択可能、といったあたりが落としどころかも。年額で1作品1万円、1人10万円、など。お金を払い続ける限りは永久に著作権を保持できる、と。

上記価格の場合、死蔵コンテンツはほぼ一掃されると思います。書籍・写真・音楽・ラジオ・テレビは一部例外を除き権利が放棄されるでしょう。こういう足切り制の仕組みでは人気コンテンツのパブリックドメイン化が進みませんが、利権の温床になる(または国民がそう疑う)可能性がない利点は小さくないのでは。

koge (2006-12-17 14:38)

正直ちょっとずれてるような気もしないでもないですね。まずこれを行う場合特許や商標のような著作物の国への登録が必要になり、それにかかるコストは国・著作者双方にとって著作権買取に直接かかる費用をはるかに上回る膨大なものになってしまうのではないでしょうか。一般的な出版物なら国会図書館への納入と同時に出版社が行うとしてもいいですが、ブログに日記を書いたり掲示板で(非匿名で)発言するたびに申請が必要というのはさすがに無茶でしょう。登録しなければパブリックドメインで著作者は生存中あとからでも登録し(それ以前の利用からも)報酬を請求したり著作者人格権に基づいた要求を出せるというのも(サブマリン著作権?)問題は多いですし。
それから、原著作者を法人にしてしまうと本当に永久に著作権を持てることになりかねませんし、一定期間で区切るとすればまた今の繰り返しです。強制的に個人名で登録しろというのはTVや映画・ゲームなど非現実的な著作物も多いですし。
それに、著作権関係ではこの形以外でも色々な所でもめていますが、その中心にあるのは「著作者よりも著作隣接者が中間搾取して利益を持っていっている」という感情ではないかと思います。で、遺族とかJASRACとかは本来著作者なのに著作隣接者的な動きをして利益を囲い込もうとしているので利用者の反感を買っているのだと思います。しかし、著作者のインセンティブを強める代わりに著作隣接者のインセンティブを弱めるのもそれはそれで問題になるかと(参考:http://d.hatena.ne.jp/essa/20061008/p1)

竹馬 (2006-12-17 16:35)

自分の感覚では、著作権のように経済活動に関する権利は、積極的に行使するものを保護し、積極的に行使されないものについては、保護しない方が社会全体にとっては、プラスかなぁとも思うんですよね。

ですので、原則一定期間が過ぎたら、消滅するが、特許のように著作権維持費を支払わなければ、パブリックドメインという方が良い気がしますね。相続人が積極的に著作権を行使して、事業(?)を拡大していれば、維持費の支払いが可能となり、そのまま独占的に使用収益でき、そうでない死蔵されたものについては、他者が自由に使用可能とすることでの方がメリットが大きい気がします。

こうすれば、某大先生の相続人の努力次第では、ディズニーのようになれるわけですし(笑)。

BEWAADさんの案にせよ、他の方の考えにしても、著作者だけではなく、相続人の積極的な活動にインセンティブを付与でき、逆に、相続人が積極的な活動(うどん屋なら、跡を継いで店を繁盛させるあるいは、敷地等を利用して新たな商売を始める)をしない場合には、パブリックドメインにする方向性が社会全体をより良くしていきそうですね。

ではでは

luke (2006-12-17 18:47)

Lessig教授は、著作権の登録・更新制を提案していますね。更新料を一定期間ごとに納めないと、著作物はパブリックドメインになる。これもbewaadさんのアイデアと似た効果があるんじゃないかと思います。(更新料に見合う価値があるかどうかと、一律の買取額を上回る価値があるかどうかという判断は、額を調整すれば同じにできそう。)

関連した提案に
http://www.rieti.go.jp/it/column/column040114.html
があります。

Baatarism (2006-12-17 21:01)

一つ疑問に思ったのですが、

># 著作者が死亡した段階で、国は万人一律の著作権買取額(例えば1万円とか、10万円とか、その程度でしょう)により著作権の買取りを請求することとする。著作者が生前に著作権を譲渡していた場合においても、同様とする。

この額はどのような単位当たりで定められるのでしょうか?作品1つ当たりなのでしょうか?それとも著作者一人当たりなのでしょうか?あるいは作品の規模を規定するような単位を設けるのでしょうか?
ジャンルをまたがってこの「単位」の定義をするのは、非常に難しいと思うのですが。

bewaad (2006-12-18 06:40)

>徳保隆夫さん
お金を払わないと維持できない、というのがどれだけ著作権者の理解を得られるのかな、というところが気になります>課税案(エントリ中の課税案は、著作権者への還元に当てられる特定財源ですから、ハードルは低いと思います)。

圧力・天下り等については、裁判所や公取委にはそのような批判はないわけですから、そのように仕組めばよいのだと思います。

bewaad (2006-12-18 06:42)

>kogeさん
登録は相続に当たって買取らない場合にのみ行われることとしているので、それに関してご指摘のような問題が起こるわけではないと考えています。法人保有の著作権については、私案での期間設定は買取への諾否を判断させるだけですので、現在の延長問題のような話にはならないと考えています。

bewaad (2006-12-18 06:43)

>竹馬さん
権利の上に眠るものは保護せず、というのは消滅時効の考え方で、これまた債権一般に通じる考え方ですが、著作権者は物権的に捉えているのかな、と思い、エントリのような一般則適用にしました。

bewaad (2006-12-18 06:43)

>lukeさん
徳保さんへのお応えでも書きましたが、所有権等とのバランスを念頭に置いている者に対して、お金を払わないと維持できない、というコンセプトが受け入れられるのかな、というところが気になします。受け入れられるなら、もちろんそれでもいいと思うのですが・・・。

bewaad (2006-12-18 06:44)

>Baatarismさん
著作者一人当たり、です。ご指摘のような難しさが回避可能ですし、サブマリンの防止にもなりますし。

ゆーき (2006-12-18 21:13)

まあこういったことができないのはベルヌ条約やTRIPs協定があるからという理由もあるんですけどね。

外国著作物との関係でいえば、このスキームを採用した場合、買い取った著作権は存続期間中政府が保有しつづけるということになるのですが、その間外国人はわが国の著作物を自由につかえるが、わが国は外国の著作物を自由につかえない、という点が問題になると思います。

これ以外に何らかの権利制限的スキームを導入した場合、TRIPsの関係でWTO提訴事項になるという問題もあり、権利保護とのトレードオフで何らかの制限事項を導入してもWTO違反とされ、権利保護的スキームだけが残る、ということが十分に考えられる(実例あり)。
著作権は国際条約との関係で権利保護に関しては親和的ですが、権利制限についてはなじまなく、不可逆性が非常に強い状態となっています。
期間延長反対の理由としては、自由な二次利用のためには「50年間耐え忍ぶ」というのが一番現実的な解というのも理由かもしれません。

bewaad (2006-12-19 07:05)

>ゆーきさん
国際的な側面は確かにあんまり(いや、まったく)考えてませんでした。MFNとNTさえ害していなければ、水掛け論で結構いいところまでいけるのでは、という気もしないでもありませんが、知らないことを適当に書くのは控えたいと思います。

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Pybigi (2006-12-17 20:30)

bewaad氏は著作物を買う主体が国だけだと限定して考えてるような気がする。bewaad氏の案は
死後も著作権を認める
一人当り一定額を払って買い取る
買い取り額に不服がある場合、第三者機関による評価による評価額
第三者機関

著作権保護期間の延長問題を考える国民会議に関連してbewaadさんの理解するところの これまでの論旨を簡単に振り返れば次のとおりです。著作権保護期間延長を巡る賛否は、延長による著作のインセンティヴ強化を重く見るか、他者の著作の阻害を重く見るかの違いに由来する。..


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