go back to top page[0]
今回からは個別の論点に焦点を移す。
まず最初に、本連載にwebmasterが知る限り最初に反応してくれた有在証明日記の8月9日のテキストを端緒として、現在価値を算出するための割引率を中心に取り上げよう。
本連載に対しては、資産・負債の評価を、時価評価においても特に現在割引価値のみに依ることは妥当か?(金利が確実性を有するときの計算は容易だが)
とのコメントである。
まず、金利(=割引率)が確実性を有しない場合の対応をどうするか。 これは発想の転換をすればよく、つまりは確実な金利を使うと決めてしまえばよい。
資産側の現在価値算出に用いる割引率については、資産=将来のキャッシュインの現在価値を求めるのがなぜかを考えれば、どのような金利を使えばよいかがわかる。 資産価値は、現時点でどれだけの負債を抱えることができるかという制約条件を確定するために求める必要があるのだ。 従って、負債の利回りを割引率として使えばよいということになる。
多様な社債を発行しているような企業であれば、その実際のイールドカーブや(これが描ける企業は極めて限られるのは事実)、流通利回りから求められるスプレッド(流通利回りが事実上でない場合には格付け別のスプレッドでもかまうまい)を用いた推計イールドカーブからスポットレートを計算すればよい。 社債を発行していない企業であれば、取引銀行に聞くという手もあるが、CRDのようなデータベースを活用してスプレッドを計算するのが妥当だろう。
他方で負債については、同様に負債価値は将来のキャッシュアウトを支払うため、現時点でどれだけの資産が必要かという制約条件を確定するために求められるものであるから、資産の利回りを割引率として使えばよいということになる。
では、資産の利回りとしては、何が確実な金利といえるのか。 確実性でいえばリスクフリーレート=国債金利に勝るものはないので、これを使えばよい。 つまり、国債イールドカーブから導出されるスポットレートが割引率となる。
ここで当然の疑問が湧く。 資産の利回りが国債金利であるということは、事業として国債を運用しているということと一緒になる。 しかし、投信会社以外ではそのような事業を営んでいる企業はなく、国債運用以上のリスクをとってより高いリターンを目指すからこそ、わざわざ負債を抱えて何らかの企業活動を行っている。 つまり、割引率はもっと高くてしかるべき(=負債価値はより小さくてしかるべき)であって、リスクフリーレートで割り引けば、それは債務超過となりやすいバイアスがかかることになってしまう。
ここで登場するのが前回提言した自己のれん。 経営陣が達成できると考えている付加価値の原価に対する比率を割引率として用いた場合の負債価値を別途算出し、それとリスクフリーレートで割り引いた負債価値との差額を自己のれんとして計上すれば、経営陣の事業に係る判断や評価といったものがバランスシートに計上され、外部の人間が事業のリスクプレミアムをより詳細に検討することが可能となる。
これが意味するのは、いわゆる「含み」という概念がなくなるということ。 含み損益は、通常、有価証券などについて単に簿価と時価の差額をいうことが多いが、本質的には、経営陣がインサイダーとして持っている情報に基づく評価とバランスシートに計上されている簿価との差額として理解すべきもの。
そうした情報の非対称性を埋めることこそが説明責任=accountabilityであり、会計=accountingは、そのための有力な道具でなければならない。 従来経営判断としてブラックボックスに入れられていた(メインバンクや大口株主には明かされていたかもしれないが)情報をブレイクダウンし、その当否を各ステイクホールダー自身による評価を可能とするというのが、webmasterがここで主張するあるべき会計の根っこにある哲学なのだ。
(2003-08-27記)
最近の決算期には、特に金融機関がそうだが、税効果会計に注目が集まりがちである。 この税効果会計という代物、そのコンセプトはこの連載の「バランスシートは将来キャッシュフローから作られるべし」という主張の実例の一つであるのだが、それだけ従来の考え方では理解できないということなのか、各種の報道でも誤解に基づく解説がことのほか多いのも事実だ(この点、わかりずらいのは仕方がないとも考えられるが、銀行のディスクロージャーが改善されるといった前進もあり、今後レベルの向上が望まれる)。 来週以降、各社の中間決算発表が始まるが、その前に税効果会計の見方・考え方を整理しておこう。
まず趣旨から説明すれば、税効果会計とは、具体的には繰延税金資産と繰延税金負債という2種類のバランスシート科目をどのように評価するかについてものである。 繰延税金資産は将来支払うべき税金の額が減っていることのあらわれ、つまりどれだけ将来税金が節約できるかという額の見積もりであり、他方繰延税金負債はその逆、今払う必要はないが将来払う必要がある税金の額の見積もりである。 具体例として、有価証券の時価評価に伴う会計処理を考えてみよう。 ある時点xで評価した有価証券の価値が100だったとして、その後のある時点yで同じ有価証券を評価したときに価値が変わっている場合は、次のように処理されることとなる。
公認会計士でもない限り、税効果会計というものを理解し、報道内容が正しいかどうかを判断するには、これだけわかっていれば十分である。
ある解説を読んだときに、それが信頼できるものと言えるのは上記の考え方がわかって書かれているものであるとき。 繰延税金資産が多すぎるのではという指摘について、そもそも(税会計上)赤字である法人は税金を支払う必要がないため、税金が減額されるはずもないのだが、そういうメカニズムを明らかにし、この企業の課税所得はそんなに多くない一方で、税務上の欠損金は5年間しか繰り延べられないが5年間の課税所得額の合計では繰延税金資産として計上されている額に満たないことが理由だとしているものは信頼できる。
簡単な見分け方としては、「法人税等調整額」(税引前当期利益と税引後当期利益の差額。 ある期においてどれだけ税金を支払うのかなどを表す科目)であるとか、「将来減算一時差異」(企業会計と税会計のズレが一時的なものであるため企業会計上の損金が将来的には税会計上の損金として扱われる場合に、ある期において将来的に税会計上の損金として反映されるはずの企業会計上の損金の額。 ちなみに、一時がある以上恒久な差異もあり、例えば税会計上は認められない必要経費は将来においても反映されないというのがそれに当たるが、両者のズレであってもこの分は繰延税金資産としての計上は認められない)といった言葉が使われているかどうかを見ればよい。
他方で、信頼できない記事のパターンは様々だ。 最も初歩的なものは、「繰延税金資産がなければ資本が○割に減少する」といったもの。 他の資産科目、例えばのれん代には突然の減損リスクがあるからといって、じゃあのれん代がなくなったらひどいことになりますね、なんてことをストレートに書く人間はそれほどいないのに、なぜか繰延税金資産にはこの手の乱暴な議論をする人間が多い。 上の信頼できるパターンのようにきちんとロジックを示してあればともかく、そうした検証もなしに特定の資産科目を除いて考えるというのはナンセンスだ。
だいたい、バランスシートの読み方がわかっているかどうかも怪しいものが多々ある。 文脈を見ると、繰延税金「資産」が資本の部に計上されていると考えているんだろうな、と思わざるを得ない報道は決して少なくない。
これに似たものとして、繰延税金資産額の資本の額に対する割合が高ければ高いほど問題視するという傾向が挙げられる。 この割合が高くなる理由としては、繰延税金資産が多い場合と資本が少ない場合、そしてその双方が当てはまる場合があるが、繰延税金資産が多いことについては回収に努力が必要な傾向があるとも言えるものの、資本が少ないことは一概に悪いわけではない。 資本が少ないということはレバレッジが効き収益性が高くなる(そしてその分赤字に陥るリスクも高くなる)ということ。 エクイティファイナンスよりもデットファイナンスに傾斜するというのはデフレである現時点では不利な行動であり、その意味において全く合理性に欠けるわけではないが、一般化して論ずるのはバランスのとれていない見方に基づくものである。
税効果会計が企業会計と税会計のズレから生じたものであることをよくわかっていないものもある。 ある企業について、「赤字が続いているので繰延税金資産の計上が否認されるおそれがある」ということが書いてある場合は黄信号。 ここでいう赤字が税会計上のものであればともかく、企業会計上の赤字(で、これを指して使う場合がほとんど)が大きかったり継続している場合には、それが税会計上は将来においてのみ損金として認められるものであれば、繰延税金資産はむしろ多額の計上が認められてしかるべきだからだ。
このバリエーションとしては、やたらと何年分の計上かにこだわっているものもある。 「5年」といった取扱いは将来の課税所得額を見積もるための便法として用いられているに過ぎず、そこから議論を始めるのは目的と手段が逆立ちしていると言えよう。
「アメリカでは日本のように巨額の繰延税金資産は認められない。 アメリカ基準であればこの会社は債務超過だ」といった議論も見られるが、これは単なる勉強不足か悪質なデマゴギーのいずれか。 アメリカにおいて繰延税金資産が相対的に少なくなるのは、企業会計と税会計のズレが小さいため、あくまで将来減算一時差異の額が膨張しないことがその理由。 それを知らず盲目的にアメリカ基準を日本に当てはめるのが勉強不足のパターン。 そんなことは百も承知である会計の専門家が、それを隠してアメリカのようにすべきと語っている場合は、悪質なデマゴギーであるとしか考えようがあるまい。
(2003-11-24記)
go back to top page[0]