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  • 03/20/2007 (12:38 pm)

    村井淳志「勘定奉行 荻原重秀の生涯」

    Filed under: economy, book, history ::

    本来であれば17日来の「後編」を書かなければいけないところですが、非常に面白かったので明日まで我慢できずに取り上げてしまいます。荻原重秀といえば、江戸時代におけるリフレ政策の実現者として知る人ぞ知る存在ではありましたが、一般人でも入手可能なまとまった資料がないのが難点ではありました。しかし、今では本書があるのです。

    しかし荻原重秀という人物自身の生涯を詳しく調べようとすると、ほとんど史料がない。謎の多い人物である。これほど有名であるにもかかわらず、荻原重秀を主人公にした本格的な長編小説がいまだに現れないのも、史料の乏しさに起因している。本人は、何も記録を残していない。新井白石は『折たく柴の記』や日記を書いたし、柳沢吉保には『楽只堂年録』や、側室・町子による『松蔭日記』がある。彼らに比べると、本当に何もない。新井白石のように子孫もいない。『折たく柴の記』を別にすると、同時代人による荻原重秀の描写もあまりない。(略)

    (略)

    私も、荻原重秀の魅力にとりつかれてしまった。なんとかその生涯をリアルに再現したいと思い、史料を渉猟してきた。しかし研究上の奇手はありえず、驚くような新史料の発見は今後もあまり期待できないだろう。残された方法は、とにかく現存するさまざまな幕府の公式記録や当時の写本を徹底的に調査し、微細な事実を積みあげていくことで、これまで見えなかった荻原重秀像を構築するしかない。根気の要る作業だが、ほかに方法はないと思う。こうしてできあがったのが本書である。

    pp20-24

    まとまった資料がないなどとなげくのみで何も行動を起こさなかったwebmasterのような怠惰な人間にとっては、実際にいくつもの一次史料に当たった成果を書籍としてまとめて世に問う著者の存在は、なによりもありがたいものとしか表現できません。

    しかも本書は存在自体の貴重さだけではなく、内容もまたすばらしいものです。荻原重秀の人生そのものの面白さもありますが、上記引用のとおり幕府の公式記録などの無味乾燥な材料を積み重ねは、幕府官僚として生きた彼の人生の綴り方として、ある意味ふさわしいものともいえます。下手な心理描写など勝手に創造されてしまっては台無しですから(笑)。自らの口から弁解をするのではなく、出した結果によってその業績を語らしめる、そんな仕事に対するプライドを図らずも感じさせる体裁でもあるのです。

    #田沼意次も同様です。他方で新井白石にせよ、松平定信(「宇下人言」)にせよ、彼らの政敵は自己弁護の書を残しているのは、考え出すと面白い共通の性格が見いだせそうです。

    かといって本書は、単に公文書等を切り貼りしただけ、というものでは決してありません。史料では明示的に描かれていない点について、他の史料とも照合しながら背後にある事実関係を推理していく部分は、そのプロセス自体が読み応えがあるにとどまらず、史料の記述を豊かに膨らませるものでもあります‐その際たるものは荻原重秀の死をめぐる第9章です。そりゃこういう死に方を(著者の想像どおりに)したのであれば、史料は残らないでしょうねぇ。

    もちろん、元禄の貨幣改鋳についても1章が充てられ、貨幣改鋳とインフレについての興味深い分析がなされています。どうせなら経済学者とのコラボでさらなる充実を、と期待したくなるのですが、ひょっとしたらこれについては、飯田泰之先生がダイヤモンドの「経」でのかつての連載で取り上げていらっしゃったのかもしれません。でも、なかなか入手できないまま読まずに終わっているので・・・。

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