コムスンの事業譲渡に関して‐「!」
エクスクラメイションマークは、あるシンクロニティについてです。「?」で論じたように、コムスンに対する更新停止等が「制裁」であるかどうかはさておくとして。
介護事業所の指定を不正に取得したとして訪問介護最大手のコムスン(東京都港区)が今後4年半、すべての事業所の新規指定や更新が認められなくなった問題で、親会社のグッドウィル・グループ(GWG)は6日、コムスンの事業を同グループ連結子会社の日本シルバーサービス(東京都目黒区)に譲渡する方針を決めたと発表した。厚生労働省は法的には問題ないとしている。事業がそのまま譲渡されれば、約6万5000人へのサービスは継続されることになるが、同省による処分が骨抜きになり、意義が問われそうだ。
(略)
これに対し、同省老健局の古都賢一振興課長は「コムスン側から連絡はない」としたうえで、「譲渡先がグループ会社であっても法的には問題ない。譲渡先が新規指定の申請をすれば、都道府県が審査することになるが、コムスンの役員が入るなどしなければ欠格事由とはならない」と、事実上容認する姿勢を示した。連結子会社など資本のつながりは法令上、欠格事由の判断材料とはならず、利用者保護の観点から新規申請した法人がサービスをきちんと提供できるかどうかを点検するという。
グッドウィル・グループは6日夜、2011年12月まで介護事業所の新規指定や更新が打ち切られることになったコムスンの全事業について、グループ企業である日本シルバーサービス(東京・目黒)に7月31日付で譲渡すると公表した。これに対し、厚生労働省は7日記者会見し、譲渡計画を凍結するよう同社に行政指導したと発表した。
厚労省は「コムスンの事業譲渡は、サービス利用者と国民の納得を得ることはできない」と判断したという。コムスンの樋口公一社長は厚労省の指導に対し、凍結するかどうかには直接答えず、「承りました。努力します」と回答。厚労省の指導内容を社内で検討したうえで、最終的な方針を決めるとみられる。
というわけで1日にして厚生労働省は方針を転換しました。webmasterならば、当初の方針を堅持すべきと論ずるのでは、とお考えになった向きもいらっしゃるかと察しますが、さにあらず。というのも、奇しくも本件が世に表れた6日、この手の行政行為に大いに影響を与え得る判断が示されたからです。
大和都市管財国家賠償訴訟で、大阪地裁が6日言い渡した判決の要旨は次の通り。
規制権限の不行使は、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く場合は国賠法上、違法となる。
抵当証券業規制法は、抵当証券の販売業が営業の自由の保障の下にあり、これを尊重し、業務の適正な運営を確保し、購入者の保護を図る目的で登録制を採用している。
1997年3月末時点で、大和都市管財の融資先だった関連会社6社は累積債務を抱え、事業で解消させる見込みがなかった。利息の支払い原資は関連会社間で融通し合うほか、大和都市管財からの融資を仰ぐ以外になかった。大和都市管財は貸倒引当金を設定すべきで、純資産はマイナスになり資本欠損に陥っていた。同社には更新登録拒否事由(財産的基礎の欠如)があった。
本件更新登録時点で、大和都市管財が抵当証券購入者への利払いのため抵当証券などの金融商品の販売代金を充てざるを得ないという自転車操業状態だったことは容易に推認し得た。
大和都市管財グループが透明性を欠いた会計処理をし、近畿財務局の検査に資金の流れの解明を妨げる方向での言動を繰り返していたことなどを考えると、大和都市管財が詐欺的商法を行っているのではないかという合理的な疑いが存在した。
近畿財務局長には、更新登録拒否事由の有無を慎重に審査すべき職務上の注意義務が生じていた。
近畿財務局は関連会社の帳簿の検査を放棄し、大和都市管財の預貯金口座の検証を怠るなど、必要不可欠で基本というべき検査を怠った。
業務改善命令を受けて大和都市管財が提出した実現の見込みがあるとは考えがたい経営健全化計画を、必要な裏付け調査を行うことなく受理した。
近畿財務局長は、短期間のうちに大和都市管財グループの資金繰りが行き詰まり、破たんする危険が切迫している事態を容易に認識し、大和都市管財が資本欠損の状態と認定することができた。注意義務を尽くすことなく、漫然と本件更新登録をしたというほかない。
許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くというほかなく、国は98年以降に同社から新たに抵当証券を購入した原告らに対し、損害を賠償すべき国賠法上の責任がある。
まだ地裁判決であり、上級審で覆る可能性はありますが、従前は形式審査を旨としていた登録制においても、許認可制に準ずる実質審査が求められる方向を示した判決です。もちろん個々の判決はあくまで個別事例に対するもので、一般的な原則として他の事例、まして他の法令にそのまま妥当するとは限りませんが、行政府としては、このような司法府の判断が示されたことは無視できないでしょう。
さて、事業譲渡が行われた際の欠格事由かどうかで、今般問題となっているのは、次の規定(他のサービスについては別の規定になりますが、基本は同じです)です。
(指定居宅介護支援事業者の指定)
第79条 第46条第1項の指定は、厚生労働省令で定めるところにより、居宅介護支援事業を行う者の申請により、居宅介護支援事業を行う事業所(以下この節において単に「事業所」という。)ごとに行う。
2 都道府県知事は、前項の申請があった場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、第46条第1項の指定をしてはならない。
一〜七 (略)
八 申請者の役員等のうちに次のいずれかに該当する者があるとき。
イ・ロ (略)
ハ 第84条第1項又は第115条の29第6項の規定により指定を取り消された法人において、当該取消しの処分に係る行政手続法第15条の規定による通知があった日前60日以内にその役員等であった者で当該取消しの日から起算して5年を経過しないもの
ニ (略)
介護保険法
大和都市管財事件とは異なり、本件では個別の規定の文言の解釈としては紛れがありません。すなわち、大和都市管財においては「財産的基礎」が何を指すかが争いになったわけで、他方で本件においては役員が重なっていないことは自明でしょう(仮に現状において重なっていたとして、申請時までその状態をコムスンが放置するはずもありません)。
しかしながら、見方を変えれば、本件は実質論としては大和都市管財事件よりも当局が問題を把握している点については確固たるものがあります。現にコムスンに対しては行政処分の決定をしており、それをしている以上は介護保険法上問題があると認識しているわけです。その事業者が事業をグループ内企業に譲渡したからといって、その問題がどうなったかはわかりません、という説明は通用しないでしょう。
したがって、仮に本件が裁判沙汰になった場合(たとえば、事務所の不備により要介護者が何らかの損害をこうむった場合に、当局の監督の不備を理由として行政への賠償請求が行われる場合)、形式的に法令の要件に合致していたかどうかをチェックしただけでは、「注意義務を尽くすことなく、漫然と本件更新指定をしたというほかない」という理由で負けてしまう可能性を否定できません。そのような状況下では、行政府としては、どうしても事なかれ主義に走り、そのような可能性のある申請は行政指導で取り下げさせたいということになってしまいます。
#さすがに法律論をまったく無視することもできないでしょうから、判決としては、介護保険法第79条第2項第3号に係る不作為(第81条第2項の厚生労働省令における不備)を問題視するロジックでも持ってくるのかな、とはwebmasterの個人的予測。
でまあこのように登録制(おそらくは届出制(一般に、登録制よりもさらに当局の関与は弱くなります)の強化が求められるとして、すでにbranchさんが次の記事を引用してご指摘ですけれども、それに必要な人員等のリソースはどうしろというのでしょうかねぇ、とは霞が関住人としての愚痴。
金融庁幹部は「毅然(きぜん)とした態度で、処分を含めた権限を行使することがますます求められる」とするものの、「人員が少なく、個々の業者の違法行為を逐一把握することは今もできていない」と漏らす。
昨年からの5年間で5%以上純減しなければならないのに・・・。
