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  • 05/21/2007 (3:40 am)

    最適なインフレ率についての日銀試算

    Filed under: economy, BOJ ::

    2ちゃんの某板某スレ経由。

    本稿では、日本経済における定常状態インフレ率がどの程度であることが望ましいかを議論した。はじめに、分析上の各論点を整理したうえで、貨幣保有の機会費用、ゼロ金利制約、価格粘着性、賃金の下方硬直性に着目し、日本経済の特性に考慮してモデルを設定した。その下で、ゼロ金利制約を勘案した確率シミュレーションにより、社会損失を定量的に評価した。また、モデルの設定を変更した場合に結果がどのように変わるかについても分析した。その結果、社会損失を最小化する定常状態インフレ率は、概ね0.5%から2.0%の間であるとの結果を得た。また、定常状態インフレ率が社会損失を最小化する水準から1%程度乖離すると、社会損失はGDP の0.2〜0.3%程度増大するという結果となった。なお、本稿の分析結果は、特定のモデルやパラメータを前提としており、その前提を変えれば結果がかなり変わり得る点には留意する必要がある。

    (略)

    技術的な問題としては、インフレ率の計測の問題がある。本稿で分析の対象とした物価指数はGDPデフレータであるが、多くの国で現実に金融政策運営上のメルクマールとして参考にされている物価指数は消費者物価指数である。GDPを構成する財と消費者物価指数を構成する財とで技術進歩率が異なれば、GDPデフレータと消費者物価指数の間で定常状態インフレ率に格差が生じる可能性がある。(後略)

    鵜飼博史、小田信之、渕仁志「インフレのコストとベネフィット:日本経済に対する評価」(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ)

    GDPデフレータ(パーシェ指数であることによる下方バイアスがある)で0.5〜2%ということは、おそらくCPI(ラスパイレス指数であることその他による上方バイアスがある)で見れば1〜3%ぐらいですよね? 審議委員の皆様、本論文をじっくり読んでください!

    05/16/2007 (5:16 am)

    着々と進化? デフレターゲット

    Filed under: BOJ ::

    日銀がデフレターゲットを推進しているとは何度か当サイトで書いてきたことですが、さらにそれが進むのではないかと危惧させる報道がありました。

     日銀で金融政策決定に携わる9人の政策委員の間で、望ましい物価上昇率の認識にばらつきがあることが明らかになった。4月の政策決定会合で日銀は消費者物価(CPI)上昇率の目安を0―2%と公表したが、この討議の際に1人の委員は下限は小幅マイナスでよいと主張した。足元の物価が小幅下落基調となるなかで委員間の見解の違いは、今後の金融政策のかじ取りにも影響しそうだ。

     今回、明らかになったのは「中長期的な物価安定の理解」を討議した4月27日の政策会合での9人の委員の見解。日銀は昨年3月に量的金融緩和政策を解除した際に、政策運営の透明性を高める狙いから「物価安定の理解」を初公表した。4月の会合でそれを再検討した。

    日経「物価安定の目安、日銀政策委員の間でバラツキ」

    ネットで配信されたのは以上ですが、紙面ではさらに、

    9人の委員のうち3人は「0.5〜1.5%」という範囲でそろったが、残る6人の委員の示した範囲はばらついた。最も高い上昇率を示した委員は「1〜2%」、最も低い数字を示した委員の範囲は「マイナス0.5〜プラス0.5%」だった。

    マイナスの下限を主張した委員は、中長期的に望ましい水準はゼロ%より少し上だが、経済が緩やかに拡大している現状では下限としてはマイナス0.5%程度ならば許容できるとの認識だった。

    といった言及があります。デフレの定義として一般的な物価水準ではなく、景気動向もあわせたものとしているために、デフレであることに抵抗がないのでしょう。指標であるコアCPI(生鮮食料品を除いたもの)に上方バイアスがあることを考えれば、真の意味でのデフレターゲット、すなわち物価水準がプラスであることを忌避するものに他ならないわけで。

    仮にこの路線が実現するならば、デフレになってもなんら金融緩和は行われないということになります。そもそも量的緩和をプルーデンス施策、すなわち金融システムの安定維持のためのものだと整理してしまっているわけで、デフレになったところで量的緩和が採用されることはまったく期待できません。せいぜいがゼロ金利への復帰でお茶を濁すということでしょうけれども、それでは実質金利はプラスになるわけで、量的緩和解除以後に示してきた日銀の金利上昇への断固たる決意が期待に織り込まれれば、ゼロ金利への復帰の緩和効果などほとんどなきに等しいだろうとwebmasterは考えます。

    もちろん現時点では、あくまでひとりの審議委員の見解に過ぎないわけで、日銀の金融政策がそうした方向になることを指し示すものではありません。ただ、CPIがマイナスでも利上げの可能性を否定しないような現在の路線の延長線上に位置づけられることは確かですから、今後そのような方向に大勢が動くことを危惧もしてしまうわけです。

    ちなみに、紙面においてグラフで示されている、各委員の物価上昇率をまとめれば次のとおりです。

    範囲
    ▲0.5 - 0.5
    0.0 - 1.8
    0.3 - 1.8
    0.4 - 1.2
    0.5 - 1.0
    0.5 - 1.5(3人)
    1.0 - 2.0

    下限の小さい方から並べてみましたが、おそらく3人一緒なのは執行部の総裁・副総裁でしょうけれども、下限で見るならばその執行部が相対的に上の方なのは安心材料とはいえます。それでも0.5%なのはどうよ、という話は当然あるといいますか、下限を1.0%にしている委員はひとりしかいないんですねぇorz。

    05/11/2007 (12:02 am)

    マネーサプライ前年同月比の推移(2007-04現在)

    Filed under: economy, BOJ ::
     年月    M2+CD   前年同月比
    2005.01  6,998,252  1.97%
    2005.02  6,953,440  1.85%
    2005.03  6,999,008  2.07%
    2005.04  7,049,983  1.83%
    2005.05  7,037,424  1.46%
    2005.06  7,038,765  1.62%
    2005.07  7,085,130  1.66%
    2005.08  7,077,972  1.64%
    2005.09  7,076,717  2.00%
    2005.10  7,055,711  1.91%
    2005.11  7,071,911  2.10%
    2005.12  7,125,369  1.90%
    2006.01  7,123,681  1.79%
    2006.02  7,075,631  1.76%
    2006.03  7,103,323  1.49% #量的緩和解除
    2006.04  7,171,703  1.73%
    2006.05  7,130,540  1.32%
    2006.06  7,123,454  1.20%
    2006.07  7,123,733  0.54% #ゼロ金利解除
    2006.08  7,109,742  0.45%
    2006.09  7,119,253  0.60%
    2006.10  7,100,080  0.63%
    2006.11  7,119,883  0.68%
    2006.12  7,178,944  0.75%
    2007.01  7,192,128  0.96%
    2007.02  7,150,627  1.06% #利上げ(0.25%→0.5%)
    2007.03  7,178,817  1.06% (revised)
    2007.04  7,251,399  1.11%

    04/29/2007 (10:24 pm)

    日銀2007/04レポートに係る主要各紙社説

    Filed under: economy, BOJ, media ::

    昨日取り上げた日銀レポートについて、全国紙では、朝日、毎日、日経、東京の4紙が社説の題材としていました。以下、それぞれを見てみます。

    最近、金融政策に関する社説としては東京新聞が出色ですが、今回もまたすばらしいものでした。

     日銀が展望リポートで、二〇〇七年度の物価見通しを下方修正した。物価がそれほど上がらない背景には、昨年来の日銀自身による金融引き締め効果もある。きちんとした政策検証が必要だ。

    (略)

     前回は「(需要が供給能力を上回る)需要超過幅が緩やかに拡大し、生産一単位当たりの人件費である単位労働コストも若干上昇する中で、〇七年度にかけて前年比プラス幅が次第に拡大していく」と予想していた。これが見事に外れた形だ。

     なぜ、外れたのか。

     日銀は原油価格の下落や携帯電話料金の改定などを理由に挙げているが、日銀が継続的に金融を引き締めてきた事実を見逃せない。日銀は昨年三月に量的緩和を解除し、七月にゼロ金利も解除、続いて今年二月には追加利上げに踏み切った。

    (略)

     そもそも、日銀は「消費者物価が安定的にゼロ%以上になる」と予想したからこそ、量的緩和を解除したのではなかったか。

     政策変更がほかになかった点を考えれば、引き締めも物価下落を招いた要因の一つと考えられる。見通しを誤った理由と金融政策効果を検証し、結果を公表すべきだ。「物価はいずれ、また上がる」などと言っているだけではすまない。

     もう一つ、注文がある。

     消費者物価指数は統計技術上の困難のために、実際よりも数字が高めに出る上方バイアスの存在が知られている。日銀はかつて「バイアスは0・9%」という数字を挙げた。これが正しければ、仮に物価上昇率が0%だとしても、現実は0・9%も下落していることになる。

     日銀は物価安定の水準を消費者物価上昇率で「0−2%程度」と考えているが、バイアス分を考えれば、低すぎないか。あるいは、バイアス幅が変わっているのか。技術進歩の速さは現実と統計にどんな影響を及ぼしているのか。この点もぜひ検証してほしい。

     生身の人間にとって大事なのは統計ではなく、失業や倒産、賃金下落といった現実そのものだ。実態を反映しない統計を基にすれば、政策も不適切になる恐れがある。

    東京「物価下落 引き締め効果の検証を」

    長々と引用しましたが、正直申し上げるならば、社説でここまでの水準の議論を見られるとは期待していませんでした。今後ともこの路線を期待したいと思います。

     日本銀行が金融政策の枠組みを説明する「展望リポート」を公表した。金融政策はこのところ、めっきり分かりにくくなっている。そのモヤモヤが吹っ切れるかと期待したが、当て外れだった。

     日銀は昨年3月、消費者物価指数が上昇傾向に転じたのを理由に量的緩和を終わらせ、7月にはゼロ金利も解除した。だが、物価が横ばいからマイナスに落ちる途中だった今年2月にも利上げした。このねじれは何なのか。

    (略)

     だが、「展望リポート」では基本的にこれまでの説明が繰り返された。賃金上昇が遅れている点などは認めたが、「いずれ物価は上がる」という言いぶりは変わっていない。

     腑(ふ)に落ちないのは、いまの物価下落と1年前までの下落と質的に違うのかどうか、説明が足りない点だ。日銀は石油や携帯電話料金の値下がりによる特殊要因というが、もしそうなら、昨年から利上げしてきた根拠である物価上昇も原油値上がりによる特殊要因ではないか、との疑問もわく。量的緩和やゼロ金利の解除の影響が、物価情勢にどう表れているのか、という分析もない。

     また、日銀は「金利が上がらないという期待が蔓延(まんえん)するとバブルによる資産価格の上昇を招く」というが、物価が横ばいなのに利上げの構えをとると、経済が萎縮(いしゅく)して物価を引き下げるのではないか、という見方も出ている。

     不透明感の根底には、バブルからデフレに至る経過について、日銀が踏み込んだ総括をためらっていることもあろう。

    (略)

     分かりにくいために国民の関心や支持が離れるなら、日銀が自分の首を絞めているのに等しい。残る任期が1年を切った福井総裁の課題である。

    朝日「金融政策―もっと分かりやすく」

    続いて朝日ですが、物価がそのうち上がるからといって引締め続けた日銀に、平たく言えば狼少年ではないかとの疑いが生じてきているのでしょう。東京のように明確に批判しているわけではありませんが、疑念を示しており、今後批判に移る可能性もあるといえるでしょう。同様の路線が日経です。

     確かに日本経済は底堅い。企業の業況感はやや足踏みだが、その一方で昨年後半はさえなかった個人消費に持ち直しの兆しもみえる。5月に発表される今年1―3月期の国内総生産(GDP)も堅調な伸びを予測するエコノミストが多い。

     こうした状況を踏まえれば、景気拡大に応じて日銀が徐々に政策金利を引き上げても、経済には無理がかからないと考えられる。

     難問は物価だ。同じ27日に発表された3月の消費者物価は生鮮食品を除くベースで、前年同月比0.3%低下した。物価下落幅は2月の0.1%より広がり、しばらくはマイナス基調が続くとみられる。

    (略)

     経済のグローバル化で海外の安いモノがどんどん入っている。労働市場が変化し賃金がなかなか上昇しない。デフレの経験が意識に染みつき経営者や消費者のインフレ期待が低下した。物価の感応度低下には、様々な要因が考えられる。日本経済の構造的な変化も関係していよう。

     快刀乱麻を断つ分析は難しいにせよ、日銀は自らの見解を世に問うべきではないのか。金融政策はフォワードルッキング(先見的)な姿勢が必要といっても、足元の物価がマイナスで近い将来もゼロ%近辺にある。そんななかで利上げを目指すのなら、物価に関する徹底的な議論を避けてはならない。

    日経「物価の説明、日銀はきちんと」

    同じ懐疑的路線とはいえ、日経の方が若干日銀に対して好意的で、こちらはきちんとした説明を怠っているといいますか、やろうと思えばできるのだからがんばれ、といったニュアンスでしょうか。あるいは、今のままでは擁護が難しいといいますか。

    という順序で並べてくれば、お察しいただけるように最後に控えるのはもっとも日銀に対して好意的なものです。

     過去の展望リポートで日銀が示してきた予想と、この間の経済の推移との関係について日銀は説明責任を負っている。そうしたリスクを背負い、政策運営に対する透明性を高めていくことが、日銀の金融政策への信認を高めることにつながる。

     そして、現在の日銀の判断によると、これまでの展望リポートの見通しにおおむね沿って現実の経済は動いているという。

    (略)

     物価上昇率が直近でマイナスになっている理由について日銀は「原油価格や携帯電話料金などの下落が大きな要因」と説明しているが、予想値が下方修正されたことを理由に、日銀の判断は間違っているという指摘も出ている。

     物価統計がマイナスだからデフレ状態にあるというのが、日銀の利上げに対する批判の論拠だ。ただし、マイナスといってもゼロ近辺で、統計上の誤差の範囲とも考えられる。また、物価下落の要因となっている原油価格や携帯電話料金など値下がり自体は悪いことではない。

     現在は銀行が巨額の不良債権を抱えていた時とは違っている。ゼロ金利を解除し、再利上げをしたといっても、あまりに低く、金利と呼べるような水準でもない。累積的に物価下落が続くことは回避しなければならないが、都心部での地価急騰などミニバブルと呼ばれる現象が周辺部に広がる気配もみせている。

     今回の展望リポートが示すように当面の経済見通しが順調に推移するなら、日銀は金融調整機能の正常化に向けた作業を継続すべきだろう。

    毎日「日銀展望リポート 金利機能の正常化は必要だ」

    というわけで、やっぱり毎日でした(笑)。

    #下記もご参照いただければ。

    04/28/2007 (5:45 am)

    経済・物価情勢の展望(2007年4月)

    Filed under: economy, BOJ ::

    標記レポートが日銀から公表されました。とりわけ問題だとwebmasterが思うのは、これまでの金融政策の「点検」において、この1年間(昨年4月のレポート以降)をきちんと振り返っているとはいえない点でしょう。当該部分を引用します。

     昨年3月の量的緩和政策解除以降の金融政策運営を振り返ると、経済・物価情勢の先行きを展望して、(1)生産・所得・支出の好循環メカニズムが働き、息の長い成長が続く中で、(2)消費者物価は長い目でみると緩やかに上昇し「中長期的な物価安定の理解」に沿って推移する蓋然性が高いという判断に基づいて、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行ってきた。物価上昇圧力が弱いもとで、調整のペースはゆっくりとしたものであり、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が維持された。今後の金融政策運営においても、こうした基本的な考え方を維持する方針である。すなわち、「中長期的な物価安定の理解」に照らして、日本経済が物価安定のもとでの持続的な成長軌道を辿る蓋然性が高いことを確認し、リスク要因を点検しながら、経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられる。

    経済・物価情勢の展望(2007年4月)

    webmasterは日銀の「中長期的な物価安定の理解」の水準は低すぎると考えていますが、それを問わないとしても、それに「沿って推移する蓋然性が高いという判断に基づいて」「徐々に金利水準の調整を行ってきた」というのであれば、「蓋然性が高いという判断」が正しかったかどうかを問わねばなりますまい。その判断が間違っていたというのであれば、金融政策の前提となる状況認識が間違っていたということなのですから、量的緩和解除以降の金融政策の路線転換もまたその見直しが必要となります。

    では、日銀による物価見通し(いわゆるコアCPI(=生鮮食料品を除くもの)政策委員見通し)と実績値はどうであったのか、まとめれば次のとおりです。

    レポート等 コアCPI
    2006/4 +0.5〜0.7(中央値+0.6)
    2006/10 +0.2〜0.3(中央値+0.3)
    実績 +0.1

    昨年4月は量的緩和解除(3月)の後、10月はゼロ金利解除(7月)の後ということになりますが、いずれにおいても高く見積もりすぎていることがわかります。見通しが当たっていたとしてもまぐれ当たりがあり、外れていたとしてもやむを得ない外れがありますから、数値の見通しを誤ったことが直ちに判断の誤りを意味するものではありませんが、外していればより厳しい総括が求められるのは当然でしょう。

    では日銀はどのように総括しているのでしょうか。

     消費者物価指数(除く生鮮食品)は、足もとは、原油価格下落などの影響もあって前回見通し対比幾分下振れている。先行きは、原油価格の動向にもよるが、前年比でみて目先はゼロ%近傍で推移する可能性が高いものの、より長い目でみると、プラス幅が次第に拡大するとみられる。その結果、2007年度はごく小幅のプラス、2008年度は0%台半ばの伸び率となると予想される。

    経済・物価情勢の展望(2007年4月)

    というわけで原油価格の動向に責任を押し付けているわけですが(一応「など」とは付いていますが)、では原油価格の影響を除けばどうなるのか、今月のCPI速報によると、いわゆるコアコアCPI(=食料・エネルギーを除くもの)の推移は次のとおりです。

    年月 コアコアCPI(対前年同月)
    2006年3月 ▲0.5
    4月 ▲0.6
    5月 ▲0.5
    6月 ▲0.4
    7月 ▲0.3
    8月 ▲0.4
    9月 ▲0.5
    10月 ▲0.4
    11月 ▲0.2
    12月 ▲0.3
    2007年1月 ▲0.2
    2月 ▲0.3
    3月 ▲0.4

    この指標でみれば、引き続いてデフレの真っ只中ということに他なりません(まして、基準年(2005年)から3年目に入り、ラスパイレス指数であるがゆえの上方バイアスも大きくなってきているでしょうし)。原油価格に左右されるのが厭ならそもそもコアコアCPIを使えよというのはあるわけですが、それを措くとしても、原油価格の動向にのみ責任を押し付けて足る話でないことは明らかです。

    足元の動向にもかかわらず、日銀の強気の見通しを支えているのは、次の分析です。

     こうした経済の見通しのもとで、物価を巡る環境をみると、第1に、設備や労働といった資源の稼働状況は高まっており、今後もさらに高まっていくとみられる。マクロ的な需給ギャップをみても、引き続き、需要超過方向で推移していくと考えられる。第2に、ユニット・レーバー・コスト(生産1単位当たりの人件費)は、なお低下を続けているものの、賃金の緩やかな上昇のもとで、下げ止まりから若干の上昇に転じていく可能性が高い。第3に、民間経済主体のインフレ予想は、各種調査では、既往の石油製品価格の下落の影響などから全般に下振れているが、引き続き先行きにかけて物価が緩やかに上昇していく形となっている。

    経済・物価情勢の展望(2007年4月)

    結局は現在の潜在成長率が1%台でしかないということがポイントになっているのでしょう。この潜在成長率見積りの(日銀にとっての)都合のいい点は、「需要超過」だから中長期的にはインフレ圧力があるということになるにとどまらず、例の「上げ潮」の前提となっており、この点については政府・与党が攻撃してくることはないという点です。いくら一部の政府・与党関係者が日銀の金融政策を批判しようと、「需要超過ですけど」という反論がある限り、その批判は天に唾するものでしかないのですから。

    04/22/2007 (6:50 pm)

    国会における経済論戦 その8

    Filed under: economy, BOJ, politics ::

    さる4/17、衆議院の財務金融委員会において、日銀による「通貨及び金融の調節に関する報告書」の国会報告が行われました。既に多くの方が取り上げていらっしゃいますが、日銀は現状金利が低すぎると考えているのだなぁとか、それを批判する質問は一切なかったなぁとか、そうした感慨を抱かせます。しかし、あえて申し上げるならば、それらは周知の事実であって、情報工学上のエントロピーは極めて少ないといえましょう。

    他方で、bank.of.japanさんが注目された話題は、bank.of.japanさんはネット中継をご覧になって書かれたとのことですから間違いはないと思いつつも、そんな発言があり得るとは予想できず、エントロピーは多かったわけです。ようやく議事録が公開されたので、そこから引用してみます。

    ○佐藤(ゆ)委員 おはようございます。自由民主党の佐藤ゆかりでございます。

    (略)

     まず一番目でございますが、安倍政権の掲げる「美しい国、日本」の国家観では、理想的な我が国経済の姿として、イノベーションによる生産性の向上と国際競争力の強化によります経済成長戦略というものをうたっております。この経済成長戦略では、最終的に均衡のとれた経済成長を実現するためには、サービス業や中小企業の生産性の向上などにも力点を置きまして、結果として、企業部門全体の活力の底上げというものを図ることで、家計所得の拡大そして消費の拡大へと波及ルートに対する道筋を立てていく、そういう考えに立ったものであります。

    (略)

     いろいろな御見解があるわけでございますけれども、そこで、福井総裁にお尋ねしたいと思います。

     高齢化社会の我が国経済が高い成長率を手にするためには、機能すべき経済のさまざまな波及ルートの中で、力点を置くべきルートというのをどこに求めるのか、総裁御自身の御所見をお伺いしたいと思います。

    ○福井参考人 日本銀行にとりましても大変重要な御質問をちょうだいしたというふうに思っております。

     御指摘のとおり、少子高齢化、あるいはさらなるグローバル化の進展への対応など、日本経済がこれからも抱えていく難しい課題を克服して、高い成長率を実現していく。そのためには、御指摘のとおり、イノベーションを通じて民間活力をさらに引き出して潜在成長力を高めていくことが極めて重要だというふうに考えています。それも、先頭に立つ大企業、製造業だけではなくて、おっしゃるとおり非製造業、過去の系譜を振り返ってみましても、製造業と非製造業との間には生産性格差が大きいというのが日本経済の特徴でございます。こうした難点を克服していく。そして、大企業、中小企業間のイノベーションの力の差というものも、やはりいつまでも放置できない問題だという意識でもって潜在成長能力を高めていくことが極めて重要だというふうに考えています。

     潜在成長能力を高めるためには、労働や資本といった生産要素の投入を増加させたり、生産性の向上を進めていくことが必要でございます。生産性を向上させるためには、これは、限られた資源が収益性の高い分野に円滑に配分されるような、変化への対応力の高い経済システム、硬直的でなくて変化への対応力の高い経済システムを構築していく必要がございます。

     私ども、マクロの観点からの仕事をさせていただいておりますので、ミクロの分野への政策対応という点は私どもの手からはなかなか及びがたいわけでありますが、マクロの点から見ますと、例えば、我が国の金融資本市場を、より使い勝手がよく、より効率的な資源配分を可能とするような生きた市場としていくことが非常に重要だと考えております。さらに、教育や研究開発分野に対する投資を着実に続けていただける、つまり、そういう方向に資源配分がなされて我が国の有形無形の資本の質が高まっていくということも大切だというふうに考えております。

    (略)

    ○佐藤(ゆ)委員 ありがとうございます。

     今お伺いしました総裁の御答弁で私が印象を受けましたのは、どちらかといいますと、総裁も、政府の戦略と似たように、生産性を向上させて、その背景にイノベーションがあるわけですが、生産性向上ルートで、人的な投資、あるいはイノベーションに基づく設備投資を主体とした成長力の全体的な底上げというふうにお見受けしたわけでございます。

    (略)

     そこで金融政策についてですけれども、金融政策というのは、政策的に変更すれば所得の分配効果というのも必然的に生まれてくるわけでありまして、例えば、利上げをしませば家計部門の利子所得はふえますが、逆に利下げをすれば企業部門の借り入れコストが低くなるというような分配効果というのは当然生じるわけでございます。

     こうした所得の分配的な側面を考慮に入れつつ、主軸として機能すべき、総裁が今おっしゃられました経済の波及ルートの出現のために、これをどうにか実現させるためにはどのような金利の姿というのが、あるべき姿として望ましいのか。すなわち、安倍政権では、「美しい国、日本」をつくるときに金利がどうあるべきなのか、日銀総裁御自身が描かれておられます「美しい国、日本」のための「美しい金利観」について御所見をお伺いしたいと思います。

    ○福井参考人 日本銀行が金融政策を運営していきます場合に念頭にありますことは、日本経済の実力が時の経過とともに常に向上すること、向上した力が、常に現実の経済発展の成果として国民の多くの方々がそれを享受できるような姿として実現していくこと、そのためには、物価安定のもとに息の長い成長を続けること、こういうことになると思います。

     金融政策の観点から申しますれば、それらすべての目標を同時達成していくためには、限られた資源が収益性の高い分野に円滑に配分されるようなメカニズムが、金利の面からもしっかりと作用する必要があるということだと思います。

     そうした観点からは、市場金利が経済、物価情勢を反映した形で円滑に形成される必要があります。そういう金融条件、金融環境というものを用意するということを念頭に置きながら私どもは金融政策を進めていかなければならない。

     逆に、経済、物価情勢と離れた金利形成が行われますと、非効率な経済活動に資金やその他の資源が使われ、長い目で見た資源配分にひずみが生じるおそれがあります。そうなりますと、これは息の長い成長を阻害する可能性があるということで、目的が損なわれるということになると思います。

    (後略)

    第166回国会 衆議院財務金融委員会 第9号(平成19年4月17日(火曜日))(webmaster注:強調はwebmasterによります)

    「美しい金利観」ですか・・・一応は先立つ説明があり、それを「すなわち」と受けてのことですから、意味不明というわけではありません。佐藤議員の選挙区事情を考えれば、党執行部に迎合したくなる気持ちもわからないではありません。しかし、そうした事情を斟酌してなお、「美しい」という形容詞を「金利観」に接続するというのは、それこそ「美しい日本語」ではないんじゃないの、と厭味のひとつも言いたくなるというものです(笑)。

    日ごろ日銀に理解を示すことの少ないwebmasterにしては珍しく、この質問に対して答えを作成した事務方には大いに同情してしまいました。

    • 「『美しい金利観』についての所見如何、だってよ」
    • 「何を答えればいいんですかねぇ・・・」
    • 「俺に聞くなよ(笑)」
    • 「とりあえず、金融政策運営についてのいつもの答えをつけておきますか」
    • 「そうだな・・・」

    なんて会話が聞こえてくるようです(笑)。webmasterが答弁を作成するなら、「金利について『美しい』『醜い』といった形容詞がどのような意味を持つのかは承知しておりませんが」といった断り書きを冒頭につけちゃうんだろうなぁ・・・実は事務方もつけていて、福井総裁がそんな喧嘩を売るようなこと言えるわけないだろ、と削ったとか(笑)。

    04/12/2007 (12:36 pm)

    マネーサプライ前年同月比の推移(2007-03現在)

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     年月    M2+CD   前年同月比
    2005.01  6,998,252  1.97%
    2005.02  6,953,440  1.85%
    2005.03  6,999,008  2.07%
    2005.04  7,049,983  1.83%
    2005.05  7,037,424  1.46%
    2005.06  7,038,765  1.62%
    2005.07  7,085,130  1.66%
    2005.08  7,077,972  1.64%
    2005.09  7,076,717  2.00%
    2005.10  7,055,711  1.91%
    2005.11  7,071,911  2.10%
    2005.12  7,125,369  1.90%
    2006.01  7,123,681  1.79%
    2006.02  7,075,631  1.76%
    2006.03  7,103,323  1.49% ← 量的緩和解除
    2006.04  7,171,703  1.73%
    2006.05  7,130,540  1.32%
    2006.06  7,123,454  1.20%
    2006.07  7,123,733  0.54% ← ゼロ金利解除
    2006.08  7,109,742  0.45%
    2006.09  7,119,253  0.60%
    2006.10  7,100,080  0.63%
    2006.11  7,119,883  0.68%
    2006.12  7,178,944  0.75%
    2007.01  7,192,128  0.96%
    2007.02  7,150,627  1.06% ← 利上げ(0.25%→0.5%) (revised)
    2007.03  7,179,160  1.07%

    04/03/2007 (5:35 am)

    日銀行員にチェックされてました(笑)

    Filed under: BOJ ::

    いや、そりゃ無視されるよりは読んでいただく方が書き手としては張り合いがありますが、どのような心持でご覧になられているかを想像すると、複雑な気分でございます(笑)。隠れリフレ政策支持者ならば望外の幸せですが、反政府活動を泳がせている公安当局の目線で見られているとしたら・・・。

    オマケのネタ bewaadさんが「バブルへGO!!」のネタを取り上げており、「オォ、コリャすげえ」とばかりに真剣に企画を検討しようかと一瞬思ったら…、エイプリルフールだったのねえ(笑)。そして今日、知り合いの日銀マンから「bewaadさんとこに凄いことが書いてある!!!」と驚きメールが到着。そしてしばらくして「エイプリルフールでしたあ…」と今度はがっかりメール。ということでbewaadさん、ネタに引っかかったのが私ともう一人の二人が少なくともおりました。しかし、この商売をしていてエイプリルフールを思いつかないとは…。いいネタがあったのだが、惜しいことをした。がっくり。

    「「日銀マン、日銀レディー」=追加でオマケのネタ」(@本石町日記4/2付)

    03/24/2007 (6:28 pm)

    低金利下での家計の利子収入に関する面白い計算結果

    Filed under: economy, BOJ ::

    当サイトはいちご経済/経済学板よりもアクセスを集めているらしいので、ご紹介の価値もあるでしょう。

    782: ドラエモン  2007/03/24(Sat) 01:27 [ va4qsJNk0c ]

    もちろんもっと金利の高い預金はあるから、これは極端な例かもしれないが今計算してみた結果は面白かったので報告。

    ある月に普通預金をして、1年後に受け取る利子からその期間のインフレを控除した実質利子率(後ろ向きではないことに注意)を計算してみた。

    1970年1月から2006年1月までの433ヶ月のうちで、実質利子率がプラスだった月数は133ヶ月しかない。

    しかもデフレ開始以前の1997年12月までの336ヶ月のうちでプラスだったのはわずか52ヶ月。

    つまり、残り96ヶ月のうちで81ヶ月はプラスだったわけ。

    要するに、ゼロ金利時代(正確には99年3月以降だが)は、70年代以降ではもっとも家計が普通預金から実質的なリターンを受けていた時代であった。普通預金に関する限り超低金利は、家計にとってもっとも預金が有利だった時代なわけね(爆

    いちごびびえす・経済/経済学板「トンデモ経済学家元追求委員会vol.8」スレ・レス782

    これは次のような試算への反論ではありますが、デフレ下では実質金利が高止まる、と定性的に言うよりも説得力があります。再反論があれば面白いことになりそうですが(笑)。

    日銀の福井俊彦総裁は22日の参院財政金融委員会で、バブル崩壊後の超低金利により家計が失った金利収入の累計が331兆円に上るとの試算を明らかにした。福井総裁は「低金利政策のマイナス面の一つだが、借入金利低下の影響を含めた経済全般への効果を判断する必要がある」と述べた。

    試算は最新の国民所得統計をもとに日銀がまとめた。バブル崩壊直後にあたる1991年の家計の受取利子額は年間38兆9000億円。家計が同じ額を2005年まで継続してもらっていた場合と、実際に受け取った利子額との差をはじいた。 (07:02)

    日経「超低金利で家計、331兆円の利子所得失う・日銀総裁が試算公表」

    03/23/2007 (4:23 am)

    続・あるべき日銀の利上げ批判

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    先日の「あるべき日銀の利上げ批判」のコメント欄にて、韓リフさんとwebmasterとの間でコメントのやりとりが続いておりましたが、田中秀臣先生ご自身が本件についてのエントリを別途立てられたこともあり(韓リフさん=田中秀臣先生です。為念)、改めてエントリを起こしてみたいと思います。

    田中先生のご理解の枠組み

    若干長くなりますが、引用いたします。

     まず教科書レベル(具体的な教科書としてブランシャールの『マクロ経済学』を採用します)の話ですが、金融政策と株価の変動というのは関係します。どう関係するかは、教科書によると

    1)金融政策自体の変化によるショック

    2)(ニュース、政府統計公表などで)消費の変化・景気動向などが市場に伝えられたときのショック

    のふたつを原因にしています。そして各々市場参加者の期待(予測)のあり方が株価の変動や産出量の変化に関連してきます。株価の変動はショックの直近から観察可能ですが、産出量が実際にどう変わるかは時間を置かないと観察可能ではないでしょう。また2)の方は金融政策自体のスタンスをどう市場が予測しているかということにも関わります。ちなみにここでは予測と期待は同じExpectationの訳語として原則採用します。

     また株価は(教科書の定義を採用し)一年物の期待利子率の流列によって割り引かれた将来の期待配当の現在価値である、とします。

     まず1)では、いま書きましたように、市場参加者の予測のあり方が大きく関わります。

      1−a) 金融政策が予測どおりだった場合

      1−b)金融政策が予測どおりでなかった場合*

        *どの程度の人が予測どおりでなかったかどうかにこのシナリオは依存する部分が大きいです。

      1−a)では株価の定義から金融政策の動きを市場は織り込んでいるので株価は変化しません。

      1−b)では予期しない金融政策の変化があったので、修正された予測に応じて株価は変化します。

       小例1)予期しない金融緩和ならば、現在の利子率と将来の期待利子率は低下、期待産出量・期待利潤の増加を予測するので、現在の配当・将来の配当の増加。ゆえに株価上昇。

       小例2)予期しない金融引き締めならば、現在の利子率と将来の期待利子率は上昇、期待産出量・期待利潤の低下を予測するので、現在の配当・将来の配当の低下。ゆえに株価低下。

       小例3)予期すべきアンカーがないままなんらかの政策決定が行われたとき、市場参加者の予測形成もまたアンカーをもたない(株価は変化するがどう動くか予測することはできない)。

     この1−b)の小例3)はいまの日本のリークこみの金融政策のあり方を示しているように思えます。カシャップも次のような表現を使用しています。

    「「日銀はマスコミへのリークを政策ツールとして導入した。このため、市場参加者たちが、日銀の政策変更を根拠に基いて推測することはほとんど不可能と感じるという、かなり常軌を逸した事態となってしまっている」(svnseedsさん訳)

     以上の1)は金融政策と株価との関係を示していて、それぞれが株価の動き(動きの無い場合も含めて)をみて、金融政策を評価することに奇妙なことはないことを示しているといえるでしょう。

    (略)

     さらにこのグラタンという人が批判している「ほら言わんこっちゃない、日銀が利上げするから世界同時株安が起きた」というものをより直接にみておきましょう。これはブランシャールでは2)の応用となります。「今回の利上げが先月の21日、世界同時株安の発端となった上海が落っこったのが同27日」という事態もからめてよりもっともらしいシナリオを考えることになります。

     教科書的知識をまず整理しますと(ブランシャールはis-lmを利用しています)

    2)上海株式市場の下落という予期せざるニュースが生じる(これは日本経済の投資や輸出に悪影響を及ぼす)を考える場合ですが、

     2−a) 日本銀行が利上げをしていること(LM曲線は左上方シフト。またLM曲線の傾きは非常に緩やかだと仮定しても日本の場合は不都合はないでしょう)

     2−b)上海株の下落ニュースはIS曲線を左下方にシフトさせること

    以上から新しい均衡点はニュースの伝わる前の初期の均衡点よりもより高い名目利子率とより低い産出量に直面していると市場で期待されます。これは株価の定義から現在のより高い名目利子率とより高い期待利子率をもたらし、またより低い期待配当をもたらすでしょう。すなわち株価は現在において下落します。

    このときも上海株のニュースが日本銀行の利上げスタンスによって、直近の株価の変動として現れても不思議ではないことになります。なおこのときは市場が金融政策の動向を正しく予想していた場合を想定しています。つまり21日から26日までは1−a)のように市場の期待通りだったので株価の顕著な変動は起きなかった。予想通りに金融引き締めだった。しかし27日に予期しない上海株下落のニュースが飛び込んできたので、金融引き締めという日銀スタンスを正しく予測しているので、株価は非常に下がった、というわけです。

     ここでも上の見込みのない引用の主張とは反対に、日本銀行の利上げが世界同時株安に貢献していてもいい理論的証拠になると思います。つまりこれはなんらかのリスクの発生を考慮に十分いれないで金利を引き上げたことが、株価下落、将来の産出量低下を招く、と批判していい論拠となるでしょう。

    「見込みのない議論と株価と金融政策」(@Economics Lovers Live3/22付)

    田中先生とwebmasterとの行き違いその1‐「日銀が利上げするから・・・」の解釈

    株価下落と日銀の引締めとの関係については、実はwebmasterは上記引用の最後から2つめのパラグラフ(「このときも・・・」以下)のように理解してます。前回のコメント欄であれこれデータを引いたのも、「なおこのときは市場が金融政策の動向を正しく予想していた場合を想定しています。つまり21日から26日までは1−a)のように市場の期待通りだったので株価の顕著な変動は起きなかった」というようにwebmasterが状況を評価していることの説明、つまりは市場(参加者の多く)は日銀が引き締めると予測していたよね、ということをうかがわせる諸々をお示ししたものだということです。

    ではなぜ行き違ってしまったかですが、webmasterの日本語の感覚では、「日銀が利上げするから世界同時株安が起きた」というからには、「日本銀行の利上げが世界同時株安に貢献していてもいい」という程度では足りないのです。言い換えますと、田中先生がそのような事象までを「ほら言わんこっちゃない、日銀が利上げするから世界同時株安が起きた」の解釈に含めているとは考えがいたりませんでした。

    webmasterが「日銀が利上げするから・・・」という文章から想定するのは、日銀の利上げが上海の株価暴落を引き起こしたとか、日銀が利上げしていなければ上海の株価暴落は上海に留まり他国には波及しなかったとか、そういう状況ということになります。日銀が利上げしなければある程度は各国の株安が小さくなっていたかもしれないけれども、それなりの株安の連鎖は不可避であったと見込まれるというような状況には、そのような表現は当てはまらない(とりわけ「から」の部分)というのがwebmsaterの語感です。

    したがって、「日銀が利上げするから世界同時株安が起きた」の解釈として、日銀の利上げが世界同時株安の直接の原因になったとの意味に限定せず、それを助長した可能性をも含むとの前提の下では、webmasterは田中先生のご見解に同意いたします。

    田中先生とwebmasterとの行き違いその2‐一般論と個別論

    前回のエントリのコメントでも書きましたが、一般論として金融政策が資産価格に影響を与え得ることはwebmasterも認めています。この一連のやりとりの中でwebmasterが否定的に解していたのは、(上述の理解としての)株価下落から日銀批判を実証ないし蓋然性の高い論理展開を経ずして導き出すことです。

    言うまでもありませんが、資産価格に影響を与え得るのは金融政策に限りません。顕著な資産価格変動が起こった際に、その要因が数多あるその候補たちがどう影響を及ぼしたかを検討した上で、金融政策の寄与度が有意に存在すると示してこそ、資産価格変動をもって金融政策を論ずることができるというものでしょう。言い換えれば、それなりの根拠を揃えてから批判しましょうよ、ということです。

    ところが、田中先生は、webmasterのこのような議論を、次のように解されています。

    で、逆に切り返しますが、中銀が裁量的政策で株価に影響を与えることは「まったくない」理論というのはあるんでしょうか? あるならば教えていただけますでしょうか? なければそれはbewaad-グラタンの妄想でしかないと思います。

    「あるべき日銀の利上げ批判」(3/9付)に対する韓リフさんのコメント

    そんな理論の存在など知りませんってば(笑)。先般の世界同時株安における日銀の利上げの寄与度はほんの脇役程度でしかない可能性がある(ので、上述の意味で「日銀が利上げするから世界同時株安が起きた」と主張するのであればそれにふさわしい根拠が必要ではないか)と指摘することが、何ゆえに日銀の利上げは株価にまったく影響を与えないと主張することと同じ扱いになるのか、webmasterには理解不能です。

    勝手な想像をするなら、グラタンさんが「心理的ショックの要因で動く短期的な株価動向」としたことについて、短期的には株価は心理的ショック要因でしか動かない(心理的ショック要因以外に短期的な株価動向を左右するものはない)と解されたのかな、とは思います。webmasterはそういう趣旨ではなく、理屈に裏付けられた心理的ショック要因以外の短期要因を否定するものではないと解し(たことに加え、あくまで枝葉の記述と位置づけ)たのでこだわりませんでしたが、田中先生の解釈を前提とすれば、それに賛成するものではないことは、念のため申し添えます。

    田中先生とwebmasterとの行き違いその3‐「裁量」の理解

    「その1」で書いたとおり、webmasterは昨今の状況を田中先生の整理でいうところの「1−a)」だと理解しています。同時にwebmasterは日銀の裁量性についても批判的なのですが、ここでいう「裁量」とは、日銀法上、日銀のミッションは物価安定であると明記されているにもかかわらず、手前勝手な理屈を持ち出してミッションをないがしろにしていることです。

    カシャップの言についても、webmasterはこうした文脈において評価し、「日銀はマスコミへのリークを政策ツールとして導入した。このため、市場参加者たちが、市場参加者たちが、日銀の政策変更を根拠に基いて推測することはほとんど不可能と感じるという、かなり常軌を逸した事態となってしまっている」というのは、市場参加者の金融政策の予測が、ミッションに照らして(=物価動向を見て)どうかというものではなく、金利の正常化等の勝手な理屈に即したものとなっているというように捉えなおせば正しい指摘だと考えています。

    #あえて「捉えなおせば」としているのは、カシャップ自身はこれに続いて「日本の金融政策がどこへ向かっているのかについてのはっきりした認識はないように思われる」としているので、彼の主張をその趣旨に忠実に解するならば、それに対してはwebmasterは懐疑的だからです。その後に、日銀がデフレ下であるにもかかわらず利上げをする理由は何かを考察されているのですが、カシャップはそれらいいかげんな理由と明確なミッションとの矛盾ゆえに、日銀の将来の政策決定に不透明さを見出しているのだとwebmasterは察しています。他方で管見では、日本の市場参加者はそれほど誠実に悩むことなく、ミッションはある種の建前のようなものに過ぎず、本音である金利正常化路線に従って引締めが続くであろうと割り切って将来の金融政策を予測している(ため、混乱せずにはっきりした認識を持っている)のではないでしょうか。(webmaster注:以上、カシャップのテキストはsvnseedsさんの邦訳によります。)

    他方で田中先生は、「その1」で書いたような枠組みをも提示されているのでその点に留意は必要ですが、引用部前半の「この1−b)の小例3)はいまの日本のリークこみの金融政策のあり方を示しているように思えます」との記述や、先に引用したコメントの別の部分において金融政策の裁量性が顕著なときには、株価が乱高下することは理論的には十分予測できますとされていることから、昨今の状況を「1−b)・小例3)」であるとご理解されているとwebmasterは認識しています。

    #このwebmasterの認識が正しければ、カシャップの意図に即した議論をされているのは、webmasterではなく田中先生です。為念。

    「その2」の議論の延長のようなものですが、「金融政策の裁量性が顕著なときには、株価が乱高下することは理論的には十分予測でき」るからといって、「株価が乱高下」したら「金融政策の裁量性が顕著」である(当然ながら、ここでいう「裁量」はwebmasterの理解ではなく「1−b)・小例3)」に掲げられたものとなります)とは限りません。その余の要因が大きく働いているのであれば、「金融政策の裁量性が顕著」でなくても「株価が乱高下」することになりますから。

    言い換えるなら、「株価が乱高下」していることをもって「金融政策の裁量性が顕著」であるとの批判をなすのであれば、単に「株価が乱高下」しているという事実を指摘するのでは根拠として十分ではなく、その余の要因によるものではないことをも同時に論証すべきであるとwebmasterは考えます。そうでなくてはトートロジーになってしまうでしょう。

    #本当に「株価が乱高下」しているのかどうかも、本来であれば検証すべきでしょうけれども(例えば、株価のヴォラティリティを時系列で比較するなど)。

    とりあえずwebmasterは、「株価が乱高下」していることがその余の要因によるものだとの論証はしていませんが、市場参加者にとって、日銀の行動が「1−a)」として受け入れられていることを示唆するデータを、一連のやりとりの中で示してきました。仮にwebmasterの観察が当を得ていて「1−a)」として受け入れられているのであれば、田中先生がお示しのとおり、利上げは「株価が乱高下」することにつながるものではないので、「株価が乱高下」しているがゆえに(田中先生やカシャップの文脈において)「金融政策の裁量性が顕著」であるとの批判は当たらないということになります。

    #このことは、webmasterの文脈における「裁量」が批判に値することを否定するものではありません。為念。

    ことは理論的な可能性が複数考えられる場合において、現状をよりうまく説明する、あるいは当該局面の理解としてより整合的なものは何かというものですから、理論的な可能性をお示しいただいても致し方ないのではないでしょうか。「1−a)」ではない蓋然性を示すデータなり、「1−b)・小例3)」であることを裏付けるデータなりをお示しいただければ、と思います。そうであるならば、より説得的な仮説として賛成させていただきます。

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