「霞が関埋蔵金伝説」について:各論(後編)
昨日の続きですが、次のかんべえさんのテキストをBaatarismさんは引用されています。
○ホテルオークラ別館での大パーティーである。まとめて大勢の人に会えるのでありがたい。特に金融界の人は、しょっちゅう勤務先が変わったりするので、こういうときが名刺交換のチャンスとなる。主催者の挨拶が短いのもありがたい。政治家では、中川さんと渡辺さんが来てました。経済政策をめぐる旬の話題は、「埋蔵金」であるようですな。結構なことです。
○特別会計の中には、財務省がヘソクリにしているお金が数十兆円単位である。にもかかわらず、「財政再建のために消費税増税が必要だ」と言っている。これって、ケシカラン話ですよね。もちろん、ヘソクリは1回使ってしまえばそれで終わりなので、いざというときのために残しておくという財務省の考え方は、財政当局としては正しいと思う。
○政府にとっての恐怖のシナリオは、来年4月の予算関連法案において、民主党が「赤字国債の発行を止める」という暴挙に出ることであった。その場合、平成20年度予算は赤字国債抜きで執行しなければならず、20兆円程度の穴が空く。そこで財務省は、泣く泣くヘソクリに手をつけることになるのだが、そこで初めてヘソクリの存在を知った国民がなんと思うか。「バカヤロー、何が消費税だ。人にお願いをする前に、ちゃんと裸にならんかい!」と怒ったのではないか。
○「埋蔵金」は、増税派に対する上げ潮派の攻撃という性質を持っていますが、この問題が表面化したお陰で、自民党にとってのリスクシナリオは回避されつつある。いやはや、政治は奥が深いのであります。
ヘソクリといってよいか(企業会計でいえば利益準備金のニュアンスになりますが、むしろ引当金等のイメージだとは一昨日・昨日と書いたとおりです。過剰に引き当てているのならば経済的には利益準備金と同じことですが、その検討がまともになされているわけではないわけで)にはwebmasterには異論がありますし、上げ潮派も経済成長すれば増税は不要だというのが基本的スタンスのはずですが、それを放擲して財務省の掌の上で踊っているのですからひどい転向だとも思いますが、まあそれは本エントリではこれ以上は書きません。本エントリで取り上げたいのは、「恐怖のシナリオ」です。
結論から申し上げれば、こんなものは「恐怖のシナリオ」でも何でもありません。というのも、荒唐無稽で実現可能性がゼロだからです‐もちろん、民主党はそんなことはしないだろう、なんてわけではないのですが。その心は、政府が勝手に「泣く泣くヘソクリに手をつける」ことは不可能だ、ということです。たとえば、特別会計に関する法律中、財政融資資金特別会計に関する規定を見てみましょう。
(積立金)
第58条 財政融資資金勘定において、毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合には、当該剰余金のうち、当該年度の歳入の収納済額(次項において「収納済額」という。)から当該年度の歳出の支出済額と第70条の規定による歳出金の翌年度への繰越額のうち支払義務の生じた歳出金であって当該年度の出納の完結までに支出済みとならなかったものとの合計額(次項において「支出済額等」という。)を控除した金額に相当する金額を、積立金として積み立てるものとする。
2 (略)
3 第1項の積立金が毎会計年度末において政令で定めるところにより算定した金額を超える場合には、予算で定めるところにより、その超える金額に相当する金額の範囲内で、同項の積立金から財政融資資金勘定の歳入に繰り入れ、当該繰り入れた金額を、同勘定から国債整理基金特別会計に繰り入れることができる。
4 (略)
この第3項の「国債整理基金特別会計に繰り入れる」というのが、今回使われる条文です。国債整理基金特別会計は借換債の発行主体ですが、そこの歳入が繰入額の分だけ増えるので、借換債を減らしても同特別会計の歳出(=国債の償還)がまかなえる、という仕組みとなっています。
本件が荒唐無稽だというのは、この繰入れは政府が自由にできるものではなく、「予算で定めるところにより」という縛りがかかっていることを無視していることに起因します。来年3月(かんべえさんは「4月」と書かれていますが、特例公債法は日切れ扱いなので、年度内に審議されることとなります)に特例公債法が審議されて参議院で否決されたとしても、その際には予算案は衆院を通過しているでしょうから、そのタイミングで積立金の取崩し・国債整理基金特別会計への繰入れを追加することなど不可能です。結果、特例公債法が成立しなかったとしても、「ヘソクリに手をつける」根拠もまた成立していないので、赤字国債が発行できないのと同じ理由(=国会の議決を経ていないこと)で、「ヘソクリに手をつける」こともできないのです。
では実際にこのような事態が生じればどうなるのでしょう。答えはひとつしかなく、一般会計においてまずはFBで一時的な資金繰りをつけ、さらに国債整理基金特別会計への繰入れを停止し、あるはずのキャッシュインがなくなる国債整理基金特別会計の資金繰りはTBでまかなうしかありません。そうしておいて年度内の資金繰りを確保した上で、当該年度中に特例公債法が成立するか、「ヘソクリに手をつける」ための補正予算が成立するのを待つのみです。
結局のところ、こうした「恐怖のシナリオ」が語られるのも、特別会計はさまざまな監視が一般会計に比して届いておらず、役所が勝手にあれこれよからぬことをしているという一般的な見方の延長なのでしょう。しかし、法律の縛りも予算の縛りも、特別会計が一般会計よりも軽いということはありません。実は両者が大いに異なる点というのは、財務省の査定がどの程度及ぶかという点だけです‐特定財源=使途が法律で決まっている歳入については、財務省は、効率的な執行を求めることはできても、使途そのものを否定することは不可能なので。もし可能であれば、法律を財務省の担当者が覆せるということになってしまいます。
特別会計を問題視する論者は、以上を踏まえれば、自覚的かどうかは措くとしても、実は財務省に大いに依存する心情を抱いているということとなります。一般会計に勝るとも劣らないほど情報は公開されているのですから、問題だと思うのであれば追及すればよいだけの話です(蛇足ながら、予算審議権を持つのにこの手のことを言う国会議員は、特別会計の審議を自らおろそかに自白しているに等しいでしょう)。それをせずに特別会計への切込みが甘いというのは、財務省にもっと権限があればいいのに、法律の縛りを主計局が無視すればいいのに、という主張だと解さざるを得ないわけですが・・・。
