与謝野官房長官の恐ろしい経済認識
本日の各紙に与謝野官房長官インタビューが掲載されていましたが、おおむね次のような内容が揃って含まれていました。
──経済成長と税制が財政再建の車の両輪といっているが、具体策は。
「数字だけの遊びであれば、例えば名目成長率15%という想定で計算すれば日本の財政はあっという間に解決する。ただ、国民の生活にとって物価が安定していることはとても大事だ。名目成長率を上げれば、確かに財政には寄与する。しかし、名目成長率をあげていけばいいというインフレ政策、悪魔的な政策は国民には迷惑な話だろうと思う。やはり地道にやっていくしかない」
「名目成長率を上げるためには、実質成長率を上げなければいけない。口で言うのは簡単だが、日本のように成長しきった国が背丈を伸ばしていくのは簡単なことではない。しかし、国際競争力を失いたくない。新経済成長戦略は日本の豊かさを維持するためにどうしてもやっていかなければいけない政策の一つ。経済が成長すれば、一定の弾性値を持って税収は上がっていく。車の車輪の一つであり、インフレをめざさなくても大事なことだ」
「一方で、財政を再建しないと、いずれクラウディングアウトが起きる。民間が使うべきお金を政府が使うことで、急に長期金利が上がってしまう。長期金利が上がれば、設備投資意欲は衰え、借金の返済も苦労し、日本の経済にとって決していいことは起きない。経済にとっても、健全な財政規律を維持していくことは大事なこと。そういう意味で、車の両輪という言葉を使っており、これは小泉純一郎首相、安倍晋三首相、新改造内閣において一貫して貫かれている思想と理解している」
朝日(ロイター)「財政規律維持しなければ経済に悪影響=官房長官」
中川前自民党幹事長の上げ潮政策の目標が4%の名目成長率であるのが典型ですが、名目成長率を重視する者であっても、誰も15%の名目成長率を目指せなんてことは言っていません。実質2%+αとインフレ率2%+αで、4〜5%といったところが平均的でしょう(webmaster自身は、物価水準ターゲティングの採用によって当面は一桁台後半の名目成長率を目指すのがいいのではないかと思っていますが)。15%の名目成長率=二桁のインフレ率と印象操作をして「悪魔的な政策」とは、勘弁願いたいものです。
2%程度のインフレ率は、グリーンスパンvsイェレン論争においても、現実世界において実現を目指すものとしては妥当だとされた水準です。コアコアCPIが対前年マイナス0.5%程度で推移している昨今、「インフレをめざさな」いとすれば現状維持でも可ということでしょうけれども、そのような主張がそれこそ「国際競争力」を有するものとは到底考えられません。
他方で実質成長率を上げていこうというのは、官房長官ご自身が「簡単なことではない」とおっしゃっているところ、ブラインダー、イェレン「良い政策悪い政策」やクルーグマン「クルーグマン教授の経済入門」にてそうそうたる碩学がよくわからないとさじを投げている問題です。簡単ではなくとも可能だと証明できるなら、こちらは「国際競争力」が十分にあるでしょうから、ぜひとも論文に仕立てていただいて日本人初のノーベル経済学賞受賞を目指していただきたいもので。
クラウディングアウトが「いずれ起きる」かどうかは、民需がきちんと盛り上がるかどうかにかかっていますが、こちらは小野善康「不況のメカニズム」にて、実際に民需を圧迫するのは問題ではあれど、そのような事態に立ち至っていないにもかかわらず、将来を懸念して現在のリソースの遊休を放置することのムダが論じられています(小野先生は、官民の資金の奪い合い(=金利上昇の有無)ではなく労働力の奪い合い(=完全雇用か否か)で論じていらっしゃいますが、同趣旨といえます)。
いずれにしても、webmasterの推測では、この路線では実質成長率が上がらないままデフレ脱却も達成できず、かえって財政状況を悪化させてしまうことになるわけですが・・・。
なお、上記の成長率に関連して、これはwebmasterが見たところ朝日だけですが、次のような言及があります。
──経済成長の具体策は。
「一時的に有効需要を増やすことでは経済は成長をしない。効率化・合理化が最も遅れているのがサービス産業。サービス産業分野の生産性を上げることは心してやっていかなければならない。もう一つは、技術力、新製品開発力。本当に力となる分野で地道な努力を積み重ねていく。これは日本にしかできない分野を維持し、つくりあげていく間断なき努力が必要だと思っている。ただ、幻の成長では困る。土台のしっかりした成長をめざすべき」
朝日(ロイター)「財政規律維持しなければ経済に悪影響=官房長官」
民間の企業経営者にわからない効率化・合理化策がわかるというのは傲慢じゃないでしょうかねぇ。マクロへの影響を考えず何が何でもサービス産業の生産性を上げたいなら、たとえばドイツの閉店法のようなものを作る、なんてやり方はありますが。営業時間に強制的にキャップをはめれば、経営者はより儲からない時間から営業を停止するでしょうから、当然ながら生産性は上昇するわけですが・・・(たとえばコンビニの営業時間を1日あたり最長で16時間(▲8時間)とすれば、投入リソースの減り方に比べれば売り上げは減らないでしょうから、仮に前者が▲30%で後者が▲20%であるなら、生産性は14%強も改善されます)。





9月 5th, 2007 at 0:31:41
わからないといっても何もしないというわけにいかないのが政治なんでしょうけど、これはもっと広範に人件費を低く抑えられるよう法改正して生産性を上げると言うことではないんでしょうか(笑)
9月 5th, 2007 at 0:32:16
読んでてクラクラする。
安部内閣って、他人が埋めた地雷を踏む役目(マインスイーパーw)をやらされていて悲惨だなぁーと思ってみていたけど、次の内閣改造はあっても当分先だろうし、官房長官交代のためには退陣してもらうしかないか。
9月 5th, 2007 at 2:17:34
先日与謝野官房長官が日銀に向かって「独立性には責任が伴う」と素晴らしいコメントを出していたのを見て、休養中にマクロ経済の勉強でもして目が覚めたのかとすら思ったのに…なんじゃこりゃ…
9月 5th, 2007 at 7:04:54
> いずれにしても、webmasterの推測では、この路線では実質成長率が上がらないままデフレ脱却も達成できず、かえって財政状況を悪化させてしまうことになるわけですが・・・。
財政は悪化しない。
なぜなら増税をするから。
そして、国民が死に絶えた世界で財政の均衡を実現すればいいのさ。
(収入も支出も0で均衡するでしょうよ)
9月 5th, 2007 at 11:16:34
>4
増税したってデフレ→マイナス成長すればGDP/国債比率は上昇するので財政は悪化しますよ。
>bewaad様。
与謝野官房長官は上限金利規制の総大将ですから。
こんな人物が経済財政のエキスパート扱いですからねえ。
しかも財務省からの信任がもっとも厚いとか。
「ジミンに兵なし」ですね。
財務省には兵はいるのかもしれませんが、まったく見えてこないような。(笑)
bewaadさんの過ちは与謝野官房長官は調整役だから経済問題で音頭をとらないだろうとの認識ですね。
そんなタマかっつうの。
9月 5th, 2007 at 12:26:01
生産性向上の名目で、まーたミクロ介入か!
9月 5th, 2007 at 12:47:50
はてなブックマークで「民主支持に乗り換えた」と書いている方がいたので、ブクマでコメントしておきましたがここにも書いておきます。
小沢一郎の金融政策観です。
http://ozawa-ichiro.jp/massmedia/fuji/2003/fuji127.htm
日銀総裁人事をめぐっては、与党内から「インフレ目標(ターゲット)導入に積極的な人物を」という声が挙がっていた。デフレを食い止めるという趣旨は分かるが、一体、具体的にどうするつもりなのか?
もし、「日銀引き受けの国債をどんどん発行しろ」ということならば、そのプランが表面化した瞬間に日本の国際的信用はゼロになるだろう。国債乱発によって財政規律が失われるだけではなく、国債価格の暴落や長期金利の急騰、国の信用失墜による通貨価値の下落などが連鎖的に発生し、インフレの暴走を止められなくなる危険が高い。
9月 5th, 2007 at 13:28:00
小野善康「不況のメカニズム」は、主流派がケインズの世界に遊びにいける「どこでもドア」であるという点に大きな効用がある。
私は、去年までのインタゲには反対だが、今年からはやってみる価値はあると思う。中国もインフレになり、エタノールで穀物価格が上がりっているので、イギリスのように目標圏を公表するのは良いと思う。それによって日本全体の流動性が増す・浮き足立つだろう。
その時には、情報の形成、財務省の外貨準備の残高管理、日銀の金融政策が一体になって動くことが重要だ。
9月 5th, 2007 at 14:50:27
>鍋象さん
もし麻生-与謝野ラインができているのなら、麻生内閣になっても与謝野官房長官かもしれませんね。谷垣内閣でも、やっぱり与謝野官房長官でしょう。orz
9月 5th, 2007 at 22:59:51
>労働無価値さん
一人当たり人件費が下がった結果頭数が増えるようだと、かえって(一般的な定義にしたがった)労働生産性は下がっちゃうんですけれども、勘違いしているかも(笑)。
>鍋象さん
望みは、官房長官の職務に忠実に、政策の中身に(少なくとも担当の大臣を差し置いてまでは)容喙しない可能性ぐらいでしょうか。
>中の人さん
官房長官の価値観においては、立派に責任を果たしているということになっているのでしょう・・・。
>西麻布夢彦さん
人が消え去っても借金は残るでしょうから、しばらくはゼロ均衡には達しないでしょう(笑)。
>市井の勤務医さん
鍋象さんへのお応えで書いたように、まだ希望は捨てていないのですが(笑)。とりあえず、諮問会議でどのような発言をするのかが要注目ではないかと思います。
>⊂二二二( ^ω^)二⊃さん
その一方で規制緩和といっているのですから、どのように体系化されているのかよくわかりません・・・。
>cloudyさん
リフレ政策に理解を示される政治家は、与野党ともに少数派ですねぇorz。
>Baatarismさん
現改造内閣での与謝野官房長官は、官邸の鼎の軽重が問われる中で重量級を配した格好ですから、お示しの政権が発足した場合には、より秘書役・補佐役的な官房長官として違う人が登用される可能性は高いと思います。だからといって財務大臣になったりしようものならガクガクブルブルですが(笑)。
9月 5th, 2007 at 23:06:34
本論ではありませんが、税金に関して。増税に関しては、崩壊に瀕しつつある社会保障費の財源として用いるのだと言われたら、国民としても否定することは難しいかも知れません。
歳出を削りに削った結果か、国民は悲鳴を上げているようで、社会保障の充実を求める声が挙がっているようにも思います。
この所の政府・自民党は勿凝学問でもバイブルにしているのでしょうか。表面だけみれば相通じるものを感じるように思います。
9月 6th, 2007 at 1:32:55
このような記事を目にするたびに、日本では社会科学分野の専門知への軽視を感じてならないですね。これだけ大学で経済学を学ぶ人たちが多いにもかかわらず、現実を分析するのに使われない国も珍しいかと。
勉強は勉強、実務は実務で乖離してしまっているのでしょう
。
日本で経済通と呼ばれる人は、財務省や経済産業省または財界の(ミクロ的な)意向に通じている人であって、マクロ経済について深く理解している人では無いですよね。金融通も、実は金融政策について理解しているのではなく、金融業界の事情に詳しいだけの人なのかなと感じます。
まぁ、今回も財務省の省益としてはミクロ的には正しい動きなのかもしれませんが、マクロ的には大問題ですね。この考え方こそ、日本の国益ではなく財務省の省益ではないかと思います。
ではでは
9月 6th, 2007 at 10:59:17
サービス業の生産性を上げるっていうのは、定義矛盾みたいなところがあると思います。たとえば、ビル清掃なんかは生産性に貢献しないから外部化したいというニーズがあり、それに応えてビジネスが成り立っているわけです。そうすると、需要サイドはできるだけ価格を抑えたいと思うわけで、ビル管理の付加価値生産性は上がりません。ソフトウエアでさえ、クライアントが無理解だと適正な価格をとれません。発注後に仕様変更があっても、追加料金なんて請求できないし。サービス業の生産性を上げるには、結局アメリカのように労働者をこきつかうしかないんです。それか、ストでもうって、あるいはカルテル組んでいっせいに料金を値上げするか。いままでの延長線上では無理です。
ちなみに、わたし個人は日本のサービス業の生産性が低いとは思っていません。消費者余剰を含めると日米の数字は逆転するんじゃないかなと思っているくらいです。証明するすべはありませんが。
9月 7th, 2007 at 0:01:43
>bn2islanderさん
細川内閣時代の国民福祉税構想に見られるように、実は昔からのやり方であるともいえなくもありません。税ではなく保険料負担であれば、すでに何度も引き上げられてきているわけですし。
>竹馬さん
本日(6日)のエントリでも書きましたが、一概に反専門・反知識といえないのだと思ってます。
>e-takeuchiさん
>消費者余剰を含めると日米の数字は逆転するんじゃないかなと思っているくらいです。証明するすべはありませんが。
コンビニの営業時間を例示したのは、同様の問題意識に基づくものです。流通業なんて、配給制がもっとも効率的でしょうけれど、消費者余剰は最低でしょうし。