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  • 08/06/2007 (6:20 pm)

    大沼本に対するApemanさんのご意見について

    Filed under: politics ::

    以前、大沼保昭「「慰安婦」問題とは何だったのか」について、webmasterは非常に高く評価したのですが、同書に対して、Apemanさんからご批評がありました。せっかくのご主張ですから、より深く掘り下げる機会を失ってしまうとすればあまりにもったいなく、不肖webmasterが議論の相手を務めさせていただければと思い、エントリを立てた次第です。

    アジア女性基金に反対した(積極的に反対しないまでも支持しなかったものを含む)左派すべての内心を勝手に忖度するわけにはいかないけれども、「お金が被害者に届くかどうかだけではなく、どのようなルートで届くかが重要」という認識は広く分け持たれていたと考えてよいのではないだろうか。公的支出による(を含む)「償い金」であれば、擬製的にではあれ「日本国民全体がかかわる仕組み」が成立したことになるからだ。大沼氏自身もその点をよく承知していたからこそ、「償い金」の基金にも政府の拠出を求める構想を立てたのではないのだろうか。

    裁判闘争にこだわる左派への大沼氏の批判が見落としている(あるいは軽視している)と思われるのは、このような「金」の正統性に対する左派の意識であると思われる。大沼氏は元慰安婦がみな高齢であり、病気や生活苦に悩む人々も少なくないことを挙げ(88、153ページなど)、時間がかかり勝つ見込みもほとんどない裁判への固執を非難している。しかしそれならば、補償(裁判闘争)と生活・医療支援とを切り離して後者のみを純民間ベースで行なうことを広く呼びかけるという選択肢もあったはずだ。それならば「お金を受け取れば補償請求闘争に悪影響がでる」という誤解(49ページ)などはじめから生じなかったはずである。

    「「『慰安婦問題』問題」とは何だったのか(その1?)」(@Apes! Not Monkeys! はてな別館8/5付)

    webmasterから指摘したいのは、次の2点に関するものとなります。

    • お金の量
    • 総理のお詫びの手紙

    第一点目について、Apemanさんも「お金が被害者に届くかどうかだけではなく、どのようなルートで届くかが重要」とおっしゃっているわけですが、当然ながら、お金が届いてはじめてルートを問題にすることが可能になるわけです。届かなければルートは存在しないわけですが、では女性基金以前にどれだけのお金が届けられたのでしょう。

    Apemanさんからは、「補償(裁判闘争)と生活・医療支援とを切り離して後者のみを純民間ベースで行なうことを広く呼びかけるという選択肢もあったはず」との言及がありますが、大沼先生の方向に異論があるならば、当時においてもそのような道に進むことは可能でした。しかし現実にはそうした動きがどれだけあったというのでしょう。

    Apemanさんご自身、ちゃんと調べていないので断言はできないが、そうした活動をしているNGOもあったんじゃないだろうかと注記で触れていらっしゃるに止まっています。仮に存在していたとしてもごくわずか、つまりは女性基金によって生活・医療支援を受けた方々の多くは、女性基金がなかったとすれば困窮のまま結果的には放置されざるを得なかったと考えられることとなります。

    つまりは政府その他、「裁判闘争にこだわる左派」以外の人々を広範に巻き込むことで、明らかに届けられるお金の量は増えたのです。大沼先生とて、大沼本を見れば明らかではありますが、彼なりの筋を通したいという思いを枉げて=自分なりの「正統性」が穢れるのを十分承知で、より多くのお金を届けたいとの願いから、本当に譲れない部分以外は勇気を出して妥協したわけです。

    あたかも大沼先生が「正統性」についての意識を見落としている、あるいは軽視しているかのごとき評価は、(webmasterの勝手な推測ではありますが)彼のそうした断腸の思いを見落としている、あるいは軽視していることであるようにwebmasterは見えます。それは結局、自らは「正統性」を護持しているとの自己満足と引き換えに、必要なお金を届けられないとの結果をもたらしているのではないかとの、大沼先生からの批判に耳を閉ざすことでもありましょう。

    第二点目について、総理のお詫びの手紙とは上述の「本当に譲れない部分」のひとつでありました。第一点目としては「補償(裁判闘争)と生活・医療支援とを切り離し」た後者についての議論でしたが、こちらは前者についての議論となります。女性基金に依らずして裁判闘争、あるいは政治闘争として「正統性」ある補償を求めたとして、それが得られる可能性はいかほどだったのでしょうか?

    議論の構造としては第一点目と重なってしまうので贅言は避けますが、要するに結果を出した大沼先生に対して、ああすればよかったとか、こうすればよかったとか、そのような批評をするのは簡単なことです。他方、それが説得力を持つには、「ああすれば」「こうすれば」に、それなりの蓋然性が備わっていなければならないでしょう。結局のところ、webmasterにはその蓋然性が見えてこないのです。

    無礼な忖度ではありますが、大沼先生も、たとえばサハリン棄民問題においては、Apemanさんと似通った姿勢で事に臨んでいたのでしょう。そこでの挫折を経て‐あるいは挫折を糧にして‐、女性基金の実現にこぎつけたのでしょう。大沼本は、そうした彼自身の長きに渡る試行錯誤を後進がムダに繰り返すことがないよう、道標として世に問われた側面も少なくないのではないでしょうか。Apemanさんのご主張をwebmasterが浅くしか読み取れていないがゆえの以上であり、同じことを繰り返すのではというのが杞憂であらんことを。

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    15 Responses to “大沼本に対するApemanさんのご意見について”

    1. PK Says:

      この種の問題は、一切無視が正しいと思います。
      黙殺、慇懃無礼、遺憾の意で十分です。
      本当の戦犯である左翼が、被害者である日本人を裁く権利は無い。
      戦前の日本の過ちを正しく分析しないと、また同じ目に会うと言うことです。
      この種の問題に反応することは、ちょうどシナ事変の泥沼に落ちるのと同じです。
      彼ら左翼にとって、日本の破壊こそ、共産主義的新生の条件だからです。
      前の戦争では、新生をし損なった。ソビエトや中国が来るまえに米国に日本を渡してしまった失態を犯してしまったわけですから。

    2. koshy Says:

      いつも拝見させていただいてます。

      丁度タイミングよく?佐藤優氏が米国下院の慰安婦問題決議に関して言及していて、なかなか興味深い内容でしたので、又引きで恐縮ですがご紹介しておきます。
      http://tbs954.cocolog-ifty.com/st/2007/08/86_7611.html

    3. koshy Says:

      先の件、リンク先の表記が間違っていたようです。済みません。
      正しくはこちらです。
      http://tbs954.cocolog-nifty.com/st/2007/08/86_7611.html

      失礼しました。

    4. 西麻布夢彦 Says:

      わからない。
      ああ、わからない。

      「慰安婦」の存在を認めると言うことは、日本という国が「人間狩り」をしたことを認めることになるのですが、迂闊に「慰安婦」の存在を前提に論を進めていいのでしょうか?

      ※自社さリベラル政権は、とことん「ろくでもない」ことをしてくれたものだ。(ため息)

      ※リベラルの人の中には「事実はどうであれ、困っている人がいるんだから救済しろ」という人もいて……やんなっちゃうよぉ

    5. ir Says:

      Apeman氏の前エントリおよびbewaad氏への返答を読みましたが、率直に言って

      「無い物ねだり」

      という以上の感想をもてませんでした。月並みな言い方ですけど政治は妥協とほぼ同義だし、敵を増やさず味方を増やさないとしょうがないと思うんですよね。何か実現しないとしょうがないだろうと。評論家と行政官とのすれ違いを見た気がします。

    6. webmaster Says:

      >PKさん
      本件については、「左翼」に戦前〜戦後の連続性は少ないのではないでしょうか。

      >koshyさん
      情報提供ありがとうございました。佐藤さんの高評価は、使えるものは何でも使えというプラグマティズムに基づくもので、イデオロギーなんて二の次なんでしょうね(もちろん、外交官としてあるべき姿勢ですが)。

      >西麻布夢彦さん
      「人間狩り」関連の話は、エントリでリンクを張った前のエントリのコメント欄で議論をしておりますので、そちらをご覧いただければ幸いです。

      >irさん
      Apemanさんには、明日にでもお応えを書きたいと思います。

    7. truly_false Says:

      大沼先生の“サハリン棄民”問題については、↓にてもその内実が記されています。
      サハリンの韓国人はなぜ帰れなかったのか―帰還運動にかけたある夫婦の四十年
      新井 佐和子
      http://www.amazon.co.jp/dp/4794207980/

      ↑についてのfinalventさんの書評(↓
      http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2004/09/...

    8. 西麻布夢彦 Says:

      法解釈学の話の後に、議論がでていたようですね。
      蒸し返したくもないのですが、一応。

      > 「日本が国家として女性を狩って性奴隷とした」というのは、
      > あくまで私の主観ではありますが、上記の例でいえば中国は
      > 海賊版国家だ、という際に中国政府自身が海賊版を製作して
      > いることを意味するのではなく、海賊版製作者を事実上野放
      > しにしていることを意味するように、軍の秩序維持に有益
      > だからとの思惑等から違法業者の取り締まりに熱が入らず
      > 違法状態がはびこっていたことをも含むものだと思うのです。
      > そうした嫌疑をかけられている日本が、政府自身が人身売買
      > の当事者ではなかったと反論したところで、問題を矮小化して
      > 話をそらしている、と思われてしまうでしょう。

      議論のすり替えがありますね。

      (1) 「中国は海賊版国家」
        日本の議会は、そんな決議をしたのでしょうか?
        一私人が偏見を含めた目で、中国などを蔑視・中傷すると
        いうことと、国家が国家を非難することは別の問題ですね。

      (2) 「違法業者の取り締まりに熱が入らず」

         ’が入っていないなどという話はありません
          むしろ、取り締まれと言う公文書が発見されています。
          (熱心に取り締まっていた証拠)

        ◆ 嶇辰鬚修蕕靴討い襦△隼廚錣譴討靴泙Α廚呂困發△蠅泙擦鵝
          犯罪を予防鎮圧できなかったら、その政府は犯罪の共犯だ、
          などという思考をするなら、よほどIQの低い人間です。

          「日本では殺人や窃盗が無くならない。よって、日本国は
           殺人や窃盗の共犯である」などというなら、
          それはアナーキズムですね。

      そもそも、慰安婦問題は、日本人が誤解されているとか、何らかの
      被害者の救済などという問題ではなくて、「人権外交」という武力
      を用いない戦争に他なりません(米国が中国を「天安門事件」や
      「ホウリンコウ問題」で虐めているのと同じシリアスな外交案件
      です)。

      だからこそ、慰安婦の存在について結論が出ていない時に、迂闊に
      周辺事項を論じるのは危険だと考えるのです。
      (慰安婦の存在を認めたことになる)

      案の定、北朝鮮は慰安婦問題を盾に拉致の骨抜きを開始しました。
      悲しいことですが、これで生きている拉致被害者の救済も絶望的に
      なりましたね。

      わかりもしないことを迂闊に認めれば、取り返しのつかない結果を
      生む実例です。
      (日本政府は、わからないことはわからないと答えるべきだったの
      です)

    9. webmaster Says:

      >truly_falseさん
      情報提供ありがとうございました。

      >西麻布夢彦さん
      学問的な論争でなく政治闘争というのであればなおさら、「わからないことはわからない」ではすまないでしょう。政治闘争の文脈では、上でご紹介いただいた佐藤優さんの見解に私は賛成です。

    10. koge Says:

      そもそも「人権」とか「民主主義」なんてのが真理でもなんでもなく、西欧キリスト教社会から生まれたローカルな文化なんじゃないかと考えている自分の中の極右な部分には、慰安婦にせよ強制連行にせよ「やりました。それが何か?」(事実は向こうの言うとおり認めるがそれを悪いことだと思ってないから謝罪も賠償もしない)と、米国の原爆投下と同じようにいってしまいたい気持ちがありますね。
      ただ、そんなことをしたらたとえ中韓を納得させられても、「貧しいから仕方なく」どころか女性たちが好きでやってることでさえも売春そのものを認めないピュリタニズムの国米国(http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20070515)が核ミサイルを撃ち込んでくるでしょうがw

    11. webmaster Says:

      >kogeさん
      どちらが鶏でどちらが卵なのかはわかりませんが、人権の保障は経済的発展と明らかに相関関係があるわけで、人権に対するオルタナティヴの構築があるのであれば、理念的な話は措くとしても、より経済的に優位であるものでないと長続きしないのだろうなぁと思ってます。

    12. rhsm Says:

      >むしろ、取り締まれと言う公文書が発見されています。
      違います。従業婦募集に任ずる者の人選、すなわち、選び方が
      適切を欠くため、従業婦募集の方法が誘拐に類し、
      警察当局の取り調べを受けることがあるという
      趣旨の公文書です。
      〜募集ニ任スル者ノ人選適切ヲ欠キ為ニ募集ノ方法誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル〜

    13. webmaster Says:

      >rhsmさん
      情報提供ありがとうございました。

    14. 西麻布夢彦 Says:

      あまりこの話は深入りする気はありませんが、佐藤優さんは、2つのことを言っていて、その一つは、慰安婦問題は無視してしまえ(謝罪するな)と言っています。
      そして、東郷さんに「それでは解決できない」と反論されたと言っています。
      私は、慰安婦問題は「解決させない」というのが正解だと思っています。
      100年くらい無視していれば、雲散霧消する話にすぎません。(日本が実力をつけるか、他の重要な問題が生じれば、誰も口にしなくなる問題です)

      あと、僕は自分の犯罪をごまかすために検察の正当な捜査を「国策捜査(冤罪)」と強弁するような人間は信用しません。

      ま、この件は、私も乗ってない話題ですので、管理人様が、特に望まれないなら、この辺で、お開きにいたしたく。

    15. webmaster Says:

      >西麻布夢彦さん
      では、お開きといたしましょう。

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