与謝野官房長官は反知性主義者?
先日のエントリに関連して、svnseedsさんが次のようにお書きです。
何にせよ個人的には、もう本当に日本はダメだなあと思いました。15年も同じことばかりやっている。根っこにあるのは反知性主義的な感情で、これは実は戦前から変わっていない。悪いことに、不景気が続くことでこの感情はますます多くの人々を引きつけて行く。これから日本がどこへ向かっていくかはわかりませんが、何れロクなものではないでしょう。真に自業自得と思います。
「もう日本ダメだね」(@svnseeds’ ghoti!9/5付)
ここでsvnseedsさんが「実は戦前から変わっていない」とおっしゃるのは、おそらく昭和恐慌時が典型ではないかと察しますが、では昭和恐慌時にいわゆる石橋湛山や高橋亀吉らの「新平価解禁四人組」が学界の通説を代表していたかといえばそうではありませんでした。ネット上のリソースとしては野口旭の「ケイザイを斬る!」/第4回 清算主義=無作為主義の論理と現実がよくまとまっていると思いますが、清算主義を正当化する知性もまた少なからず存在したのが実際です。
与謝野官房長官の現状認識は、煎じ詰めれば、
- 日本の経済低迷はサプライサイドの問題に因るところが大きい、
- 日本の財政破綻を回避するためには消費税等の増税が不可避である、
ということになりましょうが、前者は林&プレスコット論文に代表されるように学界においても支持者が多い仮説ですし、後者はたとえば、
――インフレになることで国の財政はどう変わるんですか?
土居 たとえば、いまより物価が倍になるとします。これは、お金の価値が半分になるということです。缶ジュース10本で1200円だったのが、インフレ後には2400円になる。現金1200円では5本しか買えなくなるんですね。これがお金の価値が目減りするということです。
このとき、国債と税金がどうなるかを考えてください。インフレになっても、国債の額面はそのままですよね。だから、国債の価値は半分になる。一方税金は、すごく単純に言えば、額面では倍になる。消費税を考えればわかりやすいでしょう。
つまり物価が倍のインフレになると、国債という借金の負担は2分の1になり、税収は2倍になるので、借金が半分返せちゃうということです。だから、簡単に言えば借金を半分にしようと思ったら、物価を倍にすればいい。そういう関係になっているんですね。
――物価が倍になるなんてことは、ありえるんですか?
土居 さすがに物価が倍になったら経済は破綻同然ですから、日銀はその前になんとかするでしょう。でも、このまま財政が悪化の一途をたどれば、10%ぐらいのインフレや20%ぐらいの金利というのは、ありえない話ではないと思いますよ。そうなったらかなりあやうい経済ですけど。
――それを避けるには……
土居 今から手を打って、借金をできるだけ増やさないようにするしかないんですね。無駄な財政支出を極力減らし、つらいけれど増税をお願いする。
――どのあたりから手をつけるべきでしょう?
土居 やっぱり消費税でしょうね。10%は当たり前、15%ぐらいの数字まで、段階を踏んで上げていく。これこそポスト小泉政権の最大の課題でしょう。
――財政学の専門家はそのあたりの見解は一致しているんですか?
土居 消費税10%はほぼ合意できてますね。消費税が1%あがると、2兆円の税収が入ってきます。だから5%アップの10%にすると、いまより10兆円増える。それでも単年度の借金の半分にはなりません。全然、足りてない。そこでもう一つ、国から地方への補助金を減らす。いま地方交付税が16兆円ありますけど、私はこれを半分にできると思っています。そうすると、8兆円浮きますよね。これで国が毎年している借金の半分以上は減らせます。消費税アップと地方交付税のカット、この二つが財政再建の軸だと私は思っています。
「第11回 国の借金は減らせるの?――土居丈朗インタビュー其の二」 日刊!ニュースな本棚
とあるように、「財政学の専門家はそのあたりの見解は一致してい」たりもします。となると、与謝野官房長官とて「知性」に依拠した主張をしているのであって、反知性主義に基づき専門家に広く支持される見解を無視しているわけではない、ということになるわけです。
これらのうち、とりわけ財政問題については、財政学者なんてものは財務省の御用学者ばかりだとの陰謀説的な認識もあるのでしょうけれど、たとえば権丈先生が医療経済学の知見を無視した「経済学」に基づく主張が多いとお嘆きになっているように、真の専門家である財政学者は上げ潮政策に否定的で、あんなものを支持するのは一知半解で「経済学」を語る論者なのだ、という認識も枠組みとしては十分成立し得るわけです。どちらが反知性主義的かといえば、むしろ前者ということになってしまうのではないでしょうか。
たとえば脚気について、「科学的根拠」があるとされた森鴎外らの脚気細菌説とそれに基づく誤った陸軍の脚気対策を退けたのは、最終的には医学界における学問的成果でした(森鴎外の死亡を待ってではありましたが)。日本の経済政策についても、経済学者の間でおおむね共有されている知見に明らかに反するものは少ないのではないでしょうか(たとえば貿易政策について、昨今においては真正面から保護貿易を是とする意見はなく、保護的な主張であっても、外部性等の存在を前提としたものでしょう)。つまりは経済学界で決着がついていないからこその経済政策を巡る路線の混迷であり、決して反知性主義によってそれが生じているわけではない、とwebmasterは思うのです。
