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writings concerning kasumigaseki issues and others: 2004-02

2004-02-29更新分

[新春鼎談]2004(後編)

主任
もう2月も終わってしまう今は「新春」では明らかにないので、さくさく議論を進めよう。 日銀がリフレ政策を採用するためのインセンティブ設計をどうすべきか。
1号
日銀が現在リフレ政策の採用に対してネガティブにならざるを得ないのは、それをしたときの日銀にとってのデメリットが大きいからでしょうから、それをメリットに変えるとまでは行かなくても、少なくともデメリットを小さくしてやる必要はあるでしょうね。
2号
前回の議論からすると、日銀にとってのデメリットってのは基本的には将来のリスクだね。 もし失敗したら、つまりデフレを退治できなかったら責任をとらされるわけだが、リフレ政策でデフレを退治できるという確信が持てないし、リフレ派の甘言に乗っても責任を取るのはリフレ派じゃなし、「奴らの言うことを聞いただけなんです」って言い訳したって聞いてはもらえないだろうから、そこをなんとかしてやる必要がある。 逆にうまくいった場合、インフレをもっと押さえ込めと圧力がかかる。 さすがにデフレがいいとは言う人間は少ないだろうけど−少ないだけでいないわけじゃないのがアレだが−、インフレでもなくデフレでもない物価横ばいがベストなのに、デフレから戻すだけじゃなくインフレにするとは何事だと騒ぐ人間がいるだろうから、そのリスクもうまくヘッジしてやる必要があるだろう。
1号
もう一つ付け加えるなら、成功した場合に、過去の失敗を責められるのも彼らにとってのデメリットでしょう。 現状、日銀の金融政策に文句を付けているのはリフレ派ぐらいなもので、リフレ政策を採らなければ私たちみたいな一部の剣呑な連中を無視していればいいのだけど、もし採用して成功すれば、リフレ派以外の人間も「なんだ、日銀がダメだったからあんなひどいことになっていたのか」って気づくわけですから、そうなればただじゃすまないと思えば採用したくもなくなるでしょう。
2号
そこまで面倒見てやらなきゃダメなの? 日銀自身が誤用するところのモラルハザードそのものじゃない。 失敗しても責任を追及されないなら、失敗しないよう頑張ってた人間が馬鹿を見るってことで。
主任
しかし、採用されないことには話にならないのだから、とりあえずその点は脇に置けるんじゃないか。 倫理・道徳論を捨象すれば、その手のことが問題となるのは失敗を避けるインセンティブがなくなることだけど、他のやり方で失敗を避けるインセンティブが用意できるなら、それにこだわる必要はないだろう。
2号
そりゃ理屈で言えばさ、そうしてやらないことには本来サンクされるべき過去の政策がサンクされない、すなわち過ちを改むるに憚ることこの上ない状況になってしまうってのはわかるんだけど・・・。
1号
理屈じゃなくって感情にこだわるなんて2号にしては珍しい(笑)。 それではまずリフレ政策の失敗リスクへの対応から考えてみましょう。 バーナンキの背理法からして、リフレ政策を採用してもデフレから脱出できないとは考えづらいのですが、とはいってもそれを日銀に信じろといっても無意味でしょうから、失敗しても日銀の責任じゃないってことにしなきゃいけないんでしょうね。
2号
それじゃリフレ政策にならないじゃないか。 インフレターゲットを設定して、もしターゲットレンジに収められなければ日銀が責任をとらされるから、それをいやがる日銀はレンジに収めるよう全力を尽くすっていう枠組みがなくて、どうやって期待インフレ率が上昇するのよ? まさかクルーグマンがとっくに否定している、将来のコミットじゃなくって現時点での金融緩和でデフレ脱出できるだなんて思ってるわけじゃないだろうね。
1号
人を馬鹿にしないように。 リフレ政策の鍵が期待実質金利の引き下げにあることぐらいわかってないわけないでしょう。
主任
しかし、デフレ脱却が達成できなくても責任を追及されないってのは今の金融政策の枠組みと同じだから、それじゃレジーム転換による期待の変化はないだろう。
2号
そうそう。
1号
肝心なのは責任追及それ自体じゃなくって、責任追及を回避するためにっていう理由から、将来にわたって緩和のスタンスを継続するって期待が生まれることでしょ? つまり責任追及は目的じゃなくって手段。 だから将来の金融緩和期待を直接醸成してやれば、責任追及っていうプロセスをバイパスできるってわけ。 具体的には、ターゲットの下限に達するまで金融緩和の拡大を継続するっていうコミットの内容にすればいいってこと。
主任
なるほどねぇ。 とりあえず日銀のメンツを守るために緩和目標はアウトライトでの長期国債買いオペ額じゃなくて当預残高にするとして、それをターゲットの下限に達するまでは対前月比で増やし続けていくという形にするのかな?
1号
そんな感じだと思います。 それに、日銀の言うとおり、現在の買いオペ手段では当預残高の積み増しが困難になってきているのだから、そのコミットをしていればそのうち長期国債買入額を増やさざるを得ないことになるでしょうし。
2号
釈然としないなぁ・・・。 なんでそこまで奴らをスポイルしなきゃならんのだ。 せめて長期国債保有残高の上限を日銀券発行残高としていることだけでもきっちり取り下げてほしいよな。 だって奴ら、長期国債の買いオペ額を一定にしていることをいいことだと思ってやがるんだぜ。 それで財政規律が保たれてるって市場が見てるから、国債に対する信認が維持されてるんだってさ。 そういう謬見を正すこともしないってのは、リフレ政策導入のためとはいえ、本当にいいことなのかねぇ。
主任
長期国債買い切りがいやだとしても、当預の増加をコミットしている以上、他の資産を買わなきゃいけないのだから、いいじゃないの。 外債でも買ってくれれば為替効果も期待できるし、それもいやならそれこそポテトでもケチャップでも(笑)。 当然こうした枠組みにするのはターゲットレンジの外から始めるからっていう理屈から導かなきゃいけないし、そういう筋書きであれば、一旦レンジ内に収まった後にまたはみ出すようなことがあれば、それは責任追及をしてしかるべきってことになる。 この前提なら、今回の10年以上にわたる失敗から本当に何も日銀が学ばなかったとすれば、そのうちターゲットレンジの維持に失敗するだろうから、そのとき思う存分責任を追及してやればいい。 だいたいそういう懲罰主義に染まっていると、そのうち構造改革路線にシンパシーを抱くようになるぞ(笑)。
2号
はいはい。 胸くそ悪いから話題を変えます。 マイルドインフレ達成時に、なんでインフレになんかしやがったんだっていう批判から日銀を守ってやる方法は何かですが、これは簡単、ターゲットの設定主体を日銀じゃなく政府にしてやればいい。 日銀は、ターゲットレンジは政府が決めることですから、文句があれば日銀じゃなく政府に言ってくださいと言い訳できる。
1号
日銀自身がどう考えているのかわからないけど、情状酌量の余地があるとすれば、インフレに関する抵抗感故に、インフレになればいろんな批判が出てくることでしょう。 例えばインフレになって名目金利が上昇すれば日銀のバランスシートが毀損するとか。 これが問題だと日銀自身が信じているとすれば救いようがないけど、どうも私たちに入ってくる情報を総合すると、少なからぬ日銀の人間がまじめにそう考えていると捉えざるを得ない節があります。
2号
損が出たら国庫納付金が減る一方で、いくら儲かったって国庫納付金が増えるだけ、つまりは損益なんか気にする必要がない主体のくせに何考えてるんだか。 さらに言えば、自己資本比率が低くなる、究極的には債務超過となることの何が問題かって言えば債務の履行が困難・不可能になることだけど、日銀は日銀券(紙幣)にしても当座預金にしても際限なく支払えるのだから、その点は全く問題になり得ないのにねぇ。
主任
それが気になるなら、バーナンキが提案していたように政府とスワップを締結すればいいわけで、つまり政府から変動利払いを受け、政府に固定利払いをするってしておけば、保有国債の価格変動リスクはヘッジ可能だ。 さっき2号が指摘したように日銀の収支尻は政府がぬぐうのだから経済的には無意味な取引だが、逆に言えば締結しても政府にとって損はないわけだし。
2号
どうせなら国債をもっと多様化して固定・変動・インフレ率連動金利債をほぼ均等になるよう発行するようにした上で、マネタイズ対象の国債を変動利付債やインフレ率連動債にする方がいいでしょう。 スワップと同じ効果が出せる上、期待インフレ率が明示的に観測可能になるから。
1号
今のペースでは均等になるまで相当程度の期間がかかるし、それまでは純粋に期待インフレ率以上に需給環境の影響で値が動くことになるから、それは中長期的な課題として捉えるのが適当じゃない? 日銀が非市場性国債として引き受ける、これは既存国債の乗り換えでもいいんだけど、そういう形なら現実的なような気もするけど、実際には既存の長期国債の乗り換えだって短期国債でしかしていないんだからねぇ。
主任
あとは、日銀法に規定されている「物価の安定」っていう彼らの目的がマイルドインフレであるってことを政府が解釈として明確化することかな。
2号
そのぐらい自明なはずなんだけどね。
主任
2号にとって自明であっても社会的にそうでないならやる意味はあるだろ(笑)。 さて、こうしていろいろしゃべってきた内容に照らして今の金融政策を評価すると、特に為替介入との関係に着目した場合、それほど悪いものではないって言えるんじゃないかね。
1号
金融政策のスタンスを見ると、当預残高が上昇しているときは緩和基調にあると言えるのでしょうけど、ゼロ金利政策の下で介入原資調達たるFB発行が事実上日銀引き受けになっていることを踏まえると、介入に伴って当預残高が跳ね上がる状態、典型的には昨年の第二四半期はかなり金融緩和が進んだと考えていいでしょう。 このスキームでは政策実施主体は財務省で、責任も彼らにいくわけだから、二つの前提が満たされる限り日銀のスタンスは受動的なものであっても金融緩和が進み、かつ、将来の期待も形成される状態になります。
2号
二つってのは、一つにFRBが金融緩和を積極的に進めるが故に円高ドル安傾向にあり、二つにそれに対して財務省が果断に介入政策を採るってことだね。
1号
そのとおり。 実は最近なんて当預残高は30兆円程度で横ばいになってて、現状としては金融調節スタンスは中立ないし引き締め気味といってもいいんだけど、市場の期待は確固としてあって、ある意味レジーム転換が起きているから、循環局面の良さも手伝って明るい見通しが支配的になってます。 日銀自身も、当預残高そのものより上限引き上げをタイミング良く打ち出すことによって、少なくとも転換されたレジームのサポートはしているわけで。
主任
となると、ようやく当コーナーの名称にふさわしく今年の見通しに話をつなげると、財務省の介入スタンスには当面変化はないだろうから、鍵はアメリカの金融政策ってことになるね。 最近のFRBはデフレ懸念を後退させているから、金融政策としては中立気味に戻ってきている。 実際にインフレ率が上昇しても、金融を引き締めるほどのものでなければ実質金利はそれほど変動しないだろうし、アメリカのマネーサプライの自然拡大に日本が追随するって形で今のレジームは維持されることになるのかな。
2号
FRBが引き締めに転じるようだと同調的に引き締めになっちゃうけど、あちらも大統領選もあるし、そのリスクはそれほど多くないと考えていいんじゃない?
1号
とすれば注目すべきはやはり国内要因で、当預残高の横ばいが続くようだと足元を見透かされるおそれが残らないではないし、何より目標の上限を引き上げる理屈がなくなってしまうから、リフレ期待が損なわれることになりかねないってことでしょうかね、最大の危険は。
主任
そのあたりは財務省がわかって今のレジームを形成しているなら、「こっちでケツ拭ってんだから後追いぐらいしろ」って日銀に言うだろうからあんまり心配する必要もないのだけど、わかってやってなさそうな気配もあるからなぁ、あそこ(笑)。
2号
つーか、わかってない人間も多いでしょう。 どこぞの記事によると、デフレだから今の財政はなんとかなってるんだって「財務省幹部」が言ってたらしいし(笑)。 マクロ経済政策運営を支える政府の経済理論がこれだけ滅茶苦茶なのに、循環要因とはいえ一応それなりの経済成長が果たせるんだから、日本の民間セクターもたくましいねぇ、いや本当に大したもの。 でも現在のレジームのいいところは、アメリカの金融が引き締められない限り、財務省は「円高イヤ」日銀は「受動的金融調節ならお付き合いします」ってスタンスで期待が守られるところ。 というわけで、アメリカや中国の好景気が続いて外需が腰折れせず、かといってそれほどアメリカがインフレにならず金融が引き締められないようなら、何とか今年も暦年で名目GDPはプラス成長になるんじゃないでしょうかね。
1号
それでは何とか収まりもついたようですので、本年の新春鼎談はこれにてお開きとさせていただきます。 来年もまたこのメンバーでお送りいたしますので、再度お目にかかった際にはよろしくお願いいたします。
主任
随分気の早い話しだねぇ(笑)。

(2004-02-29記)