続・Apemanさんの当て逃げ事件に関するご見解への疑問
前回の続きとなります。前回は、Apemanさんのエントリ中、たとえ所有者=運転者=犯人だったとしても、それが法的に確定しない段階で「取引先や職場に迷惑をかけた」といった理由で懲戒解雇するというのは人権という観点からいってかなり問題があるわけだが、もし「所有者は車を当時貸していて誰が運転していたかわからない」という言い訳が事実だった場合、“祭り”に加担した人間たちは一体どう責任をとるつもりなのだろうか?
という部分に主として着目して、
- 「たとえ所有者=運転者=犯人だったとしても、それが法的に確定しない段階で『取引先や職場に迷惑をかけた』といった理由で懲戒解雇するというのは人権という観点からいってかなり問題がある」のはおっしゃるとおりですが、その問題ある行為をしたのはあくまで自動車の所有者の勤務先であって、「祭り」の参加者ではなく(まして、「祭り」の参加者が直接に私刑と称すべき行動に出たわけではなく)、
- 仮に「祭り」がなければ懲戒解雇が生じ得なかったとしても、「祭り」の参加者の行動は刑法で言えば教唆に問えるようなものではなく、せいぜいが煽動にとどまるでしょうけれども、では煽動行為に有責性を認めるべきかといえば、基本的にはwebmasterは懐疑的、
との疑問を呈しました。これに対して、(コメント欄でのwebmasterの書き込みも踏まえ)すがりーさんから次のような書き込みがありました。
なるほど。事後的に明らかになった事実によって、行為の法的評価が異なる可能性を考えていらしたのですね。
しかしながら、そうであれば、事後的に明らかになった事情(冤罪)によって(解雇時における)解雇権濫用の有無が左右されるということは、論理的にあり得るのでしょうか? 言い訳になりますが、勤務先の責任を問う文章が前置きとなっておりましたので、この点で少々混乱いたしました。
なお、私は、リンク先の「“祭り”に加担した人間たちは一体どう責任をとるつもりなのだろうか?」との締めは、(とれないでしょ?だから節度をもって振舞いなさいよ。)という趣旨と読みました。
「Apemanさんの当て逃げ事件に関するご見解への疑問」(6/27付)に対するすがりーさんのコメント
理屈を申し上げるならば、札幌高判平成16.9.29(労働判例885号32頁)において、
本件各懲戒解雇については,本件仮処分命令によって,第1懲戒解雇の無効が暫定的に確認され,さらに,Gが同年5月20日に提起した本案訴訟において,第1懲戒解雇は権利の濫用に当たり,第2懲戒解雇もその根拠事実を欠くから,いずれも無効であるとする函館地方裁判所の判断が,札幌高等裁判所及び最高裁判所によって維持されたことが認められる。
このように,司法の判断によって本件各懲戒解雇が無効であることが最終的に確定した場合には,特段の事情がない限り,本件各懲戒解雇をした1審被告らに,本件各懲戒解雇時において,善管注意義務違反及び忠実義務の違反があったと解するのが相当である。そして,この特段の事情とは,本件各懲戒解雇をすることが当時の客観的事情からやむを得ないといえるかが問題となる。
道幸哲也「渡島信金会員代表訴訟事件と理事の善管注意義務・忠実義務」
との判断が示されているように、懲戒解雇の妥当性は善管注意義務・忠実義務の範疇で捉えられ、簡単に言えば刑事裁判における検事の立証責任に比べれば、雇用者の懲戒事由の判断に当たっての事実認定責任はより軽微であると考えられます。言い換えれば、「真犯人」であれば、より根拠が弱くても判断が妥当だったと推測されるでしょうし、「冤罪」であれば、「真犯人」と判断したことについてより高度な合理性・妥当性が問われると思われます。
しかし思い出してみれば、前回のエントリでwebmasterは、デュープロセスを欠いた責任追及を問題視することにおいて、webmasterはApemanさんと似通った思想的立場にいると思います
と書いたわけです。前回のこの記述と、「真犯人」かどうかを問題にするというのは、よく考えればおかしなことです(本当は、よく考えなくても気付けよ、という話なのですが)。ここで、デュープロセスを定めた憲法の条項を引いてみます。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
日本国憲法
ここでいう「何人」には、当然ながら「真犯人」も含まれます。「デュープロセスを欠いた責任追及を問題視する」と自称するならば、webmasterはApemanさんに対して、
もし「所有者は車を当時貸していて誰が運転していたかわからない」という言い訳が事実だった場合、“祭り”に加担した人間たちは一体どう責任をとるつもりなのだろうか?
といいますが、では言い訳が事実でなかった(自動車の所有者が「真犯人」だった)場合には、問題がないとお考えでしょうか?
との問題提起をすべきだったのです。Apemanさんのエントリのコメント欄の現状などを見るに、Apemanさん、そしてもちろんwebmasterも、あたかも事実であれば問題がないかのような議論の立て方に巻き込まれてしまったことに、実はより大きな問題が潜んでいたのではないでしょうか。
#とりあえず、「責任」の定義問題は措きます。
