井手壮平「サラ金崩壊」
サブタイトルに「グレーゾーン金利撤廃をめぐる300日戦争」とあるように、昨年の一連の消費者金融の上限金利規制を巡る騒動を記録したものです。この問題は当サイトでも長きに渡ってフォローしてきましたが、本書の記述が概ね正しいとの前提に立つと、webmasterの理解が誤っていたことがわかり、非常に重宝する記録であるといえましょう。ちなみにwebmasterの誤解とは、政治主導(与謝野大臣・後藤田政務官(いずれも当時))で決まった話で官僚はそのイニシアティヴに受動的に対応していたというもので、本書によれば、(少なくとも)大森信用制度参事官と森課長補佐の2名はきわめて能動的に上限金利引下げを図ったとのこと。
その他、最高裁判決から法案の決定に至るまでの流れが要所を押さえつつまとめられており、資料的価値はなかなか高いといえるとwebmasterは思います。金融庁担当の記者(共同通信)という著者のグラウンドが影響してか、自民党と金融庁の動きに傾斜しがちで、それ以外の部分が若干手薄にも思われますが、結局のところは勝負はそこで決まり、その余の関係者(業界、日弁連など)の動きはそこへいかに影響を与えたかという形で評価されるべきものでしょうから、本書の価値を落とすものではありますまい。
ないものねだりをするならば、上限金利規制というものの持つ意味を掘り下げて欲しかったとはいえますが、それは本書、さらには著者の任ではないのでしょう。つまりは本件についての経済学者の発言がもっとあってもよいのでは、ということですが、webmasterが知る限りでは、早稲田大学消費者金融サービス研究所でのもののほか、大竹文雄先生と池尾和人先生の論争、それに当サイトにもコメントをお寄せいただいた吉行誠さんの一連の記事(ちょうどこの3者が大竹先生のエントリのコメント欄で相まみえていますので、概観はそちらをご覧いただければ)ぐらいしかめぼしいものはありませんでした。
ことはごりごりのミクロ経済問題であり、しかも影響を受ける者の数は多めに見積もれば1,000万人を超える本件について、できれば政策立案過程においての経済学的な議論があればとは思いましたが、過去にとらわれていてもいたし方ありません。せめて今からでも、あるべき消費者金融規制とはどのようなものかを論じることに、経済学者の存在意義のひとつがあるのではないでしょうか。





3月 31st, 2007 at 0:42:06
「サラ金崩壊」というのは刺激的なタイトルですね。サラ金問題については、「サラ金=悪」という前提で、善政に寄与するという善意で行動した人も多いのかなと思います。これが、今後どう影響が出て、どうなっていくのか。地獄への道が善意で敷き詰められている事が無いよう祈っています。
歴史の教科書に、徳政令=善政、質素倹約令=善政と、まったくなんの疑いもなく書かれている問題とか、根は深いのかなぁ。
3月 31st, 2007 at 13:50:43
サラ金についてはもう何が何でも悪の権化という空気が蔓延してますよね。それよりも、ではなぜそういう商売が成り立つのかということを考えて欲しいものです。世の中需要がなければ供給は生まれないはずなんですが。そういうと今度は「どうせそんなところから借りる奴はギャンブルとかろくな使い道じゃない」ということで片付けられてしまうんですが。だったらそれは自業自得なんだからべつにサラ金の責任ではないはずで、なんだかそこらの論理がおかしいようにも思えます。何が言いたいんでしょうか、彼らは。経済的インセンティブと倫理意識がごっちゃになって混乱してしまってるところに問題の根っこがあるのでは。
4月 1st, 2007 at 3:24:26
>鍋象さん
ひところの銀行批判、さらに遡れば共産主義におけるブルジョア批判ですとか、キリスト教やイスラム教における利子所得への嫌悪というものを見れば、人間の本性に根ざしたものなのかもしれません>金貸し批判。座している者に上がりを掠め取られる、というイメージが強いあたりと関係があるように思います。
4月 1st, 2007 at 3:27:00
>すなふきんさん
本書では、金融関連官僚は大蔵省の昔から消費者金融は銀行が手がけるべきで、にもかかわらず銀行でなくノンバンクが主役となっている状態を苦々しく思っていた、ということが紹介されています(理由は、銀行の方がグリップが効くことと、預金の調達コストが低いので貸出金利も下がるはず、とのこと)。大きなお世話の民間介入志向そのものですが、それを受け入れる、あるいは願う素地があってのことでもあるでしょうから、つまりは安く行儀良く貸せ、ということなのでしょう。高く行儀悪く貸せるからといって、安く行儀良く貸せるとは限らないのはご承知のとおりですけれども。
4月 1st, 2007 at 10:42:24
未読ですが、グレーゾーン金利問題は消費者金融への締め付けだけでなく
銀行にも間接的な圧力をかけていると言うことでしょうか
>にもかかわらず銀行でなくノンバンクが主役となっている状態
消費者がなぜノンバンクを使用しているのか
また、銀行がなぜ消費者金融を手広く行わないのか
その点に対する考察が必要だとは思います。
予備校を禁止しろと言う議論に近いものを感じます
4月 1st, 2007 at 21:20:19
現実を知らないままにいい加減な事を語るのは心苦しいのですが、「サラ金の取立ての厳しさ」なる噂話が存在する事自体はモラルハザード抑止に役立っていた面もあるわけで。たとえば、自己破産すれば大丈夫とか、銀行のように取立が厳しく無いとかいう場合には、露骨にモラルハザードが出る可能性ありますよね。
銀行の個人ローンの場合、個人に対する保証というより、勤め先企業の信用という面があって、給与の前借代行みたいな感覚で融資している面もあると思います。住宅ローンの売り込みなどは、企業宛に貴社向け優遇金利なんて形で斡旋依頼がくることもしばしばあります。
大学出てそれなりの企業に勤めている人、あるいは高卒でも一部上場企業で安定雇用が保証されている人は、当然銀行から借りる事ができますが、問題は世の中にはそういう信用を銀行から得られない層の人が圧倒的多数存在するという事ではないかなと。
4月 2nd, 2007 at 0:32:08
>そういう信用を銀行から得られない層の人が圧倒的多数
ちなみに低所得者向けには制度融資があることになってますが、「困窮者向けの制度融資まで、保証人がいなければ受けられない」のみならず、某所の社会福祉協議会の方には、要旨”生活保護者には返済能力がないので貸せない”とおっしゃっていただきました。(研修会でそのように教わったとか。(^_^;))
他にも、申請から最短一ヶ月かかる審査とか問題山盛りの制度で、「いくら親との折り合いが悪いと言っても、死ねば葬式に行かないわけにはいかない。しかしそれでは旅費を借りようとしても間に合わないではないか。」と突っ込むハメに。orz
4月 2nd, 2007 at 2:43:52
>bn2islanderさん
本書では、審議会等の報告などで消費者金融への銀行の取り組みを求める言及があったことが紹介されています。ただ、本件が示唆に富むのは、おそらくは当局の統制がもっとも行き届いている分野のひとつと思われる銀行においても、当の銀行がそっぽを向くような話は、いくら当局がせまっても業界が動くものではない、ということもあると思います。つまりは産業政策なんてたいした効果はない、ということですが。
4月 2nd, 2007 at 2:49:14
>鍋象さん
商売としてなりたたなければ続くはずもなく、銀行の取立てが甘いのは多くの場合しっかりと担保を握っているからで、消費者金融の取立てが厳しいのは無担保だからという側面も大きいわけで。
ちなみに自己破産すれば大丈夫とは、破産制度の趣旨からすればそうであって当然なわけですが(免責を得たとして)、他方で不思議なのは、クレサラ弁護士はなぜもっとそちらをプッシュしないのか、ということです。過払い返還であれば報酬が高く、他方で自己破産は司法書士との競合があるということでしょうけれども、口ほどに被害者のためを思っているなら、ねぇ(笑)。
4月 2nd, 2007 at 2:51:36
>BUNTENさん
甘く簡便な手続により貸せば貸したで、官業だから赤字垂れ流しだ、民営化か廃止しろと言われるのは目に見えているわけで。生活保護世帯には貸せないというのも、生活保護自体が削られるような世の中においては、そうした流れは悲しいながら必然と言わざるを得ないでしょう・・・。
4月 2nd, 2007 at 7:18:05
ひー結局死んでも親不孝を貫くはめになるのね。orz
4月 2nd, 2007 at 10:26:46
>クレサラ弁護士はなぜもっとそちらをプッシュしないのか、
プッシュしていますよ。ただ、破産しないで済めばそれに越したことはないので、まず「過払い金返還請求ができるか」という点から検討していくのが通常というだけのことです。また、破産を免れない場合であっても、破産財団を充実させる必要はあるので、現行法で認められている以上、できる限り過払い金を取り戻すよう努力することになります。
このように破産と過払い金請求は相対立するものではありません。
>過払い返還であれば報酬が高く、他方で自己破産は司法書士との競合があるということでしょうけれども、
司法書士も過払い金返還請求の代理はできますよ。金額に上限があるだけで。余談ですが、自分の周りの話を聞く限り、破産や債務整理の着手金の額は、弁護士<司法書士、という傾向があるようです。
4月 3rd, 2007 at 5:45:10
>BUNTENさん
何よりの弔いは心から冥福を祈ることであって、物理的な場所は問題ではない、って私の血縁者の法事で住職がいっていましたから・・・。
4月 3rd, 2007 at 5:45:47
>あまりクレサラやらない弁護士さん
現場をよく知らないまま不正確なことを書いて申し訳ないです。情報提供ありがとうございました。
4月 16th, 2007 at 14:42:36
気付くのが遅れてすいません。著者の井手(←大して気にはなりませんがこちらの字が正しいです)です。
貴サイトは以前から楽しみに読ませていただき、また大いに参考にさせていただいております。そんなbewaadさんに取り上げていただき、大変光栄です。ありがとうございました。
取り急ぎお礼まで。
4月 17th, 2007 at 6:29:27
>井手壮平さん
私こそ、この問題には興味を持って追いかけていたのですが、そのときそのときの新聞報道等では明らかになっていなかった裏面を知ることができ、大変ためになりました。店頭で見かけて目次を覗き、即座に購入を決めたのは正解でした。これからのご活躍も期待しております。
なお、末筆ながら、名前の誤りは大変失礼いたしました。ごめんなさい。
4月 19th, 2007 at 12:57:28
過分なおほめのお言葉、恐縮です。私もしばらくは霞が関の住人をしていると思うので、どこかですれ違ったりお会いしたりするかもしれませんね。
4月 20th, 2007 at 20:48:51
>井手壮平さん
それと正体を明かすことはしませんが、もし取材いただくときはお手柔らかにお願いいたします(笑)。
5月 29th, 2007 at 23:03:55
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気付いたら18冊も溜まってたのであっさりメモしておきます。 ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき 作者: 佐藤優, 魚住昭 出版社/メーカー: 朝日新聞社 (more…)