現在の不動産価格はどこまで「バブル」か?
先日の路線価の公表を踏まえ、現在の不動産価格はバブル的である、といった議論が見られるようになりました。
「上昇の角度が急すぎる。バブル時代に似てきた」
都市未来総合研究所の浦上健副主任研究員は、東京都の最高路線価の動きなどから、こう分析する。
都内の最高路線価は中央区銀座5丁目銀座中央通りで、前年比33・3%増の1平方メートル当たり2496万円、2006年分でも23・8%の上昇率を記録しており、2年間で1・5倍に値上がりした。
それでも、浦上氏は「今後数年は同様なペースでの上昇が続く」とみる。今後2年間、20%の上昇が続けば、バブル時代の都内の最高路線価の3650万円と同水準に達する。
(略)
業界関係者は「バブル期のような短期の値上がり期待によるものではなく、収益還元に基づいた適正なもの」と口をそろえる。都心部ではオフィスビルの空室率が極端に低い水準で推移しており、賃料相場が急騰している。異常な高値で取得しても、賃料の上昇により十分に採算が取れるというわけだ。
しかし、賃料相場はテナント企業などの需給に加え、景気動向にも大きく左右されるだけに、どこまで上昇が続くかは不透明だ。
FujiSankei Business i「路線価上昇 ファンド資金流入でバブル懸念」
さて、こうした地価上昇はどの程度ファンダメンタルズ=収益還元によってもたらされ、あるいはどの程度ファンダメンタルズに基づかない=バブル的といえるのか、この記事だけでは収益=地代の動向がわからないので何ともいえません。しかし、不動産価格の変化から、どの程度の地代の変化であれば正当化されるのかは求めることができます。
一般に、あるキャッシュフローを永続的に生み出すストックの価格は、
- PV=C/r
として求められます(PV:割引現在価値=ストック価格、C:キャッシュフロー、r:割引率(金利))。単純に、記事中の「20%の上昇」が実現するにはどの程度のCの変化があればよいかとは、
- 1.2×C0/r=C1/r
を満たすC0とC1を求めればよいということになります。両辺にrを乗じれば、
- 1.2×C0=C1
というわけで、地代が20%上昇したなら、ストック価格が20%上昇しても何の不思議もないこととなります。
さらに、地代が20%上昇しなくても、ストック価格が20%上昇することもあり得ます‐地代の上昇が永続的に実現する場合において。永続的なフローの上昇が見込まれる場合のストック価格は、
- PV=C/(r−g)
として求められます(g:キャッシュフローの成長率)。このgが増えた場合、分母が小さくなり、したがってPVもまた増えることとなります。計算上の簡便から、gがゼロから一定の数値まで増えた場合として20%のストック価格上昇を表すと、
- 1.2×C/r=C/(r−g)
となります。これをr=0.02と仮定して解くと、
- g=0.00333…
となり、永続的な年0.3%強の地代上昇が見込まれれば、20%のストック価格上昇が実現するということになるわけです。たとえば家賃10万円の借家住まいで、2年前の前回更新時には家賃据え置きだったのが、「今回は、更新後は10万700円になりますが、それでいいですか」と言われ、今後の2年ごとの更新も同じ割合で家賃が上昇していくと見込まれるようになったなら、それだけで20%のストック価格上昇がもたらされてもおかしくないわけです。
#厳密には、減価償却など他の要素も影響してくるので、ここまで単純な話にはなりませんが、だいたいのイメージとして。
20%といわず、もっと大規模な地価上昇はどうなのでしょうか。
民間調査会社の不動産経済研究所は2日、2007年上半期(1〜6月)に首都圏で売り出された分譲マンションの平均販売価格上昇率ランキングを発表した。
市区町村別では、東京都港区(平均販売価格1億2236万円)の上昇率が前年同期比99・5%とほぼ2倍に値上がりし、トップだった。東京都千代田区(同1億4615万円)の90・6%、東京都目黒区(同9609万円)の60・0%が続いた。東京都稲城市も上昇率が50%を超えた。上位20地区の平均上昇率は32・2%だった。沿線・駅別では、東京都港区の東京メトロ日比谷線の広尾駅(販売価格2億5865万円)が、前年同期の約5・7倍と急上昇してトップになった。
人気エリアの東京都港区では「億ション」と呼ばれる富裕層向けの高額・高級物件の建設が進んでいる。一方で港区のマンションの供給量は前年同期の4分の1程度に落ち込んでいる。同研究所では、「地価上昇に加え、希少性が高まり、価格が上がった」と分析している。
ここでのトップの広尾の例を、先の計算と同様に、
- 5.7×C/r=C/(r−g)
と置いてr=0.02で解けば、
- g=0.0165…
となり、同様に永続的な年1.7%弱の地代上昇が見込まれれば、5.7倍にもストック価格は上昇するわけです。先の例の数値を変えれば、更新後の家賃が10万3,500円ぐらいになれば、5.7倍というストック価格上昇も十分に説明がつくということになるのです。
もちろん広尾の例ではそのような地代の上昇は観察されていないかもしれず、そうであれば少なくとも収益還元の考え方では説明できない価格形成だということになるわけですが、いずれにしても、不動産価格だけをみてバブルだと騒ぐことには、あまり意味がないというのが実態なのです。といいますか、フローの変化に触れもせずそのように騒ぎ立てることの方が、よほどバブル的な現象であるような(笑)。
バブルの再燃をどうやって防ぐのか。国土交通省では昨年12月から「企業不動産の合理的な所有・利用に関する研究会(CRE研究会)」を立ち上げ、今年3月に不動産市場の取引価格や賃料のデータ整備することを決めた。こうした動きを踏まえ、民間でも適切な資産評価に基づく提案型ビジネスが活発化しつつあり、官民一体の取り組みが動き出し始めている。
FujiSankei Business i「路線価上昇 ファンド資金流入でバブル懸念」
フローの動向を今まで把握していなかったことの評価の是非はさておき、このような取組みが進むことにより、バブル警戒論という「バブル」がはじければなぁとwebmasterは思うのです。
