経済・物価情勢の展望(2007年4月)
標記レポートが日銀から公表されました。とりわけ問題だとwebmasterが思うのは、これまでの金融政策の「点検」において、この1年間(昨年4月のレポート以降)をきちんと振り返っているとはいえない点でしょう。当該部分を引用します。
昨年3月の量的緩和政策解除以降の金融政策運営を振り返ると、経済・物価情勢の先行きを展望して、(1)生産・所得・支出の好循環メカニズムが働き、息の長い成長が続く中で、(2)消費者物価は長い目でみると緩やかに上昇し「中長期的な物価安定の理解」に沿って推移する蓋然性が高いという判断に基づいて、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行ってきた。物価上昇圧力が弱いもとで、調整のペースはゆっくりとしたものであり、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が維持された。今後の金融政策運営においても、こうした基本的な考え方を維持する方針である。すなわち、「中長期的な物価安定の理解」に照らして、日本経済が物価安定のもとでの持続的な成長軌道を辿る蓋然性が高いことを確認し、リスク要因を点検しながら、経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられる。
webmasterは日銀の「中長期的な物価安定の理解」の水準は低すぎると考えていますが、それを問わないとしても、それに「沿って推移する蓋然性が高いという判断に基づいて」「徐々に金利水準の調整を行ってきた」というのであれば、「蓋然性が高いという判断」が正しかったかどうかを問わねばなりますまい。その判断が間違っていたというのであれば、金融政策の前提となる状況認識が間違っていたということなのですから、量的緩和解除以降の金融政策の路線転換もまたその見直しが必要となります。
では、日銀による物価見通し(いわゆるコアCPI(=生鮮食料品を除くもの)政策委員見通し)と実績値はどうであったのか、まとめれば次のとおりです。
| レポート等 | コアCPI |
|---|---|
| 2006/4 | +0.5〜0.7(中央値+0.6) |
| 2006/10 | +0.2〜0.3(中央値+0.3) |
| 実績 | +0.1 |
昨年4月は量的緩和解除(3月)の後、10月はゼロ金利解除(7月)の後ということになりますが、いずれにおいても高く見積もりすぎていることがわかります。見通しが当たっていたとしてもまぐれ当たりがあり、外れていたとしてもやむを得ない外れがありますから、数値の見通しを誤ったことが直ちに判断の誤りを意味するものではありませんが、外していればより厳しい総括が求められるのは当然でしょう。
では日銀はどのように総括しているのでしょうか。
消費者物価指数(除く生鮮食品)は、足もとは、原油価格下落などの影響もあって前回見通し対比幾分下振れている。先行きは、原油価格の動向にもよるが、前年比でみて目先はゼロ%近傍で推移する可能性が高いものの、より長い目でみると、プラス幅が次第に拡大するとみられる。その結果、2007年度はごく小幅のプラス、2008年度は0%台半ばの伸び率となると予想される。
というわけで原油価格の動向に責任を押し付けているわけですが(一応「など」とは付いていますが)、では原油価格の影響を除けばどうなるのか、今月のCPI速報によると、いわゆるコアコアCPI(=食料・エネルギーを除くもの)の推移は次のとおりです。
| 年月 | コアコアCPI(対前年同月) |
|---|---|
| 2006年3月 | ▲0.5 |
| 4月 | ▲0.6 |
| 5月 | ▲0.5 |
| 6月 | ▲0.4 |
| 7月 | ▲0.3 |
| 8月 | ▲0.4 |
| 9月 | ▲0.5 |
| 10月 | ▲0.4 |
| 11月 | ▲0.2 |
| 12月 | ▲0.3 |
| 2007年1月 | ▲0.2 |
| 2月 | ▲0.3 |
| 3月 | ▲0.4 |
この指標でみれば、引き続いてデフレの真っ只中ということに他なりません(まして、基準年(2005年)から3年目に入り、ラスパイレス指数であるがゆえの上方バイアスも大きくなってきているでしょうし)。原油価格に左右されるのが厭ならそもそもコアコアCPIを使えよというのはあるわけですが、それを措くとしても、原油価格の動向にのみ責任を押し付けて足る話でないことは明らかです。
足元の動向にもかかわらず、日銀の強気の見通しを支えているのは、次の分析です。
こうした経済の見通しのもとで、物価を巡る環境をみると、第1に、設備や労働といった資源の稼働状況は高まっており、今後もさらに高まっていくとみられる。マクロ的な需給ギャップをみても、引き続き、需要超過方向で推移していくと考えられる。第2に、ユニット・レーバー・コスト(生産1単位当たりの人件費)は、なお低下を続けているものの、賃金の緩やかな上昇のもとで、下げ止まりから若干の上昇に転じていく可能性が高い。第3に、民間経済主体のインフレ予想は、各種調査では、既往の石油製品価格の下落の影響などから全般に下振れているが、引き続き先行きにかけて物価が緩やかに上昇していく形となっている。
結局は現在の潜在成長率が1%台でしかないということがポイントになっているのでしょう。この潜在成長率見積りの(日銀にとっての)都合のいい点は、「需要超過」だから中長期的にはインフレ圧力があるということになるにとどまらず、例の「上げ潮」の前提となっており、この点については政府・与党が攻撃してくることはないという点です。いくら一部の政府・与党関係者が日銀の金融政策を批判しようと、「需要超過ですけど」という反論がある限り、その批判は天に唾するものでしかないのですから。
