金融庁の「貯蓄から投資へ」観
前日の続きとして、金融庁・大森氏の特別論考の下である。ここでは私の取材フィールドに重なるマクロ経済とマクロプルーデンスに関する見解に絞って紹介したい。その前に前日の村上判決に関連した部分を一つだけ。
「(略)市場経由型資金仲介を拡大しなければならず、そのためには株主をこれまで以上に大切にしなければならないから、ライブドアや村上ファンドだって一概に否定したくない」
(略)
<マクロプルーデンス>
- 優良な貸付先が少なくなっても相変らず預金は集まるから、過当競争して信用リスクに見合わない低金利を設定する…
- 国内市場にとどまる企業を相手に不動産担保を取って完済まで抱える従来型の貸付を続けても、あまり明るい展望は描けそうもない。
- ただ、当面は原資としての預金が多過ぎるから、どんなタイプの貸付でも過当競争によるダンピングの可能性がある、ABLにおける担保価値の評価だってバイアスがかかるかもしれない。
→反論なし。その通りでしょう。
解決策は「貸付を証券化したり、貯蓄を投資に置き換えていくしかない。…すなわち市場経由型資金仲介の拡大」(大森氏)なのだが…。これはハードルが高いであろう。ご存知のように、貸付資産の証券化は、根っこの貸出のスプレッドが異常に低いため、証券化コストを差し引くと証券化された商品の魅力は乏しい。また、証券化しても、それは資産サイドの減少であり、負債にある預金に見合う資産を何か持ってこないといけない(再び貸出に回るか、債券買うしかない)。また、銀行負債にへばり付いた貯蓄が投資に向かうためには、株式市場の活性化が不可欠だが、その起爆剤と期待されるM&Aに対するアレルギーは強い。どうしたらいいもんですかね。
「金融庁・大森氏の特別論考(下)=マクロ経済&マクロプルーデンス」(@本石町日記7/20付)
マクロ経済についても物申したいのですが(笑)、まあそこは所管ではないので割愛しましょう。「金融庁・大森氏」とは例のグレイゾーン金利問題を担当していた大森泰人信用制度参事官(執筆当時。現総務企画局企画課長)ですが、このような理解で「市場経由型資金仲介の拡大」の旗を振っていたのかと思うと、霞が関も焼きが回ったなぁと(笑)。
マクロ的に見た場合、日本が貯蓄投資差額において貯蓄超過であるのは事実です。しかし、株式投資であれ債券投資であれ、この文脈における「貯蓄」であることには変わりはなく、大森参事官のいうような意味で「貯蓄を投資に置き換え」たところで、貯蓄超過は解消されません。この意味での貯蓄超過を解消するには、銀行預金であれ株式であれ債券であれ、金融資産の保有に替わっての消費を増やすか、それとも借入れであれ株式発行であれ債券発行であれ、資金を調達しての投資を増やすかのいずれかでしかありません。
そういったことなく、銀行預金が減って株式投資や債券投資が増えたところで、「過当競争して信用リスクに見合わない」低いリターンが解消されるかといえば、そんなことがあるはずもありません。銀行とて全ての資金を貸出しに回しているわけでもなく、貸出しより有利と見れば債券や株式の購入をしているわけですから、貸出金利と債券金利、配当利回りには裁定が働いています。となれば、低いリターンは預貸市場に特有の現象ではなく、マクロ的に見た日本の資金調達・運用全体に生じている現象であって、株式市場や債券市場においても同様の事態が生じていることになるのです。
ミクロ的に見た場合、「貯蓄から投資へ」、すなわち各経済主体の資金運用先が銀行預金から市場性の金融商品へとシフトする場合には、銀行に各種のリスクが集中するのか、それとも投資元の各経済主体に分散されるのか、というのが最大の違いということとなります。デフレ下での金融危機を経て、銀行へのリスク集中の度合いが高すぎることを問題視してこその「貯蓄から投資へ」である、とwebmasterは理解していたわけですが・・・。
