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まったくもってひどい論説もあったものです。
その社会保険であるが、わが国のものは賦課制度と呼ばれ、経済学的にはマルチ商法と同じといわれる。もちろん、マルチ商法自体は違法ではないし、民間では犯罪でも役所が行えば犯罪にならないものは、官に圧倒的に有利なギャンブルや銃器所持などあまたある。
ただ、このマルチの問題は、集まった金を目的外に流用する一方で、新たな会員が集まらず、資金繰りが行き詰ってしまうスキームにある。破綻に向かっているマルチに支払いを拒む人が増えるのは当然の論理だが、厚労省はそのマルチスキームを糊塗すべく恣意的なシミュレーションを示し、百年安心などという誇大広告で懲りもせず制度の維持を図ろうとしている。
朝日「経済気象台/濫税時代2‐マルチ商法」
デタラメの最たるものは、賦課方式年金(「社会保険」とのみ書いてありますが、賦課方式(と積立方式)が議論になるのは年金であり、「百年安心」とは年金の平成16年改正際のスローガンですから、これが年金を指すことは間違いありません)が経済学的にはマルチ商法だというもの。さらには、直接は書いてありませんが、あたかも他国はマルチ商法でない=賦課方式でないと誘導する書きぶりでもありましょう。
まず、現実としては、アメリカやスウェーデンをはじめ賦課方式年金を採用している国は数多くあり、この筆者の言に従えばこれらの国の国民(日本国民を含め)はバカばかりということになるのでしょう。マルチ商法に引っかかっているというのですから。印象操作は勘弁して欲しいものです。
他国もそうだというだけでは足りないでしょうから、賦課方式がマルチ商法ではないことをきちんと論じてみましょう。大雑把に言えば、賦課方式とは年金受給世代への給付を現役世代からの保険料でまかなう(対する積立方式は、現役世代の間に支払った保険料を年金受給世代の給付原資とする)ものですが、保険料と年金給付の持続可能な関係を式で表せば次のとおりです(積立金の運用等の枝葉は除きます)。
この式を変形すると、次の条件が得られます。
「百年安心」の際には、保険料率が18.3%、所得代替率が50%を前提としていました。それ以上に年金受給世代が増えたり現役世代が減ったりしたら維持できないではないか、との懸念に対してはマクロ経済スライドが導入され、持続不可能となれば所得代替率を引き下げられ(=左辺の増大)、再度持続可能となるわけです。
したがって、「資金繰りが行き詰ってしまうスキーム」という批判はまったくあたりません。あえて言うなら、支払った保険料と受け取る年金の額のバランスが見合うかどうかという問題はあるかもしれないので、これについても検討しましょう。各個人に着目し、保険料率と所得代替率を所与のものとする場合、支払う保険料よりも多い額の年金を受け取るためには、次の条件を満たす必要があります。
とりあえず男性を念頭に置き(女性ですと3号被保険者問題などがあり議論が複雑になるので)、平成17年簡易生命表に基づき平均寿命を79歳とし、年金受給開始年齢を65歳とすると、大卒労働者の場合、先の保険料率と所得代替率を代入すれば、次のようになります。
左辺が右辺よりも大きいので、条件が満たされないではないか、と一見見えます。しかし、ここでは「所得」と両辺同じものを置いていますが、賃金スライドがかかる、つまり所得が伸びれば年金給付額も伸びます。つまり、所得が(国民全体の傾向として)一定水準以上の右肩上がりであれば、右辺の所得が左辺よりも大きくなり、この不等式はやはり満たされるようになるのです。では、どの程度の水準の伸びが必要か、求めてみましょう。
現役時代平均所得/年金受給時代平均所得は、22歳から79歳までの間の所得の伸びが年平均0.4%であれば0.893、0.5%であれば0.869となりますから、年平均0.5%以上の所得(≒賃金)の伸びがあれば、この条件は満たされることになります。言い換えれば、年平均0.5%以上の所得の伸び≒経済成長(名目)を達成できているのであれば、支払う保険料よりも多い額の年金を平均的には受け取ることができるのです。
おそらくこの記事の筆者への反論としてはこれで足りるでしょうけれど、若干発展した議論をするなら、単純に支払う保険料よりも受け取り年金額が多いというだけでは、実は損になってしまいます。というのも、支払う保険料を自ら運用すれば、その運用収入が生じるので、それを加えた額だけをもらえないのならば、保険料を支払わずに自ら運用した方が得になるからです。
大まかな感触を掴むため、所得の伸びと運用利回りが同じだと仮定すると、上記の式を次のように変形することで、同様の計算が可能になります。
現役時代最終年所得/年金受給時代平均所得は、22歳から79歳までの間の所得の伸びが年平均1.5%であれば0.893、1.6%であれば0.886となりますので、だいたい年平均1.6%以上の経済成長が確保されれば、運用利回りを考えてもなおお得だ、ということがいえるでしょう。
#マクロ経済スライドで所得代替率が下がる場合には、より条件は厳しくなります。なお、基礎年金部分には国庫負担があり、それを勘案すれば、もう少し低い経済成長でも割に合うことになるというのが実態です。
最後に蛇足ながら、ちょっと前に、賦課方式年金はネズミ講だ、という今回の記事の元ネタと思しきことを言っていた人がいるわけですが、この記事の筆者は、そのご当人なのでしょうか、それともそれを読んで感銘を受けた人なのか、どちらなんでしょうかねぇ(笑)?