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2007-01-13
■ [law][WWW]"2ch.net"ドメインに係る強制執行
#webmasterは弁護士ではなく民事執行実務にはまったくなじみがありませんし、大学でその手の講義を受けたわけでもないので、その程度のものとしてお読みください。
既にご案内の向きも多いかもしれませんが。
ネット界激震!! 賠償命令を無視し続けてきた日本最大の掲示板「2ちゃんねる」(2Ch)の管理人、西村博之氏(30)の全財産が仮差し押さえされることが12日、分かった。債権者が東京地裁に申し立てたもので、対象となるのは西村氏の銀行口座、軽自動車、パソコン、さらにネット上の住所にあたる2Chのドメイン「2ch.net」にまで及ぶ見込み。執行されれば掲示板の機能が一時停止するのは必至だ。
(略)
西村氏が出廷してこないまま同9月に開示を命じる仮処分が出たが、何ら対応が得られないため、間接強制で1日5万円ずつ制裁金を科すこととなった。それでも西村氏の法廷無視は続き、決定から100日を経て債権は500万円に膨れあがった。
(略)
今後、西村氏の異議申立期間もあるが、これまでと同様に出廷しない場合、早ければ再来週にも強制執行が始まる。
今回の仮差し押さえは、西村氏個人はもとより、1000万人ともされる2Chユーザーにも大きな影響を及ぼす公算が大きい。東京地裁の「値段がつくものは差し押さえ可能」との判断から、「日本国内では前代未聞」(ドメイン登録機関)とされるドメインの仮差し押さえも行われるからだ。
手続きが進んでドメインの所有権が移り、2Chというサイトがネット上の住所を失ってしまうと、ユーザーが従来の「2ch.net」にアクセスしても、何ら閲覧できなくなる。
運営側が掲示板の継続を望むなら、新たなドメインを取得して全システムを引っ越す必要があるが、「2Chはリスクを分散するため、50台ものサーバーが各自独立しており、全体を統括するサーバーがない。データの書き換えは容易でなく、引っ越しに2週間は必要だろう。さらに新ドメインを周知するのが大変だ」(IT業界関係者)。
ZAKZAK「ユーザーショック…2ちゃんねる、再来週にも強制執行」
この記事を受けて、壇弁護士が次のように書かれています。
もっとも、ドメインに対する執行をやるとすれば、どのような手続になるのだろうかがとても疑問になった?
執行というからには、裁判所で競売手続をして、競落人が決定して代金を支払ったら、ドメイン登録者を書き換える手続をすることになるであろう。この場合、登録の書き換えはどうやってやるのだろう?
ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)に対して、裁判所が決定を送るのであろうか?
それとも.netドメイン管理機関のVeriSign社か2ch.netのレジストラのTucows社に送るのだろうか?
いずれも応じるとは思えないのであるが…。
外国法人に対する執行手続きをするには、それなりの国家間の協定が必要なので、条約でも無い限り難しいような気がする。
「ドメインの差押え」(@壇弁護士の事務室1/12付)
確かに海外当局の強制力を借りて執行するには協定・条約が必要でしょうけれども、当事者が自主的に応じる分には問題がないのでは、と思います。では当事者が自主的に応じるのか、という問題ですが、
第3節 ドメイン名登録の抹消、移転、および変更
当レジストラは、下記に該当するときに、ドメイン名登録の抹消、移転または変更の手続を行う:
a.第8節の規定に従う限りにおいて、登録者またはその権限ある代理人から、かかる旨の書面または適切な電子手段による指示(instruction)を受領したとき;
b.適正な管轄権を有する裁判所または仲裁機関から、かかる旨の命令(order)を受領したとき; および/または
c.ICANNが採択したこの処理方針またはその改訂版に基づいて実施された、登録者が当事者となっている紛争処理手続において、その紛争処理パネルが下したかかる旨の裁定を受領したとき。(下記第4節(i)、(k)を参照。)当レジストラは、さらに登録合意書の規約または他の法律的要請に基づいて、ドメイン名登録の抹消、移転または変更の手続を行うことができる。
統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy)、参考訳)
とあるので、このbを根拠に応じることも十分考えられるでしょう。ただ問題は、そもそもドメイン名は競売→配当という強制執行にふさわしいのか、ということではないでしょうか。
ドメイン名が何を表すのか、壇弁護士も、
そもそも、ドメインって執行法上も財産として扱ってもらえるのだろうか?財産として動産なのか不動産なのか債権なのか。それぞれ、手続が違うのであるが考え出すときりがない。執行法というのは、ベテランの弁護士の先生には執行法をろくに知らないという場合もあるくらい、ややこしく使い勝手の悪い法律である。その使い勝手の悪さは、著作権法の比ではない。
「ドメインの差押え」(@壇弁護士の事務室1/12付)
とお書きになっていらっしゃいますが、少なくとも売買される際に買い手が金銭を支払うのは、当該ドメイン名についてDNSシステムが照会を受けた際に、特定のIPアドレスを返す部分でしょう。つまり、登録者が有する債権の内容は、自分が指示するとおりに特定のドメイン名に対して特定のIPアドレスを返せというものになるわけです。
民事執行法を読む限り、金銭債権であれば転付命令を得ること等を通じて直接履行を受けることができますが、作為を目的とするものは(まさしくドメイン名に係るものがそうでしょう)、代替執行あるいは間接執行によってその作為を実現することが想定されています。間接強制とは冒頭の記事にあるとおりいわば罰金を科して執行を促すものですが、それに実効性があるならばそもそもこのような事態になっていないわけで、意味がないでしょう。ただし、これらによって実現される作為は、ドメイン名であればレジストラ等が適切に登録せよということですから、あくまでひろゆきさんに対して何らかの強制執行をしようという本件に適用されるような話ではありません。(1/14訂正)
そもそもの議論をするなら、本件の債権者にとって、ドメイン名登録の登録者名義移転そのものは目的ではなく、その換金価値に着目して賠償金を得ることが目的になっているわけです。言い換えるならば、登録者名義移転はお金を得るための手段に過ぎないわけで、その点がDan Kogaiさんも引用の、"goo.co.jp"ドメインの移転とは話が違ってきます。
とはいってもそれしか債務者(本件で言えば、ひろゆきさん)に換金可能な財産がないなら、動産と類推解釈する等により実務上なんとかならないこともないのかな、という気はします。しかしながら、報道を見る限り、銀行口座の差し押さえ等にも着手しているようですから、そこから500万円を回収して、ドメイン名には手付かずで終わるのではないかな、とwebmasterは思うのです。裁判所だって、あえて危ない橋を渡らなくても目的が実現できるなら、そちらで行くよう誘導するでしょうし。
言い換えるなら、国際的にどうとか、債権の内容がこうとかいうのではなく、作為債権の競売による金銭回収を(日本の)民事執行法が想定していないがゆえに、差し押さえは実質的な意味を持たないのかな、ということです。このあたり、詳しい方のご指摘をいただけるとうれしいのですが・・・。
さらに考えるならば、仮に競売→移転ということになっても、競落する人間が"2ch.net"に別のIPアドレスを割り当てることがなければ、今までどおりのアクセスが可能となります。2ちゃんねるの財産的価値がそのページヴューにあると常識的に考えるならば、落札者はひろゆきさんから手数料を受け取る等の形で財産的価値から利益を得ることを選ぶのであって、別のIPアドレスを割り当てるようなことはしないのでは、と予想されます。一時的に多くのアクセスを集めたところで、2ちゃんねるでない"2ch.net"のページヴューなど、瞬く間になきに等しいものになってしまうでしょうから。
本文に
「動産と類推解釈」、「作為債権の競売による金銭回収」と書いていらっしゃいますが、正直に言ってあり得ない議論だと思います。
TB先にも書きましたが、
ドメインは有体物ではないので、動産ではありません。金銭の支払いを目的とする債権でもないので、その他の財産権になります。そして、「その他の財産権に対する強制執行については、特別の定めがあるもののほか、債権執行の例による」と民事執行法167条で定められています。
ですので、裁判所が競売をすることはあり得ません。
また、「作為を目的とするものは(まさしくドメイン名に係るものがそうでしょう)、代替執行あるいは間接執行によってその作為を実現することが想定されています」と書いていますが、これもありえません。
代替執行とか間接執行を使うのは、当該債権の債権者が債務者に対し債権を履行せよと言ったのに履行しないときです(たとえばレジストラがアドレスの割当てをしない場合)。債務者が第三債務者に対して有する債権について、代替執行も間接執行もありえません。
条文を読めばすぐ分かる話なんですがね・・・。まあ壇とかいう弁護士も同じ程度の頭しかないみたいですが。
あと、作為債権の競売による差し押さえを想定していない、というのがどういう意味か正確には分かりかねますが、譲渡命令(条文を見てください)を使えばお金を払って債権を自分のものにできますけど・・・。ただ、第三債務者(本件ではレジストラ)が外国にいた場合、第三債務者に送達できないので執行できない(第三債務者に対する送達が有効要件である上に、外国の個人、法人に対する送達は、正式な手続によれば極めて費用と時間がかかる+郵便による送達は日本では認められていない)、だから本件についてドメイン契約について民事執行ができないということが言いたいのであればおっしゃるとおりです。
西村氏もおそらくちゃんとした弁護士に相談して、執行を受ける可能性について上のような検討をしていることでしょうから、いわゆる「2チャンネルドメインの差し押さえ」は空振りに終わるでしょう。
>hzさん
いろいろとご教示いただきありがとうございます。代替執行等はおっしゃるとおりです。行政法で少しは齧ったはずだったのですが、すっかり忘れていたようでお恥ずかしい限りです。
他方、動産の類推適用はないとは、理屈から言えばおっしゃるとおりなのですが、であるならなぜ仮差し押さえが認められたのか、そこがよくわからないのです。あくまで賠償債権の回収のためということですから、換金しなければ意味がありません。本件の債権者が譲渡命令を勝ち取って自らネット広告でも集めて収入を得るというのであればさておき、常識的には競売して換金でしょうから、となると動産の類推適用ぐらいしか考え付かなかったのです。
ドメイン登録者の地位への強制執行について、
http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2007/01/post_9b5c.html
で論点摘示をしてみました。
TBがうまくできていないのでこちらに
http://hzkn.blog52.fc2.com/blog-entry-32.html
レジストラが外国にいようと差押え命令の送達はできます。時間は確かにかかりますが、費用はそうでもなかったような記憶があります(だいぶ昔の話なので具体的な数字は忘れましたが)。送達までに時間がかかると第三者に転売されたり隠匿されたりという危険が通常はあるのですが、ドメイン名の場合、隠匿は難しそうです。
債権者が2chのような匿名での誹謗中傷ができる場を潰すことを目的としているのであれば、転売はできなくてもドメインを保有することでサービスの停止ができればいいのかもしれませんね。実際には、ネットユーザーのこの欲望は止まらなくて新しい場に移るだけなんでしょうが。
ドメイン名だけを抑えたところで、2channel.tvなり2-channel.netなり、好きなのを使えばよいだけで、サービス停止に持ち込むのは無理でしょう。
ちなみに、2ch.netのレジストラはTUCOWS INC.です。
>小倉先生
論点整理ありがとうございました。ここまで論客がそろってくれば、そろそろ私の出番はなくなるでしょうから(最初っからなかったり・・・)、あとは諸賢の議論を興味深く拝見させていただこうと思います。
>hzさん
拝読させていただきました。冒頭お書きになられているとおり、そもそも差し押さえって何をどうするのかがよくわからないんですよね。まあ私の場合、知識不足も大きいのですが・・・。
ちなみにtrackbackですが、spamよけのため、trackback先のエントリにリンクが張られていないと拒否する設定になっております。以後、ご指導いただける機会があれば、そのようなものとご理解いただければ幸いです。
>kogeさん
ただ、本件はあくまで損害賠償債権の回収のために行うのであって、そのような意図ではあり得ないのです。もちろん債権者の真意がどうかは知ったことではありませんが、裁判所はそういう観点からしか認めないので・・・。
>規制業種さん
http://d.hatena.ne.jp/rna/20070113/p1
やそこで紹介されているものなど、すでに代替策は着々と整備されているようです。
閉鎖に追い込む気なら、こちらの事例問題の方が参考委になるでしょう。
http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2007/01/post_cee6.html
>小倉先生
私個人としては、閉鎖して欲しいとは思っておりませんので・・・。もちろんひろゆきさん個人がどうこうとは別の話なので、適当な代替サイトがあればそれでよいのですが。