稽古中の死亡であれば業務上過失致死でしょうけれども・・・
新潟市出身で大相撲の序ノ口力士、斉藤俊さん(当時17)=しこ名・時太山(ときたいざん)=が名古屋場所前の6月、愛知県犬山市でけいこ中に急死した問題で、師匠の時津風親方(57)=本名山本順一、元小結双津竜=が同県警の任意の調べに対し、斉藤さんへの暴行を認めていることが25日、わかった。兄弟子数人も「集団で暴行した」と供述しているという。県警は現在、死の直接的な原因を特定するため遺体の組織検査中で、結果を待って、同親方を傷害、兄弟子らを傷害致死の各容疑で立件する方針だ。
(略)
時津風部屋の県警への説明によると、斉藤さんは6月26日午前11時40分ごろ、犬山市犬山の寺院敷地内にある同部屋のけいこ場で、兄弟子とのぶつかりげいこ中に倒れた。搬送先の病院で午後2時10分に虚血性心疾患による死亡が確認された。
県警は、親方や同部屋の力士ら関係者から、任意で事情を聴取。死亡前日の25日午前、斉藤さんは部屋を逃げ出そうとして兄弟子らに連れ戻された。こうした斉藤さんの態度に腹を立てた親方が、力士らとの夕食の席上、ビール瓶で斉藤さんの額を殴り、切り傷を負わせていたことがわかった。その後、けいこ場の裏手で兄弟子数人が斉藤さんを取り囲み、数十分にわたって殴るけるの暴行を加えたことも、親方らは認めているという。
大相撲の序ノ口力士、時太山(17=時津風、本名斉藤俊さん)が6月26日のけいこ中に死亡したことに関し愛知県警は、刑事事件として立件する方針を固めたことが25日、分かった。既に日本相撲関係者もこの状況を把握。協会関係者によると、容疑は業務上過失致死になる方向という。
人を殺してしまった、という場合でも、刑事法上の類型としては多々あります。代表的なものを挙げれば(すべて刑法の規定)、
- 殺人罪
-
第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
- 人を殺そうと思って殺した場合は、殺人罪となります。
- 傷害致死罪
-
第205条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。
- 人を傷つけようとしたけれど殺そうとは思っていなかった場合に、その人が結果として死んでしまったときは、傷害致死罪となります。
- 業務上過失致死罪
-
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。(略)
- 高度な注意が求められる場合にその注意を払わなかった結果人が死んでしまった場合は、業務上過失致死罪となります。
- 過失致死罪
-
第210条 過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。
- 注意を払わずに軽率な行為をした結果人が死んでしまった場合は、過失致死罪となります。
といったものとなります。具体的にどのような行為がそれぞれに当てはまるかは判例を見ていく必要がありますが、ラグビー部においてたるんでいるなどといって十分な休みも取らせずに厳しい練習を強いた結果熱中症で死亡した場合には、指導者としての注意義務違反ということで業務上過失致死罪が適用されています。判例変更がないという前提ですが、本件においてぶつかり稽古に半ば制裁的な意味合いが込められていたとしても、その危険性に気づかなかった点において過失ありということで、同様に業務上過失致死罪が適用ということとなるでしょう。
しかし、報道においては、傷害・傷害致死罪での立件と、業務上過失致死罪での立件とで分かれています。前者であれば制裁行為と死亡との間に因果関係を認定し、後者であれば(制裁行為によって体が弱っていたことが遠因になったと認めたとしても)あくまで稽古を強行したことと死亡との間に因果関係を認定することとなりますが、webmasterの管見では、死亡前日の暴行が傷害罪に当たるとして、その際の負傷により疲弊していた結果稽古に耐えられなかったのだとしても、疲弊していたにもかかわらず無理に稽古させ(て死亡に至らしめ)たこと自体は業務上過失致死罪に該当するように見えます。いずれにしても、あくまで立件(=検察官送致、いわゆる送検)の見込みであって、当該罪状による起訴でもなければ、もちろん判決でもないわけではあるのですが。
とりあえずwebmasterの解釈が正しいとすれば、相撲協会としては、有罪となるのであれば傷害致死罪であってほしいことでしょう。というのも、
稽古(けいこ)か、暴行か――。大相撲時津風部屋で、序ノ口力士だった斉藤俊(たかし)さん(当時17歳)=しこ名・時太山=が今年6月、稽古中に急死したことを巡り、愛知県警が刑事事件として立件する方針を固めたことで、横綱朝青龍関の出場停止問題で揺れる角界に衝撃が広がった。
斉藤さんの頭を親方がビール瓶で殴ったことや、兄弟子たちが数十分にわたり暴力を振るっていたことなどが、これまでの同県警の調べで明らかになっており、識者からは「荒稽古と暴力は全く違う」と厳しい声が上がった。
(略)
相撲部屋の稽古とは何か、稽古の厳しさは、どこまで許されるのか。どこからが「行きすぎた稽古」になるのかは師匠の判断に委ねられ、その線引きをするのは簡単ではないという。
日本相撲協会に記録が残っている力士の死亡例は、入院先での死亡を除けば斉藤さんの事例を含めて平成以降で8件ある。それ以前はあいまいといい、具体的な記録は残っていない。だが、平成以降の7件については、警察が介入して事件として立件されたことはなかった。
というように、名もなき識者の「荒稽古と暴力は全く違う」ということとなれば、あくまで今回の死亡は時津風部屋において「暴力」がふるわれたことが問題だということで、死んだかどうかははっきりいえば二の次ということとなります。従来はそのような取り扱いがなされてきたからこそ、平成に入ってからの8件の死亡事故(が具体的に何かこれだけではわからないので、それらが稽古中のものだとすれば)は刑事上は不問とされてきたのでしょう。
しかし、業務上過失致死罪となれば、稽古であっても注意義務違反で罪が問われるわけですから、あれは時津風部屋がおかしいのであって、我々はあのような制裁行為はしておりません、あくまでまっとうな稽古をつけているだけです、という差異化が不可能となります。8件のうち時効が成立していないものについても捜査が行われてもおかしくないこととなりますし、今後も死亡事故があれば制裁行為の有無に関係なく捜査対象となる可能性が出てきます。
いくらコンタクトスポーツには危険がつきもの(だからこそ、その手のスポーツの試合において相手を死亡させてしまった選手がいても、故意に殺したのでなければ、正当業務行為として違法性が阻却されます)であるとはいえ、20年足らずで8件とは、他のコンタクトスポーツと比べても事故数は多いでしょうから、やはり問題は暴行の有無ではなく、稽古のあり方そのものに存在するのではないかとの疑いはゆえなきものではないでしょう。相撲界の体質改善のためには、本件において容疑者が有罪であった場合には、その罪は業務上過失致死罪であった方がよいのではないでしょうか。既述のとおり、判例に照らしても十分成立するでしょうし。





9月 27th, 2007 at 3:38:24
さすがbewaadさん、法律に詳しいですね
ところでこの事件、なかなか認定が難しいと思うのですが、死亡した稽古の前の日に親方や兄弟子がビール瓶や金属バットで暴行を加えたことが既に明るみに出てるわけで、もしこれが検死の結果重症を負わせていたということが認定されれば、これは恐らく傷害罪に問えるんじゃないかと思われます
で、そうなると重症を負ったものを稽古でしごいて意図的ではないが結果殺してしまったという業務上過失致死とどちらが問われるんでしょうね
bewaadさんの言うとおり死に至らしめるような稽古を今後防ぐという意味では業務上過失致死に問われることがいいのかもしれませんが、この事件の場合土俵外で行われた集団リンチが引き金になっている可能性が高そうなので、それで業務上過失致死というのであればちょっと腑に落ちませんね
要は集団暴行と行き過ぎた稽古というのは繋がっているけれどもここでは別に考えないといけないのではということなのですが
9月 27th, 2007 at 5:33:06
>ゲストさん
もちろん傷害罪は成立する(と報道が正しければ予測される)ので、傷害致死で一罪か、傷害+業務上過失致死の二罪かの違いということになります。つまりは、「どちらか」ではなく「どちらも」ということです。
9月 27th, 2007 at 7:13:33
相撲以外の格闘技の場合はどういう状況なんでしょうかね。あまりこういうことは聞かないように思うのですが。相撲そのものは他の打撃系格闘技などに比してさほど危険な競技とは言えないと思いますが、稽古のあり方が旧態依然としたものを引きずっているためにこういうことが起こりがちということですかね。まあ稽古というより治外法権的な生活管理のあり方が問題とすれば、日本社会全体に多かれ少なかれこういう傾向はあるかも知れないですが。
9月 27th, 2007 at 7:26:24
前日の制裁行為と死亡との因果関係の問題ではなく、死亡当日の暴行が正当行為(「稽古」)にあたるかどうかの問題ではないでしょうか。
> 斉藤さん1人を狙った執ような稽古が行われ、倒れると殴る蹴るの暴行を加えた。その際に兄弟子の1人が金属バットを持ち出して殴った。
といった報道内容からすれば、「稽古」として正当化できる範囲を超えた単なる集団暴行として、当日の「稽古」が正面から傷害致死罪に問われるべきでしょう。
http://news.www.infoseek.co.jp/topics/sports/n_sumo2__2...
9月 27th, 2007 at 10:01:26
法律を知らない素人考えですが、業務上過失致死にしてしまうと、ことは相撲界だけではすまなくなってしまうのではないでしょうか。たとえば、野球の練習中にボールが胸(心臓)にあたって死んでしまう事故がときどきありますが、これも監督やコーチ、あるいは上級生が業務上過失致死に問われることになってしまいます。今回の事件は、角界ではよくあることのようにも思いますが、明らかに暴行事件だと思われるので、その方向で処理するほうが、ほかのスポーツ界のためにもよいのではないでしょうか。
9月 27th, 2007 at 18:31:38
朝青龍を非難した横綱審議会の女の感想を聞きたいね。
やはり女は相撲に関わってはいかんな
9月 27th, 2007 at 21:18:53
> すなふきんさん
相撲は競技中の事故で死亡する危険性はさほどでありませんが、
力士は健康を著しく害する職業で、平均寿命は60歳を下回ります。
若くして虚血性心疾患や脳梗塞で死亡しても何の不思議もありません。
これを問題視するのであれば、相撲が相撲であることをやめて、
体重別にするしかありません。
9月 27th, 2007 at 21:23:10
ここは酷い水中出産ですね…
天漢日乗: 産科崩壊 助産所の助産師の未熟と自信過剰が赤ちゃんを殺す 神奈川県相模原市の北里大学病院からの報告 初産29歳産婦は水中出産を4日も続けさせられ、赤ちゃんは (more…)
9月 28th, 2007 at 1:04:26
傷害のように故意的にしたものと過失致死罪がどちらも両立しうるって不思議な感じですね。故意と過失というのは、素人には対概念のようにも思えます。(わざとじゃないから過失、みたいな。)
9月 28th, 2007 at 7:29:09
>すなふきんさん
プロレス・総合格闘技ですと、古いですが次のような情報があり、
http://www.nikkansports.com/jinji/2000/seikyo000420.htm...
これに記載の権瓶広光さん、永井寿樹さんの死亡以降では、ジャイアント落合選手の死亡事故が同様に道場での練習が原因と見られています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%A...
>柏木さん
おっしゃる筋での起訴が行われるとすれば、前例として参照すべき判例は、エントリでリンクしたものよりも、むしろ戸塚ヨットスクール事件での傷害致死罪適用ということになりますね。
>e-takeuchiさん
胸にボールが当たってというのは、予見可能性が低い(注意義務の対象外)ということで、業務上過失致死罪には該当しないように思います。なお、エントリでのリンク先のように、熱中症が起こる可能性が高いような状況でも適切な休みをとらないとか、水分補給をさせないとか、そういったものにはすでに業務上過失致死罪が適用されていますので、少なくとも司法上の判断としては、影響はほとんどないものと思います。
他方で、スポーツ医学等に基づかない指導が格闘技に限らず広く見られる現状からすれば、むしろ業務上過失致死罪で指導者としての資質を問う方が、日本のスポーツ界にとってはいいのではないか、と個人的には思います。
>弥次郎兵衛さん
平均寿命に効いているのは、体重を増やすことなのでしょう。他方で現役時代の脳梗塞や虚血性心疾患の原因は、高い強度の無酸素運動によるものなんでしょうね。
>おのさん
一連の一個の行為と見るか、独立した二個の行為と見るかの違いとご理解ください。
9月 28th, 2007 at 21:32:59
親方と兄弟子を区別して論じる必要があると思います。兄弟子に業務上の過失を基礎づける注意義務があるんでしょうか。むずいですね。
9月 29th, 2007 at 18:26:52
>通りすがりさん
確かにその点は見落としていました。指導に当たる段階で注意義務が生じるような気が個人的にはしますが、判例的にはどうなんでしょうか。
9月 30th, 2007 at 13:25:15
つ「東京地裁八王子支部昭和56年(わ)第1229号、第1336号。」
とある刑法学者さんが紹介されてましたのでぐぐりました。
同じページは鍵括弧の中をググれば表示可能かと。
9月 30th, 2007 at 13:57:58
時津風部屋力士死亡事件について…
なるほど、と思わされたのは bewaad さんのエントリ。 (more…)
9月 30th, 2007 at 15:45:27
プロ野球選手は個人事業主ですが、これに対して兄弟子も含め力士は財団法人日本相撲協会の職員、親方は同協会役員ですね。
9月 30th, 2007 at 19:04:00
>一連の一個の行為と見るか、独立した二個の行為と見るかの違いとご理解ください。
なるほど、傷害は故意だけれど、死亡は注意義務違反・業務上過失によるものというわけですね。ありがとうございました。
ところでbewaadさん、最近、アイドルネタ減ってません??気のせいかな。笑。
10月 1st, 2007 at 4:00:47
>kumakuma1967さん
いろいろと新たな報道があり確たることは申し上げづらいのですが、仮に昔から金属バットの使用がたびたび行われ、今までは皆それで死ぬことはなかった(前例がないとしても、頭部や頸部の殴打ではなかった)とすれば、未必の故意による殺人罪は認定しづらいような気がします。不作為殺人は、倒れたときにどれだけ「ヤバそう」だったかによると思います。つまりは作為義務違反をどこに見いだすかにおいて、不作為の場合の未必の故意を認定するには、このまま放置すれば死ぬだろうな、という認識があるかどうかで、そんな状態だとは思わなかったということであれば、不真正不作為殺人ではないように思います(なお、前段の未必の故意は、このぐらい殴打したら死ぬかもしれない、というものになるので、同じ「未必の故意」といっても、それぞれその内容は異なります)。
>おのさん
アイドルネタですか(笑)・・・最近ですと、アイドルかどうかはさておき、ヴィッツのCMの後藤久美子はよかったと思います。
10月 1st, 2007 at 22:45:38
>ヴィッツのCMの後藤久美子
早速チェックしましたが、可愛かったです。bewaadさんから仕入れた山田優&エビちゃんネタで、先日、人気No1の新人くんと話が弾んでしまいました。どうもありがとうございます。(フェミニスト失格かも…
10月 2nd, 2007 at 12:59:58
未必の故意が「医療を受けさせない事」でも認定される事があるんだなぁ、と思って、判例を共有したかっただけです。私は法律関係は苦手ですので、質問くらいしか出来ませんし。
ご指摘の通りエントリ後の報道をごっちゃにして話をするのは混乱の元かもしれません。bewaadさんはサービス精神旺盛なので応じてくれてますが、以後気をつけます。
応じていただいたので、素人なりに今考えている事を書くと、いずれも「不真正不作為殺人なのかも」という疑念なのですが….
第一に、「暴行を受けて意識を回復しない人」に「命の危険はない」という推測をするのは普通の人にはかなり難しいです。
第二に、死亡診断の死因は虚血性心不全となっているわけですが、これが救急搬送された病院での診断とすると、医療機関に暴行の事実など医療上必要な情報を与えなかったり、医療をミスリードする情報を与えた可能性もあります。これも「未必の故意の殺人」を構成しうるのかどうか、気になっています。(DV、親による児童虐待などの事案では多そうな気がします。)
こんなことです。
もちろんbewaadさんに解決する義務があるわけじゃないんで、面白ければ、暇な時(っていつだよ>自分)にでもいじくって遊んで下さい。
10月 3rd, 2007 at 0:03:44
>おのさん
マキアージュの最近のCMを見て、実は蛯原友里をちょっと見直してます(笑)。
>kumakuma1967さん
大学での刑法の講義なんて、こんなんばっかりです(笑)。
第1点めについては、状況がどのようなものかわからないので軽々しいことは言うべきではないのでしょうけれども、一般論としていえば、相撲の稽古で受け答えもできないほど疲労困憊することは、前例がそれなりにある状態だと思うのです。そうした状況と誤認したのであれば、指導者としての注意義務違反は問えても、未必の故意までもを問うのは難しいのでは、と個人的には思います。
第2点めについては、医者がそれによりどれだけ誤判断を犯す危険性が高まるかということで、外傷であればそれほど当てはまる事例はなさそうな気がします(根拠はありません)。
10月 16th, 2007 at 0:36:00
この事件は、普通の相撲部屋の稽古として扱うものではないと考えます。
大人として、分別をわきまえた行動の結果なら、こんなに報道で問題になりません。
未成年のいじめ以上に、スボーツマンシップのかけらもない、制裁という名の殺しだったのでは?
10月 17th, 2007 at 22:27:26
>魚さん
「普通の相撲部屋の稽古」というものがどの程度本件と乖離しているのか、金属バットと竹刀という用具の違いに還元されていますが、力の入れ具合や叩く部位によっては竹刀の方が危険な場合もあるわけで、類似の制裁行為が他の部屋においてもゼロでないというのであれば、そもそも「普通の相撲部屋の稽古」に問題があるということでしょう。