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writings concerning kasumigaseki issues and others: 2004-01

2004-01-31更新分

[新春鼎談]2004(中編)

1号
さて、前回はなぜリフレ政策は国民受けしないのか、といったことを中心にしゃべってましたけど、今回は政策担当者ということで、やはりこれは日銀について触れないわけにはいかないですね。
主任
当方の専門は霞が関であって本石町ではないから、内部の雰囲気なんかがよくわかってるわけでは決してないけど、まあだいたい似たようなものだという前提で話すと、やはりあのかたくなな態度にはそれなりに理解できるとも言える。 霞が関でもああいったかたくなな態度になる場合がそれなりに見られるけど、それはだいたい「何で自分たちだけが」ってのと「言うだけなら誰だってできる」、それに「どうせ掌返されるわけだし」といった理由であることが多い。
2号
何かひねくれたガキの言い訳だよな。
主任
そう言うなって。 日銀の人間に聖人君子であることを求めてるとすればそっちの方が間違ってる。 ごく普通の人間であることを前提に議論しないと。 で、やっぱり日銀も霞が関同様、そういった気分からかたくなになっているのではと思わせるふしが多分にある。
1号
「何で自分たちだけが」っていうのは、そういった感情論もあるでしょうけれど、それなりの理論武装が可能ですよね。 どういうことかって言うと、日銀だって中長期的な貨幣数量説は否定していないでしょうし、デフレの解消にマネーサプライの増加が必要だということは認めているように思われます。
2号
そうかな? その割にプルーデンスの施策ばかりが前面に出てきて、マネタリーでは何もできないって言っているようにしか思えないけど。
1号
まあまずは聞いて。 マネーサプライが十分に増加すればデフレが解消できるとして、マネーサプライを分解すればベースマネーに信用乗数を掛けたものになるのだけど、マネーサプライが伸びないとすれば、原因はこの式を見ればベースマネーが伸びないか信用乗数が伸びないのどちらかであることは自明。 日銀の見解としては、自分たちはベースマネーを十分伸ばしているのにマネーサプライが伸びないのだから原因は信用乗数の低下で、それを解消するのはマネタリーではなくプルーデンスを含むいわゆる「構造改革」政策だってこと。
主任
信用乗数が低下しているのは統計を見れば明らかだけど、問題はそれを回復させるための施策が構造改革−それが何を指すかも十分に議論されるべきだけど、とりあえずここは措いておこう−なのかどうかってことだな。
1号
その前に、まずは基本をおさらいしておきましょう。 まず紙幣や日銀当座預金といったベースマネーがマネーサプライでいう「マネー」にふくれあがる理屈ですが、これは基本的に銀行の信用創造が鍵。 ある銀行のバランスシートを考えたときに、資産が現金で100、負債が預金で100と仮定して、この銀行が新たに50の貸出を行うと、貸出先の預金口座にそれが振り込まれることになりますが、まず資産を見ると貸出先がこの銀行に口座を持っていればこの銀行の資産は先ほどの現金にプラスして貸出金50、貸出先の預金口座に貸出金が振り込まれるので負債の預金が50増えて計150。 他行に口座を持っていた場合、貸し出した銀行のバランスシートでは資産が現金50と貸出金50の合計100ということで変化はありませんが、口座のある銀行で資産が現金として50増えて、そこの貸出先口座の預金残高が50増えるので、やっぱり社会全体では預金が貸出を通じて50増加します。 そもそも現金が100というのは変わっていないのに、マネーである預金が貸出を通じて50増えるわけですが、この貸出を通じた50のマネーの増加が信用創造ですね。
主任
預金が「マネー」たり得るのは、手形などの決済に使うことが可能だからであって、つまりは何かを支払うときに、お金を渡さなくても預金があるという前提で支払ったことにできる−手形での支払いとか、クレジットカード決済とか−から。 逆に、そうした手段に用いることができない預金、例えば定期預金なんかは、預金ではあっても普通はマネーにはカウントしない。 ラフに言えば、ベースマネーと当座預金や普通預金といった流動性預金の合計がマネーサプライになるわけだけど、皆が預金を引き出して現金で持っちゃうと信用乗数は1、すなわちベースマネー=マネーサプライとなる。
2号
だから、信用乗数が下がっているというのは経路が2つあり得て、1つは貸出が低調なので預金がなかなか増えないというもの、もう1つはマネーをキャッシュで皆が確保したがって預金が減るというもの。 じゃあ今はどっちなのかって言えば、ミクロ的にはタンス預金が増えているなんてよく言われるけど、日銀券(=紙幣)発行残高が顕著に増えているわけでもないので、やっぱり貸出が低調だってことなんでしょう。
主任
構造改革論者がいう、改革すべき構造は何かってのにはいろいろあるけど、信用乗数が低下している、今のロジックから導き出される貸出が伸びないのが問題だというスタンスからすると2つあって、1つはいっぱい金を借りてくれるような新規産業が出てきていないこと。 もう1つが不良債権があるので銀行に貸し出し余力がないってこと。
1号
以上で寄り道から本線に戻ると、日銀の行動パターンはまさにこの考え方に沿っていて、政府は規制緩和や産業政策で新規事業を育成しろと求める一方で、プルーデンス政策としては銀行に不良債権処理を求め、もし財務力が問題でそれができないっていうなら、政府が公的資金をつぎ込んででも不良債権を処理させろ、と言ってますよね。 で、政府がこれをさぼっているから、日銀はこんなに頑張ってベースマネーを増やしているのにマネーサプライが伸びないんだと。
2号
だっからさぁ、総需要が低下してるんだから、一部で成功する新規事業があったとしたって、全体としての落ち込みをカバーして余りあるだけのものなんて出てくるわけないでしょ。 それに不良債権が制約になるが故に貸出が伸びないんだったら、不良債権が少ない優良行や外資系銀行だって貸し出しが伸びていない現実をどう説明するのよ。
主任
リフレ派からすれば当然の反論だけど、とりあえず今は日銀の行動パターンを分析しているわけだから、そこの議論は捨象しよう。 とにかく、政府は自分でやるべきことをやらずに、全部日銀に押しつけようとしているのが憤懣やるかたないという感情があるのは明らかだね。 もちろんリフレ派の連中も、そうした偏った不公平な考えの持ち主だと思われているに違いない(笑)。
2号
だけどさっき主任が言ったみたいに信用乗数が1まで低下したとしたって、ベースマネーを信用乗数の低下以上に増やせばマネーサプライがそれなりに増えるのは明らかなわけで、1号の言うように貨幣数量説を前提としているなら、デフレ解消にはベースマネーの増やし方が足りないってことを認めたっていいはずだよね。
1号
それに対する日銀の立場からの反論は、まずは小泉流の無理矢理成長させると改革をやる機運が失われるってやつで、本来あるべき水準に信用乗数がないのにベースマネーを増やすことでマネーサプライを伸ばしてしまうと、それにより産業の新陳代謝が損なわれて経済の効率化が進まず、スパイラル的に信用乗数が低下してしまうというものでしょう。 福井総裁の言うよいマネーサプライの減少っていう理屈はここからしか出てくるわけないですし。 そして別の反論が、主任のいう「言うだけなら誰だってできる」ってやつ。
主任
何か今日の議論は2つセットになっているものがやたら多い気がするが(笑)、これも2段階に分けて考えられるな。 まずは、ベースマネーを増やす手段がないってもの。 買いオペしてベースマネーを増やす、つまり有価証券を買い入れて代金を支払おうとしたって札割れが起きる、つまり売り手が現れないって事態が起きているじゃないかと。
2号
オペ対象を手形やFBに限ってるからだろ? 長期国債ならまだまだ売り手はたくさんいるのに。
主任
で、次の段階。 そんなことしたら実質的に財政赤字のファイナンスになってしまって、悪性インフレが起こるリスクが大きい。 お前らは言いっぱなしで責任を負わないからそんなリスクを無視した提案ができるけど、通貨の安定に責任を持つ中央銀行がそんなギャンブルできるか、ってこと。
2号
インフレを起こせって言ってるのに対して、インフレになるからダメだって言われてもねぇ・・・。
1号
だから日銀からすれば、インフレにも「良いインフレ」「悪いインフレ」があるってことでしょう。 ディマンドプル、つまり消費や投資が活発になった結果としてのインフレであれば、将来金融政策で引き締めることが可能−ここでいう可能っていうのは、金利の引き上げによって消費や投資を沈静化することが可能っていう理屈の話と、景気が過熱気味の時ならそれに冷や水をかけることは政治的にも許容されるっていう話の双方の意味です−だけど、貨幣に対する信用が失われることにより「悪貨が良貨を駆逐する」状態になって悪貨=円の価値が暴落するタイプのインフレは、仮に金融を引き締めることで沈静化することが可能だとしても、経済が混乱している時期に金融を引き締めるのは何事だと横やりが入って、結局手の付けられないインフレになってしまうじゃないかってね。
主任
付け加えるなら、バブルという結果もまた忌避すべきと考えているのだろう。 マネーサプライの増加の原因が消費や設備投資であれば、リフレ派の主張するように不完全雇用からの回復局面なんだからインフレ率が必要以上に上がるなんてことは起こりようがないと言えるけど、それが消費や設備投資ではなく投機であれば、物価が落ち着いていたとしても資産価格が暴騰する、つまりバブルになってしまうリスクを警戒してる面もあるのだろう。
2号
でも、デフレのデメリットに相当するだけの悪影響をもたらすインフレって、ハイパーインフレとまではいかなくてもかなり高いインフレ率が継続する場合であって、そんなインフレになってしまうリスクをどこまで気にすべきか疑問。
主任
しかしその「悪影響」ってのはあくまで日本経済にであって、日銀にとっての悪影響じゃないんだな。 日銀にとって許容できる最高のインフレ率ってのは、多分理論的に許容できるそれより結構低いと考えるべきだろう。
1号
そこで出てくるのが、「どうせ掌返されるわけだし」っていう感情ですね。
主任
そう。 前回2号が言ったように、それがマイルドなものであれインフレになれば損をする人間は出てくるのだから、リフレ政策が実施されれば必ずどこかから文句が出てくる。 そうすると、たいていの場合弁護の声は文句よりも小さいんだな。
1号
バブル崩壊過程が典型例ですね。 何が何でもバブルをつぶせっていうから、そんなことしたらひどいことになりかねません、ソフトランディングを図るべきではって言ったにもかかわらず、それでもいいからやれということで仕方なく派手に金融を引き締めたのに、予測したとおりにひどいことになったら、何やってるんだと。
主任
モデレートな対応では不満が押さえきれず、オーバーキルだろってぐらい厳しくやったら「平成の鬼平」って持ち上げられたわけだからね。 そうやって民意に従って政策運営したら、今度はデフレ不況の戦犯呼ばわりだ。 じゃあどうすりゃよかったのよ、引き締めが遅いと言われて早めたら早すぎだって、早くも遅くもある方法なんかあるわけないだろってこと。
2号
言われたとおりにやったのにって、何のために高い給料もらってるんだか。 だったら政策決定会合も廃止して、なんでも世論調査の結論に従うことにして、その代わり給料はフリーター並みにすればいい。 素人には容易にできない判断をするからこその独立性で、高給じゃないか。
主任
理屈は2号の言うとおりだけど、やっぱりセントラルバンカーといえど人間であることにかわりはないのだから、そうした外野の声に左右されてしまう側面があることを無視したって始まらないだろう。
1号
結局、人が何かを判断するときには、コストとベネフィットとか、リスクとリターンとか、メリットとデメリットとか、呼び方は違ってもプラスとマイナスを比較してプラスが多いと思えばそちらをとるわけですよね。 それらが定量的に明らかであればともかく、これまで議論してきたように主観的な認識・価値観といったもので決まってくる部分があるなら、それを前提にしたインセンティブ設計をしないと思うようには動いてくれない。
主任
で、本来正しいはずのリフレ派のやっていること、つまり日銀は間違ってるんだ、リフレ政策を採用すべきだってことを客観的に明らかにしていく作業というのは、そういう目で見ると日銀にリフレ政策を採用させることに対して効果的とは言い難いというのは、残念ながら認めざるを得ない。 じゃあどうすればいいのか、ということを次回のテーマにするとして、ちょっと休憩しよう。

(2004-01-31記)

2004-01-24更新分

[新春鼎談]2004(前編)

1号
新年明けましておめでとうございます。 みなさまお久しぶりでございます。 新年を迎え、われわれ3人にとっては年に一度の出番がやってまいりました。 短い間ですがお付き合いください。
主任
別に新年だからって目出度くもないだろ。 昨年の最初っから金融政策が大事だって言ってたのにこの体たらくで、改善の見込みなんてこれっぽっちもありゃしないんだから。
2号
そういうことを一番の年長者が言ってどうするんですか。 みなさま、明けましておめでとうございます。 しかし主任がそう言いたくなるのもわかりますがね。 リフレ派からすれば、リフレ政策を採用しない政策当局も、ろくに取り上げもしないメディアも、それを唯々諾々と受け入れる国民も腹立たしい限りだし。
主任
と愚痴ってるだけじゃねぇ。 なんでこんなことになってるか、理由が何か思いつくことはあるかな?
2号
日銀と政府は組織防衛、メディアと国民は馬鹿だからじゃないの。
1号
そんなに単純じゃないと思いますけど・・・。
2号
世の中は結構単純なもの。 下手に勘ぐると陰謀論に堕しちゃいますよ。
主任
ま、そう言わずに聞いてみようじゃないの。 どの当たりがそう単純には行かないって思うの?
1号
経済学の素養がある程度あると、リフレ政策ってうさんくさく感じられるんじゃないんですかねぇ・・・。
2号
経済学の素養が「ない」の間違いじゃない?
1号
いや、「ある」と。 リフレ政策って、フリーランチみたいじゃないですか。 リフレ政策を採用した場合に失われるのは、リフレ派の言い分を聞いている限り、これまでむやみに反対してきた日銀なんかのメンツだけで、景気が回復するのはもちろん、当然失業率もよくなるし、財政状態も好転するしって、あまりにいいことずくめだから、何か裏にあるんじゃないかって受け止められてる面ってないですかね?
主任
ふ〜ん、面白い見方だね。 それで?
1号
ま、素養というよりセンスかもしれないけど、ある程度社会経験とか積んでれば、なんかいいことがしたければ、当然それに見合ったコストが必要だって直感的にわかるじゃないですか。 だけど、それが見えてこない上に、単にインフレにすればいいんだっていうあまりにも単純な処方箋だから、こりゃ怪しいに違いないと。
2号
そんなの、クルーグマンに"No pain, no gain?"で揶揄されてた見方じゃないか。 岩田・八田本が「痛みはいらない」と題されているように、今のデフレから脱するのにミクロ分野に政府が介入しまくって資源配分を歪めたりとか、失業率の高止まりを放置したりとかする必要なんか全くないのに、それがいいんだなんてマゾヒスティックなこと言ってるから、いつまでたっても「構造改革」とやらに国民の多くが陶酔してるんだろ?
主任
それが必要かどうかはさておき、構造改革には今2号が挙げたようなコストがかかることは、国民周知の事実と言っていいだろうな。 もう一つ、財政政策に傾斜する立場があるが、これもこれまでの経緯からして、サステナビリティの問題、中立命題が主張する効果そのものへの疑問、「官」のプレゼンスの拡大という資源配分の歪み、さらには将来のインフレ懸念など、いろいろ副作用がありそうだってのはよく知られてきている。 さて、それでは本当にリフレ政策にはコストはかからないのかね。
2号
今はデフレのなかで名目金利がゼロという下限に張り付いている結果、実質金利が高止まっているわけだから、債務者から債権者に所得が移転している状態だけど、リフレ政策によりマイルドインフレが達成され、そこで金融政策により実質金利が十分低い水準に維持されれば、所得の移転の流れが逆転するわけだから、債権者の犠牲において債務者が得をすることになっちゃう。 要すればパレート効率的ではない政策で、債権者が損をするってコストがあるって言えるよね。
1号
それにインフレターゲットを設定する以上、グリーンスパンが本当にそうかどうかは議論があるけど、真に有能な金融政策立案者の手足を縛って自由度が減ることも事実です。 ・・・でもこれらのコストって、わかりにくいものであることは否定できないですね。
主任
いっそのこと、「リフレなんかしたらスタグフレーションが起きます」「キャピタルフライトで日本は没落します」なんて指摘に対して、「いや、そうなっちゃうリスクは心配でならないんですよね」って答えてた方がうさんくささが消えるってことか(笑)。 しかし1号、今挙げたコスト、つまりは債権者・債務者間の資源配分の変更や金融政策の自由度の低下ってのは、リフレ政策、もっと厳密に言えば期待インフレ率を安定化させるために金融政策運営をルール化するって手法の性質上不可避なものだよな?
1号
ええ、そうですけど?
主任
だとすればさ、インフレ抑制のためのインフレターゲティング導入と金融引き締めの組み合わせだって、同じような、今の話で言えば「わかりにくいコスト」しかかからないわけで、だったらそれにだってうさんくささが伴うんじゃないか? でも、リフレ政策に反対の人間だって、デフレ解消後にそうした政策スキームを構築することに反対しちゃいないわけで、とすると君の仮説は棄却されるんじゃないか、残念ながら。
2号
でも、金融引き締めによる実質金利の上昇には景気を冷やすって効果があるから、スキームに状況の如何を問わず伴うコストはわかりにくくっても、インフレを抑制すべきだっていう状況に依存するコストはわかりやすいから、そういうことにはならないんじゃないっすかね。
1号
ヨーロッパ諸国の失業率の高さは、自然失業率が高いという側面もあるでしょうけど、インフレを抑制しすぎてNAIRU、つまりこれ以上水準が下がったら失業率が増えてしまうというインフレ率を下回った状態にあるという面も否定できないと思いますから、クルーグマンがポール・ボルカー指揮下のFRBの金融政策に対してコメントしていたことですけど、そうした相対的に高い失業率もコストとして認識されるって考えることが可能だと思います。 デフレ脱却という状況下ではそうしたわかりやすいコストがないですから、やっぱりうさんくさく思われるんじゃないんでしょうか。
主任
なるほどね。 じゃあコストをわかりやすく説明することがリフレ政策の普及につながるっていう1号仮説に従って、はっきり言っていこうか。 デフレという状況に適応している人々、例えば貸出じゃなくって国債に金を回している金融機関、主としてタンス預金やほぼ無利子でかつ国が全額保護している普通預金に金を眠らせている資産家、そういった連中はリフレ政策が実施されマイルドインフレに移行すれば痛い目に会いますよって。
1号
小泉総理あたりがそう叫んだら、なんか理解が得られそうな気がしませんか(笑)?
2号
なんかこうルサンチマンを刺激して大衆を先導しているって感じがして、僕は好きになれないですね、そうしたやり方。
1号
リフレ政策を推進しようって考えたら、そんなやり方を選んでる余裕はないでしょ?
主任
まあそんなに結論を急がなくても。 2号はじゃあどんなやり方がいいと思うんだい、リフレ政策実現のために。
2号
やっぱりデフレのデメリットと、マイルドインフレはさっき主任が言ったようなコストはかかるけど、全体にとってはいいことなんだっていうメリットを地道に訴えていくってことじゃないんですかね。
1号
でも去年、某公共放送のお偉いさんが大恐慌のアメリカだって失業率25%、残る75%にとっては幸せな時代だったなんて主張を臆面もなくするぐらいだから、そのやり方がどこまで有効かは疑問。 昭和恐慌の頃にだってそうした雰囲気は大いにあって、歴史の教科書を見れば農村が疲弊し女性が女郎屋に売られていました、って記述の他に、その同時代について、モボ・モガが銀座で派手に楽しんでました、っていう記述もあるんだから。 その点、お台場や六本木ヒルズなんかが賑わっていることをもって景気は悪くないって言論がまかり通っている今は、やっぱり当時と相似形でしょう。 だいたい、それは既にリフレ派の多くの人が手がけているやり方で、それが今ひとつうまくいっていないっていう現実があるじゃない。
主任
戦後インフレに二度のオイルショックと、インフレでいやな思いをした人間は多いけど、昭和恐慌時にデフレで痛い目にあった人間はさすがにそれほど生き残ってはいないし、それに生き残っている人だって、悪いのは不景気であってデフレじゃないって思ってるだろうからな。 普通は。
2号
新機軸を打ち出すとすれば、物価って言い方に変わる何かを普及させるってことが考えられるでしょうね。
主任
どういう意味?
2号
「物価」って字を見れば物の値段だから、普通の人にとってはそれが下がるっていいことだと思えちゃいますよね。 他方で自分たちがもらってる給料だって提供している労働サービスの値段で、ここでいう「物」にはサービスだって入るのだから物価が下がるイコール給料が下がるってことだけど、字面ではそれがわかりにくいでしょ。 デフレとは「物価の継続的な下落」じゃなくって「物価や給与などの継続的な下落」って言えば、少しはデフレのイメージも変わるんじゃないんですか。
1号
昭和恐慌を考えても、今で言う「勝ち組」は先ほど触れたように享楽のさなかにあって、他方で「負け組」は急進的全体主義運動に傾斜して、デフレが悪いなんてコンセンサスは得られなかったのだから、ことデフレというものの問題についての理解が進んでいたとは到底いえないけど、まして今は当時より政策手法が発達したおかげであれほどにはひどい状況に陥っていないのだから、そう簡単には変わらないでしょう。 当時の高橋是清らによるレジーム転換は、結局は政策担当者がそういう選択をしたことによって成し遂げられたのだから、今焦眉の急にあるのはそうした選択を可能とするものは何かってことじゃない。 それはデフレについての正しい理解ではなくって−だって政策担当者は教育者ではないから−、理由は何であれ彼らの選択が支持されるってことなのでしょう。
主任
じゃあ今回はここで休憩するとして、次回は政策担当者をメインテーマに議論を続けようか。

(2004-01-24記)