自由貿易は迷いなく推進すべし
kmori58さんのご紹介にて、興味深いクルーグマンの論説を読みました。自由貿易はよいことばかりではない、との趣旨とのことですが、
The trouble now is that these effects may no longer be as modest as they were, because imports of manufactured goods from the third world have grown dramatically - from just 2.5 percent of G.D.P. in 1990 to 6 percent in 2006.
And the biggest growth in imports has come from countries with very low wages. The original “newly industrializing economies” exporting manufactured goods - South Korea, Taiwan, Hong Kong and Singapore - paid wages that were about 25 percent of U.S. levels in 1990. Since then, however, the sources of our imports have shifted to Mexico, where wages are only 11 percent of the U.S. level, and China, where they’re only about 3 percent or 4 percent.
(略)
So am I arguing for protectionism? No. Those who think that globalization is always and everywhere a bad thing are wrong. On the contrary, keeping world markets relatively open is crucial to the hopes of billions of people.
(略)
As I said, I’m not a protectionist. For the sake of the world as a whole, I hope that we respond to the trouble with trade not by shutting trade down, but by doing things like strengthening the social safety net. But those who are worried about trade have a point, and deserve some respect.
New York Times “Trouble With Trade”
この辺りを読む限り、パレート改善でないこともある、というものとwebmasterは理解しました。さらにいえばそれは従来からではあるのですが、程度問題として昨今では悪影響を蒙る者のことが無視できない規模となっている、ということでしょう。webmasterの管見を付け加えるなら、そうした者を無視した政策運営をすれば保護主義の勃興につながりかねないため、きちんと対処しないといけない、と。
貿易というと他国への流出云々といった議論になるので、問題の所在をシンプルに示すため海外がない世界を考えてみれば、画期的な新技術によって国内生産を半分の投入リソースで実現できるようになった場合を考えてみます。ざっくりと考えればこれにより国内産品の価格は半額になる一方、失業率は50%になってしまいます。もちろんこのような新技術は歓迎すべきものであるのですが、職を失う半数の者がその導入に反対することもまた、想像に難くありません。
こうした場合、とりわけ民主政の下では失業する半数の者(事前ということであれば、失業リスクにおびえる者の数はより多くなるでしょう)が強硬に反対するなら、政治的に新技術の導入が妨げられかねません。そこで、仮に失業しても万全の就職支援をしますとか、今は労働需給が逼迫しているのですぐに新しい職が見つかりますなどと説得的に説明できれば、新技術の導入が円滑に行われる可能性が高まります。失業は自己責任だなどと嘯いて何も手当てせず深刻な政治的対立を招くより、いかに成果を他者と分け合うかに注力した方が、結果的に新技術の導入はうまくいくはずです。
クルーグマンの主張することも、要するにそういったことではないでしょうか。”keeping world markets relatively open is crucial to the hopes of billions of people.”"I hope that we respond to the trouble with trade not by shutting trade down, but by doing things like strengthening the social safety net.”という文には、そのような含意がwebmasterには感じられるのです。





1月 16th, 2008 at 7:48:09
>失業は自己責任だなどと嘯いて何も手当てせず深刻な政治的対立を招くより、
政治的対立になり得ておらず、犯罪の増加とかそっちで効果を発揮しているような気がするのがorz.
正面から政治的対立になった方がまだマシな気がするのですが、若年層の採用減と中高年のリストラは炭坑の閉山とかと違ってちょっとずつだらだらずるずると行なわれたので、政治的対立にはなり難かったのでしょうか。
1月 16th, 2008 at 20:15:45
物価半分で失業率50%ということは、純経済的総量的には『半分のヒトしか働いていないのに、物質的豊かさは以前と同じ』ということですからね。
理論的には、やがて皆が働けるようになれば豊かさは2倍になるのでしょう。
しかしまあマクロ経済的にはそうは行きませんし、経済学が扱わない、個人が感じる失業の恐怖や社会の不安定化などの現実的問題、つまり秩序問題的にもそうはいきませんよね。
そこら辺で、理論と現実の間に矛盾が生まれるのだと思います。
1900年前後に恐慌が何度も起こって(マクロ)、ファジズムとかが生まれた(秩序)のも同じ原理だと思います(大量生産技術で物価半分失業50%状態に)。
このように、急激な変化は社会の機能不全を起こすリスクが高いからこそ、平時から斬新的に改善する必要があると思います。生産性の向上とか、産業構造の転換とか…。
しかし、平時は平時で『赤字じゃないから問題ない』とか『今まで平気だったのにどうして変えるんだ』とか『それが市場の意思だ』とかなるんですよね。
そのようにして日々の改善を怠った結果として急激な変化が避けられないならば、bewaadさんの言うとおり、政治が変化を手助けする同時に変動のショックを調整する必要があるのでしょう。
1月 17th, 2008 at 23:19:43
>>壺さん
仮に生産性の上昇が多くの雇用を生み出すのであっても、デフレは実質金利の上昇と、アニマルスピリットの低下をもたらして、企業の投資活動が不活発になりますので、生産性の上昇率が低下します。
「日本の労働生産性の上昇率が諸外国より低い」類のネタに、「努力が足りないからだ」と言う人を、僕は金輪際信用しません。むしろ、そこでコブ=ダグラス型生産関数を持ち出して、「労働生産性が上昇しないのは資本投下が不足しているからだ」という人が少ないのにがっかりしてしまいます。まあ、コブ=ダグラス型生産関数は、計算上の都合によるモデルの簡素化テクニックではありますが、でも生産性の推計をするときには皆コブ=ダグラス型を仮定しているわけで。
ちなみに、1900年以前にも恐慌は起きています。というか、むしろデフレという現象は銀行を通じた信用創造が発達する以前の社会ほど普遍的に発生します。それは貨幣が実物(金)の産出量に依存していたからです。それ以後は金本位制を離脱した瞬間に(たかだか35年前ですが)皆無になっているはずです。恐慌は明らかに貨幣的現象だと思います。
たったそれだけの事なのに、「何か動原理を変えなければ良くならない」と考える事が、ファシズムなり宗教的権威なり、あえて言うならば「構造改革教」に付け込まれる隙となってしまうのかなぁと思う次第。
市場原理を信奉するのであれば、「全てはアッラーの神の思し召しで決まる」くらいの達観が欲しいものですw
1月 18th, 2008 at 22:40:46
>>鍋像様
コブダグラスでなくとも、資本装備率が上がれば労働生産性は上がると思います(労働生産性(Y/L)=資本生産性(Y/K)×資本装備率(K/L)から)。資本投下が増えてもアウトプットが全く伸びない、とか言い張れば別ですが。コブダグラスじゃないと、生産関数から一人当たり生産量=f(資本装備率)の関係を一発で出せなくなっちゃいますけどね。
1月 19th, 2008 at 12:28:29
クルーグマンのような物言いをすると自由貿易は死ぬ
ささいな一つの制限に多くの相乗りが生じて保護貿易に至る
リベラル・左翼が世界を破壊する典型例だ
1月 20th, 2008 at 23:36:28
>>ゲストさん
コブ=ダグラスが都合が良いのは、労働者が一生懸命働く(時間)と、資本生産性があがって、労働生産性は上がらないという事がはっきり言えるからですw
1月 23rd, 2008 at 4:01:31
>BUNTENさん
貿易の事例ですと、農産品や繊維などで問題になっているわけで、新技術ではそこまでの急激な生産性変化は珍しいということではないでしょうか(歴史にまで例を求めれば、ラッダイト運動という格好の例がありますが)。
>壺さん
犯罪率・失業率のエントリでも書きましたが、小野先生のように失業の非効率性を経済学からきちんと論証されている方もいらっしゃるわけで、「理論と現実の間に矛盾が生まれる」とは限らないと思います。
>鍋象さん
昔クルーグマンが言ってましたよね、(アメリカで)労働生産性が一番高いのはITでなくタバコ産業だ、じゃあみんなタバコ産業で働けばいいのかい? って。
>ゲストさん
補足いただきありがとうございました。