第三者は著作権法違反を正しく判断できない?
削除されてしまった方には申し訳ないが、このニュースは現在パブリックコメントが行われている文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理と、法制問題小委員会中間まとめに盛り込まれた内容の問題点が非常に分かりやすい形で現れたものだと思う。
(略)
著作権侵害が非親告罪とされてしまうと、著作権者の告発無しに著作権侵害が取り締まられることになる。
しかし、著作権侵害であるかどうかを著作権者でない第3者が判断できるのだろうか。
今回ニコニコ動画は、適法にアップロードされた動画を「権利侵害動画」であると判断して削除を行った。
ニコニコ動画は適法・違法の判断を間違えたのだ。
第3者からみて、適法・違法の判断が難しいことが、今回の削除ミスで明らかになった。
著作権侵害を非親告罪化すると、このような判断ミスによって告発されたり逮捕されたりするケースが出てくるだろう。
もちろん、一目で「著作権侵害だろう」と類推できるケースも多いが、第3者が的確に判断できるケースばかりとは限らない。
「ニコニコ動画が明らかにしたダウンロード違法化・著作権侵害非親告罪化の問題点」(@Copy & Copyright Diary10/23付)
親告罪とは、犯罪被害者が被疑者を指名すれば直ちにその者を犯罪者として罰する制度ではありません。犯罪被害者の告訴があり、それを受けて検察が起訴の要否を判断し、起訴があれば裁判所で実際に犯罪行為であったかどうかが裁かれます。つまり、親告罪においても検察や裁判所の判断を経て著作権法違反であるかどうかが判断されるわけで、「著作権侵害であるかどうかを著作権者でない第3者が判断できるのだろうか」というならば、現行制度を否定し、著作権者が違反だといったら違反だ、という制度に作り変えねば道理に合いません。
そもそも論を言うなら、親告罪とは犯罪被害者が被害を受けたと訴えでねば罪にならないというものではありません。犯罪被害者の告訴の有無に関わらず、ある行為が構成要件に該当する場合(正確には、加えて違法性阻却・責任阻却が成立しない場合)には、その行為は違法であり罪に他なりません。親告罪であれば、罪とは言え犯罪被害者がいろいろ考えて訴えないような場合には、あえて公開法廷にて追及は行わないということに過ぎないのです。もう一度書きましょう‐訴えがなくても罪であることに変わりはないのです。
「著作権侵害を非親告罪化すると、このような判断ミスによって告発されたり逮捕されたりするケースが出てくる」ことが問題だ、つまりは一件でも「冤罪」が出てくることが問題だとの議論であるかもしれません。それほど判断ミスによることが問題であるならば、著作者の判断ミスの場合だって問題だとしなければ一貫性がありませんが、そこは措きましょう。一般論として冤罪が不可避であり(神ならぬ身のやることですから・・・)、非親告罪化すれば親告罪であるよりも捜査件数が少なくとも減ることはない以上、冤罪の絶対数が増えることは間違いありません。それが問題だというのであれば、確かにそのとおりです。
しかし、であればネットにおいてよく見られる盗作等の糾弾活動を、非親告罪化に対する批判を超えて批判すべきでしょう。第三者の告発から始まる著作権法違反の捜査・起訴・訴訟手続においては、デュープロセスの保障が及びます。わかりやすくいえば、ニコニコ動画のような間違いに基づいて刑罰が科される可能性を極小化するよう、各般の法律上の歯止めが用意されています。今般のニコニコ動画の事例は運営者によるものでしたが、それ以外でもネットでの多くの人々の活動の結果として、有名どころで言えばスラムダンク盗作騒動は「著作権侵害であるかどうかを著作権者でない第3者が判断」して事実上の私刑を下した事例です。
著作権を侵害した(と疑われた)者が自ら罪を認めたからよい、という話ではありません‐そんなことを言い出せば、非親告罪であっても侵害した(と疑われた)者が自ら認めた場合には何の問題もない、ということになってしまいます。既述のように冤罪の可能性は刑事裁判手続において排除不可能ですが、私刑だったら排除できるというものではなく、むしろ冤罪の危険性は高いのですから、より問題は深刻です。にもかかわらずその危険性に何ら言及がないというのは、片手落ちの議論であるといわざるを得ないでしょう。
念のため申し添えれば、冤罪の可能性を懸念する声を無視してよいということをwebmasterは言いたいわけではありません。もしそれを懸念するなら、たとえば著作権者が事後的に著作物の使用・複製等を遡及的に許可できる制度の導入、なんてのはいいのではないかと思います。一言著作権者が「それはいいよ」と言えば、遡及的に違法性がなくなる‐この場合、構成要件を満たさなくなるのですから、親告罪とは違って完全な合法行為として法的に扱われます‐のですから、第三者の告発があったとしても、少なくとも警察・検察・裁判所において著作権者の意思が確認されるわけですし、そこで著作権者がやっぱり問題だと思うのであれば、事実上告訴があったものと観念できるでしょうし。





11月 14th, 2007 at 12:23:09
著作物利用遡及的許可制度の導入を!…
本文もいいのですが、この最後のパラグラフは金言。
第三者は著作権法違反を正しく判断できない? | bewaad institute@kasumigaseki念のため申 (more…)
11月 14th, 2007 at 19:14:51
>著作権者が事後的に著作物の使用・複製等を遡及的に
>許可できる制度の導入
非親告罪化すると言うことは、そのようなプロセスが当然必要になってくる(著作権は権利ゆえに、侵害かどうかは権利者しか判断できない)と思っていたのですが、それを制度的に明示するべきだとの事でしょうか
11月 14th, 2007 at 22:40:22
最初が誤読でそれに基いた間違った論理の数々。
あなたが利権にかかわる人かそうでないかは知らないがミスリードもいいところだ。
11月 14th, 2007 at 23:53:15
犯罪とは構成要件に該当する違法有責な行為ですから、親告罪か非親告罪というのは、犯罪成立の段階では差が無いことには同意します。
ただ、非親告罪にする、というのは公訴提起に告訴が必須ではなくなるのですから、今まで見過ごされていた著作権法違反も取り締まられることになると思います。ということは、当然、権利者自らが事実上黙認してきたケースであっても犯罪として取り締まることになります。この微妙な法の運用によって守られてきた領域もあるということです。
bewaad氏は、その領域を確保するために、権利者が許可する制度を提唱されます。このような制度を付け加えた場合、現在の制度運用とどのように変わるか考えました。
現在の制度であれば、告訴前(即ち公訴提起前)に権利者と加害者が交渉する余地がありました。仮にbewaad氏提唱の制度に変えた場合、権利者と加害者が交渉中であっても、検察の判断によって公訴提起が可能になります。一般人にとって裁判沙汰になることは大きなプレッシャーとなりますから、このような相違点については更に考える必要があるかと思います。
また、bewaad氏は権利者の許可を構成要件該当性阻却と仰られますが、これは解釈が相当紛糾しそうな点で、違法性阻却と考えるほうが自然ではないかと思います(被害者の承諾)。例えば名誉毀損罪230条の2に対する学説の紛糾を見ると、構成要件該当性阻却か違法性阻却か責任阻却か、というのは学説の相違だけではなく、現実に与えるインパクトも大きいのではないでしょうか。
11月 14th, 2007 at 23:58:08
直感的な話でもうしわけないですが、検察はどうせ動きたがらないと思いますよ、こんな案件じゃ。
11月 15th, 2007 at 0:16:59
出版社では、「あの先生はシャレがわかるから問題ない」とか著作権者で対応が違うようだが、部外者が適切な判断が出来るのか?
刑事告発された段階で犯罪者扱いの我が国では、危険な法律だろう。
11月 15th, 2007 at 0:20:21
>ゲストさん
>権利者自らが事実上黙認してきたケースであっても
>犯罪として取り締まることになります
黙認していたと言うのであれば、著作権者が権利を行使する意志がなかったと言うことになります。権利を行使する意志がないのであれば、検察は起訴する理由を失う事になると思うのですが。
著作権の場合、私権に該当する訳ですので、犯罪として取り締まるか取り締まらないかは、結局の所権利者の意志次第であり、検察が取り締まる場合、権利者に権利を行使するか否か、意志を問わなければならないと思うのですが。
11月 15th, 2007 at 20:29:45
ああ、ようやくわかった。検察は権利者への確認など一切せず、つまりその後の裁判での見通しがどうかも全く関心なく、ただいきなり起訴するんだという前提の人がいるんですね。噛み合わないわけだ。
11月 15th, 2007 at 22:04:28
検察が権利者への確認を行うなら、非親告罪化する必要は無いのではないか。
11月 24th, 2007 at 0:56:30
>bn2islanderさん
権利そのものが主観的存在でない(=法律によって客観的・外形的に定められる(ことが指向されている))以上、その侵害も「権利者しか判断できない」ということはなく、客観的・外形的に判断される(べき)ものといえます。
若干揚げ足取りではありますが、ゲストさんへのコメントについて横から口を挟みますと、たとえば窃盗罪は所有権という私権の侵害ですが、権利者に権利を行使するか否か、意志を問うたりはしませんよね?
>hogeさん
どこが誤読で、どこが間違った論理か、具体的にご指摘をいただかないことには、仮に私が誤っていたとしても、それに気づくことが難しいのですが・・・。
>ゲストさん
訴訟に入る前の交渉の余地については、私にはそれほど両者で差が出るとは思えないのですが、それが水掛け論であることは認めます。
後半については、条文の規定の仕方によります。たとえば第63条の拡張の形式(事後に認めた場合は、利用をはじめたときから第63条第1項の許諾があったものとみなす)をとれば、構成要件になります。
>irさん
中山先生や久保利弁護士など、著作権関連実務に詳しい方々はそのようなご指摘の向きが多いように思います。
>Kさん
「刑事告発」の意味をつかみかねますが、警察の捜査であれば親告罪であっても告訴なしのものがあり得ます。起訴であれば、少なくとも私の案であれば著作権者の意向が構成要件事項となりますから、著作権者が罰して欲しいと思わなければ起訴されません。
11月 24th, 2007 at 12:24:14
「刑事告発」の例を出したのは、あなたが言われた「「著作権侵害であるかどうかを著作権者でない第3者が判断」して事実上の私刑」を増長しかねないと考えたからです。
事件関係者への嫌がらせは良く知られた所です。
もっとも今回の主目的は交通違反と同様に、罰金刑として、新たな金(利権)にしようとしているのではと疑っています。
11月 25th, 2007 at 1:03:11
>Kさん
親告罪であることは、刑事告発を受けての捜査が行われないことの保証にはなりません(起訴できなくても逮捕等は妨げられません)。しかし、実際には起訴できない逮捕には意味がないので、そのような告発は実務上無視されるわけです。その意味で、非親告罪化したところで、実際には著作権者に事情聴取せざるを得ない(許諾を得ているかどうかの確認)わけで、実務に大差はないと考えられているわけです(中山先生や久保利弁護士がおっしゃっているのもそういう前提に立ったものと理解しています)。
11月 25th, 2007 at 13:55:20
>非親告罪化したところで、実際には著作権者に事情聴取せざるを得ない
ですから、「検察が権利者への確認を行うなら、非親告罪化する必要は無いのではないか。」と、疑問をていしているのです。
11月 26th, 2007 at 3:25:20
>Kさん
親告罪において著作権者の告訴がなければ捜査が進まない現状について、著作権者が黙認している事例が多いと見るか、それとも泣き寝入りしている事例が多いと見るかの違いでしょう。著作権者が違反事例を自ら探すことのコストを負担することの是非、と言い換えてもいいでしょう。
念のため申し上げれば、私は親告罪化すべきという立場ではありません。ただ、親告罪化に反対する者の論理に問題があると考えてそれを指摘しているということです。