荻上チキ「ウェブ炎上」
きわめて皮肉なことに、およそヒトというものが見たいものを見たがる傾向にあることから論を発する本書もまた、その傾向から逃れられないでしょう。本書を読んでなるほどと思うような人は、おそらくは本書を手に取る以前に、漠たるものではあっても同様の問題意識をもっている場合が過半ではないかとwebmasterは思います。といっても本書を腐したいわけではなく、
- 関連する学説等の紹介が豊富で、そのような問題意識を持っている者が改めて考え方を整理するに役立つ。
- 「同様の問題意識をもっている場合が過半」であろうとも、全てではあり得ないので、まったくの新たな知識として受け止める者がそれなりには存在する。
という点に意義があるでしょう。とりわけ後者について、書籍というネットとは異なるメディアで流通することが大いに利いてくるものと考えられます。
ただ、このように多くの人に読んでもらいたいという観点から見ると、本書には残念な点があるといわざるを得ません。というのも、本書ではサイバーカスケードという現象に多くの紙幅が割かれ、それを客観的に解説するために「炎上」現象への評価は極力中立的であろうと努力がなされているのですが、いかんせん著者が世間的に見れば「左」であることから、おそらくは若干「右」側に踏み込まねば中立とは捉えられないと考えられるのです。
端的には、イラク人質事件の取扱い‐これがまた、個別の事象としては、一番大きく描かれていますから‐は、少なからぬ「右」側の論者からはためにする議論と受け止められてしまうようにwebmasterは思います。もちろん、著者と人質たちの見解・立場には相違があるわけですが、それこそサイバーカスケード流に「右」「左」の二分法が支配する世界においては、そのような相違はほとんど意味を持ちません。いわゆる自己責任論への批判としてこのような面妖な概念を持ち出した、などという理解が広まるのは著者としても本意ではありますまい。
しかし、著者がこの点に無自覚であったとは、webmasterには信じられません。となると、
- 多くの人が誤解することを覚悟の上で(誤解するような人は、本書を読んだから誤解するのではなく、読む前からそうであるでしょうから)、少数でも理解してくれる人が増えることを望んでのことか、
- 著者の名前が出た時点で読者層は限られると割り切って、そうした読者層向けに書いたのか、
いずれかなのかな、と邪推してしまいます。いずれにしても達観でしょう。
蛇足ながら、当サイトで以前紹介した、蒲島郁夫、竹下俊郎、芹川洋一「メディアと政治」との併読を強くお薦めいたします。本書を先に読まれた方にとっては、本書で紹介されるさまざまな理論・仮説について、周辺も含めより多くを知ることができるでしょう。「メディアと政治」を先に読まれた方にとっては、理論を現実に適用することの面白さを味わうことができるでしょう。





12月 7th, 2007 at 1:14:05
公共性と世間のプロトコル相違の問題(およびアーキテクチャ設計…
この辺を見つつ、「そういえば公共性と世間のプロトコル相違の問題(およびアーキテクチャ設計について)のエントリまとめてなかったなぁ」、と気づいたり。 「うわべだけ規 (more…)
1月 12th, 2008 at 20:02:32
書評:ウェブ炎上…
ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書 683)(2007/10)荻上 チキ商品詳細を見る
インターネット上での炎上という現象が何故起こる… (more…)