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  • 12/09/2007 (11:59 pm)

    「霞が関埋蔵金伝説」について:各論(後編)

    Filed under: treasury ::

    昨日の続きですが、次のかんべえさんのテキストをBaatarismさんは引用されています

    ○ホテルオークラ別館での大パーティーである。まとめて大勢の人に会えるのでありがたい。特に金融界の人は、しょっちゅう勤務先が変わったりするので、こういうときが名刺交換のチャンスとなる。主催者の挨拶が短いのもありがたい。政治家では、中川さんと渡辺さんが来てました。経済政策をめぐる旬の話題は、「埋蔵金」であるようですな。結構なことです。

    ○特別会計の中には、財務省がヘソクリにしているお金が数十兆円単位である。にもかかわらず、「財政再建のために消費税増税が必要だ」と言っている。これって、ケシカラン話ですよね。もちろん、ヘソクリは1回使ってしまえばそれで終わりなので、いざというときのために残しておくという財務省の考え方は、財政当局としては正しいと思う。

    ○政府にとっての恐怖のシナリオは、来年4月の予算関連法案において、民主党が「赤字国債の発行を止める」という暴挙に出ることであった。その場合、平成20年度予算は赤字国債抜きで執行しなければならず、20兆円程度の穴が空く。そこで財務省は、泣く泣くヘソクリに手をつけることになるのだが、そこで初めてヘソクリの存在を知った国民がなんと思うか。「バカヤロー、何が消費税だ。人にお願いをする前に、ちゃんと裸にならんかい!」と怒ったのではないか。

    ○「埋蔵金」は、増税派に対する上げ潮派の攻撃という性質を持っていますが、この問題が表面化したお陰で、自民党にとってのリスクシナリオは回避されつつある。いやはや、政治は奥が深いのであります。

    かんべえの不規則発言(2007/12/5付)

    ヘソクリといってよいか(企業会計でいえば利益準備金のニュアンスになりますが、むしろ引当金等のイメージだとは一昨日・昨日と書いたとおりです。過剰に引き当てているのならば経済的には利益準備金と同じことですが、その検討がまともになされているわけではないわけで)にはwebmasterには異論がありますし、上げ潮派も経済成長すれば増税は不要だというのが基本的スタンスのはずですが、それを放擲して財務省の掌の上で踊っているのですからひどい転向だとも思いますが、まあそれは本エントリではこれ以上は書きません。本エントリで取り上げたいのは、「恐怖のシナリオ」です。

    結論から申し上げれば、こんなものは「恐怖のシナリオ」でも何でもありません。というのも、荒唐無稽で実現可能性がゼロだからです‐もちろん、民主党はそんなことはしないだろう、なんてわけではないのですが。その心は、政府が勝手に「泣く泣くヘソクリに手をつける」ことは不可能だ、ということです。たとえば、特別会計に関する法律中、財政融資資金特別会計に関する規定を見てみましょう。

     (積立金)

    第58条 財政融資資金勘定において、毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合には、当該剰余金のうち、当該年度の歳入の収納済額(次項において「収納済額」という。)から当該年度の歳出の支出済額と第70条の規定による歳出金の翌年度への繰越額のうち支払義務の生じた歳出金であって当該年度の出納の完結までに支出済みとならなかったものとの合計額(次項において「支出済額等」という。)を控除した金額に相当する金額を、積立金として積み立てるものとする。

    2 (略)

    3 第1項の積立金が毎会計年度末において政令で定めるところにより算定した金額を超える場合には、予算で定めるところにより、その超える金額に相当する金額の範囲内で、同項の積立金から財政融資資金勘定の歳入に繰り入れ、当該繰り入れた金額を、同勘定から国債整理基金特別会計に繰り入れることができる。

    4 (略)

    この第3項の「国債整理基金特別会計に繰り入れる」というのが、今回使われる条文です。国債整理基金特別会計は借換債の発行主体ですが、そこの歳入が繰入額の分だけ増えるので、借換債を減らしても同特別会計の歳出(=国債の償還)がまかなえる、という仕組みとなっています。

    本件が荒唐無稽だというのは、この繰入れは政府が自由にできるものではなく、「予算で定めるところにより」という縛りがかかっていることを無視していることに起因します。来年3月(かんべえさんは「4月」と書かれていますが、特例公債法は日切れ扱いなので、年度内に審議されることとなります)に特例公債法が審議されて参議院で否決されたとしても、その際には予算案は衆院を通過しているでしょうから、そのタイミングで積立金の取崩し・国債整理基金特別会計への繰入れを追加することなど不可能です。結果、特例公債法が成立しなかったとしても、「ヘソクリに手をつける」根拠もまた成立していないので、赤字国債が発行できないのと同じ理由(=国会の議決を経ていないこと)で、「ヘソクリに手をつける」こともできないのです。

    では実際にこのような事態が生じればどうなるのでしょう。答えはひとつしかなく、一般会計においてまずはFBで一時的な資金繰りをつけ、さらに国債整理基金特別会計への繰入れを停止し、あるはずのキャッシュインがなくなる国債整理基金特別会計の資金繰りはTBでまかなうしかありません。そうしておいて年度内の資金繰りを確保した上で、当該年度中に特例公債法が成立するか、「ヘソクリに手をつける」ための補正予算が成立するのを待つのみです。

    結局のところ、こうした「恐怖のシナリオ」が語られるのも、特別会計はさまざまな監視が一般会計に比して届いておらず、役所が勝手にあれこれよからぬことをしているという一般的な見方の延長なのでしょう。しかし、法律の縛りも予算の縛りも、特別会計が一般会計よりも軽いということはありません。実は両者が大いに異なる点というのは、財務省の査定がどの程度及ぶかという点だけです‐特定財源=使途が法律で決まっている歳入については、財務省は、効率的な執行を求めることはできても、使途そのものを否定することは不可能なので。もし可能であれば、法律を財務省の担当者が覆せるということになってしまいます。

    特別会計を問題視する論者は、以上を踏まえれば、自覚的かどうかは措くとしても、実は財務省に大いに依存する心情を抱いているということとなります。一般会計に勝るとも劣らないほど情報は公開されているのですから、問題だと思うのであれば追及すればよいだけの話です(蛇足ながら、予算審議権を持つのにこの手のことを言う国会議員は、特別会計の審議を自らおろそかに自白しているに等しいでしょう)。それをせずに特別会計への切込みが甘いというのは、財務省にもっと権限があればいいのに、法律の縛りを主計局が無視すればいいのに、という主張だと解さざるを得ないわけですが・・・。

    12/08/2007 (11:59 pm)

    「霞が関埋蔵金伝説」について:各論(前編)

    Filed under: treasury ::

    それでは、今日明日と発端となったBaatarismさんのエントリを順に取り上げたいと思います。今日は「霞が関埋蔵金伝説を追うw」、明日は「民主党が赤字国債の発行を止める!?」となります。Baatarismさんは、最初に中川前自民党幹事長が言及する財政融資資金特別会計と外国為替資金特別会計について触れ、中川(秀)氏は「埋蔵金」かどうか疑いがある特別会計をわざわざ取り上げてしまっているように思えますとの見解を示されています。

    このご見解にいたる過程において、財政融資資金特別会計についてのwebmasterの議論を引いていただいているのに恐縮ではありますが、これらについては一般会計との連結ベースで考えれば、特別会計の純資産をリスクバッファーとするのか(財政融資資金特別会計については金利リスク、外国為替資金特別会計については為替リスク)、それとも一般会計(つまりは税収)をリスクバッファーとするのかの違いに過ぎませんから、「総論」で書いたように国債発行額の名目額を減らすことを至高の目的とするのであれば、政治判断マターだとはいえます‐もちろんアカウンタビリティの観点からは、少なくともリスクバッファーとしてどの程度が適当かの議論を欠いたままそうするのであれば、望ましいとは言いがたいことではありますが。

    #細かい違いをいえば、財政融資資金特別会計については、理論的にはALMによって金利リスクを回避してリスクバッファーを不要のものとすることが可能ですが、外国為替資金特別会計については、必ずリスクバッファーが必要だ、ということはいえます。為替介入とはドルのロングなりショートなりのポジションを取ることであり、それをヘッジするとは、現物を用いようとデリバティブを用いようと、逆のポジションを取って介入効果を中立化することに他なりませんので。

    実際には、財政融資資金特別会計については、

     額賀福志郎財務相は六日、二〇〇八年度予算編成で財政融資資金特別会計(財融特会)の積立金(〇八年度末で約二十兆円の見通し)の一部を取り崩し、国債の返済に充てる方針を明らかにした。〇八年度の取り崩し額は十兆円規模とみられ、〇九年度以降も年間一兆−数兆円を返済に回す見込み。国債発行残高を減らし、利払い費を抑える。

    東京「財融特会10兆円取り崩し 財務相方針 『埋蔵金』国債返済に」

    と決まってしまったようですが、これについては記者会見で次のような面白いやりとりがなされています。

    問) 先程の財政融資の特別会計の積立金取り崩しなんですけれども、それを取り崩して国債の発行残高は確かに減るとは思うんですが、例えば企業で言うところの連結ベースで見ると、資産が減って、負債が、両建てで減るというだけなんで、本当に財政再建に資するのかなという素朴な疑問もあるんですが、これについて如何なんでしょうか。単に付け替えだけで終わるんじゃないかというような気がするんですが…。だからこそ、今までは財務省はここの部分について慎重に扱っていたはずなのに、この辺はどういうふうにお考えになっていらっしゃるんでしょうか。

    答) 財政融資特会のことは、昨日も申し上げましたけれども、平成13年以来の財投改革をずっと続けて来て、激変緩和の7年目に当たるタイミングで今後の展開を考えていった時に、変動リスクが縮小されていく中で一定の利益を出しているので、これを法律に基づいて国債整理基金に入れて、財政再建に役立てていくということで、準備金の積み立ての基準を、今、どの程度にするかを考えているということでございますので、これはやっぱり、我々は一定のストックはストックで、きちっと財政再建に役立てていくということも法律にも書いてありますし、そういうことが適切なのではないかという判断をしておるわけです。

    問) それはおっしゃるとおりだと思うんですけれども、要は、国の予算の、親会社みたいなところの決算を良くするのか、子会社みたいなところの決算を厚く、お金をキャッシュを持っているのかという、それだけの違いのような気もしますね。例えばこういうことがあると、結局、ああ、財政再建というのは、財務省が今まで隠していた埋蔵金みたいなものを発掘すれば、何とかやっていけるんだみたいな幻想を与えるようなことにはならないですか。

    答) いや、それは、例えば、財政融資特会だって、外部環境に支えられて利益を生み出しているところもあるわけでございます。金利が動けば、これは逆ザヤになる場合だってあるわけでございますから、そこはちゃんと、我々も両面、危機管理的にきちっと対応していく中で判断をしていかなければならないのは当然であります。その中で、財政再建というのは、日本の信認を得ていくためにやっぱり必要不可欠な手段でありますから、国際的なメッセージとしても私は大切なことであるので、フローで色々と、なかなか容易じゃない時に、そういう残高を解消していく。本当は、もうちょっと景気が良くて、プライマリーバランスにも役に立っていくような形になるのは最も望ましいんだけれども、しかし、全体的なメッセージとしては、その残高を減らしていく日本の姿勢というものが、一定の評価を受けることになるんだろうというふうに思います。

    額賀財務大臣閣議後記者会見の概要(12/7)(webmaster注:強調はwebmasterによります)

    強調部分の「残高」とは、当然ながらグロスの残高を指しているわけで、この「埋蔵金」問題が財務省の理屈の中での論争に過ぎないことをよく表しています。

    他方でこれら以外の「埋蔵金」について、Baatarismさんは以前webmasterも引いたFacta onlineのエントリをベースに議論されています。改めて関係部分を引用すれば次のとおりです。

    まず政府資産・負債管理政策。ここにめっけものの数字がある。国の貸借対照表から浮かびあがる特別会計の「見えない資産」である。これまであるあると言われてきたが、霞が関の「隠しポケット」が、本書で裸にされている。かつて塩爺、こと塩川正十郎が言った「母屋(一般会計)でおかゆ、離れ(特別会計)ですき焼き」の実態はこれなのだ。

    高橋氏のデータは、05年4月27日の経済財政諮問会議で明らかにされた数字に基づいている。これは各特別会計について、継続中の事業をのぞき新規事業を行わないという前提ではじきだした資産負債差額(清算バランス)の推計額である。

    それによると、特会に隠された主な「見えない資産」、つまりプラスの清算バランスは

    財政融資資金特別会計53兆円(現在価値23兆円)
    国有林野事業特別会計4・5兆円(同4・5兆円)
    労働保険特別会計6・5兆円(同5・1兆円)
    空港整備特別会計2・3兆円(同1・9兆円)
    自動車損害賠償保証事業特別会計1・2兆円(同0・7兆円)

    (略)

    省庁はこうした特会の隠し資産を手付かずにしておいて、一般会計から国費を繰り入れている。高橋氏の指摘では、労働保険特会は資産負債差額4・2兆円は、責任準備金8・0兆円に対し50%以上あり、保険料が高すぎるおそれがある。空港整備特会も同じだ。資産負債差額が2・3兆円もあるだけに、一般会計からの繰入額も空港使用料も「ぼったくり」の可能性があるという。

    「高橋洋一「財政改革の経済学」のススメ 1」(@FACTA online/阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」11/2付)

    当該部分より、Baatarismさんはただ、高橋氏が指摘しているが中川(秀)氏が指摘していないその他の特別会計については、納得できる反論が行われない限り、「埋蔵金」と言われても仕方ないでしょうとのご指摘を導かれていますが、しかしよく見れば、上記引用部分に、「納得できる反論」が既になされているのです‐それは、「保険料が高すぎるおそれがある」「一般会計からの繰入額も空港使用料も『ぼったくり』の可能性がある」という部分です。

    すなわち、仮に特別会計の財源に余裕があるとしても(といっても、高橋洋一さんの試算は新規業務を停止した場合のものですから、これが正しいとしても、業務を継続する際にどれだけの余裕があるかは別途試算する必要がありますが)、その余裕は特別会計に係る国民負担の軽減に回すべきであって、一般財源として用いるのは筋が違うということです。参議院選挙の勝利を受けて民主党が提出した法案に年金保険料流用禁止法案がありますが、これが参議院選挙において一定の有権者の支持を集め推進すべきだというのであれば、年金だけを特別扱いする理由はなく、他の特別会計とて同様に考えるべきでしょう。

    #年金保険料流用禁止法案は、制度運営経費すら一般財源でまかなえというものですが。

    しかし現実を考えれば、道路特定財源に明らかなように、このような理屈ではなく「財政危機だ!」のプロパガンダに基づき一般財源への充当を正当化する言説が世にあふれているわけですから、一般財源化される可能性は低いものではありません。今はちょうど来年度予算案の折衝の大詰めの時期ですが、主計局の担当者がここで挙げられているような特別会計の担当者に対して、「財政融資資金特別会計はきちんと一般財源に協力したのだから、お前らもそうすべきだ」などと言っている姿が目に浮かぶのです。

    12/07/2007 (11:59 pm)

    「霞が関埋蔵金伝説」について:総論

    Filed under: treasury ::

    最近何かと話題ですが、Baatarismさんがとりあげていらっしゃるのを拝見したのを機会に、論じてみたいと思います。

    最初に結論から申し上げるならば、「霞が関埋蔵金伝説」は、肯定的に論じようと否定的に論じようと、財務省(主計局)的価値観の賜物に過ぎないように見えます。言い換えれば、これをめぐる議論の両当事者は、いずれも財務省(主計局)の掌に乗っているようなものです。

    #本来、単に「財務省」とするのではなくいちいち「主計局」と冠すべき(たとえば財政融資資金特別会計の積立金については、主計局は一般財源化に前向きであっても、理財局は後ろ向きでしょうから、単に「財務省」と称することが適当とはいえません)ですが、世間的には財務省を代表しているのは主計局と見られていますし、繰り返し書くのも煩雑ですから、以下は主計局的との含意で「財務省」等の語を用います。

    まず否定的な論者から見てみましょう。といっても否定論者は最近話題の特別会計の剰余金等ではなく、(民主党の政策提案を念頭に)歳出削減余力を指して「埋蔵金」と呼んでいるようですが、これは「埋蔵金」は頼りにならず消費税増税が必要だというものですから、消費税増税に執念を見せる財務省の主張(たとえば「平成20年度予算の編成等に関する建議」のポイントには、財政健全化に向け、(略)歳入面では、国民共通の課題として、本格的な議論を進め、消費税を含む抜本的な税制改革を実現させるべく取り組んでいく必要があると思料とあります)そのままです。

    #今の文脈での「埋蔵金」は予算書等で完全に存在がオープンになっている(=「埋蔵」されていない)のですから筋違いといえば筋違いで、民主党の歳出削減余力にこそふさわしい名称です。政治的文脈でいえば、昨今自民党内力学において劣勢である中川前幹事長が、本来ご自身とは無関係のはずの民主党vs否定論者の対立に割り込んだと捉えるべきもので、これだけ世を騒がせているのですからその嗅覚はさすがというべきでしょう。

    では肯定的な論者はこうした財務省的価値観に異を唱えるものかといえばさにあらず。現時点での財務省への異論ではあるかもしれませんが、実は「埋蔵金」の活用によるフローでの国債発行額抑制は、かつての大蔵省時代から何度となく行われてきたものなのです。

     22日に招集された通常国会で審議が始まる96年度予算の政府案では,新規国債発行額が前年度当初予算より8兆4310億円増の21兆290億円と急激に膨らんだ。その大きな原因は,「隠れ借金」によるやり繰りの行き詰りとだと報道されている。

     借金にはフローの借金とストックの借金があり,隠れ借金も例外ではない。フローの隠れ借金は,一般会計が特別会計から資金を借り入れたり,特別会計への繰入れを繰り延べるなど,国債発行額を圧縮する会計上の操作を指す。ストックの隠れ借金は,国債以外の一般会計の債務である。

     隠れ借金は公式の予算用語ではない。大蔵省は「隠れ借金」という言葉を正式には用いないし,わずかの資料を公表しているものの,積極的に広報しているわけではない。大蔵省の資料には,ストックの隠れ借金をまとめた「今後処理を要する措置」と,特例法によるフローの隠れ借金の図解があるだけである。

    (略)

     第3のタイプは,特別会計からの借り入れである。これはさらに3種類に分けられる。

     第1は,将来,一般会計に繰り入れられる予定の特別会計の黒字を先食いすることである。これはフローの隠れ借金になるが,将来の歳入が減少することで清算されるので,ストックの隠れ借金には積み上がらない。

     第2は,特別会計からの借り入れである。83,94,95年度に行われた,自賠責特会からの借り入れがその例である。これはストックの隠れ借金となり,自賠責特会の貸借対照表の資産項目に計上されている。

     第3は,一般会計から特別会計への繰り入れるべき歳出を,将来に先延ばしすることである。過去,この方式で,国民年金,政管健保,厚生年金,雇用保険からの隠れ借金が行われた。これらは,特別会計の貸借対照表には表れないことが,第2のタイプと異なる点である。

    隠れ借金(岩本康志教授)

    「埋蔵金」を一般会計に繰り入れることにより国債発行額を減らすとの目論見は、これらと本質的には同じことだと言えるでしょう。一般会計と特別会計とを企業会計の世界での親子会社になぞらえるならば、「埋蔵金」の繰入れは配当の増額や払戻し減資、子会社による自己株式買取等の資本取引によって親会社にキャッシュフローをもたらすことに相当しますが、連結会計ベースで見るならば、将来収益の先食いであろうと子会社からの借入れであろうと必要であるはずの子会社への出資等のキャッシュアウトの取りやめであろうと相殺消去され、出来上がる連結バランスシートに変わりはありません。

    以上については、岩本先生も同様の指摘をされています。

     経済分析で実際に用いられ,隠れ借金の影響を受けない指標には,「国民経済計算」と「世代会計」がある。

     「国民経済計算」は,上にのべた歳入・歳出の取り扱いをしていると同時に,特別会計が統合されているので,一般政府の収支は,一般会計と特別会計の間のやり取りによる隠れ借金から独立である。しかし前回にのべたように公的年金(社会保障基金)部分の収支の取り扱いには問題が残る。

     この問題にまで対処したのが,米カリフォルニア大のアウアバック教授,米クリーブランド連銀のゴーケール氏,米ボストン大のコトリコフ教授が開発した「世代会計」である。世代会計では,現状の政策が維持されるとの仮定のもとで,現存する世代の純受益額(受益と負担の差額)を計測する。現存する世代の純受益額と現在の債務残高は,将来世代が負担しなければならない。そこで,現存世代の純受益額と将来世代の純受益額とを比較して,どれだけの負担が将来の世代に先送りされているかを見ようとするものである。

     こうして世代会計は,民主主義政府での意思決定が問題を先送りにし,将来に回そうとしているツケを明示しようとするのである。「国民経済計算」が影響を受けない隠れ借金には,世代会計も影響を受けない。それに加えて,年金基金の積み立て不足は,世代会計においては将来世代の負担という形で明確に把握されることになる。

    隠れ借金(岩本康志教授)

    こうした隠れ借金には、岩本先生によれば次のような問題点があるとされます。

     ここでこわい話は,この方法による隠れ借金の潜在的可能性は非常に大きいことである。現在,金額の大きい借金の相手先は,国民年金特別会計と厚生保険特別会計(のなかの厚生年金)の2つである。これらの会計が現在,多額の黒字を計上しており,見かけのうえで収支の悪化が目立たないことが,多額の隠れ借金ができる理由となっている。

     厚生年金を例にとろう。95年度当初予算では,厚生年金へは2兆8259億円が繰り入れられ,4150億円が停止された。しかし,厚生保険特会年金勘定の予算は6兆8848億円の黒字となっており,かりに厚生年金への繰り入れが全額停止されても,年金勘定の黒字を維持でき,一般会計はさらに3兆円弱の隠れ借金を手にすることができたわけである。

    (略)

     会計の透明性を失われたこともさることながら,隠れ借金の最大の問題は,財政運営の目標を混乱させたことにある。

     80年代の財政再建期では,「XX年後に赤字国債発行をゼロに」を目標とした歳出削減策がとられた。90年度当初予算での赤字国債ゼロの目標が一応達成されたが,その過程で隠れ借金による見かけ上の支出削減や歳入増加策がとられ,実態は赤字財政のままだったのである。

     バブル期の税収好調で,隠れ借金は小休止を得たが,バブル崩壊後の税収の落ち込みで,再び財政事情は厳しくなった。しかし,「いったん赤字国債を発行すると,乱発を招く」との論理で,赤字国債発行を避けるために隠れ借金が多用された。この段階で,構造改革という困難な努力を避け,目標の数値そのものを会計操作で変えていった事実が,衆目の前にさらされたのである。

     昨年11月に前武村蔵相による「財政危機宣言」をし,96年度予算では国債依存度は28%に高まり,80年代初頭の財政危機時に時計の針が戻ったかのようである。しかし,当時と違うことは,赤字国債発行額という努力目標が,本来なすべき構造改革ではなく,手先の会計処理により操作可能であり,かつ実際に操作されたことを,われわれが知ったことである。

     民主主義政府の複雑な意志決定のもとでは,財政再建には何らかの目標を設定することが必要であり,シーリングや「XX年後の赤字国債発行ゼロ」は,それなりの成果をおさめた。しかし,これらの財政再建で,80年代と同様に赤字国債発行額を目標としても,構造改革が困難になると再び隠れ借金に頼る事態が訪れるであろう。

     確かに96年度予算編成では,会計の透明性の重視から隠れ借金の利用は抑えられた。しかし,これまでの経験から判断すると,透明性の要求が財政事情よりも高い優先順位を持ち続けるとは考えにくい。

     したがって,実効ある財政再建のためには,本来の財政事情を正しく反映し,前回述べたような,会計操作により左右されない指標を設定することが出発点となる。このハードルがクリアされないため,現在の財政再建の具体像が見えてこないのである。これが,われわれが隠れ借金から教訓として,学ばねばならないことである。

    隠れ借金(岩本康志教授)

    以前、webmasterは財政融資資金特別会計について書きましたが、同特別会計に見かけ上お金が余っているかのように見えても、それが真にそうであるとは限りません。同特別会計に関して言えば、デュレーションマッチングを厳格にし、金利リスクを負わなくなったということでなければ、上記の隠れ借金のごとく、将来的には同特別会計に損失の穴埋めという形で払い戻さざるを得ず、その際には当該キャッシュフローを賄うために国債を発行することとなり、結局は単なる国債発行時期の付け替えに終わる可能性があるわけです。特別会計から繰り入れるというのであれば、まずはそうした特別会計で経理される業務そのものの見直しをし、その結果を会計上に反映させるという手順を踏むべきです。

    そうでなければ、岩本先生が隠れ借金についてご指摘のとおり、「埋蔵金」を一般会計に回して一般会計の国債発行額を抑制するというのは、一般的に注目を浴びやすい国債発行額という指標について、いわば粉飾決算で見かけ上の改善を繕うことになってしまいます。実態が変わらないのに会計上は改善したかのように見せかけたいというのは、決して褒められたものではありませんが、現在の財務省ですらそうした路線は放棄しているというのに、ゾンビのように復活させてしまったのが肯定論者ということになるのです‐財務省的価値観というよりは、「大蔵省」的価値観とでも言えましょうか。

    井出英策「高橋財政の研究」によると、戦前から大蔵省はこの手の会計間操作で財源を捻出していたとのこと。三つ子の魂百まで、といったところでしょうか。

    いわば本件は、一般会計の国債発行額を減らすためなら何でもありの「大蔵省」vs国債発行額を材料に消費税増税を主張する「財務省」という、何とも救いのない論戦であるなぁ、とwebmasterは思わざるを得ないのです。加えて、この議論はそもそもネットベースでの政府債務にはまったく影響しないわけで、やたらとグロスの債務を強調してネットベースの議論から目を背けることとなる点においても、財務省の掌の上に乗ってしまうわけで・・・。

    11/03/2007 (11:59 pm)

    高橋洋一さんへの苦言

    Filed under: treasury ::

    本来であればその著書「財投改革の経済学」を読んでから書くべき話ではあるのですが。

    まず政府資産・負債管理政策。ここにめっけものの数字がある。国の貸借対照表から浮かびあがる特別会計の「見えない資産」である。これまであるあると言われてきたが、霞が関の「隠しポケット」が、本書で裸にされている。かつて塩爺、こと塩川正十郎が言った「母屋(一般会計)でおかゆ、離れ(特別会計)ですき焼き」の実態はこれなのだ。

    高橋氏のデータは、05年4月27日の経済財政諮問会議で明らかにされた数字に基づいている。これは各特別会計について、継続中の事業をのぞき新規事業を行わないという前提ではじきだした資産負債差額(清算バランス)の推計額である。

    それによると、特会に隠された主な「見えない資産」、つまりプラスの清算バランスは

    財政融資資金特別会計53兆円(現在価値23兆円)
    国有林野事業特別会計4・5兆円(同4・5兆円)
    労働保険特別会計6・5兆円(同5・1兆円)
    空港整備特別会計2・3兆円(同1・9兆円)
    自動車損害賠償保証事業特別会計1・2兆円(同0・7兆円)

    (略)

    高橋氏は「離れですき焼き」は計50兆円規模とみる。民主党が知ったらほくそ笑むだろう。消費税1%引き上げで税収が1兆円の増収になるが、50兆円も「隠しポケット」に抱えていながら、一銭もたくわえを崩さずに消費税引き上げが通るはずもない。

    「高橋洋一「財政改革の経済学」のススメ 1」(@FACTA online/阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」11/2付)

    「計50兆円規模」の「離れですき焼き」が事実であるとして(おそらくは現在価値の足し上げでしょう)、その半分近くを占める最大のものは財政融資資金特別会計のものです。ではなぜそんなものが生じたのか、結論からいえば財政融資資金が大きな金利リスクを背負っているからです。2003(平成15)年度のものと若干古くはありますが、そのマチュリティーラダーやデュレーションギャップが示すのは、財政融資資金が長短金利差で利益を得ている‐わかりやすく言えば、短期資金を低金利で調達し、高金利の長期資金で運用しているため、その金利差が利益になっている‐という事実であり、「離れですき焼き」とは、その累積に他なりません。

    #デフレのため、中長期的なトレンドとして(名目)金利低下局面であったことが、上記利益をさらに押し上げていました。

    逆に言えば、金利が上昇して既往の長期運用の金利を上回るほど調達の短期金利が上昇したり、さらには逆イールドになりにでもすれば、多額の損失が財政融資資金に生じる可能性がある、ということとなります。直近の計数でどの程度のデュレーションギャップがあるかはわかりませんが、上記リンク先での1.35年(2003年末)が今なお妥当すると仮定すれば、2006(平成18)年度末の財政融資資金残高が300兆円弱ですから、金利が急激に(=ポートフォリオ組替えをする間もなく)3%ほど上昇すれば約10兆円の損失(時価評価の対象とならない貸付債権が過半ですから、正確には逆ザヤの現在価値+保有有価証券の評価損となります)が生じるわけです。これを考えれば清算剰余の現在価値23兆円とは、びた一文たりとも剥がせないということはないにせよ、大半は必要なリザーブだといえるでしょう。

    以上を受けての苦言ですが、高橋さんのご専門を考えれば、こうした事情を理解できないとは考えづらいでしょう。とすれば、本来はその中に「離れですき焼き」とは言いがたいものが含まれていることを承知で、50兆円もの「離れですき焼き」があるとのミスリードを行ったものと考えられます。これは決して褒められたこととは言えますまい。

    加えて、過去にさかのぼれば、高橋さんは次のようなことをおっしゃっていました。

    郵貯等の資金運用部への預託期間は7年であるが,資金運用部はより長期の期間で財投機関に資金を融資している。財投における長期資金の供給は,資金運用部(最終的には政府)が金利リスクを負担することによって可能になっているのではないかという議論がされてきた。しかし,高橋(1998)は,現在の資金運用部はALMによる金利リスク管理(短期資産の運用を同時におこなうこと)により,資金運用部に内在する金利リスクはほとんどないとしている。

    岩本康志「日本の財政投融資」(webmaster注:原文の注記は略しています。なお、「高橋(1998)とは、高橋洋一「財政投融資改革の方向」、岩田・深尾編「財政投融資の経済分析」pp175-243です)

    直接の引用でないのはご容赦いただければ幸いですが(手元にないので・・・)、「現在の資金運用部はALMによる金利リスク管理(短期資産の運用を同時におこなうこと)により,資金運用部に内在する金利リスクはほとんどない」という事実はないからこそ、上記のようなデュレーションギャップが生じているのです。高橋さんが財投を担当していらっしゃったころはきちんとALMができていて、その後金利リスクが急激に増加した可能性がないわけではありませんが、それこそ巨額の累積黒字の存在が、金利リスクをテイクしていたこと=「金利リスクはほとんどない」といえるほどのALMが実現できていなかった可能性を強く示唆します。

    #資金運用部(資金)=現在の財政融資資金となります。

    高橋さんが財政融資資金の累積黒字を難ずるのであれば、なぜそれが生じたのかについてもきちんと言及すべきでしょうし、となれば必然的に過去の上記のご主張は誤りであったと認めざるを得ないとwebmasterは思うのですが、いかがでしょうか。

    10/18/2007 (11:59 pm)

    お薦めの地方財政本など

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    (神野直彦「地方自治体壊滅」)

    このところ数冊、地域格差関連の本を読んだのだけれど、その中では、これが一番よかった。提言の章に入ると何だかよくわからなくなってしまうのだけれど、前半〜中盤の状況整理は簡潔かつ分かり易い。倫理的な悪をどこかに見出して叩き溜飲を下げるというパターンを脱すると、視界はクリアになる。

    大抵の問題がそうだ、と感じてる。(……にしても「地方自治体壊滅」ってタイトルはどうかと思う。でも何冊かパラパラしてみた感じ、神野さんって、基本的に暑苦しい系みたい。冷静に状況を見てるっぽい印象を受ける本書前半の方が例外なのかも)

    「乞食はどこへ消えた?」(@趣味のWebデザイン10/15付)

    ここで掲げられている神野先生の本は読んだことがないので、それとの比較はできないのですが、「倫理的な悪をどこかに見出して叩き溜飲を下げるというパターンを脱」した「視界はクリア」な地方財政の本といえば、webmasterは次が決定版だと思っています。

    書評を書きたいと思いつつなかなか書けずに今に至っていますが、地方財政問題を論ずるにはこれさえ読んでおけば世の99%の人よりはきちんと考えられるといいますか、世の99%の本はどのような誤解がまかり通っているのかを知ること以外には存在価値がなくなるといいますか。小西先生による昨年7月の日経・経済教室でその片鱗をうかがうことはできますので、ぜひお目通しいただければ。

    若干話を変えると、「倫理的な悪をどこかに見出して叩き溜飲を下げるというパターンを脱」して「視界はクリア」といえば、年金における権丈先生もそうですが、その最新のテキストはこれまたすばらしいものです。

    小西先生といい権丈先生といい、政府のやることにだっておおむね正しいことは少なからずあるのだ、というスタンスこそが「倫理的な悪をどこかに見出して叩き溜飲を下げるというパターンを脱する」ポイントなのではないでしょうか。・・・なんてことをwebmaster、つまりは官僚がかくと、両先生が御用学者であるかのごとく受け止められてしまうおそれがあるのはつらいのですが、ともかく読んだ上でご判断いただければ。

    09/04/2007 (10:58 pm)

    与謝野官房長官の恐ろしい経済認識

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    本日の各紙に与謝野官房長官インタビューが掲載されていましたが、おおむね次のような内容が揃って含まれていました。

     ──経済成長と税制が財政再建の車の両輪といっているが、具体策は。

     「数字だけの遊びであれば、例えば名目成長率15%という想定で計算すれば日本の財政はあっという間に解決する。ただ、国民の生活にとって物価が安定していることはとても大事だ。名目成長率を上げれば、確かに財政には寄与する。しかし、名目成長率をあげていけばいいというインフレ政策、悪魔的な政策は国民には迷惑な話だろうと思う。やはり地道にやっていくしかない」

     「名目成長率を上げるためには、実質成長率を上げなければいけない。口で言うのは簡単だが、日本のように成長しきった国が背丈を伸ばしていくのは簡単なことではない。しかし、国際競争力を失いたくない。新経済成長戦略は日本の豊かさを維持するためにどうしてもやっていかなければいけない政策の一つ。経済が成長すれば、一定の弾性値を持って税収は上がっていく。車の車輪の一つであり、インフレをめざさなくても大事なことだ」

     「一方で、財政を再建しないと、いずれクラウディングアウトが起きる。民間が使うべきお金を政府が使うことで、急に長期金利が上がってしまう。長期金利が上がれば、設備投資意欲は衰え、借金の返済も苦労し、日本の経済にとって決していいことは起きない。経済にとっても、健全な財政規律を維持していくことは大事なこと。そういう意味で、車の両輪という言葉を使っており、これは小泉純一郎首相、安倍晋三首相、新改造内閣において一貫して貫かれている思想と理解している」

    朝日(ロイター)「財政規律維持しなければ経済に悪影響=官房長官」

    中川前自民党幹事長の上げ潮政策の目標が4%の名目成長率であるのが典型ですが、名目成長率を重視する者であっても、誰も15%の名目成長率を目指せなんてことは言っていません。実質2%+αとインフレ率2%+αで、4〜5%といったところが平均的でしょう(webmaster自身は、物価水準ターゲティングの採用によって当面は一桁台後半の名目成長率を目指すのがいいのではないかと思っていますが)。15%の名目成長率=二桁のインフレ率と印象操作をして「悪魔的な政策」とは、勘弁願いたいものです。

    2%程度のインフレ率は、グリーンスパンvsイェレン論争においても、現実世界において実現を目指すものとしては妥当だとされた水準です。コアコアCPIが対前年マイナス0.5%程度で推移している昨今、「インフレをめざさな」いとすれば現状維持でも可ということでしょうけれども、そのような主張がそれこそ「国際競争力」を有するものとは到底考えられません。

    他方で実質成長率を上げていこうというのは、官房長官ご自身が「簡単なことではない」とおっしゃっているところ、ブラインダー、イェレン「良い政策悪い政策」クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門」にてそうそうたる碩学がよくわからないとさじを投げている問題です。簡単ではなくとも可能だと証明できるなら、こちらは「国際競争力」が十分にあるでしょうから、ぜひとも論文に仕立てていただいて日本人初のノーベル経済学賞受賞を目指していただきたいもので。

    クラウディングアウトが「いずれ起きる」かどうかは、民需がきちんと盛り上がるかどうかにかかっていますが、こちらは小野善康「不況のメカニズム」にて、実際に民需を圧迫するのは問題ではあれど、そのような事態に立ち至っていないにもかかわらず、将来を懸念して現在のリソースの遊休を放置することのムダが論じられています(小野先生は、官民の資金の奪い合い(=金利上昇の有無)ではなく労働力の奪い合い(=完全雇用か否か)で論じていらっしゃいますが、同趣旨といえます)。

    いずれにしても、webmasterの推測では、この路線では実質成長率が上がらないままデフレ脱却も達成できず、かえって財政状況を悪化させてしまうことになるわけですが・・・。

    なお、上記の成長率に関連して、これはwebmasterが見たところ朝日だけですが、次のような言及があります。

     ──経済成長の具体策は。

     「一時的に有効需要を増やすことでは経済は成長をしない。効率化・合理化が最も遅れているのがサービス産業。サービス産業分野の生産性を上げることは心してやっていかなければならない。もう一つは、技術力、新製品開発力。本当に力となる分野で地道な努力を積み重ねていく。これは日本にしかできない分野を維持し、つくりあげていく間断なき努力が必要だと思っている。ただ、幻の成長では困る。土台のしっかりした成長をめざすべき」

    朝日(ロイター)「財政規律維持しなければ経済に悪影響=官房長官」

    民間の企業経営者にわからない効率化・合理化策がわかるというのは傲慢じゃないでしょうかねぇ。マクロへの影響を考えず何が何でもサービス産業の生産性を上げたいなら、たとえばドイツの閉店法のようなものを作る、なんてやり方はありますが。営業時間に強制的にキャップをはめれば、経営者はより儲からない時間から営業を停止するでしょうから、当然ながら生産性は上昇するわけですが・・・(たとえばコンビニの営業時間を1日あたり最長で16時間(▲8時間)とすれば、投入リソースの減り方に比べれば売り上げは減らないでしょうから、仮に前者が▲30%で後者が▲20%であるなら、生産性は14%強も改善されます)。

    08/13/2007 (7:34 am)

    森永卓郎「「順調に進む財政再建」をひた隠す理由」

    Filed under: treasury ::

    既に多くの方がご存じなのでしょうけれども。

    もし未読の方がいらっしゃいましたら。

    07/04/2007 (4:02 am)

    武田邦彦先生の信頼性

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    以下の論争(お互いの意見の応酬はないので、たまたま重なった、というのが正確な表現ではあります)が話題のようですが。

    「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」は読んでいませんし、そもそも環境問題はwebmasterにとってそれほどなじみのある話でもないのですが、他方、多少はなじみのある分野についても、武田先生はご健筆を揮われています。

    書店で立ち読みをしてみたのですが、到底買う気にはなれませんでした。というのも、なぜ国債を買ってはいけないとお考えなのか、そのロジックというものが、仮に国債を100万円買ったとして、

    1. 国債購入代金を100万円支払い、
    2. 利払い財源として5万円納税し、
    3. 国債償還財源として100万円納税し、
    4. 国営の赤字事業の損失補填財源として100万円納税し、
    5. 赤字事業民営化に当たっての株式購入代金を100万円支払う、

    ため計405万円を国に支払う一方で、国債を買った見返りに受け取るものが国債の償還金100万円に5.の株式の資産価値100万円の計200万円なので、差し引き205万円損をするから、というものなのです。

    一対一の貸借関係で考えればおかしさがわかるなんて書いていますが、その例で言えば「赤字事業」への補填分100万円は国民=国債購入者に結局は支払われるのだから損はしないでしょう等々ツッコミどころはいろいろあるわけですが、最大のものは、利払い財源を5万円払ったのになんで利子5万円は受け取れないの? というもの。経済がどうのとか財政がこうのとかといった話とはまったく無関係な内的整合性の問題です。

    まあケアレスミスではありましょうが、この程度の推敲もせずに書を世に問うてしまう武田先生、専門分野ではもちろんその知識・経験が活かされているのでしょうけれども、どこまでその書かれた内容を信じてよいものか、疑義を呈せざるを得ないでしょう。少なくともこの本で代金1,575円を読者からせしめることに比べれば、国債を買ってくださいという政府の方が良心的ではないでしょうか(笑)。

    #最大の問題は、こうした内容の「国債は買ってはいけない!」が東洋経済新報社から出版されていることであるような気も。石橋湛山が泉下で浮かばれないでしょうに、これじゃあ。

    05/17/2007 (6:43 am)

    官製投資ファンド?

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    bank.of.japanさん経由で。

    (塩崎議員) 何故この国の資産・債務改革をするのかと言うと、最終的には国民負担増にならないようにということである。したがって、不要資産を売却するといったことは尾身議員の下でずっとやっていただいているが、前回も申し上げたが、国民負担増につながらないようにするためには、持っている資産の利回りを上げるという発想も当然あると思う。国は資産も債務も両方持っているわけであり、これをどう管理して、なおかつ収益を上げていくかということを考えていかなければいけない。何も収益を上げないで、ただ放置しているのは意味がない。

    (略)

    田村政務官などは、香港、シンガポールなどに行かれたそうだが、例えばシンガポールは随分資産運用を上手に、金融も実物もやっており、東京にも汐留などに実物資産への投資をしていて、かなりの利回りで回っている。

    特別会計の話があるが、例えば外為特別会計などの利回りは十分高いのか。中国が今度外貨資産の運用を図る投資運用機関のようなものをつくると聞いているが、手放すだけではなく、持ったままで収益を上げていくということを通じて国民負担増を回避する、逆に還元できるというような発想もやっていただきたい。

    平成19年第11回経済財政諮問会議議事要旨

    現にリスクテイクを行っているからこそ外為特別会計に含み益が生じているというのはbank.of.japanさんがすでにご指摘ですが、高利回りを追求するという発想そのものがいかがなものかと。政策意図に応じた資産であれば、政策目的に沿って活用すべきですし、そうでないならばそもそも保有に意味がないわけですから、処分を考えるべきでしょう。

    その意味では、

    (八代議員) 資産債務改革の実行等に関する専門調査会について、報告させていただく。

    (略)

    金融資産については、財政融資残高を縮減していくことが非常に大事である。これは国の持っている金融資産の最大シェアを占めているからである。このため、融資先である政策金融機関、独立行政法人等の業務の抜本的合理化を進め、新規融資を絞り込む。あわせて、既存資産の売却や証券化を加速する。証券化についても、民間の知見を踏まえ、コストを適正に評価するとともに、その最小化等を図りつつ、証券化の規模も現在より更に拡大すべきではないか。

    平成19年第11回経済財政諮問会議議事要旨

    というのも同様に本末転倒でしょう。財政融資の政策的必要性が減少したから残高が減るというのであればともかく、資産として最大シェアだから減らそうということにどれだけの合理性があるというのでしょう。まして、証券化して見かけの残高を減らすことに、いったいどれだけの意義があるのやら、webmasterには理解不能です。

    04/25/2007 (7:01 am)

    S&Pによる日本のソヴリン格付けのAAへの格上げ

    Filed under: economy, treasury ::

    そもそも紙幣をすればいくらでも償還可能な自国通貨建て国債の格下げの趣旨がよくわからないわけですが、とまれ、引上げはなされました。S&Pのソヴリン格付けに関する説明を見る限り、

    政府には課税権限および自国通貨の発行権限があるため、格付決定プロセスにおいて、自国通貨建てと外貨建てとの区別をすることは重要なことです。このような権限があるため、多くの場合、外貨建て債務より自国通貨建て債務の返済能力の方が高くなります。反対に、外貨建て債務の返済の場合、そのために必要な外貨を取得する能力および意志が影響します。この外貨を取得する能力および意志は返済に関わるリスクを増大させる要因となります。

    国(ソブリン)の格付記号の説明

    と「自国通貨の発行権限」を認識しているにもかかわらず、どういう状況でデフォルトを起こすと考えていたのか、十分説明を聞きたいものです。考えられるのはインフレによる実質価値の目減りで、国会答弁でそれは含まれないと明言したMoody’sとは異なり、排除するとは明言していないS&Pは(少なくとも、webmasterが知る限りは)、実質価値毀損もデフォルトとみなすという言いぬけは可能ですが・・・。

    しかし、今回の格上げに関するリリースを見る限り、どこまできちんとわかってのことかは疑問です。結局のところはプライマリーバランスの回復を見てのことのようですが、例えば将来の懸念事項として、次のような言及があります。

    中期的な視野では、ほとんどのOECD加盟国と同様、日本も高齢化問題に直面する。2004年度には、国の社会保障予算の70%に相当する86兆円(対GDP比17%)が高齢化対策に充てられた。社会保障予算総額は2025年度までには対GDP比26%まで拡大するとみられる。政府は2004年の年金制度改革で、公的年金の支給開始時期の繰り下げ、加入者の保険料の引き上げなどに成功したものの、年金制度を長期的に維持するためには、より包括的な改革が必要である。

    日本の長期格付けを「AA」に格上げ、アウトルックは「安定的」

    高齢化要因による財政危機が深刻だとの見方についてはwebmasterは(当サイトで何度か言及してきたように)懐疑的ですが、それを受け入れるにしても、今後の社会保障関連支出で最も重要な要素として、よりにもよって年金を上げるとは。先日言及したように、年金のうち支出の過半を占める被用者年金については、そもそも国庫負担がない(公務員の共済年金については、使用者としての国の負担がありますが)上、マクロ経済スライドが適用されるので、いくら年金受給世代人口が増えand/or現役世代人口が減ろうとも、国の財政にとっては中立であり、心配する必要などありません。こと年金に関する限り、財政問題となり得るのは基礎年金の国庫負担にとどまるのです。

    厚生労働省が発表している試算を見ても、2004(平成16)年度の高齢化対策に充てられた「86兆円」とは年金、医療、福祉などの3分野を指すと思われますが(ちなみに財源をみると、保険料52兆円、公費26兆円、給付・負担差額8兆円)、財政にもっとも影響を与えているのは医療です。以後2025年度までの推計を見ても、むしろ医療の公費負担の比率は上昇しています(2004年度で年金8兆円・医療10兆円に対し、2025年度で年金14兆円・医療28兆円)。この程度のことも分析できないアナリストに格付けされるというのも、変な話ですよねぇ。

    #2004年度の「給付・負担差額」について追記すると、年金が8兆円の受取超過(国民から見れば。国から見れば支払超過)になっているということです(医療と福祉などは収支均衡)。その原資は、おそらく積立金の取崩しでしょう。

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