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  • 11/05/2007 (11:59 pm)

    荻上チキ「ウェブ炎上」

    Filed under: book, politics, WWW ::

    きわめて皮肉なことに、およそヒトというものが見たいものを見たがる傾向にあることから論を発する本書もまた、その傾向から逃れられないでしょう。本書を読んでなるほどと思うような人は、おそらくは本書を手に取る以前に、漠たるものではあっても同様の問題意識をもっている場合が過半ではないかとwebmasterは思います。といっても本書を腐したいわけではなく、

    • 関連する学説等の紹介が豊富で、そのような問題意識を持っている者が改めて考え方を整理するに役立つ。
    • 「同様の問題意識をもっている場合が過半」であろうとも、全てではあり得ないので、まったくの新たな知識として受け止める者がそれなりには存在する。

    という点に意義があるでしょう。とりわけ後者について、書籍というネットとは異なるメディアで流通することが大いに利いてくるものと考えられます。

    ただ、このように多くの人に読んでもらいたいという観点から見ると、本書には残念な点があるといわざるを得ません。というのも、本書ではサイバーカスケードという現象に多くの紙幅が割かれ、それを客観的に解説するために「炎上」現象への評価は極力中立的であろうと努力がなされているのですが、いかんせん著者が世間的に見れば「左」であることから、おそらくは若干「右」側に踏み込まねば中立とは捉えられないと考えられるのです。

    端的には、イラク人質事件の取扱い‐これがまた、個別の事象としては、一番大きく描かれていますから‐は、少なからぬ「右」側の論者からはためにする議論と受け止められてしまうようにwebmasterは思います。もちろん、著者と人質たちの見解・立場には相違があるわけですが、それこそサイバーカスケード流に「右」「左」の二分法が支配する世界においては、そのような相違はほとんど意味を持ちません。いわゆる自己責任論への批判としてこのような面妖な概念を持ち出した、などという理解が広まるのは著者としても本意ではありますまい。

    しかし、著者がこの点に無自覚であったとは、webmasterには信じられません。となると、

    • 多くの人が誤解することを覚悟の上で(誤解するような人は、本書を読んだから誤解するのではなく、読む前からそうであるでしょうから)、少数でも理解してくれる人が増えることを望んでのことか、
    • 著者の名前が出た時点で読者層は限られると割り切って、そうした読者層向けに書いたのか、

    いずれかなのかな、と邪推してしまいます。いずれにしても達観でしょう。

    蛇足ながら、当サイトで以前紹介した蒲島郁夫、竹下俊郎、芹川洋一「メディアと政治」との併読を強くお薦めいたします。本書を先に読まれた方にとっては、本書で紹介されるさまざまな理論・仮説について、周辺も含めより多くを知ることができるでしょう。「メディアと政治」を先に読まれた方にとっては、理論を現実に適用することの面白さを味わうことができるでしょう。

    11/04/2007 (11:59 pm)

    大連立構想、民主党のトラウマと空気の読めない小沢代表

    Filed under: politics ::

     民主党の小沢代表は4日、福田首相との党首会談をめぐる「政治的混乱にけじめをつける」として、鳩山由紀夫幹事長に代表の辞職願を提出した。小沢氏はその後、緊急会見を開き、2日の党首会談後の役員会で連立政権に向けた政策協議入りを全員一致で拒否されたことは「不信任を受けたに等しい」と説明した。小沢氏の突然の辞意表明で、同党の混迷は必至だ。小沢氏は会見で離党は否定したが、小沢氏が安保政策での一致などを理由に与党との連携を目指すのではないかとの見方もでている。

     小沢氏は記者会見で、首相が党首会談の中で「わが国の安全保障政策について、極めて重大な政策転換を決断した」ことを受け、「政策協議を始めるべきではないか」と役員会に提案したことを初めて明らかにした。

     具体的には、首相が(1)「自衛隊の海外派遣は国連の安保理か総会の決議で認められた活動に限る」とする小沢氏の持論を受け入れた(2)連立政権が成立すれば補給支援特措法案の成立にはこだわらない――と確約したことをあげ、「我が国の無原則な安保政策を根本から転換するもので、それだけでも政策協議を開始するに値すると判断した」と語った。

    朝日「小沢民主代表が辞意 連立「協議に値した」」

    参議院選挙直後に次のように書いたwebmasterとしては、具体的な事象としては驚きもありますが、大枠では了解可能な動きだと考えます。

    具体的には累次の強行採決であり、既述の中間報告ですが、従来の自民党政権はおそらく、それらの「禁じ手」を使えば好き放題できることは百も承知で、有権者のニーズにも配意してその行使を必要最小限にとどめてきたわけです。ところが安倍総理は、有権者のニーズよりも自らのやりたいことを優先し、その結果が上記の「実績」ということになります。

    今般の選挙結果により、今後はそのような「実績」の達成に歯止めがかかることになります。他方でもちろん、民主党(に代表される野党)は衆議院では少数派なのですから、これまた何らかの実績を作ることは困難です。これらによりもたらされるのは現状維持、すなわち与野党の現状変更の努力は相殺され、ポテンヒットのように現行の法制度が続くことが多くなる事態です。

    このような構造を前提とすれば、次の衆議院総選挙までの与野党にとっての合理的戦略は、「必要な改革が与党(野党)のせいでできない」とネガティヴキャンペーンを張ることとなります。結果を誇る機会が減少する以上、結果を出せない責任を如何に回避するかが相対的に重要性を増すのは当然のことでしょう。

    参議院選挙2007雑感(7/29付)

    このネガティヴキャンペーンとして何を考え付くかという観点から与野党の行動を見れば、お互いに実に素直な動きをしています。すなわち、

    与党

    野党の言うことは何でも聞きますと表明し、にもかかわらず協力しない野党に問題があると主張する。

    野党

    具体案は出さずに政府・与党案を批判する。

    というパターンがこの国会中に見られてきたわけです。若干付言すれば、与党がなぜ「野党の言うことは何でも聞きます」と表明できるのか(得たりと応じられては空振りになってしまいます)、もちろん上記のロジックに照らせばネガティヴキャンペーンができなくなってしまうということがあるのですが、ロジックを離れたものとして金融国会のトラウマがあるでしょう。小渕総理(当時)は金融再生法等につき実質的に野党案を丸呑みしたわけですが、そこが峠となり以後国会運営のイニシアティヴは与党へと移りました。民主党内の当時煮え湯を飲まされた面々にとっては、与党が丸呑みすると聞けば身構えて当然です。

    加えて、単なる丸呑みに留まらず連立話で、これは自社さ連立を経て党を閉じざるを得なかった旧社会党・さきがけ出身者にとってのトラウマです。面白いことに、現在の民主党の主要メンバーである菅代表代行、鳩山幹事長、前原副代表の3人はこの2つのトラウマを抱えています。いくら魅力的な提案に見えたとしても、毒饅頭ではないかと警戒が先にたち、丸呑み・連立を受諾するとは感情的にも考えづらいのです。

    民主党にとって不幸なことに、こうした局面において党首だったのが、かつてwebmasterが論じた(2003年2004年)ように人情の機微に疎くおよそ政局に向いていない小沢一郎でした。政策が実現できるからいいではないか、と飛びついた結果がこれです。今回の騒動がどのような形で収束しようとも、政権奪取のモメンタムは遠く失われてしまったものと考えられ、上記のwebmasterの予測のごとく、これからひたすらに千日手が続く可能性が極めて高くなったのではないでしょうか。

    蛇足ながら、千日手を回避するための奇策として、これまた民主党所属議員の多くのトラウマを掻き立てるであろうものがひとつだけあります。成功する確率はそれほど高くないかもしれませんが、今般の騒動の結果、洋上補給再開の目処が立たなくなったとして内閣総辞職してしまい、次の総理候補は立てずに民主党に政権を任せてしまうというものです。もう11月になっていますから、来年度予算案は大枠は現行方針でいくしかありません(今からゼロベースで作り直していては、来年度に間に合いません)。結果、民主党は、来年の1月には自分たちの意向を盛り込んだわけでもない予算を政府・与党として国会に提出する破目に陥ります。

    下野したとはいえ自民党は衆議院で過半数を握っているわけですから、予算審議は思いのままです‐憲法上の予算審議に係る衆議院の優越が、ここでは重い意味を持ちます。大枠として現在の政府・与党が検討を進めていたものとはいえ、多少は民主党の独自施策に関連する予算も入ってくるでしょう。そこに難癖をつけて予算委員会で少数与党を袋叩きにして、最終的には予算成立を花道に民主党政権退陣に持ち込めば、おそらく民主党は今をはるかに上回る大混乱となってしまうに違いありません‐そう、細川政権崩壊後の当時の連立与党がそうであったように。

    11/03/2007 (11:59 pm)

    高橋洋一さんへの苦言

    Filed under: treasury ::

    本来であればその著書「財投改革の経済学」を読んでから書くべき話ではあるのですが。

    まず政府資産・負債管理政策。ここにめっけものの数字がある。国の貸借対照表から浮かびあがる特別会計の「見えない資産」である。これまであるあると言われてきたが、霞が関の「隠しポケット」が、本書で裸にされている。かつて塩爺、こと塩川正十郎が言った「母屋(一般会計)でおかゆ、離れ(特別会計)ですき焼き」の実態はこれなのだ。

    高橋氏のデータは、05年4月27日の経済財政諮問会議で明らかにされた数字に基づいている。これは各特別会計について、継続中の事業をのぞき新規事業を行わないという前提ではじきだした資産負債差額(清算バランス)の推計額である。

    それによると、特会に隠された主な「見えない資産」、つまりプラスの清算バランスは

    財政融資資金特別会計53兆円(現在価値23兆円)
    国有林野事業特別会計4・5兆円(同4・5兆円)
    労働保険特別会計6・5兆円(同5・1兆円)
    空港整備特別会計2・3兆円(同1・9兆円)
    自動車損害賠償保証事業特別会計1・2兆円(同0・7兆円)

    (略)

    高橋氏は「離れですき焼き」は計50兆円規模とみる。民主党が知ったらほくそ笑むだろう。消費税1%引き上げで税収が1兆円の増収になるが、50兆円も「隠しポケット」に抱えていながら、一銭もたくわえを崩さずに消費税引き上げが通るはずもない。

    「高橋洋一「財政改革の経済学」のススメ 1」(@FACTA online/阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」11/2付)

    「計50兆円規模」の「離れですき焼き」が事実であるとして(おそらくは現在価値の足し上げでしょう)、その半分近くを占める最大のものは財政融資資金特別会計のものです。ではなぜそんなものが生じたのか、結論からいえば財政融資資金が大きな金利リスクを背負っているからです。2003(平成15)年度のものと若干古くはありますが、そのマチュリティーラダーやデュレーションギャップが示すのは、財政融資資金が長短金利差で利益を得ている‐わかりやすく言えば、短期資金を低金利で調達し、高金利の長期資金で運用しているため、その金利差が利益になっている‐という事実であり、「離れですき焼き」とは、その累積に他なりません。

    #デフレのため、中長期的なトレンドとして(名目)金利低下局面であったことが、上記利益をさらに押し上げていました。

    逆に言えば、金利が上昇して既往の長期運用の金利を上回るほど調達の短期金利が上昇したり、さらには逆イールドになりにでもすれば、多額の損失が財政融資資金に生じる可能性がある、ということとなります。直近の計数でどの程度のデュレーションギャップがあるかはわかりませんが、上記リンク先での1.35年(2003年末)が今なお妥当すると仮定すれば、2006(平成18)年度末の財政融資資金残高が300兆円弱ですから、金利が急激に(=ポートフォリオ組替えをする間もなく)3%ほど上昇すれば約10兆円の損失(時価評価の対象とならない貸付債権が過半ですから、正確には逆ザヤの現在価値+保有有価証券の評価損となります)が生じるわけです。これを考えれば清算剰余の現在価値23兆円とは、びた一文たりとも剥がせないということはないにせよ、大半は必要なリザーブだといえるでしょう。

    以上を受けての苦言ですが、高橋さんのご専門を考えれば、こうした事情を理解できないとは考えづらいでしょう。とすれば、本来はその中に「離れですき焼き」とは言いがたいものが含まれていることを承知で、50兆円もの「離れですき焼き」があるとのミスリードを行ったものと考えられます。これは決して褒められたこととは言えますまい。

    加えて、過去にさかのぼれば、高橋さんは次のようなことをおっしゃっていました。

    郵貯等の資金運用部への預託期間は7年であるが,資金運用部はより長期の期間で財投機関に資金を融資している。財投における長期資金の供給は,資金運用部(最終的には政府)が金利リスクを負担することによって可能になっているのではないかという議論がされてきた。しかし,高橋(1998)は,現在の資金運用部はALMによる金利リスク管理(短期資産の運用を同時におこなうこと)により,資金運用部に内在する金利リスクはほとんどないとしている。

    岩本康志「日本の財政投融資」(webmaster注:原文の注記は略しています。なお、「高橋(1998)とは、高橋洋一「財政投融資改革の方向」、岩田・深尾編「財政投融資の経済分析」pp175-243です)

    直接の引用でないのはご容赦いただければ幸いですが(手元にないので・・・)、「現在の資金運用部はALMによる金利リスク管理(短期資産の運用を同時におこなうこと)により,資金運用部に内在する金利リスクはほとんどない」という事実はないからこそ、上記のようなデュレーションギャップが生じているのです。高橋さんが財投を担当していらっしゃったころはきちんとALMができていて、その後金利リスクが急激に増加した可能性がないわけではありませんが、それこそ巨額の累積黒字の存在が、金利リスクをテイクしていたこと=「金利リスクはほとんどない」といえるほどのALMが実現できていなかった可能性を強く示唆します。

    #資金運用部(資金)=現在の財政融資資金となります。

    高橋さんが財政融資資金の累積黒字を難ずるのであれば、なぜそれが生じたのかについてもきちんと言及すべきでしょうし、となれば必然的に過去の上記のご主張は誤りであったと認めざるを得ないとwebmasterは思うのですが、いかがでしょうか。

    11/02/2007 (11:59 pm)

    パブコメジェネレータ!

    Filed under: government, WWW ::

    先日のMiAUに関するエントリの続きです。

    パブコメジェネレータは、簡単に言えば、質問に答えていくとMIAUで提供する原案や投稿されたパブコメ素材を活用した、回答者向けに生成されたパブコメ案ができるというものです。

    パブコメジェネレータ開発

    前回のエントリでは、パブコメの「素材」がテンプレとして用いられる可能性が高く、思考停止を招くおそれがあるのではと批判したわけですが、ますますその方向に突っ走っているようで。

    ジェネレータの最終的な出力を、そのままメール送信までできると「コピペを推奨かよ」と批判されてしまうので、しない方が良い

    パブコメジェネレータ開発

    そのままメール送信すれば、コピーもペイストもしないわけですから、それはもうコピペではありませんね(笑)。とまれ、

    • コピペを助長することになるのでしない方がよいではなく、「『コピペを推奨かよ』と批判されてしまう」ことの回避のためということで、実際にコピペが大量に出回るようなことになったとしても、それを問題だとは思わないのだな、ということがわかり、
    • 他方、そうしたことが批判され得るとの認識はあり、「そのままメール送信までできる」わけではないとの言い訳を用意しているのだな、ということもわかり、

    なかなか興味深い一文ではあります。

    11/01/2007 (11:59 pm)

    FRB利下げとモラルハザード

    Filed under: economy, BOJ ::

     米連邦準備制度理事会(FRB)は31日、金融政策を決める公開市場委員会(FOMC)を開き、短期金利の指標であるフェデラルファンド金利の誘導目標を0.25%幅引き下げ、年4.50%にした。低所得者向け(サブプライム)住宅ローンの焦げつきが増え、金融市場や景気に悪影響が広がっているためで、金融緩和は0.50%幅下げた9月に続いて2回連続となった。

     FOMC後に発表した声明では一連の利下げ効果に触れ、インフレ加速と景気減速の危険性が「今回でほぼバランスがとれた」と、政策金利が適度な水準になりつつあることを強調。12月の次回会合では金利を据え置く可能性を示した。ただ、米経済が一層悪化すれば利下げを検討する方針とみられ、来年にかけて緩和局面が続くとの見方が有力だ。

     声明は、7〜9月期の米経済成長が底堅く、金融市場の緊張もやや和らいでいると指摘しつつ、目先は「住宅市場の調整が激しくなり、景気拡大のペースは鈍りそうだ」と警戒感を表明。その一方で、原油価格が高騰するなか、金融緩和が拍車をかけかねないインフレ再燃にも懸念を示した。今回の利下げには、10人の委員のうち1人がインフレ警戒から反対した。

     声明が次回会合での金利据え置きの可能性を示唆したことについて、民間エコノミストの間では「住宅不況の長期化で、いずれ再度の利下げに追い込まれる可能性が濃厚」との見方がめだっている。

    朝日「米FRBが追加利下げ 0.25%幅」

    単なる思いつきなのですが、FRBがまともだから日銀がダウンサイドリスクに鈍感になれるのでは? 保険をかけたから、もし事故が起きても保険金がもらえると思って事故回避を怠るというのが典型的モラルハザードですが、これって中央銀行同士にも当てはまるような気がwebmasterにはします。結果において、アメリカの堅実な経済成長が外需となって今の日本の景気を支える主因のひとつになっているのですから。

    さらに言えば先日取り上げた竹森俊平「1997年――世界を変えた金融危機」にて指摘されていた、ITバブル破裂後のFRBの緩和寄りスタンスがバブルを引き起こす可能性も、こうしたFRBの果断な姿勢に関する期待が重要なのかもしれません。結局のところ、最近のFRBはITバブル破裂にせよ今般のサブプライム問題にせよ、金融危機の芽が萌え出でた際にはソフトランディングの実現に全力を尽くしているわけで、これがある種の「保険」として認知されれば、モラルハザード的行動を引き起こす可能性は否定できないのではないでしょうか。

    ましてFRBの金融政策という「保険」は、世にある普通の保険とは異なり、審査なしに全ての者にあまねく効果を及ぼすわけですから・・・。

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