安倍総理辞職表明と小泉純一郎の呪い
以前webmasterは、次のように書きました。
- 今回の組閣で一番割を食ったのは明らかに安倍官房長官でしょう。というのも、閣外にいれば担がれやすいので取り込んだということもありますが、それ以上に、官房長官は総理の盾となる身ですから自分の主張は殺すことが求められ、したがって彼独自の見解として支持を集めていた主張(北朝鮮への経済制裁、人権擁護法反対など)を引っ込めざるを得ないどころか、それに反する政府公式見解を述べなければならないからです。それだけ小泉総理が彼のポテンシャル(=自らの退陣後に独自路線を打出す可能性が高い)を恐れているということかと思います。。
突然の安倍総理の辞職ではありますが、先の参議院選挙での大敗を含め、大枠としてはこの「取り込んだ」ことに源を発しているとwebmasterは思います。引用における官房長官就任がその後の事実上の禅譲につながりましたが、これにより安倍総理は小泉前総理の後継者としての立場をとらざるを得ず、仮にその認識に反するような振る舞いがあれば、後継者のくせに、と反発を招いて支持が離れていく構造になってしまったわけです。禅譲政権であるため、非小泉路線をとればすなわち反小泉路線だということになってしまうのがつらいところで、後継者だとみなされていなければ、明確に反小泉路線でない限り、非小泉路線であっても許容されたことでしょう。
実際、先の参議院選挙の敗因について、伝統的自民党支持基盤の離反といった話がよく取り上げられているものの、実態としては、
確かに今回の選挙では、05年の郵政選挙で小泉自民党を支持した都市無党派層票の大半が民主党に流れた。そのことは、首都圏、愛知、大阪などの3・5人区で自民党が辛うじて一議席を死守しているのに対し、民主党は軒並み複数議席を獲得していることを見ても明らかだ。
しかし、地方・農村票などの自民党の伝統的支持層が、小泉構造改革の影響で自民党から離反したとの説明に対して森氏は、自民党の支持基盤の崩壊は既に小渕・森政権時代から継続的に起きている現象であり、小泉政権の5年間は首相の個人人気によってそれが覆い隠されていたが、今回それが改めて表面化したに過ぎないと説明する。
実際、今回の選挙で自民党の絶対得票率(有権者数に対する得票数の割合)は、獲得議席が49だった04年の参院選の19.21%と比べても1.4ポイントしか下がっていない。伝統的自民支持層に長期減少傾向があることは否定できないが、特に今回の選挙でそれが一気に加速したとの事実は、データを見る限りはうかがえない。
とのことですし、これは「自民党をぶっ壊す」という小泉前総理が橋本元総理を総裁選において破った機運が地方から生まれたこととも整合的です‐伝統的自民党支持基盤が掌を返しただけで今般の大敗をもたらせるほどに強固であるなら、そもそも「自民党をぶっ壊す」なんていうような者を総裁にしたいとは思わないでしょうから。衆議院総選挙における「一区現象」といわれる、各地での人口集中地域における従来型自民党への反感は、農村票を補って余りあるほど構造改革への支持をもたらすものなのでしょう。
この「小泉純一郎の呪い」、すなわち安倍総理が構造改革路線から外れるようなことがあれば支持率の低下を招くので構造改革路線を維持せざるを得ないことは、しかしながら安倍総理の思いもよらぬ振る舞いにより、おそらくは小泉前総理の意図を遙かに超えた強力な効果をもたらしたように思われます。「思いもよらぬ振る舞い」とは、小泉路線の後継者であったからこその高い支持率を、自力で勝ち得た自分の路線(憲法改正その他)への支持だと安倍総理が勘違いしてしまったことです。
先の参議院選挙後、大敗を承けてもなお、安倍総理は自分の路線は支持されていると語りました。年金問題や政治資金スキャンダルなどによる大敗だとすれば、確かに本来の路線は支持されているのに、という状況は想定できないわけではありません。報道によれば、投票直前であっても、官邸においては40議席台前半は確保できるとの票読みがなされていたとのこと、これも自分への支持を確信するがゆえのバイアスではないかと。
そのような誤解をもたらしたのは、政権発足直後にちやほやされたことを真の実力だと考えてしまったことでありましょうし、「美しい国へ」がベストセラーになったことを自らの路線への支持の高まりだと考えてしまったことでもありましょう。誤解なく、高い支持率は小泉後継であるがゆえの上げ底であると認識していたならば、造反組復党騒動の際の支持率低下に直面して路線の修正を図ったところ、認識せずに就任時の路線を追求してしまったために支持率の低下に歯止めがかからず、ついには選挙の敗北・退陣にまでいたってしまったわけです。
なぜこのタイミングで辞職を表明したのかについては、あくまで勝手な憶測ですが、こうした実態に安倍総理が最近になってようやく気づいたということでしょう。きっかけがどのようなものかはわかりませんが、自分の路線が支持されたわけではなかったとようやく悟ったことで、苦境を耐え抜くだけの根気がなくなってしまったということではないかと。そうした根気を養う試練を経ずに総理になってしまったというのも、思わぬ「呪い」の副産物ではありましょうが。
さてこの「呪い」、安倍総理だけではなく、日本の政界の隅々にまで及んでいます。となれば、安倍総理以外にも囚われる人間が出てくるはずで、その候補は後継総理と小沢代表ということとなります。改めて小泉路線の支持構造を俯瞰すれば、
- 「勝ち組」には資源配分・所得再分配機能の抑制による財源負担の軽減という実利を与え、
- 「負け組」には「構造」の破壊による鬱憤晴らしと、そうした破壊にはあなたの助力が必要だとの自己実現を与え、
双方から支持を集めていました。ここで格差だの地方だのを持ち出して資源配分・所得再分配機能の復権を図ろうものなら、財源負担を嫌う「勝ち組」に見放されるのみならず、そこそこの規模では「負け組」に生活改善を実感させるようなことはできない一方で鬱憤晴らし・自己実現を取り上げてしまうこととなり、「負け組」にすら見放されてしまうことになってしまいます。先の選挙結果は民主党の農業政策が評価を受けたから、なんてことを思っているとすれば危ないことです。
ヴェネズエラのチャベス大統領やタイのタクシン前首相のように行き着くところまで行ってしまい、「負け組」に実利を行き渡らせる路線にまで舵を切るというのであれば、話は変わってきますが・・・。
