国会における経済論戦 その8
さる4/17、衆議院の財務金融委員会において、日銀による「通貨及び金融の調節に関する報告書」の国会報告が行われました。既に多くの方が取り上げていらっしゃいますが、日銀は現状金利が低すぎると考えているのだなぁとか、それを批判する質問は一切なかったなぁとか、そうした感慨を抱かせます。しかし、あえて申し上げるならば、それらは周知の事実であって、情報工学上のエントロピーは極めて少ないといえましょう。
他方で、bank.of.japanさんが注目された話題は、bank.of.japanさんはネット中継をご覧になって書かれたとのことですから間違いはないと思いつつも、そんな発言があり得るとは予想できず、エントロピーは多かったわけです。ようやく議事録が公開されたので、そこから引用してみます。
○佐藤(ゆ)委員 おはようございます。自由民主党の佐藤ゆかりでございます。
(略)
まず一番目でございますが、安倍政権の掲げる「美しい国、日本」の国家観では、理想的な我が国経済の姿として、イノベーションによる生産性の向上と国際競争力の強化によります経済成長戦略というものをうたっております。この経済成長戦略では、最終的に均衡のとれた経済成長を実現するためには、サービス業や中小企業の生産性の向上などにも力点を置きまして、結果として、企業部門全体の活力の底上げというものを図ることで、家計所得の拡大そして消費の拡大へと波及ルートに対する道筋を立てていく、そういう考えに立ったものであります。
(略)
いろいろな御見解があるわけでございますけれども、そこで、福井総裁にお尋ねしたいと思います。
高齢化社会の我が国経済が高い成長率を手にするためには、機能すべき経済のさまざまな波及ルートの中で、力点を置くべきルートというのをどこに求めるのか、総裁御自身の御所見をお伺いしたいと思います。
○福井参考人 日本銀行にとりましても大変重要な御質問をちょうだいしたというふうに思っております。
御指摘のとおり、少子高齢化、あるいはさらなるグローバル化の進展への対応など、日本経済がこれからも抱えていく難しい課題を克服して、高い成長率を実現していく。そのためには、御指摘のとおり、イノベーションを通じて民間活力をさらに引き出して潜在成長力を高めていくことが極めて重要だというふうに考えています。それも、先頭に立つ大企業、製造業だけではなくて、おっしゃるとおり非製造業、過去の系譜を振り返ってみましても、製造業と非製造業との間には生産性格差が大きいというのが日本経済の特徴でございます。こうした難点を克服していく。そして、大企業、中小企業間のイノベーションの力の差というものも、やはりいつまでも放置できない問題だという意識でもって潜在成長能力を高めていくことが極めて重要だというふうに考えています。
潜在成長能力を高めるためには、労働や資本といった生産要素の投入を増加させたり、生産性の向上を進めていくことが必要でございます。生産性を向上させるためには、これは、限られた資源が収益性の高い分野に円滑に配分されるような、変化への対応力の高い経済システム、硬直的でなくて変化への対応力の高い経済システムを構築していく必要がございます。
私ども、マクロの観点からの仕事をさせていただいておりますので、ミクロの分野への政策対応という点は私どもの手からはなかなか及びがたいわけでありますが、マクロの点から見ますと、例えば、我が国の金融資本市場を、より使い勝手がよく、より効率的な資源配分を可能とするような生きた市場としていくことが非常に重要だと考えております。さらに、教育や研究開発分野に対する投資を着実に続けていただける、つまり、そういう方向に資源配分がなされて我が国の有形無形の資本の質が高まっていくということも大切だというふうに考えております。
(略)
○佐藤(ゆ)委員 ありがとうございます。
今お伺いしました総裁の御答弁で私が印象を受けましたのは、どちらかといいますと、総裁も、政府の戦略と似たように、生産性を向上させて、その背景にイノベーションがあるわけですが、生産性向上ルートで、人的な投資、あるいはイノベーションに基づく設備投資を主体とした成長力の全体的な底上げというふうにお見受けしたわけでございます。
(略)
そこで金融政策についてですけれども、金融政策というのは、政策的に変更すれば所得の分配効果というのも必然的に生まれてくるわけでありまして、例えば、利上げをしませば家計部門の利子所得はふえますが、逆に利下げをすれば企業部門の借り入れコストが低くなるというような分配効果というのは当然生じるわけでございます。
こうした所得の分配的な側面を考慮に入れつつ、主軸として機能すべき、総裁が今おっしゃられました経済の波及ルートの出現のために、これをどうにか実現させるためにはどのような金利の姿というのが、あるべき姿として望ましいのか。すなわち、安倍政権では、「美しい国、日本」をつくるときに金利がどうあるべきなのか、日銀総裁御自身が描かれておられます「美しい国、日本」のための「美しい金利観」について御所見をお伺いしたいと思います。
○福井参考人 日本銀行が金融政策を運営していきます場合に念頭にありますことは、日本経済の実力が時の経過とともに常に向上すること、向上した力が、常に現実の経済発展の成果として国民の多くの方々がそれを享受できるような姿として実現していくこと、そのためには、物価安定のもとに息の長い成長を続けること、こういうことになると思います。
金融政策の観点から申しますれば、それらすべての目標を同時達成していくためには、限られた資源が収益性の高い分野に円滑に配分されるようなメカニズムが、金利の面からもしっかりと作用する必要があるということだと思います。
そうした観点からは、市場金利が経済、物価情勢を反映した形で円滑に形成される必要があります。そういう金融条件、金融環境というものを用意するということを念頭に置きながら私どもは金融政策を進めていかなければならない。
逆に、経済、物価情勢と離れた金利形成が行われますと、非効率な経済活動に資金やその他の資源が使われ、長い目で見た資源配分にひずみが生じるおそれがあります。そうなりますと、これは息の長い成長を阻害する可能性があるということで、目的が損なわれるということになると思います。
(後略)
第166回国会 衆議院財務金融委員会 第9号(平成19年4月17日(火曜日))(webmaster注:強調はwebmasterによります)
「美しい金利観」ですか・・・一応は先立つ説明があり、それを「すなわち」と受けてのことですから、意味不明というわけではありません。佐藤議員の選挙区事情を考えれば、党執行部に迎合したくなる気持ちもわからないではありません。しかし、そうした事情を斟酌してなお、「美しい」という形容詞を「金利観」に接続するというのは、それこそ「美しい日本語」ではないんじゃないの、と厭味のひとつも言いたくなるというものです(笑)。
日ごろ日銀に理解を示すことの少ないwebmasterにしては珍しく、この質問に対して答えを作成した事務方には大いに同情してしまいました。
- 「『美しい金利観』についての所見如何、だってよ」
- 「何を答えればいいんですかねぇ・・・」
- 「俺に聞くなよ(笑)」
- 「とりあえず、金融政策運営についてのいつもの答えをつけておきますか」
- 「そうだな・・・」
なんて会話が聞こえてくるようです(笑)。webmasterが答弁を作成するなら、「金利について『美しい』『醜い』といった形容詞がどのような意味を持つのかは承知しておりませんが」といった断り書きを冒頭につけちゃうんだろうなぁ・・・実は事務方もつけていて、福井総裁がそんな喧嘩を売るようなこと言えるわけないだろ、と削ったとか(笑)。
