地方分権と経済成長
とあるところにて、
中央集権国家と地方分権国家の成長率の実証分析が欲しい。
というものを見かけ、確かに興味深い話だと思いましたので、簡単な分析を。
材料としては、当サイトでは何度か取り上げているアレンド・レイプハルト「民主主義対民主主義」を用います。その第10章は「連邦制と分権」であり、「連邦制・分権指数」として、まずは連邦制と非連邦制(単一国家)に分かち、それぞれを分権と中央集権とに細分し、「半連邦制」を追加した1から5までの指数が定義され、36ヶ国について分類がなされています(一部、.5や.2といった調整があります)。
それに、国際貿易投資研究所がまとめた世界各国の実質成長率(GDP伸び率)を重ね合わせると、次のような表ができます。
| 連邦制・分権指数 | 90-95 | 95-00 | 00-05 | |
|---|---|---|---|---|
| オーストラリア(*) | 5 | 2.69 | 4.22 | 3.15 |
| カナダ(*) | 5 | 1.72 | 4.14 | 2.54 |
| ドイツ(*) | 5 | 1.48 | 2.01 | 0.72 |
| スイス(*) | 5 | 0.08 | 2.02 | 1.00 |
| アメリカ(*) | 5 | 2.46 | 4.10 | 2.39 |
| ベルギー(*) | 5 | n.a. | n.a. | 1.48 |
| オーストリア(*) | 4.5 | 2.17 | 2.94 | 1.51 |
| インド | 4.5 | 5.20 | 5.78 | 6.00 |
| ベネズエラ | 4 | 3.45 | 0.61 | ▲3.22 |
| イスラエル | 3 | n.a. | 4.82 | 1.96 |
| オランダ(*) | 3 | 5.52 | 4.05 | 1.16 |
| パプアニューギニア | 3 | n.a. | 0.75 | 1.37 |
| スペイン(*) | 3 | 1.94 | 4.11 | 3.23 |
| デンマーク(*) | 2 | 2.34 | 2.86 | 1.39 |
| フィンランド(*) | 2 | ▲0.72 | 4.65 | 2.27 |
| 日本(*) | 2 | 0.93 | 0.76 | 1.69 |
| ノルウェー(*) | 2 | 3.85 | 3.60 | 2.06 |
| スウェーデン(*) | 2 | 0.98 | 3.23 | 2.24 |
| フランス(*) | 1.2 | 1.31 | 2.80 | 1.49 |
| イタリア(*) | 1.2 | 1.80 | 1.92 | 0.63 |
| トリニダッド | 1.2 | n.a. | 7.55 | 7.37 |
| バハマ | 1 | ▲1.64 | n.a. | n.a. |
| バルバドス | 1 | ▲0.75 | 3.34 | 1.68 |
| ボツワナ | 1 | 4.37 | 7.96 | 6.35 |
| コロンビア | 1 | 4.55 | 0.92 | 3.44 |
| コスタリカ | 1 | 6.28 | 4.93 | 4.07 |
| ギリシャ(*) | 1 | 1.25 | 3.42 | 4.43 |
| アイスランド(*) | 1 | n.a. | 4.74 | 3.87 |
| アイルランド(*) | 1 | 4.65 | 9.78 | 5.16 |
| ジャマイカ | 1 | 2.21 | ▲0.08 | 1.47 |
| ルクセンブルク(*) | 1 | 6.78 | 6.13 | 3.29 |
| マルタ | 1 | n.a. | n.a. | 0.30 |
| モーリシャス | 1 | n.a. | n.a. | 3.35 |
| ニュージーランド(*) | 1 | 3.12 | 2.99 | 3.51 |
| ポルトガル(*) | 1 | n.a. | n.a. | 0.64 |
| イギリス(*) | 1 | 1.66 | 3.19 | 2.44 |
#国名に「*」が付してあるのはOECD加盟国です。また、ベルギーは1993年以前は指数3.1とされていますが、実質GDP成長率が2000年以降のものしか記載されていないので、指数5にのみ掲げてあります。
指数と言いつつ、先の定義のように序数として振られているので、まずは指数ごとの平均値を比較してみます。
| 指数 | 平均実質GDP成長率 | うちOECD加盟国 |
|---|---|---|
| 5 | 2.26 | 2.26 |
| 4.5 | 3.93 | 2.21 |
| 4 | 0.28 | n.a. |
| 3 | 2.89 | 3.34 |
| 2 | 2.14 | 2.14 |
| 1.2 | 3.11 | 1.66 |
| 1 | 3.44 | 3.95 |
これを見る限り、先進国であろうとなかろうと、地方分権かどうかによって経済成長の程度が変わってくるとの傾向は観察されません。
さて、この指数は序数ではないかとはレイプハルトも気にしていたようで、全税収に対する中央政府税収の比率(これは当然基数となります)との相関係数(▲0.66、1%有意)や、ラーネとアションによる制度的自律指数との相関係数(0.82)をチェックしています。これらからすると、基数として扱うことがナンセンスというわけでもなさそうです。
一応この指数が基数としても扱えると仮定して、上記の表から散布図を作成し、近似曲線を求めると次のようになります。
- 全体
- y=−0.2204x+3.4026
- R-squared=0.0262
- うちOECD加盟国
- y=−0.2408x+3.3765
- R-squared=0.0513
R-squaredがほぼゼロですからほとんど無関係だということになりますが、にしてもおぼろげに見えるトレンドの傾きにあえて触れるならそれは負、つまり地方分権が進めば進むほど経済成長率は低くなるようです。地方分権が進めば経済成長が可能だとは、少なくともレイプハルトの分析に依拠する限り、あまり確からしい政策提言ではなさそうだといわざるを得ないでしょう。
